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才能や努力だけでは成功できない
世の中の成功者や成功のために努力している人たちの多くは「少しの才能と膨大な努力があれば成功できる」と信じています。しかし近年の研究で、成功には「運」が不可欠だということがわかってきています。
このことを様々な事例と研究成果を挙げて解説しているのが、コーネル大学ジョンソンスクール経済学教授ロバート・H・フランクさんの著書『成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学』です。
ここでは本書を参考に、運が成功や失敗にもたらす影響力を解説するとともに、成功者になるための運との正しい付き合い方を提案します。
「運」なくして成功はあり得ない

もちろん、才能と努力は重要だ。だが、社会でも最大級のご褒美を獲得する競争は熾烈で、才能と努力だけでは勝てない。ほとんどの場合、運の強さは必須である。引用:前掲書p24
最初この手の議論をロバート教授が始めた時、才能と努力だけが成功に必要なものと信じる人たちから多くの批判が寄せられたそうです。
ロバート教授が生出演したフォックス・ビジネス・ニュースでは、「運が全てで、才能と努力にはまるで意味がないというのか」と司会者から声を荒げられたこともあったのだとか。
引用文を見ればわかるようにこの司会者はロバート教授の主張を誤解していたわけですが、司会者のあまりの怒りように取りつく島もありませんでした。
自分の力で成功したと思っている人ほど、この司会者と同じような感情になりがちです。しかし人間には「後知恵バイアス」といって、ものごとが起こったあとにそれを予測可能だったと考える傾向があります。
「あの時のあの決断が成否を分けた」「自分の読みが正しかった」というような成功者のセリフや成功者の言動の解説は、この後知恵バイアスの影響を受けている可能性があります。なぜなら成功への道筋は論理的に語れるほど単純ではなく、運の要素を多分に含むからです。
また近年の生物学によれば才能はもちろん、「努力ができるという能力」さえも遺伝や環境でほとんど決まってしまうという見解もあります。にもかかわらず成功要因から運を排除するのは、単なる事実から目を背ける行為でしかありません。運なくして成功はあり得ない。これは厳然たる事実なのです。
「運」と「情報革命」の関係
しかも情報革命が進むにつれ、運が成功や失敗に及ぼす影響力は増しています。というのもインターネットの普及が、消費者に世界中で最も優れた生産者にアクセスすることを容易にしたからです。
例えばインターネット以前の時代であれば、病人は地域一番の町医者に診てもらうのが最善の選択肢でした。しかしインターネット以後の時代では、日本一の敏腕医師や世界一の名医にアクセスすることもできるようになっています。
すると日本一の敏腕医師や世界一の名医のひとり勝ち状態が生まれ、地域一番の町医者の価値は大きく下がってしまいます。しかしそもそも医師として日本一、世界一になった要因には運が大いに関係しています。
彼らと同じ技術力を持った医師でも、運に恵まれなければ日本一、世界一の称号は手にできないのです。この現象は医療業界のみならず、多くの業界で起きています。
このような状況で運の影響力を軽視し、才能と努力という自前の力を盲信していると、いずれ運に足元をすくわれることは間違いありません。それを回避するには運との正しい付き合い方を身につける必要があります。
「運など無関係」と思う方が成功しやすい?

将来のすべての業績は自分ひとりで成し遂げるもの、過去のすべての成功は大いなる恩恵を受けたものと考えるべきだ 引用:前掲書p128
ロバート教授はNYタイムズのコラムニストであるデイヴィット・ブルックスのこの文章を引用して、「ブルックスの言うとおり!」(前掲書p129)と同意を示しています。
この文章はつまり、未来に関しては自分の才能や努力の価値を信じつつ、過去に関しては幸運に感謝せよと言い換えることができます。このバランス感覚こそが、正しい運との付き合い方です。
なぜ未来については自分の力を信じる必要があるのでしょうか。それは私たち人間が「運など無関係」と考えた方が成功に必要な努力を継続しやすい生き物だからです。
例えば有名大学に入るために受験勉強をするとしましょう。この時「コツコツ努力さえすれば、きっと合格できる」と自分の力を信じることができれば、未来の成功をより強くイメージすることができます。
しかし「いくら努力しても、最後は運で決まってしまう」と思ってしまうと、未来の成功のイメージが揺らいでしまい、勉強に打ち込むのが苦痛になってしまいます。
「最後は運で決まってしまうなら、何もしなくても同じだ」という逃げの思考になるのです。このような人間の性質は心理学の「帰属理論」によっても説明されています。
したがって、未来に関しては運の要素を無視することも時に必要になるというわけです。
「幸運への感謝」は成功を呼び寄せる
一方、失敗した場合でも成功した場合でも、過去については運の影響力を重要視した方が良いとロバート教授はいいます。
散々努力した末に失敗した経験をしたとき、いつまでも「自分の才能と努力が足りなかったのだ」と考えていると、次のチャレンジをする時にためらいが生まれ、成功が遠のいてしまいます。
これを「前回の失敗は運が悪かっただけだ」と自分から切り離して考えれば、もう一度全力で挑戦できるようになります。
私たちは成功するとついつい「自分が頑張ったからだ」と考えたり、口にしたりしがちです。しかし失敗した場合同様に成功した場合でも「自分は幸運に恵まれただけだ」と考えるべきです。
というのも第一に経済的に大きな成功を成し遂げるためにはチームでの取り組みが必要であり、第二にチームで重要な役割を担うには他人からの評価が必要であり、そして第三に成功に対して他者の力や運の力を認めると他人からの評価が上がるからです。
ロバート教授が300人を対象に行った実験によれば、成功体験を語った人物が最後に「成功は自分の能力によるものだ」と発言するよりも「成功は幸運に恵まれたから」と発言する方が、その人物への印象が良くなることがわかっています。
短期的に見れば自分の功績をひけらかす方が実力を誇示できるかもしれません。しかし長期的に見ると、成功を自分以外のチームメンバーや幸運に感謝する方が組織での存在感が確立しやすくなり、より大きな成功に近づくことができるのです。
「運」との正しい付き合い方を身につけよう
才能と努力、そして運。この3つが揃って初めて自分の望む成功が手に入ります。そのためには運がもたらす影響力を軽視せず、正しく付き合っていかなければなりません。
そうすれば完璧にコントロールすることは不可能だとしても、少しでも運を味方につけることができるでしょう。それこそが、手にした才能と積み重ねてきた努力の価値を最大限にするということを肝に銘じておきましょう。
参考文献『成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学』

