ペルソナを設定しなくても、UXさえブレなければアプリは開発できる

ソウゾウ社の新サービス、『メルカリアッテ』の裏側

ペルソナ……ウェブでコンテンツ制作やマーケティングに関わる人間ならば、必ず知っているであろう言葉。コンテンツのイメージをしやすくするために設定するターゲットを指します。

ペルソナがないと制作に関わる人間の中で共通のイメージが持てず、ブレたコンテンツになることも。しかし、今年3月中旬にリリースされたコミュニティアプリ『メルカリ アッテ』。この開発を牽引したディレクター、田辺めぐみ氏はこう語ります。「あえて、ペルソナは設定しなかった」

この言葉は、webマーケティングに携わる人間には少なくない驚きを与えるかと思います。しかし、その背景には、設計初期からリリースまで決してブレないUX(※)設計があったのです。今回はソウゾウ社のプロデューサー、ディレクター、デザイナーが『メルカリ アッテ』の設計の裏側を明かす、「atte FeS」に潜入し、その真意に迫りました。

(※)UX : ユーザーエクスペリエンス/ユーザー体験のこと。サービスのユーザーにとっての使いやすさや、目的の達成しやすさ、心地よさなどを表す概念。実例は【スタバ・Instagram・DeNA】これからのビジネスの成功要因「UXデザイン」を解説にて紹介。
メルカリ アッテ:
2015年9月に創業した株式会社ソウゾウが開発する、地域コミュニティアプリ。親会社であるメルカリのフリマアプリ「メルカリ」をさらに発展させて、利用者同士が直接会ってものを売買したり、あるいはスキルやサービスの取引、仲間の募集などができるようになっている。

ソウゾウ代表 松本龍祐氏「スマホ的なサービスでなければ上手くいかない」

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2006年にアプリ会社を立ち上げ、2013年に同社をヤフーに売却。ヤフーでアプリ開発に従事したのち、2015年にメルカリにジョインした松本氏は、ソウゾウ社の成り立ちについて語りました。

企画当初、ソウゾウのメンバーは松本氏とインターン生3名のみ。彼らがまず最初に考えたのはスマホ的なサービスを作るということ。なぜなら今の市場ではスマホのようなサービスを作らなければ絶対にうまくいかないと感じていたため。

そして、そのようなスマホ的なアプリを作るためのポイントは3つ。タイムライン、GPS活用、即時性。この3要素を満たすために、チャット感覚のアプリを作ることが決まったのだと、松本氏は話します。

ディレクター 田辺めぐみ氏「ペルソナは決めない」

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田辺めぐみさんは、メルカリアッテのディレクター。NTTデータからキャリアを始めた彼女は、DeNAでソーシャルゲーム開発に携わったのち、知育アプリなどのプロデュース業に着手。フリーランスを経て2015年2月よりメルカリに入り、その後ソウゾウの立ち上げに参画するかたちになりました。

プロデューサーである松本氏とのコンセプトや仕様のすり合わせ、開発の進行スケジュールについて語った田辺氏。冒頭で紹介したように、メルカリアッテのペルソナを問う質問への彼女の答えは、「サービス作ってるときには考えていません」。なぜならば、最終的に数千万のユーザーに使ってもらうことを想定しているため。あえて言うならば「マスのユーザー」がターゲットだと、彼女は言います。

ペルソナという共通認識を持たずして、いかにアプリの仕様をチーム全体ですり合わせていくのか……。一見難しそうに見えますが、それを可能にしたのは、松本氏がスマホ的なアプリを作るために定めていた「タイムライン」「GPS活用」「即時性」というポイントを、企画コンセプトに明確に落とし込めていたため。

1.気軽に募集、だれでも募集。2.チャット感。3.位置起点。4.メルカリID連携。この4つにメルカリで上手くいった仕組みを足したものが、アッテの企画コンセプトだと田辺氏は語ります。このコンセプトは、ペルソナの代わりに決してブレない「軸」となり、チームメンバーの共通認識となったのでした。

なんとなく「イイ感じ」な仕様ができたとしても、「チャット感」や「位置起点」、「メルカリID連携」などのコンセプトが外れていれば、何度でも作り直す。田辺さんは次のように語ります。

「大きい仕様だからこそ、変えないというのが一番良くないと思ってます。その時に、メンバーの納得感があれば変更してもいいんじゃないでしょうか」

メンバーの納得感を生むもの……それこそが「チャット感」から始まるコンセプトを全員で「共通認識」とすることなのでしょう。

デザイナー 井上雅意氏「コンセプトの状態から、UI/UXを形にする」

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デザイナーの井上雅意(がい)氏は、サムスン電子ジャパンでモバイル端末のデザインや新規事業の開発に携わり、その後はヤフーでアプリの企画・デザインに着手。2016年よりソウゾウにジョインしています。

クリエイターとしてのデザイナー視点だけでなく、B(ビジネス)・T(テクノロジー)・C(クリエイティブ)を兼ね備えたプロデューサー視点を大事にする井上氏。彼が重視するのは、企画段階からUI/UXの検討を行って、コンセプトに落とし込んでいくこと。

「これまでの新規サービスって、企画段階で市場を調べて戦略を練って。そのあとの開発段階からUI/UXの検討を始める。でも、これって多くの場合は失敗します。というのは、企画と、UI/UXの間に非常にギャップがあるんです。やっぱり、企画がすごく良くて、戦略的にも理にかなったものだとしても、実際にものを作ったときにそのコンセプトが落とし込めてないっていうのが往々にしてあるんです。

なので、サービスのコンセプトの状態から、UI/UXを形にしていく。形にしたものによって、戦略だって変わるし、なんだったらビジネスモデルだって変わる」

そして初期コンセプトから徹底的に重視してきたUXのポイントが3つ。タイムラインの分かりやすさ位置起点、そしてチャットらしさです。これは、初期段階で松本氏が定めていたポイントを、田辺氏が企画コンセプトとして落とし込んだものそのままです。

UIデザインは毎日毎日試行錯誤を重ねてひたすらアップデートをする中で、この3つのUXのポイントだけはブラさずにやってきたのだと井上氏は話します。

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タイムラインは、カテゴリーがメルカリアプリと似通ったものになって顧客の奪い合いとなることを恐れず、分かりやすさを重視。位置起点は、当初、現在地を起点としたマップ情報やエリア指定のものだったのを、徒歩圏内、自転車圏内、バス圏内という直感的な表示に変更。

そして、チャットらしさへの強いこだわり。やるからには徹底的にチャット化していこうと試み、LINEアプリのように、常に入力画面を表示し、吹き出しでメッセージが表示されるようにしたのでした。

UXを企画段階から明確に決めていたからこそ、企画と開発とでギャップが生まれず、初期のコンセプトをそのままアプリの仕様として落とし込めたのでしょう。

ペルソナ設定以上に重要な、初期からのUX設計

プロデューサー、ディレクター、デザイナー……。立場は違えど、彼らが初期段階から共有していたコンセプトは同じものでした。分かりやすいタイムライン、位置情報、チャットらしさ。常に持ち続けていたそのUXの視点は、今後、ペルソナ設定以上に重要になってくるのではないでしょうか。

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今回の会場に集まったのは、メルカリのサービスやデザインそのものに、興味を持つ方々でした。今回のイベントで刺激をもらった彼らが、新たなサービスを作り出す日も近いのではないでしょうか。

[文・編集]サムライト編集部