マツコはなぜ好かれているのか?
毎日社会で働いていれば、つい毒を吐きたくなったり、他の人の間違いをビシリと指摘したくなるものです。ましてや部下やチームを率いる立場になれば、厳しさと優しさの使い分けに頭を悩ませている人も多いはず。
そこでここでは毒舌を吐きまくっているにもかかわらず、視聴者はおろか共演者にまで好かれているマツコ・デラックスさんの人心掌握術を紹介しながら、「厳しいのに誰からも好かれる人」になるための心構えを解説します。
TOP画像出典:東洋経済オンライン
まずは「弱者」になるべし
マツコさんが様々なメディアに残している文章や発言を見ていると、そこかしこに「自分なんて全然ダメ」という意識が垣間見えます。またマツコさんの体型にしろ、「オネエ」「オカマ」というセクシャリティにしろ、世間的には弱者のレッテルを貼られる要素です。しかし彼女はそれを一切隠そうとせず、「弱者としての自分」をさらけ出しています。これは誰もが取り入れられる人心掌握術です。
心理学には「アンダードッグ効果」と呼ばれる理論があります。アンダードッグとはすなわち「川に落ちてしまったかわいそうな犬」。そんな誰もが守りたくなるような存在に対しては、人はついつい手を差し伸べたくなってしまいます。自分を弱者として認め、それを隠さないようにすると、このアンダードッグ効果によって人の心を掴めるのです。
ここでのポイントは「冷静に自分の弱点を見極めること」です。あらゆる面で自分を弱者にしてしまうと「卑屈な人」と思われたり、「自分なんてダメなんだ」と落ち込み過ぎる危険があります。自分ができることとできないことをはっきりさせ、できないことに関してはそれを隠さず認める。これが「弱者としての自分」の正しい使い方です。
「アメ」と「ムチ」は習慣化して使い分ける

『マツコの知らない世界』でマツコさんと一緒に仕事をしていた制作プロデューサーの大橋豪さんは、ディレクター時代に「仕切りが悪い!」と激怒されたことがあるそうです。現場で直接怒られたので、大橋さんは相当こたえたのだとか。しかしその夜マツコさんから電話がかかってきます。そこでかけられた言葉は「あんただけが悪いんじゃないってことはわかっているから」。
このアメとムチの完璧な使い分けは、マツコさんの大きな魅力の1つです。例えば会見で下着の色を聞いてきた記者に対して、初めは「(その質問には)協力しません!」とぴしゃりと言い放っておきながら、すかさずその場の全員に聞こえるように別の記者に「薄い緑よ」と伝える、というような具合です。
先輩や上司として働くようになると、必ずビシリと怒らなければいけない場面がやってきます。しかし「嫌われたらどうしよう」「部下の気持ちが離れていったらどうしよう」という不安は誰しもが抱くはず。そんな時にマツコさんのようなアメとムチの使い分けは絶大な効果を発揮します。
「でもそんな器用に使い分けられるかな……」と不安に感じる人は、to doリストに「1.ビシリと叱る。→2.後できっちりとフォローを入れる」などと書いておき、フォローをタスクとして組み込んでしまいましょう。こうしておけば感情的に叱ることもなくなりますし、繰り返せばアメとムチの使い分けが習慣化していきます。
「毒」にはそれ以上の「愛」を含ませる
「だからアンタはダメなのよ!」とマツコさんが言う時、そこには同時に母親が「しっかりしなさい」と子供の背中をバシっと叩くような愛も含まれています。毒の中にそれ以上の愛が含まれているからこそ、きつい言葉を言われた時も、言われた人は素直に聞くことができるのです。もしそこに愛がないのなら、毒を吐くべきではありません。
ただしこれは人心掌握術の中でもかなりの高等テクニックです。なぜなら自分にとっての愛が必ずしも相手にとっての愛だとは限らないからです。愛だとわからなければそれは相手にとっては単なる毒でしかありません。そうなれば単なる「嫌な人」「厳しい人」で終わってしまうでしょう。
このテクニックを自分のものにするためには、まず「自分の言葉に愛はあるか」と自問自答するところから始める必要があります。自分本位の言葉になっていないか、感情的になっていないか、必要以上に毒を含ませすぎていないか……そうした細かい点への注意が、マツコさんの厳しくも愛情に満ち溢れた言葉につながっていきます。
毒を吐いてくる相手の懐に飛び込む
どんなに他人から愛される振る舞いをしていても、すべての人に愛されることはあり得ません。どんな人でも誰かから敵視されるものです。そんな時に使えるのが「毒を吐いてくる相手の懐に飛び込む」という方法です。
マツコさんは著書『デラックスじゃない』の中で「デブだのオカマだのと、ハラワタを散々見せている人間に対して、石を投げてくるほど、みんな、冷血じゃないよね」と書いています。自分に対して悪口を言ってくる相手に対しては「あなたの言う通り、私はデブだし、オカマなの。ほんと嫌になっちゃうわよね」と相手の言葉を肯定してしまう。
そうすると相手は毒を抜かれてそれ以上の攻撃ができなくなります。そこですかさず「どうすればいいかなあ?教えてくれる?」と懐に飛び込む。すると「あれ?こいつ案外可愛いところあるんじゃないか?」と懐柔されてしまう、というわけ。
時には毒を吐いてくる相手に対して毒を吐き返したくなることもあるでしょう。しかしそんな時はこの方法で敵を味方にしてしまうという方法もあることを思い出しましょう。
人を愛し、自分を笑え
「人を馬鹿にして、自分ばかり愛している人」は間違いなく嫌われます。「人を愛して、自分も愛している人」はそれよりもマシですが、「ハナにつく」と敵視されることも少なくありません。しかしマツコさんのように「人を愛し、自分を笑う人」を悪く言う人はめったにいません。
マツコさんの毒舌にはこの「人を愛し、自分を笑う」という大前提があります。だからこそ誰もがあの大きな体のオネエが大好きなのです。「厳しいのに誰からも好かれる人」への道は平坦ではありません。しかしその先にはマツコさんのような圧倒的な存在感と求心力を使って、チームを率いる自分がいます。まずは「弱者としての自分」を自覚するところから、始めてみましょう。
参考文献『なぜ、マツコ・デラックスは言いたい放題でも人に好かれるのか?』
