対人関係の悩み
どうしても人と仲良くなれない。上司から嫌われている気がする。片思いの人との関係がうまくいかない。
アルフレッド・アドラーが「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と喝破したように、「コミュニケーションが上手くいかない」という悩みは、日々私たちに付きまとってきます。
今日の記事では、「自己開示」という切り口から、そうした悩みの手助けとなるような考え方を提示してみます。
自己開示とは
コトバンクによると、「自己開示」の定義は下記の通りです。
―自己開示とは、自分自身に関する情報を、何の意図もなく、言語を介してありのままに伝えることを指して言う。(コトバンク)
つまり、「自分のことを相手にそのまま伝えること」ですね。
定義には「言語を介して」とありますが、個人的には「行動を介する」ものも、自己開示と呼んで差し支えないと思います。
混雑した電車でお年寄りに席を譲る、知らない人がたくさん出席しているセミナーで発言する、といったようなことも、「他者に縛られず、自分を率直に出す行為」だと考えられるためです。
この定義で重要なのは「何の意図もなく」「ありのままに」という部分です。
私たちは、誰かと接する際に、さまざまな思惑を心の奥に秘めています。みんなの人気者でありたい、上司から評価されたい、好きな人に好かれたい……。
それらは総じて「下心」と呼ばれるものであり、「相手を意のままにしたい」という欲望に他なりません。
それは、相手のことを「コントロール可能な存在」として、自分の下に見るということです。
しかし、他人というものはコントロールできない存在です。「自分の方が上だ」とばかりにアピールしたり、相手を貶める発言をしたり、逆におだてたり謙遜したりしても、自分の思うようには動いてくれないでしょう。
もちろん、自己開示も同じです。自己開示をしたからと言って、自分の好きなように相手を操ることができるようになるわけではありません。
自己開示がもたらしてくれるのはリラックスしたコミュニケーションであり、相手と深い話ができるようになる可能性です。
そして、そうした可能性こそ、私たちが人間関係において唯一望みうるものなのです。
自己開示の効能

自己開示には、どのような効果があるのでしょうか。一言で言えば、それは「相手を安心させられる」ことです。どんな風に相手が安心するのかを、具体的に書いてみます。
・ネガティブなことも話してしまうことで「敵ではない」と思ってもらえる
学校や会社で、あるいは様々な集まりで、自分から失敗談やコンプレックスを話してしまう人は、そう多くはありません。それは、「相手に負けたくない」「変な人だと思われたくない」という気持ちが無意識のうちに働くためです。
逆に言うと、そうした中で自分の弱みを見せることができれば、人は自分に対して「この人は怖くない」「勝とうとしなくていい」と思うものなのです。
私は大学時代、インドで1年間のインターンシップをしていました。「どうしてそんなことをしていたの?」とよく聞かれるのですが、その都度「自分のやりたいことが何なのかわからなくて、自分探しをしていました」と答えています。
「自分探し」というのは、一般的にはあまり良いイメージのない言葉です。だからこそ、自分からそうした言葉を淡々と使うことで、「この人とは張り合う必要が無いんだ」と思ってもらえ、警戒せずにいろんなことを話してもらえるようになるのです。
・ポジティブなことを語ることで、自分のイメージを持ってもらえる
自己開示は、何もネガティブなことを話すだけではありません。好きなこと、ハマっていること、得意なことを話すのも、立派な自己開示です。
ポジティブな自己開示は、「あの人よくわかんないよね」という自分への無理解を無くし、「こういうことが好きな人なんだ」というイメージを人に抱いてもらうことで、自分の周りに様々なチャンスを集めてくれる効果があります。
私は、大学時代に「さし飲み」をたくさんしていたことや、文章を書くのが好きで今はこういったものを書いているということを、よく周りに話しています。
そうすると、「飲みに行こう!」と誘ってもらえたり、「こういう文章を書いてもらえないか」とお願いされたりします。そうした機会を通じて、新しい世界が広がっていくのです。
ただ、好きなことや得意なことというのは、ともすると「一方的な趣味語り」や「こういうことができるぜ自慢」になりがちです。ですので、自己開示としてポジティブなことを話す際は、ネガティブなことを話す時以上に注意が必要です。
ポイントは「自分自身が感じたことを、自分自身の言葉で話す」ことです。さし飲みの話で言えば、誰と飲んだか、何人と飲んだかといった話よりも、「どうしてそれをしようと思ったのか」「やってみてどんな風におもしろかったか」といった話をすることです。
ポジティブな話は、特に情報よりも感情にフォーカスして、話すようにしましょう。
・相手と自分のコミュニケーションの「深度」を規定できる
「人との会話をどこまで深く掘るかは相手に合わせる」という人は多いでしょう。これは、そんな人間のコミュニケーションの習性を逆手にとる自己開示の効能です。
自分から深い話をしてしまうことで、相手に「我々はそこまで話してしまっていい仲なんだ」と思わせることができるのです。
私はよく、自身の高校時代のコンプレックスについて話します。いわゆる「スクールカースト」についてのコンプレックスです(参照:僕が「スクールカースト」から解放された日)。
「自分探し」もそうですが、ここまであけすけに自分のコンプレックスについて話す人は、我ながらあまりいないと思います。
そうしたあけっぴろげな話をしていると、普段は悩んでいるようには見えない人が「実は自分もそういう悩みを抱えていた」と話してくれたりするのです。

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ここまで見たように、自己開示とは「相手よりも先に自分の腹のうちをすべて見せてしまう行為」であり、たとえるならば「先出しで負けるじゃんけん」です。
普通のじゃんけんなら、後出しという卑怯な手を使ってでも勝利を優先させるべきケースが、あるのかもしれません。
しかし、人間関係というじゃんけんにおいては、先出しで負けてしまった方が、むしろ長期的に見て良好な関係に繋がるように思います。
自分を率直に表現に表現する
自己開示によって、人間関係がどのように良くなるかということについて、書いてみました。
繰り返しになりますが、自己開示というのは「何の意図もなく」「ありのままに」行う必要があるため、上で書いたような効能を「狙って」行っても、思ったような結果を得ることはできないでしょう。
また、間違っても「俺はここまで話したんだから、お前も同じように話せよ」などと思ってはいけません。
自然な気持ちで、自分を率直に表現してみてください。そうすれば、きっと良いことがあなたの身の回りに起こるはずです。
