「情動のラベリング」ネガティブな感情が成功を呼ぶ

ネガティブに対処する

将来がなんだか不安。人間関係にモヤモヤしている。ハッキリとはわからないものの曖昧模糊としたネガティブな感情を抱えることありますよね。

ポジティブシンキング全盛の時代なため、「こんなネガティブじゃ駄目だ!」と無理にポジティブになろうしたり、ネガティブな感情を持つ自分を否定しがちです。

しかし、後述しますがネガティブ感情を無理にポジティブなものに変えようとしたり抑え込もうとする努力はネガティブをさらに悪化させる可能性すらあります。

それよりも曖昧模糊としたネガティブな感情をしっかりと観察し言語化することが不安を鎮め、ネガティブに対処する上で有効だと判明しています。

心理学では、これを「情動のラベリング」と呼びます。この情動のラベリングはシンプルなものの非常に有用なスキルとなり得ます。今回は、心理学者ロバート・ビスワス=ディーナー氏の著書『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』(草思社)を参考に情動のラベリングについてご紹介します。

ネガティブを言語化する「情動ラベリング」の有用性


カリフォルニア大学ロサンゼルス校の3人の心理学者で構成される研究チームは「情動ラベリング」が不安を鎮め、心を落ち着かせる効果があるかどうか確認する実験を実施しました。

【実験内容】

クモを怖がる「クモ恐怖症」の被験者を集めて以下のステップを踏ませます。
・『シャーロットの贈り物』というクモのアニメを見せる。
・クモが壁を這い上がる様子、糸でコウロギなどの昆虫を捕食する様子を撮影したドキュメンタリーを見せる。
・ガラス容器に生きたクモを入れてガラス容器越しに見せる。
・20メートル離れたところから徐々に近づかせる。
・ガラス容器の蓋を自ら開けさせる。
・手や足の上にクモを這わせる。

各ステップを踏んで被験者の不安を十分に鎮めてやると、4~6週間後には大量のクモが這っている車に乗車して運転できるようになっているそうです。

このような不安対象へ徐々に被験者を慣れさせていく方法を疑似体験療法と呼びます。この疑似体験療法のプロセスに情動のラベリングを追加すると、さらに不安を鎮め心を落ち着かせる効果があったそうです。

まず、クモを怖がる「クモ恐怖症」の被験者を3グループに分けました。

1つ目のグループ:クモが無害であることを説明する(楽観的思考)
2つ目のグループ:クモへの関心をそらす質問をする(経験の回避)
3つ目のグループ:今感じている気持ちを言語化するように指導(情動のラベリング)

3つ目の情動のラベリングを実施したグループにおいて被験者はクモの毛が気持ち悪い、噛みつかれるかもしれないから怖いなどその不安感を細かく言語化。

結果的にはクモに対する恐怖を感じなくなり(18.1%低下)、クモを見せられた身体反応も減少しました(27.5%低下)。

一方で楽観的思考の1つ目のグループ経験の回避の2つ目のグループでは不安感が逆に悪化したそうです。

ネガティブをポジティブに考えようとしたり、回避したりしようとするのは逆にネガティブを悪化させてしまうということです。

また、著者の研究では自分の感情を細かく言語化している人ほどネガティブな感情に対する悪影響を受けにくいことが判明しています。

細かく自分の気持ちを言語化出来ている人はそうでない人よりもいじめや挑発をしてくる相手に対して暴力や暴言をふるうことが40%少ないのです。

言語化することによって人間の恐怖心や攻撃性を司る脳の部位の偏桃体の活性を抑えられるとカリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学研究チームの研究で判明しています。

ブッダもやってたヴィパッサナー瞑想法

実はこの情動のラベリングは古来より取り入れられています。人類の知恵といえるものなのです。

その代表がヴィパッサナー瞑想法です。ブッダが修行中より行っていた瞑想法と伝えられており、スリランカやミャンマーの南伝上座仏教が受け継いできた瞑想法の1つです。

ヴィパッサナー(vipassana)とはサンスクリット語で、事象をあるがままに洞察するという意味です。

このヴィパッサナー瞑想法は非常に簡単。通常のヨガの瞑想とは異なり、目を開いたまま、思ったこと、感じたことを言語化するだけです。

情動のラベリングはコンセプトからしてそのままヴィパッサナー瞑想法です。情動のラベリングは非常にシンプルな方法ではありますが、不安や恐れなどネガティブな感情とうまく付き合う上で非常に有用です。

常日ごろより、思っていること、感じていることの言語化を習慣化すると良いでしょう。「良い・悪い」などの単純な言語化ではなく、可能な限り細かく自分の感情を言語化することが情動のラベリングをする上では重要です。

ナチスの強制収容所を生き残った人の特徴

少々脱線しますが、心理学者ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」はナチスの強制収容所の様子を描いた本における話。

強制収容所では次々に人が飢えと病気、また不安からくる自殺で死んでいきます。その中でフランクルは生き残った人の性質は肉体が屈強な人ではなく繊細な性質の人だったと語っています。

推測するに、彼らは自分の感じていること、思っていることに対して細かく言語化できる人だったのではないでしょうか。それゆえにネガティブに負けず生き残ったのかもしれません。

ネガティブに負けないためには、自分が行動している際に感じていること、思ったことを言語化するためにも多様な感情を表現する言い回しが出てくる小説を読んでみたり、語彙を増やしても良いでしょう。

それは、私たちが避けて通れないネガティブに対処する1つの立派なスキルの土台となるのではないでしょうか。

参考書籍:ネガティブな感情が成功を呼ぶ
[文・編集] サムライト編集部

Career Supli
自分の感情や思考を言語化するトレーニングは重要だと思います。