能力開発に興味がある人にオススメ!2017年の良書ベスト10

2017年も多くの良書に出会う

採用と育成研究社の鈴木と申します。2017年に読んだ良書ベスト10をご紹介します。なるべく発売日が2017年の書籍、そうでなくても限りなく2017年に近い書籍から選びました。

私は普段は人材採用や育成の仕事に従事しています。仕事の性質上どうしても育成、成長、能力、リーダーシップといった関連の書籍を多く読んでいますのでそういった書籍の紹介が多くなることをご承知おきください。

まず冒頭からの5冊は能力開発に関する書籍を関連性を意識して紹介しています。次に、昨今話題の上司と部下の関係性を構築するための書籍を1冊取り上げました。

次の2冊はデジタルエコノミー時代の教養として知っておいて損はない書籍です。そして最後の2冊は少し遊びを持たせ、実用書、ノンフィクションをピックアップしています。

2017年も多くの良書に恵まれました。書籍に関わる全ての方に感謝の意を込めて。

2017年の良書ベスト10

1. 問題解決大全

世の中にあるすべての仕事に共通することは、個人、企業、社会など誰かの何らかの問題を解決することです。ですので、世の中には問題解決に関する書籍や方法の紹介にあふれています。

ところが世の中には問題の量が多すぎて、そのひとつひとつにレシピ(メソッド)を与えることは不可能です。そこで皆が考えるのは、問題を解決する方法を探す方法(メソドロジー)を策定しようというアプローチです。

本書は大全の名に恥じず問題解決のメソドロジーを網羅的に取り扱い、なお且つ永久保存版として活用できる実践的な側面も持ち合わせた問題解決のマスターピースです。

まず、著者は問題をリニア(直線的)とサーキュラー(円環的)に分けています。リニアな問題とは原因を取り除けばそれに応じて結果が変化し、問題が解決するような類の問題です。

例えば飲食店の売上が目標ほどあがらないというのはリニアな問題でしょう。一方でサーキュラーな問題とは原因と結果がループしていてひとつの原因へのアプローチが必ずしもトータルな問題解決につながるわけではないような類の問題です。

例えば組織のメンバーのモチベーションがあがらないという事象は、何かの原因にアプローチしようとするとそれ自体がまた原因を誘発したりするなど、線形な解決では解決が難しいでしょう。

これら2つの問題に対し、著者は次の4つのステップで問題解決を大局的に捉えています。
問題の認知
解決案の探求
解決策の実行
結果の吟味

各ステップにいくつかのツールを提供し、合計37の問題解決のためのメソドロジーを提示してくれています。各メソドロジーについてレシピ(メソッド=使用方法)、サンプル(実例)、レビュー(考察)がつけられており理解がスムースに進みます。

これまでの問題解決の書籍ではリニアな問題が中心で、論理的思考と両輪で問題解決が語られてきました。そこにメスを入れるかのようにサーキュラーな問題も同様に取り上げているのは本書の大きな功績であると思います。

サーキュラーな問題に関しては主客未分の世界観において全体論的(Whole System)アプローチが求められ、論理的思考だけでは解決が難しくなります。本書を読んで問題解決を実践しようとする人は、サーキュラーな問題にこそ本書を参考にして取り組んでほしいと思います。

2. 世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか

上述の「サーキュラーな問題解決」という観点に興味を持ったのであれば、本書でさらにその重要性に触れることができます。

本書の中心的な主張は、現代社会では問題が高度に複雑化し要素還元主義に代表される論理的思考(サイエンス)だけでは問題の本質を解決できないので、感性や直感(アート)も存分に活用しなくてはならない、ということになります。アートを本書では「美意識」とも表現しています。

本書でも引用されているように、経営学者のヘンリー・ミンツバーグはマネジメントはアート、クラフト、サイエンスの3つが必要と唱えています。ただ、アートはどうしても感覚的で根拠に乏しいため、歴史上マネジメントからアートは追いやられ続けてきました。

しかしそろそろ限界に達しようとしています。今こそトップ(CEO)にアートな人材を据え、両翼をサイエンスとクラフトが担ってパワーバランスを均衡させる必要があると著者は訴えています。

また本書はアートの重要性に言及するだけでなく、第7章でアートの鍛え方についても紹介しています。そのうちの1つの方法が「哲学に親しむ」です。哲学に目を向けることは常に疑いの目を差し向けるということに他なりません。

当たり前を疑い、物事の本質に近づくと実はコアな部分は非常にシンプルであったりします。本書を読めば世界の経営者がなぜ哲学を学んでいるのか、その意味もよく分かることでしょう。

本書を手に取り、アート(美意識)の重要性を理解するだけでなく実際にアート(美意識)を鍛えるということに着手するきっかけにしてもらえればと思います。

3. 道なき未知

多くの社会人は働くにつれて組織社会化が起こり、組織における善がいつの間にか個人的な善にすり替わっていたりします。企業は利潤を追求しなければならない側面もあるので、数値を追いかけ、達成志向で行動し、ポジティブアプローチよりもギャップアプローチが最適解と考えられている傾向があります。

こうした世界観で形成されたメンタルモデルは後世に継承され、次なる組織社会化の温床となります。そのようなときに大切なのがUnlearning(成功例を脇において棄却すること)です。ときには立ち止まり、本当に大切なことは何だったのかを内省することが必要です。

しかし人は何の題材もなくUnlearningできるほど柔軟にできていません。そこで立ち返ってほしいのが哲学なのです。哲学には効率化という言葉はありません。

考えるということについて考え、自分なりの考え(答えのようなもの)を探り出すためのベースになるものです。哲学に関する書籍を手に取り、Unlearningしてみてください。

哲学にはよく古典がオススメされ、もちろん古典も悪くないですがUnlearningのためであればもっと親しみやすい書籍で十分です。そんなとき、本書『道なき未知』のような短編エッセイがとっつきやすく良いと思います。

もともとCircusという雑誌で連載されていた短編エッセイが後にWEB連載となり、描き下ろしを加えて48編のエッセイで構成されています。

著者らしく「自分を信じろ、は正しいのか?」「思考の道筋」「死について考えよう」と、哲学に満ちた内容になっています。著者からのメッセージはさしずめこんなところではないでしょうか。「私はこう考える。あなたはどう考えますか?」

こうして哲学について触れることで前述の「アート」感覚を養うことができ、それが現代社会における「サーキュラーな問題解決」に必ず役に立ちます。

4. 能力の成長

ここまで比較的アートな能力に偏った書籍紹介をしてきましたが、依然としてサイエンスが重要であることに変わりはありません。次に紹介したいのは、思考能力の成長のメカニズムに極限まで迫った一冊です。

筆者(私、鈴木)は本書ほど思考能力を理路整然と説明してくれる書籍に出会ったことがありません。もともとは知性発達科学という若干聞きなれない研究分野からの解説なのですが、思考能力が発達するメカニズムや各レベルの差異がどこにあるのか、そして発達のために必要なことは何か、明確に示してくれています。

本書によると思考能力はレベル0〜12の13段階に分けられます。なぜ13なのか、その解説はこうです。成長には5つの能力階層があり、各能力階層において「点・線・面・立体」という成長サイクルがあります。

ただ、立体というのは次の能力階層の「点」に相当するので、各能力階層において実質的には「点・線・面」の3つがあることになります。そして、能力階層のうちの最上位「原理階層」は「点」の1段階しかないため、下位の4つの能力階層に3つの成長サイクルで12、それに最上位の原理階層の1つを足して13になるとのことです。

成長に関するフラクタルな捉え方、13の基準の納得的な整理、これだけでも本書は2017年のベストに推したいくらいですが、さらに従前の能力開発の問題点と改善点、チクセントミハイのフロー理論やヴィゴツキーの最近接発達領域との関連なども示されており、能力開発に従事する人であれば好奇心が刺激されっぱなしの一冊です。

もちろん、個人的な思考能力の成長に興味がある人もメカニズムを知ることで成長スピードが早まることでしょう。

5. 生産性

ノーベル経済学者のポール・クルーグマンは著書『クルーグマン教授の経済入門』の中で経済にとって最も大切な3つの指標を挙げています。それは、生産性、所得分配、失業だそうです。

働き方改革も結構ですが、その背景に価値を最大化するための生産性の向上がなければやがて訪れるのは経済の衰退という末路でしかないでしょう。

経済の発展にとって重要な生産性は、細分化して見れば結局は一人ひとりの生産性の総体です。働くあなた自身の生産性を高めることがあなた自身の成長にもつながりますし、結局は生産性を高めることが労働時間の削減にもつながります。働き方ありきではなく、まずは生産性ありきなのです。

この生産性に真っ向から切り込んだのが本書です。著者はリーダーシップと生産性が人材や組織の力を左右すると言い切っています。前著『採用基準』でリーダーシップについて取り扱ったので、今度は生産性というわけです。

本書では生産性の重要性についてもさることながら、例えばトップパフォーマーの生産性を高めるための方策、いわゆる「使えない中高年」の生産性を高めるためにできること、など具体的な内容も豊富に紹介されています。

会社や組織としてパフォーマンスを出すためには問題解決能力はもちろん大事であり、それに必要なアートな感性も教養としての哲学も思考能力もなくてはならないものです。

ただ、それらを発揮する優先順位を間違えたり、目的不在の問題解決に従事したりしても真のパフォーマンス発揮とは言えません。著者の提言は常に「目的を踏まえ、何が大事なのか」を考えさせられます。

6. ヤフーの1on1

プロスポーツ選手はプレッシャーのかかる大切な試合の前日に、高校時代など若い頃の恩師に連絡をすることが多いそうです。そのときに恩師から言われるのは「自分の力を信じろ」など、結局は他愛もない内容です。

もしかしたら同じ言葉をすでに他の人から100回は言われているかもしれません。しかし当の選手は恩師の言葉から力をもらい、あるいは安心感を得て、前を向いてプレッシャーと向き合います。

このケースから分かるように、人は「何」を言われるかというロジカルさよりも、「誰」に言われるかというエモーショナルな部分を重視することが往々にしてあります。

ここでのキーワードは「納得感」であり、「納得感」を生み出すのは「関係性」です。上述のプロスポーツ選手と恩師のように関係性を作り上げることができれば、仕事も私生活もうまくいくと思いませんか?

そこで昨今企業において注目されているのが1on1というコミュニケーション技法です。1on1の効果は多方面に及ぶものですが、筆者(私、鈴木)は関係性構築こそが1on1の真髄だと捉えています。

本書を読めば、上司と部下の関係性を作り出し、お互いの言葉に血を通わせ、信頼関係を築くためのメソッドとしての1on1がよく理解できます。

本書ではさらに1on1による経験学習の促進など部下の成長に関しての言及もあり、関係構築だけに留まらない1on1の効果が理解できます。1on1の意義から導入ガイド、ヤフーにおける事例まで書かれており、1on1について知りたければこれ1冊で十分です。

7. プラットフォームの教科書

本書は、デジタルエコノミー時代の明確な勝者と補完者をわけるプラットフォームについて理論と事例を概略的に学ぶことができる教科書です。あなた自身がプラットフォームビジネスに参入しようとしているわけでなくても、デジタルエコノミー時代の教養として知っておく価値が十分にある内容です。

例えばプラットフォームの特徴である「レイヤー構造」と従来型産業構造の「バリューチェーン」の違いを説明できますか?

プラットフォームではWTA(Winner Takes All)が発生しやすいということを頭に入れておけば、AGFA(Apple、Google、Facebook、Amazon)の四強による企業買収の意図も見えやすくなります。のれん代と呼ばれる買収先の企業の時価総額と買収額の差異も理解できるようになるでしょう。

さらに本書は、例えば後発のプラットフォームが技術以外の要因でWTAに対抗するための5つの対策や、宿泊紹介サイトを立ち上げるのに宿泊施設を集めるのが先かユーザーを集めるのが先かといったチキンエッグ問題など、現実的に障壁となりそうな問題にも焦点を当てて実例とともに紹介しています。

教科書というと机上の理論やお作法的な部分に留まりがちな書籍も見受けられますが、本書は教科書的でありながら十分に実践的であり、ビジネスパーソンにもこれからプラットフォームを学ぼうという初学者にも読んでほしい一冊です。

8. アフタービットコイン

昨今ビットコインという言葉が一般的にもよく聞かれるようになり、ビットコインやブロックチェーン関連の書籍が雨後の竹の子のように出版されています。その中でも本書がオススメであるのは、著者が元日本銀行の行員という特性を活かして金融へのブロックチェーン(分散型台帳技術)への応用を詳しく解説してくれているからです。

本書は前半はビットコインの解説と今後のビットコインの可能性(著者はやや懐疑的な立場です)について言及しています。そして注目すべきは後半、分散型台帳技術についての考察です。

例えば、分散型台帳技術を用いれば中央銀行(日本であれば日本銀行)が国民に直接通貨を発行(国民は日銀に口座を持つ)することも容易にできます。日銀券のデジタル化です。こうなった場合、民間の銀行の役割とは何か、非常に考えさせられる内容です。

また、現在の通貨の流通と同じく、中央銀行が民間銀行にデジタル通貨を発行し、国民は民間銀行を通じてデジタル通貨をやり取りする形態も考えられます。こちらの形態の方が中央銀行の負担も少なく、現行制度と親和性も高いでしょう。

他にも、銀行間の当座預金の決済にデジタル通貨を用いることや、デジタル通貨ならではのメリットを活かしてマイナス金利(例えばデジタル通貨を1年間使用しないで保持し続けると価値が低減する)などの新たな金融政策の実現も可能となるなど、思考実験として非常に興味深い内容となっています。

上述のプラットフォームの教科書とあわせてデジタルエコノミー時代の教養として非常にオススメの一冊です。

9. ユニクロ9割で超速おしゃれ

どのような分野・ジャンルにおいても100点を目指すことは長期間の鍛錬や習熟、あるいはセンスや才能のようなものも必要となり容易なことではありません。ところが70点で良いと言われれば、特別な鍛錬をしなくてもある程度の型を守ればクリアできそうな基準にも思えます。

例えば料理で考えてみましょう。100点を目指すことは非常に難しいですが、70点と言われるとどうでしょうか。味の型紙と呼ばれるような味の黄金比を守ることでそのラインに一気に近づくことができます。

ちなみに、料理ができない人の特徴は共通して「レシピ無視」だそうです。誰かが試行錯誤を重ねて確立してくれた型を守ることの重要性がよくわかります。

では、ファッションはどうでしょうか。実は、ファッションにも70点を目指すための型が存在します。ところが、ファッションというと「自分にはファッションなんて」「おれの着たいものを着て何が悪い」「全部そろえたら高そう」と拒否反応を示す人が少なくありません。

そのような男性に向けて最適なのが本書です。著者は3000人以上のファッション初心者をおしゃれに変えたスタイリストです。本書ではユニクロを代表的に取り扱い、お金をかけずに70点あるいは80点を目指すための超速おしゃれへの道筋を次の3つのステップで紹介してくれます。

1.買ってはいけない「8割の服」を見分ける
2.「アイテム選び」で70点のベースを整える
3.「アクセント」をつけて80点以上を目指す

ファッションの型をユニクロの実際に売られているアイテムで学ぶことができる実践的な一冊です。

また、史上初のメンズカジュアルファッションコミック『服を着るならこんなふうに』は同様の型を漫画で学ぶことができるのでこちらもオススメです。

10. 残心

あらかじめ断っておきますと、筆者(私、鈴木)は川崎フロンターレのファンです。そして中村憲剛選手のファンです。ただ、本書はそれを差し引いてでも多くの皆様に読んでいただく価値がある、そう考えて今回の1冊に加えました。

2017年のJ1リーグは川崎フロンターレの初優勝で幕を閉じました。最終節でのキャプテン小林悠選手のハットトリックを含む5得点の快勝による逆転優勝、小林悠選手は得点王とMVPのダブル受賞、中村憲剛選手もJリーグベストイレブンに選ばれました。

これまで大きなタイトルとは無縁で8度の準優勝からシルバーコレクターと揶揄されてきた川崎フロンターレが掴んだ初の栄冠。中村憲剛選手が最終節の試合終了のホイッスルの瞬間、突っ伏して泣きじゃくった映像に心を打たれた方も多いのではないかと思います。

その感動は、本書を読めばさらに印象的で涙なしに語れないものになることは間違いありません。『残心』というタイトルもさることながらサブタイトルは「Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日」で、まさに本書ではブラジルW杯メンバー落選やJリーグでタイトルが獲得できない苦悩がありのままに綴られています。

本書が上梓されたのは2016年4月ですが、あとがきで著者はこのように綴っています。

2014年中に上梓する予定がずるずる延び、この春を迎えてしまったのは、ハッピーエンドで終わらせたいという想いが僕にあったからにほかならない。(中略)だが、あるとき、彼の言葉を読み返していて、気付いたのだ。「これが中村憲剛の人生。自分の人生になんの悔いもない」

上梓から1年半。悲劇のヒーロー続きだった中村憲剛選手がついに手にした栄冠。これまでの苦悩は2017シーズンのためにあった、そう自信を持って言える中村憲剛選手の笑顔がそこにありました。

著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)‬
‪2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。‬
‪・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー‬
‪・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター‬
‪http://rdi.jp/about-rdi‬

Career Supli
興味深い名著ばかりですね。お休み期間中ににぜひ読んでみてください。
[文]鈴木洋平 [編集] サムライト編集部