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「ストレッチ=スポーツマンのもの」ではない!
「疲れが取れない」「冷え性であちこちが凝っていて辛い」「なんだか気持ちが塞ぐ」これらの悩みはゆっくり時間をかけて筋肉をほぐしていくストレッチで解決できるかもしれません。
筆者は約3年間にわたって筋トレをしてきましたが、ストレッチに関しては「スポーツを本格的にやる人のもの」と考えてきました。しかし約3ヶ月前にふと思い立ってストレッチを始めたところ、今では「日常生活のパフォーマンスアップにストレッチは必要不可欠」と考えるようになりました。
ここでは筆者が実感しているストレッチの4つの効果を、科学的根拠と筆者が実際に効果を実感している8種類のストレッチを紹介しながら解説します。
疲労回復に効果大
デスクワーカーのように1日中同じ姿勢をとり続けて筋肉を動かさずにいたり、寝転んだまま週末を過ごして筋肉を使わなかったり、あるいは疲労が溜まっていたり、体のどこかに痛みを感じていたりしても、筋肉は緊張し、強張ったままほぐれなくなります。
意識的に筋肉に力を入れ続ければ実感できるように、筋肉が強張り続けている状態は、疲労回復を妨げるどころか、疲労を促進してしまいます。
ストレッチは強張った状態の筋肉をしっかりとほぐし、リラックスした状態で疲労を回復させるのに抜群の効果を発揮します。特にデスクワーカーの場合は、以下のストレッチで首と肩甲骨周りの筋肉をほぐすと、まるで肩の荷が下りたように楽になります。
<首のストレッチ>
1.背筋を伸ばし、右手を頭の上から回して左側に添える。左手は直角に曲げて背中に回す。
2.体の力を抜き、右手で頭を右斜め前に倒すと同時に、左肩を下げる。
3.左側の首の筋肉(僧帽筋)が伸びるのを意識しながら、深呼吸とともに30秒間静止する。
4.同じ要領で逆側も行う。
<肩甲骨周りのストレッチ>
1.立った状態で、体の前に腕を伸ばして、手のひらを体側に向けて手を組み、水平に挙げる。
2.ヘソをのぞきこむようにして体を丸め、同時に膝を曲げて骨盤を後傾させる。
3.この状態で組んだ手を前に向かって伸ばしていく。
4.首の付け根から肩甲骨周辺の筋肉(菱形筋・広背筋)が伸びるのを意識しながら、深呼吸とともに30秒間静止する。
「30秒間」というのには根拠があります。2013年に『新潟県厚生連医誌』に掲載された論文によると、ストレッチの効果は20秒〜60秒の間で表れるとされているからです。そのためここでは適度に短く、かつキリのいい「30秒」に設定しました。
ただし女性の場合は20秒よりも60秒実施した被験者の方が、より長い間ストレッチの効果が持続することがわかっています。時間に余裕があって、かつ女性である場合は60秒間に設定してみましょう。
疲れにくい体になる
筋肉が強張ると関節が硬くなり、可動域も狭くなります。すると余裕のない中で体を動かすので余計な力が入り、無駄な体力を使ってしまいます。例えば歩くときに足首の関節や股関節が硬ければ、一歩を踏み出すたびに少しずつ無駄な力を使うので、関節が柔らかい人よりも疲れやすくなるでしょう。
ストレッチで筋肉の伸縮性をアップさせておけば、疲れにくくなり、より活動的になれます。疲れにくい体を手に入れるためには全身のストレッチが必要不可欠ですが、ここでは歩くために必須の部位である足首と股関節周りのストレッチを紹介しておきます。
<足首のストレッチ>
1.椅子などに座って左脚を右膝にのせ、足首を回しやすい体勢をとる。
2.つま先を右手で持ち、左手はふくらはぎに添えて脚を固定する。
3.足首の関節が動く範囲で大きな円を描くようにつま先を回す。
4.足首周りの筋肉が一つ一つ伸びていくのを感じながら、深呼吸とともに時計回りに1分間回し続ける。
5.逆回転で同じように1分間回し続ける。
6.逆の足首も同じように回し続ける。
<股関節周りのストレッチ>
1.相撲のしこを踏むように脚を広げる。このとき脚の角度をできるだけ大きく広げるようにする。
2.膝の内側に両手を置く。
3.両方の肘を曲げないように注意して、左肩を下に向かって回転させていく。肩が前に出ないように注意する。
4.右足の付け根の筋肉が伸びるのを意識して、深呼吸とともに30秒間静止する。
5.同じ要領で逆側も行う。
足首は片足2分間と長くなっていますが、これは「足首はしっかりやるほど足先に血が流れていきやすくなり、体全体がポカポカしてくる」という筆者の経験則に基づいています。
効率的な筋トレの基礎が手に入る
筋トレ種目の多くは「最大伸長から最大収縮まで」を前提にしています。つまり筋肉が一番伸びる場所から一番縮まる場所までウエイトを動かすことが、最も効率的に筋肉を刺激する方法なのです。
したがってストレッチが不十分で関節の可動域が狭いまま筋トレをしても、効率的な筋トレにはなりません。大胸筋を鍛えるベンチプレスは肩甲骨の可動域が重要ですし、下半身の大部分を鍛えられるスクワットには股関節や太ももの柔軟性が不可欠です。以下では太ももの前後のストレッチを紹介しておきます。
<太もも(前部)のストレッチ>
1.立った状態で壁などに左手をつき、右脚を曲げて右手でつま先部分を持つ(足首を持たない)。
2.つま先を後ろに引っ張り、太もも前部を伸ばしていく。
3.このとき背筋を伸ばし、かつ体が前傾していかないように注意する。また膝が右側に開いていかないように注意する。
4.太もも前部の筋肉が伸びるのを意識して、深呼吸とともに30秒間静止する。
5.同じ要領で逆側も行う。
<太もも(後部)のストレッチ>
1.座った状態で足を伸ばす。
2.背筋を伸ばした状態で、体を股関節から倒していく。
3.このとき背中が丸まらないように注意する。つま先を持つことを目標にすると丸まりやすいため、あくまで太もも(後部)を伸ばすことを意識する。
4.太もも(後部)が伸びるのを意識して、深呼吸とともに30秒間静止する。
※背筋を伸ばしたまま倒れるのが辛い場合は、背中を丸めても構わない。
筆者はこのストレッチを実施したことで、より広範囲にスクワットの筋肉痛を感じるようになりました。筋トレをする人はぜひ試してみてください。また太ももの筋肉はスポーツだけでなく日常生活でも必ず使います。筋トレをしない人もぜひ他のストレッチと一緒に実施してみてください。
心の疲れも取れる
ストレッチは体だけでなく、心の疲れも癒してくれます。気持ちが乱れたときやイライラしたときに、ゆっくり筋肉を伸ばしながら深く呼吸をすると、心のモヤが晴れて頭がすっきりし、前向きになれるのです。
2014年に『理学療法科学』に掲載された論文によれば、下腿三頭筋(ふくらはぎ)をストレッチしたところ、人間がリラックスしたときに活発に働く副交感神経の活動が高まり、緊張したときに活発になる交感神経の活動が低下することがわかりました。このことから本論文はふくらはぎのスタティック・ストレッチにはリラクゼーション効果があると結論づけています。以下ではふくらはぎに特化したストレッチを紹介しておきましょう。
<ふくらはぎ(表層)のストレッチ>
1.脚を前後に開く。
2.体重を前方にかけていき、後ろ側の脚のふくらはぎを伸ばしていく。
3.このとき手は壁に添えるか、膝に置く。
4.ふくらはぎが伸びるのを意識して、深呼吸とともに30秒間静止する。
5.同じ要領で逆側も行う。
<ふくらはぎ(深層)のストレッチ>
1.右膝を立てた状態で座る。左脚は正座の形にしておく。
2.右膝に腕を添え、重心を前に倒していく。
3.このときかかとが浮いてしまうとふくらはぎが伸びないので注意する。
4.ふくらはぎが伸びるのを意識して、深呼吸とともに30秒間静止する。
5.同じ要領で逆側も行う。
筆者の経験上、ふくらはぎに限らず他の部位でもリラクゼーション効果はあります。1日の終わりはもちろん、仕事中イライラしてしまったときなどにもストレッチを活用していきましょう。
ストレッチを習慣にしよう
筆者はストレッチを始めてから約3ヶ月間、毎晩20分間のストレッチを続けてきました。少しずつ可動域が大きくなっているのはもちろんですが、仕事に集中できる時間が長くなったり、筋トレの質が上がったり、眠りが深くなったりとプラスの効果ばかりが表れています。
今では「ストレッチなんて地味だし」と思い怠けていたのは、本当にもったいなかったと反省しています。みなさんもぜひストレッチの素晴らしさを実感するために、習慣としてとりいれてみてください。
参考文献:『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド 』
『ストレッチの科学』
「静的ストレッチングの有効な持続時間について~下肢筋力測定・訓練器による大腿四頭筋緊張度変化の検討~」
「モータ制御の駆動による下腿三頭筋に対する静的ストレッチングのリラクセーション効果(第1報)─ストレッチング後の主観的気持ち良さと自律神経機能─」
