『英語日記BOY』新井リオさんに聞く「生きた英語」を話すための英語学習法

19歳から独学で英語を学び始め、その後、ワーキングホリデーを使ってカナダへ移住。現地でフリーランスデザイナーになる夢を叶えた新井リオさん(26歳)。

新井さんは「英語日記」を活用した独自の勉強法を提唱しており、それをつづったブログは「英語 独学」でGoogle検索1位に。『英語日記BOY』のタイトルで書籍化もされ、反響を呼びました。

新井さんが実践する勉強法は、どちらかというと「スコアを伸ばす」よりも、「英語を話す力」を養う方法と言えそうです。2年半にわたり英語学習を継続する筆者が、当事者の視点で「忙しいビジネスパーソンでも実践しやすい具体的な勉強法」を伺いました。

【目標設定】どんな人間になりたいか、まで考える

独学で英語力を身に付けた新井リオさん

新井さんは22歳のとき、観光ビザとワーキングホリデーを使って、トータル1年半カナダへ滞在。当時の目標は「カナダでグラフィックデザイナーとして生計を立て、今後どの国でもフリーランスとして生きていけるだけの英語力とスキルを身に付ける」ことでした。同時に、これを自分の「留学のタイトル」として定め、英語とデザインの学習にありったけの時間をささげたそうです。

まず、英語学習における目標設定のコツを伺うと、「個人的な憧れを含めてみてほしい」とのこと。

「『英語が話せるようになるぞ』程度の曖昧な目標でがんばりきれなかった過去があり、『英語を使いこなして、カナダでグラフィックデザイナーとして生活する』という具体的、かつ興奮できるぐらいの憧れを含めた目標を掲げ直しました。

当時は、英語もデザインもあまりに未熟でしたが、いったん『練習すれば、いつかはうまくなるのだから』と開き直って、英語が話せるようになった先の人生、もっと言えば、『自分はどんな人間になりたいか』を考え、目標にすることで、がんばり続けるモチベーションになったと思います」

もう一つ大事なのが、具体的な期間を定めること。個人差はありますが、ビジネスシーンで活かせる英語力に到達するには、数年単位の長期戦になります、半年後、1年後といった「期限」とそれぞれに「到達したいレベル」を含めた目標を設定しましょう。そうすることで、日々の学習時間など具体的な道のりを描きやすくなりそうです。

【勉強法】話すに特化した、1回30分の勉強を重ねる

ビジネスパーソンが英語を習得するにあたり、もっとも課題になりそうなのが「勉強時間の確保」ではないでしょうか。忙しい人に向けて新井さんが推奨するのが、「30分の勉強を1ユニットとして積み重ねる」こと。新井さんが実践してきた、「生きた英語を話す」ための具体的な勉強方法をご紹介します。

●オンライン英会話

多くの授業が25分単位で、1ユニットごとの学習にピッタリなのがオンライン英会話。月額6,500円程度と格安ながら毎日授業が受けられる「DMM英会話」やレッスン受け放題の「ネイティブキャンプ」、本格的なビジネスコースも備える「レアジョブ英会話」などは人気で、新井さん自身はDMM英会話を6年以上続けているのだそう。

筆者も複数のオンライン英会話を試しましたが、もっとも負担なく続けられたのが、予約不要で思い立ったタイミングにレッスンを受けられる「ネイティブキャンプ」。講師の質には差がありますが、講師歴が長く経験値が豊富な講師を選ぶことで、満足度の高い学習ができました。

●英語日記

7年間にわたる英語学習で、2,000を超える英語日記を書き続けてきたという新井さん。「今、生きた英語を話せるのは英語日記のおかげ」というほど、絶大な信頼を寄せている勉強法なのだとか。そのステップは以下のとおり。

上記の図で書かれている目安時間は、「慣れてきたら、このくらいでもできる」という最短時間だそう。慣れるまでは、「英語日記をつくる」「添削」「ひとりごとの」のプロセスにそれぞれ30分かけて、丁寧に実践しても良いかもしれません。

「ポイントは、日常で使いそうな生き生きとした思考を言葉にするために、まずは日本語で書くこと。さらに、翻訳サイトを使って一瞬で答えを知ろうとせず、単語の意味や背景、ネイティブがどのようなニュアンスで使っているのかまで調べ、なぜこの表現を使うのかという理由を理解しながら、自分自身で文章をつくりましょう。

簡単に手に入れた文章には思い入れがないので、なかなか身になりづらい。文章をつくるまでに、多少の坂道を越えることが重要なんです」

添削のプロセスでは、オンライン英会話の他に、外国語学習者のためのQ&Aサービス「HiNatvie(ハイネイティブ)」の活用もおすすめとのこと。

ブラウザ版の「HiNatvie」より

「HiNatvie」は、ネイティブスピーカーに対して「自然な言い回し」や「正しい発音」などを質問できるサービスで、全世界232ヵ国で600万人が利用しています。無料でも質問できますが、月額560円〜のプレミアム会員になることで、「優先的に表示される(答えをもらいやすい)」「添削のビフォー・アフターがわかりやすい」といった特典があるとのこと。

筆者も使ってみたところ、やや長文の質問には回答が得られなかったものの、短文にしてみると2つの回答があり、丁寧に添削してもらえました。ほかの人の回答を見るのも勉強になりそうです。

添削してもらった文章は、スマホの音声入力で発音が正しく認識されるまで、ひたすら口に出しましょう。筆者もトライしてみたところ、3つの文章をつなげた、やや長い日記だったため完璧に認識されず……。欲張らず一文から初めてみると心が折れずに続けられそうな気がしました。

新井さんの著書『英語日記BOY』には、その他にも具体的な学習法が多く掲載されています。気になる方は、チェックしてみてください。

【環境の整え方】熱意がある自分が、熱意のない自分を支える

新井さんは、日本で英語を勉強していた期間、「部屋での留学」を実践していたそう。部屋で目にするもの、聞くもの、話す言葉を「英語」に変えるというシンプルな方法、かつ費用がかからないため、万人におすすめなのだとか。

「例えば、スマホの言語設定を英語に変え、コンテンツを英語で楽しむ、英語のラジオを流す、Siriなどの音声入力アシスタントに英語で話しかけるなど、部屋を海外留学したときのような空間にしてみてください。

より『入国』の雰囲気を出すため、自分の部屋のドアに『What’s the purpose of your visit?』(あなたの訪問の目的は何ですか?)という一文を貼って、部屋に入る際にその質問に英語で答える、くらいやっちゃってもいいと思います。楽しみながら勉強するのも大事ですから」

そして、もう1つ、「ナチュラルスパルタかもしれませんが……」と苦笑いしながら答えたくれたのが、勉強と関係ないことをしないための実践でした。

「何をやるかも大事ですが、『何をやらないか』も同じぐらい大事だと思います。僕の場合は、ついスマホを見てしまう時間が勉強の妨げになることから、スマホの置き場所をデスクからもっとも遠い物置の中にして、強制的に触れない状態にしています。

人は意思だけではなかなか継続できないので、熱意がある自分が熱意がなくなったときの自分のために、どんな環境を作っておけるかという視点で考えると良いかもしれません」

【モチベーション維持】挫折した人生を想像してみる

英語学習は長期戦になるケースが多く、一定レベルまで到達すると上達を感じづらかったり、TOEIC等のスコアが伸びても思い通りに話せなかったり、モチベーションの維持が難しいと言われます。どうすれば強い意思を持ち続けられるのか、新井さんに尋ねてみました。

「モチベーションが上がらないときの具体的な解決策として、2つおすすめがあります。一つは、一度上達を忘れて、現状の能力でできることを楽しむこと。外国人の友達と交流してみる、完璧にわからなくてもいいから英語字幕で好きな映画を観る、好きな洋楽の歌詞を翻訳しながら聴いてみるなど。

もう一つは、学習をあきらめた人生を想像してみること。いまの僕に例えると、現在は美術の専門学校に通って絵の勉強をしているのですが、思うように上達しないことに悩んでモチベーションが下がりそうなときは、挫折した先に待っている人生を考えます。

そうすると、あきらめた人生より、好きな絵を仕事にしながら生き生きしている40代、50代のほうが絶対カッコいい。そんな自分になりたいと思うから、踏ん張れているのかなと」

Adobeとの仕事で新井さんがデザインした作品

新井さんは、「英語をマスターするには、どこかのタイミングで信じられないぐらい勉強にハマっている期間が必要だと思う」とも付け加えました。

「僕はミュージシャンとして活動していた時代もあって、音楽、英語、絵の3つには生涯を捧げてもいいと思えるほどのめり込みました。だからこそこの3つは、ひとまずマスターしたといえるレベルに到達できたのかなと。

一度信じられないくらいハマり、車に例えるなら『免許取得』のような状態が作れると、その後の勉強は『ドライブ』をするかのように楽しめたりします。そのため、いまは絵の勉強に集中しつつも、楽しみながら英語学習を続けられています」

2年半にわたり英語学習を続けている筆者も、新井さんの言葉に共感を覚えました。筆者の場合は、専任のコーチを付けて平日2〜3時間、休日5時間を英語学習に捧げていた半年間で英語力が急上昇。具体的にお伝えすると、TOEICの点数が370点アップしました。この半年間で、英語力の土台を築けたと思っています。

【キャリアアップ】英語をマスターして人生はどう変わった?

英語学習の目的として、「キャリアアップを図りたい」と考える人は多いはず。新井さんは、就職せずにミュージシャンやフリーランスデザイナーとして活動してきたことから、「年収」や「役職」といった明確な基準でのキャリアアップの判断が難しいとしながらも、多くの変化があったようです。

「英語が話せるようになった事実と同じくらい嬉しかったのは、自分が『何かを本気でがんばることができる人間』だと悟れたことです。英語力を身に付けて自信が底上げされたことにより、生まれてくるアウトプットや姿勢が変わったでしょうし、その変化が現在の自分へ導いてくれた可能性は大いにあると思います」

新井さんがデザインした作品

英語学習ブログが累計300万PVに到達し、英語学習にまつわる書籍を出版。『英語日記BOY』として、自身の存在や経験値を広く周知できたことも、キャリアの可能性を開く出来事につながっているはず。

そんな新井さんが、現在目標として据えているのが「ロンドン移住」です。

「日本でイラストレーターとして土台となるスキルを積んだあと、2023年頭にロンドンへ移住し、イラストレーターとしてキャリアをスタートする計画を立てています。すでに、こんなクライアントと仕事をしてみたいといった具体的な目標があり、そこに到達した自分の姿を思い描き、ワクワクしながら絵の勉強をしています」

新井さんのストーリーを参考にすると、英語力を身に付けることで、海外移住やグローバルな企業への転職、あるいは世界を舞台に夢を叶えるなど、一気にキャリアの選択肢が広がる気がしました。

ちなみに、英語学習歴2年半の筆者は、「英語を使って外国企業にインタビューする」という夢をすでに叶えることができました。とはいえ、理想の姿までは遠く、まだまだ道半ば。英語を話したくてたまらないみなさん、「英語を話せる自分」と「話せない自分」の人生を比べて、原動力に変えてみませんか?

写真提供:新井リオ

<取材協力>
新井リオ
イラストレーター/作家/ミュージシャンとして、Adobe CC Logo Remix、WIRED.jp連載イラスト、Nagiギフトカードアニメーション、Sony Music Shopとのコラボグッズなどを手がける。著書『英語日記BOY』(左右社)がAmazon本総合人気度ランキング1位を記録。DMM英会話Blog/日経doorsにて連載執筆。バンドPENs+のボーカルとして日本で4枚のCD、アメリカで1枚のレコードをリリース。

Website:https://arairio.work/
Instagram:https://www.instagram.com/_arairio/
Twitter:https://twitter.com/_arairio

[取材・文]小林香織 [編集]サムライト編集部