オンデーズ買収から銀行取引正常化までの物語
2018年9月5日に第一刷が発行され、約三週間後の同月25日に第二刷が発行された『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』。
本書はタイトル通り、社員への毎月の給与さえ難しくなっていたメガネチェーン「オンデーズ」が、田中修治現社長に買収され、7年の時を経て見事銀行取引正常化するまでの物語です。
その中には失敗あり、裏切りあり、友情あり、男気ありとまさに不死鳥のごとく死と再生を繰り返すオンデーズの姿がたっぷり描かれています。
ここでは全編約500ページの本書から、血がたぎり、胸がアツくなるセリフを厳選してお届けします。
内容におもいっきり触れているので、ネタバレしたくない人は読み終わってから読んでくださいね。
田中修治社長のインタビューもあわせてお読みください。
20年後にはお金がなくなる、会社もなくなる、メガネもなくなる。オンデーズ田中修治社長インタビュー
『破天荒フェニックス』名台詞10選
−目立ったもん勝ち!
引用:『不死鳥フェニックス』p55
田中社長が就任直後にオフィスの一番目立つところに、大きな文字で貼り出したスローガン。これがきっかけで元ダイエーで部長職についていた山岡営業部長と口論になりますが、田中社長は社員が目立とうとしない企業に未来はないとバッサリ切り捨てます。
業界の常識を次々と突き崩す田中社長の仕事はもちろん、年1回の総選挙で会社幹部を選んだり、インフルエンサー採用を実施したりと、このスローガンはオンデーズの文化とも言えるフレーズです。
−まさに「火事を消すなら爆弾を」って感じだね。ハハハ。面白い!
引用:『不死鳥フェニックス』p101
右腕である奥野良孝から、苦戦するオンデーズの事業再生にはずみをつけるための企業買収のプランを見せられた時の田中社長のセリフです。
本来火の車で身動きがとれないはずのオンデーズ事業でしたが、奥野は経営不振に陥っているファンファンという雑貨ショップを経営する企業を買収し、経営を正常化することで売り上げを倍以上に増やすという荒技を提案したのでした。
まさに「火事に爆弾」を投げ入れるようなものですが、これを無謀だと否定せずに「面白い」と受け入れるところに田中社長の破天荒さが表れています。
−少しおっちょこちょいで、何を始めるのか予測不能。破天荒なくらいの方が人間らしくていいじゃないですか。味がある。だから私は社長を嫌いになれない。
引用:『不死鳥フェニックス』p116
ただえさえオンデーズの資金繰りに奔走しているところに、ファンファンの買収のための資金繰りが重なり、疲労困憊する奥野に田中社長がした謝罪に対して、奥野が返した言葉です。
奥野は読者から見ていても、終始田中社長に振り回されてばかりです。しかしそれでもいつも田中社長の右腕として死力を尽くし、死線をくぐり続けていきます。
そこには根本的な田中社長に対する想いがあり、その想いが幾度となく訪れるピンチに奥野を立ち向かわせるのです。
田中社長よりも年上で、経験も豊富な奥野の懐の深さと、田中社長への想いが垣間見える、胸がアツくなるセリフです。
−ダメだ。私、もう泣きます……
引用:『不死鳥フェニックス』p174
他社との差別化を図るために田中社長が考案した「開店半額セール」。沖縄の新店オープンで初めてこのアイデアを試してみるものの、開店直後の数人の後には全く客が来ず、田中社長と営業部の明石は滝のような冷や汗をかきます。
しかし実は沖縄の人は朝が遅いだけで、昼を過ぎてから猛烈な勢いで客足が増え、お店はてんやわんやの様相になり、大盛況のうちに営業時間を終えたのでした。
そんな怒涛の営業を終えたあと、二人でタバコを吸っているときに明石がポツリと呟いたのがこのセリフです。明石は田中社長の買収前からの社員で、買収前は「他の仕事探さなきゃなあ」と思うほどオンデーズを諦めていました。
それが買収からたった1年で疲れ果てるほど接客することになり、あまりの嬉しさに感極まったのです。
このシーンは読者も一緒に感極まり、涙を流すこと間違いなし。当然筆者も泣きました。
−良いものだから原価が高い。だから高いものを高い金額で買ってもらえば良いって、そんなの当たり前じゃないですか? そんなレベルの低い仕事で良いのなら子供だって誰だってできますよ。
引用:『不死鳥フェニックス』p236〜237
田中社長は安売り以外のオンデーズの道を模索するため、鯖江の眼鏡メーカー「グラステック社」の中畑社長に自社ブランドの立ち上げ企画をプレゼンしにいきます。
しかし最新技術を使ったフレームを相場の半額で作って欲しいという田中社長の提案に、中畑社長は首を縦に振りません。断固として安く作ることにこだわる田中社長に対し、中畑社長は「それなら原価も売価も上げて、少ないロットから始めれば良い。良いものは高いんだから」という旨の言葉を投げかけます。
そこで田中社長が言ったのがこちらのセリフです。グラステック社はもともと買収前のオンデーズと取引で揉めに揉めていたメーカーで、今回はその件を水に流してもらった上での提案でした。そのため田中社長は本来下手に出るのが普通です。
しかし彼は自分のポリシーを譲らずに、はっきりと言葉にし、自分たちがやりたいのは「単なる安売り」じゃなくて「本当に価値のある商売」なんだと言い切ります。
結果中畑社長は職人としてのプライドが刺激され、オンデーズとの取引を承諾。こうしてオンデーズに自社ブランドが誕生します。
田中社長の度胸と、商売への情熱に胸がアツくなるシーンです。
−誰も管理職は「自分で買え」なんて指示してませんよ!みんな欲しくて勝手に買ってるんですよ!
引用:『不死鳥フェニックス』p241
ようやく自社ブランドの発売にこぎつけたオンデーズでしたが、発売日の営業開始直後に在庫に異変が見つかります。開店から30分も経ってないにも関わらず、瞬く間に自社ブランド品の在庫がなくなっているのです。
メガネは接客から会計までに一定以上の時間が必要な商材です。そんな短時間で大量のメガネが売れることは考えられません。
営業部の明石らが各地のスーパーバイザーに問い合わせてみると、どうやら社員が自腹で購入していたことがわかります。それを聞いた田中社長は激怒します。無理やり社員に買わせて作った数字に何の意味もないからと、自腹での購入を禁止させていたからです。
そこで明石が田中社長に言ったのがこのセリフです。あまりのクオリティに、各地の社員が自発的に自社ブランド品を購入したという事実に、田中社長は嬉しさとともにようやく「メガネ屋の社長」として受け入れられたという実感を覚えます。
血の滲むような努力や苦労が報われる瞬間に、胸だけでなく涙腺までアツくなるシーンです。
−私が出します!
引用:『不死鳥フェニックス』p309
再び訪れた資金繰りの危機。進退きわまった田中社長はオンデーズの社長でいることを諦め、上場企業に3億円の資金投入と引き換えにオンデーズを去ろうと決心していました。
そこに現れたのが老舗フレームメーカー「藤田光学」の藤田社長です。藤田社長は「オンデーズの社長はあなたがやるべきだ」と強く説得してくれ、自社からの資金だけでなく鯖江の他のメーカーにもかけあってくれます。
しかしギリギリになってグラステック社と藤田光学以外は融資を辞退。しかもグラステック社の融資は十分とは言えない額でした。田中社長は諦め、やはり上場企業に買収することにしたと藤田社長に伝えます。
そのとき藤田社長が力強い口調で言い放ったセリフがこちらです。他社が断ってしまって足りなくなった金額を藤田光学が出す。それは藤田光学にとっても大きなリスクです。
それを覚悟の上で言い放たれたこのセリフは、藤田社長の男気そのものです。読めば思わず「藤田社長、かっこよすぎる!」と叫んでしまうはず。本書における圧巻の名シーンです。
−でも、藤田が信じたのなら私たちも信じます。必ず藤田を男にしてやってください。
引用:『不死鳥フェニックス』p313
経営者の勘と男気でリスクをとった藤田社長でしたが、それを社員まで理解できたわけではありませんでした。田中社長と奥野を駅まで車で送ってくれる同社財務の山口常務でしたが、道中田中社長に自分たちが抱えている不満や懸念を厳しい口調で伝えます。
そのプレッシャーに気圧されて謝ろうとする田中社長でしたが、そこで山口常務はにっこりと表情を変えて、このセリフを言います。藤田社長の男気にも感動させられますが、この山口常務の男気にも胸が震え、涙腺がアツくなります。
藤田社長もリスクを覚悟しながらも、社員たちならわかってくれると信じていたはず。そして山口常務たちも藤田社長がそこまでの覚悟で選んだ道なら、信じようと考えたわけです。本書の主人公はオンデーズのメンバーですが、このシーンだけは藤田社長ら藤田光学のメンバーが主人公になっていると言っても過言ではありません。
本書はオンデーズのメンバーにも何度も感動させられますが、こうしたオンデーズを助けてくれる企業や人たちのドラマも必見です。
−社長、まだ身売りも民事再生もしなくて良いんですよ。まだ私たちは戦えますよ!
引用:『不死鳥フェニックス』p481〜482
物語終盤、いよいよ銀行との取引が正常化し、複数の金融機関が協調して融資を行うシンジケートローンの話が持ち上がります。多額の資金調達を見込んで、一気に事業拡大に乗り出すオンデーズでしたが、ここでまたしても銀行の手のひら返しが行われ、「黒字倒産」という最悪のシナリオが見えてきます。
田中社長と奥野はあの手この手に奔走します。万策尽きたかに思われた時、そこに現れた三井住友銀行の敏腕銀行マンの手が差し伸べられ、なんとか資金繰りに成功。その報告をしたときに、奥野はこのセリフを田中社長に言うのです。
前述したように、田中社長の派手な経営のために、奥野は何度も何度も苦しい思いをしています。このセリフは、彼がそれでもまだ田中社長と戦いたいと心の底から思っている証です。そしてそこには先ほど紹介した「だから私は社長を嫌いになれない」というセリフに込められた、田中社長への想いがあるのです。
これほどの信頼関係が築けるパートナーに巡りあえた田中社長が羨ましく、またこれほどサポートしたくなるリーダーに恵まれた奥野も羨ましく感じる一幕です。
−「やったねぇ……俺たち」
「やりましたねぇ……」
引用:『不死鳥フェニックス』p
見事実現したシンジケートローンの書類全てにサインをし終わり、ついに7年越しの銀行取引正常化を達成したオンデーズ。奥野は満面の笑みで手を差し出し、田中社長はその手を固く握りかえします。そして二人はこのセリフを交わします。
誰もが反対し、誰もが否定したことを、成し遂げた男たち。このやり取りにはその全てが詰まっています。約500ページを通じてその軌跡を辿った読者なら感動せざるを得ないでしょう。
何度でも蘇り、その度に強くなるオンデーズ
本書はあとがきにもあるように、事実を基にしつつも、一つのフィクションとして書かれた物語です。しかしそれでも、オンデーズが様々な苦難を乗り越えて今の姿になったことはわかります。
田中社長率いるオンデーズは、これからも自ら苦難に飛び込み、そして蘇り、その度に強くなっていくのでしょう。今後のオンデーズからも目が離せそうにありません。

