人付き合いが、ふっと楽になる─禅の言葉10選

人間関係にまつわる禅語

“禅”という言葉を聞くと、寺で日々修行をする禅僧のことを思い浮かべ、自分とは縁遠いことだ、と思う人も多いと思います。しかし“禅”は、普通の生活のごく身近にあり、人々の生活に深く根ざしているもの。

禅の教えや考え方が、短い言葉に凝縮されたものが、禅語です。それは、禅僧たちが修行のなかで思想をめぐらし、そこで見つけた気づきや考え方などが禅語という形になって伝えられてきました。

それは毎日を生きる私たちにももちろん通じる、人としてより豊かに生きていくための智慧の言葉でもあります。

今回は、人間関係にまつわる禅語をピックアップしました。
人付き合いに疲れたな、というときだけでなく、現在の友人関係や職場関係などを見直すひとつ機会にもなるはずです。

“マナー”にまつわる禅語は、普通のマナーとは一味違う!?


禅の世界にあるマナーを表す言葉は、私たちが普段知るマナーとは少し違います。
そこには相手を敬うだけでなく、相手を思いやるための振る舞いがあります。

和敬清寂(わけいせいじゃく)

この禅語は「茶の湯の席では、相手を敬い、道具や場を清め、静かな心で向き合いなさい」という千利休の言葉が元になっています。

現代で言うなれば、バタバタと慌ただしく外出して相手と会っても、心はざわついたまま。良い時間を持つことができません。

外出する前に、きちんと身なりを整え、静かな心を保ったまま人と会うようにするだけで、過ごす時間の価値が大きく変わってきます。

語先後礼(ごせんごれい)

漢字の通り、「まずは相手の顔をきちんと見て、言葉を告げ、それからおじきをする」という意味ですが、禅の世界ではこの振る舞い方が正しい所作とされています。

ビジネスの場でも、挨拶の言葉を述べながら、そのままペコンと頭をさげる人が多いですが、その時、きちんと相手の目を見ていますか? 挨拶の言葉を丁寧に言っていますか? 

この禅語の行動は、より相手に伝わる仕草でもあります。その振る舞い方ひとつでも、相手に気持ちが伝わります。

不立文字(ふりゅうもんじ)

文字には立たず──つまり、悟りの内容は文字や言葉で伝えられるものではなく、その人の生き方や立ち振る舞いなどから伝わるものだ、という意味です。

文字や言葉だけでは大切なことは伝わらない、大切なことを伝えるときは会って伝える、ということは禅の世界でもビジネスの世界でも同じこと、ということです。

出迎え三歩、見送り七歩(でむかえさんぽ、みおくりななほ)

これは禅ならではのマナーのひとつです。
出迎えるときは、相手の姿が見えたら三歩歩み寄り、見送りのときは相手のあとに従うように七歩歩みを進める。

そこには、感謝の思いと名残惜しさ、来客が無事に帰宅することを願う気持ちを表現しています。

来客の場合でも、玄関まで見送るのはちょっと大げさかも…というのであれば、エレベーターの前まで見送る、それだけでのことでも大きく印象が違います。

和顔愛語(わげんあいご)

和やかな心と思いやりの言葉という意味ですが、これは、仏教の世界でいう財がなくても実践できるお布施のひとつ、「無財の七施」のことです。
ビジネスの世界でも、コストや規模、内容などで左右される面も多いですが、無財の七施は、何に対しても存在する、平等なもの。

仕事の大きさや上下関係、損得ではなく、全てに対して平等に。そんな意味がこの禅語には込められています。

自身を省みる振る舞い

さまざまな人と接するなかで、自身を見失ったり、流れされて判断を誤ったり、気を遣って心が疲弊することも多くあります。

ここでは、そんな人間関係のなかでの自分を見失わないための禅語を紹介します。

清風拂明月 明月拂清風(せいふうめいげつをはらい めいげつせいふうをはらう)

善か悪か、成功か失敗かという二元論ではなく、相手の中に自分を生かしていくのが得策という意味です。

言葉の意味は、「明月」と「秋風」は互いに主となり客となり、どちらかがメインではない、ということを表しています。

対立するのではなく、お互いを生かす。相手を否定するのではなく、相手の特徴やよさを感じとり、その中で自分が最大限に生かせる方法は何か、それを模索することで現状の打開策が見えてくるといいます。

夏炉冬扇(かろとうせん)

夏の暖炉、冬の扇のように、今は不要でも、いつか必ず役に立つときがくる、という意味。

いつも自分が主人公、いつも自分が中心というわけではなく、中心でないからといって無理に出ようとするとうまくいかないものです。

その時は、出番を得ようとするよりも、まずは備えておくことが大切だと、この禅語は説いています。

薫習(くんじゅう)

「薫」という字は、薫染・薫陶という言葉があるように「徳で人を感化する」という意味があり、この禅語は「尊敬する人と日頃から接し、自分の意識を高めよ」と説いています。

どんな人と付き合い、どんな人についていくのか。そういう時は、尊敬できる人を慕い、倣いなさいと言う意味です。
それがうまくいく人づきあいにもつながってきます。

水急不流月(みずきゅうにしてつきをながさず)

水の流れがいくら急でも、水面に映る月の影を流すことはできないように、不動なものは決して流れはしないものです。

水の流れに逆らうのではなく、水の流れは流れるがままにしておき、その一方で自分のなかにある価値観や判断基準など、大切なものは決して流されないようにする。それがこの禅語の意味です。

不退転(ふたいてん)

よく政治家が「不退転の心づもりで…」と、二度と後戻りはしないという意味で使っている言葉ですが、この禅語の本来の意味は「くじけない、怠らない」という意味。

自然の変化やどうにもならない変化を受け入れて、自分の心をしっかりと持つことを説いています。
本当に転ばず・退かすのものは何なのか、自分のなかで決めることで、周りに流されることも少なくなるでしょう。

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これをきっかけにもし禅語に興味を持ったのであれば、禅語の言葉をぜひ集めてみてください。これ以外にもさまざまな生きるヒントが隠されていると思います。

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定期的に見直したい言葉ばかりですね。
[文]遠野蒼 [編集] サムライト編集部