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テレビやネットの「健康食」で本当に健康になれるのか?
テレビやネットに溢れる「健康的な食事」についての情報。これらは非常に影響力が大きく、「○○が健康に良い」という内容のテレビ番組が放送された翌日にはスーパーやコンビニからその食材が姿を消すほどです。
しかし『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)は、こうした日本の健康に関する情報の正確性と影響力について警鐘を鳴らしています。
なぜテレビやネットの「健康食」の情報に注意が必要なのか。ここではその答えについて考えながら、本書が提案する「科学的に証明された究極の食事」と、著者であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科学助教授の津川友介さんの健康に関する情報との向き合い方について紹介します。
医師・栄養士、公的機関の「健康食」が信用できない理由

専門の資格を持っていると正しいことを発信しているように見えるが、残念ながらそうとは限らない。
引用:『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』p10
省庁が発表する「ガイドライン」ですら歪められている可能性を否定できない。
引用:同上p11
津川さんは本書の冒頭で、医学部では食事や栄養のカリキュラムを重視していないほか、栄養士に関しては「どうすれば健康になるか」という指導には長けているものの「なぜ健康になるか」という根拠に関しての専門知識は持っていない人が多いと指摘しています。
そのためテレビやネット、あるいは書籍などで専門的な資格を持っている人が「この食べ物は健康に良い・悪い」と言っていたとしても、それをそのまま鵜呑みにして健康になれるかは疑問だと言うのです。
また厚生労働省や農林水産省などの健康と食品に関連する省庁は、「日本人の食事摂取基準」や「食生活指針」などのガイドラインを公表していますが、これらも鵜呑みにすると健康を損なう可能性があります。
例えば農林水産省は、関連業界のロビイング活動により農家を保護するという立場にあります。
そのため農家の生産活動に支障が出るようなガイドラインは作成するのが難しいのかもしれないと津川さんは推測しています。
実際「白米」は、様々な科学的調査から1日2〜3杯ですでに糖尿病のリスクが上がり始める可能性を指摘されているにも関わらず、農林水産省の「食事バランスガイド」では「ごはん(中盛り)だったら4杯程度」が推奨されているのです。
この一点においてすでに、省庁の情報を鵜呑みにする危険性の高さがわかります。
「科学的に証明された究極の食事」とは?
津川さんの言う「科学的に証明された究極の食事」とは、強い科学的根拠を持ち、同時に今後大きく覆らないだろうと考えられる普遍性を備えた食事のことです。
確かに近年ネットやテレビ、書籍においても「最新の研究によって明らかになった○○」とか「科学的に証明された○○」といった情報は増えつつあります。しかしそれらは1つや2つの実験や調査を根拠にしている場合が多く、津川さんはこうした情報が「正しい情報」として広まっていることに危機感を抱いています。
なぜなら本来「科学的な検証によると、どうやら真実に近いらしい」と言うためには、科学的根拠の強い方法で検証されている必要があるからです。
この「科学的根拠の強い方法」とはすなわち、「メタアナリシス」と呼ばれる方法です。
●メタアナリシス
メタアナリシスとは複数の研究結果をとりまとめた研究方法を指します。例えば健康と食事の関係についての研究を、日本の関西地方の日本人を対象に行ったとします。
するとこの研究で出た結論は、特定の国、特定の地方、特定の人種にしか適用できないという可能性があります。
しかし対象の違う同じような健康と食事の関係についての研究を10個20個と集めていけば、この研究の結論はより普遍的なものだ=科学的根拠が強いといえるようになるのです。
そのため津川さんはメタアナリシスを「最強のエビデンス(科学的根拠)」としています。しかしだからといってメタアナリシスであれば何でもいいというわけではありません。
メタアナリシスの材料にする研究がデタラメなものばかりなら、メタアナリシスの結果もまたデタラメになるからです。情報の信頼性を見極めるには、どんな研究がメタアナリシスの材料になっているかも知っておく必要があります。
●ランダム化比較試験
メタアナリシスの材料として信頼性が高い研究方法が「ランダム化比較試験」です。
くじ引きのような手法で2つのグループが全く同じ条件になるように分け、一方には健康にいいと思われるものを摂取してもらい、もう一方には摂取しないでいてもらうという方法です。
手間とコストがかかるぶん、より正確に食品の健康への影響力を評価できます。
●観察研究
ランダム化比較試験よりも科学的根拠が弱いとされているのが「観察研究」です。
この方法ではある集団の食事に関するデータを集め、研究対象になる食品を多く摂取しているグループとあまり摂取していないグループに分けて分析を行います。
条件を全く同じにするランダム化比較試験に比べ、観察研究では「研究対象になる食品を食べている」ということ以外の生活習慣や運動習慣などが違う可能性を排除しきれません。
そのため健康への影響力の評価の信頼性が、どうしても劣ってしまうのです。
本書では「○○は健康に良い」「○○は健康に悪い」と言うとき、必ずと言っていいほどこの3つの研究方法のうちどの研究方法による結論なのかを明示しています。
そのためどの食事から優先的に自分の生活に取り入れるべきかがわかりやすくなっています。
本書の目的は、どのような食事をすれば脳卒中、心筋梗塞、がんなどの病気を減らし健康を維持したまま長生きできる確率を上げることができるかを説明することである。
引用:『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』p38
また何をもって健康に良い、悪いとするかについても、このように定義づけており、「究極の食事」で何を防止できて何を防止できないのかも明確にしてくれています。こうした津川さんの姿勢が、本書の内容の信頼性を高めていると言えるでしょう。
健康的な食事と不健康な食事のバランスをとろう

表1-1 健康に良いかどうかで分類した5つのグループ
注:ここでは「健康」は病気になるリスクや死亡率のことを意味している。「茶色い炭水化物「とは精製されていない炭水化物、「白い炭水化物」とは精製された炭水化物のことを指す。
引用:『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』p32
上表は津川さんが前述のような科学的根拠に基づいて作成した、健康に良い食品と悪い食品の分類表です。
ここで重要なのは、津川さんが「赤い肉」「加工肉」「白い炭水化物」について「体に良くない」と言っているだけで、「食べるべきではない」と主張しているわけではないという点です。私たちは食事から栄養以外にも様々な恩恵を受けています。
・甘いものを食べると幸せな気分になる。
・とんかつを食べると勝負に勝てるような気分になる。
・毎月1回の高級焼肉が生きがい。 など
津川さんは「健康に良くない食事はやめよう」と提案しているのではなく、「幸福感やゲン担ぎによってもたらされる安心感と健康を比較して、どちらの方がメリットが大きいのかを選択しよう」と提案しているのです。
健康になるために不健康な食事を我慢した挙句、ストレスを溜めて不健康になっているようでは本末転倒です。だからといって不健康な食事ばかりしていて、不幸になっていても本末転倒です。
正しい情報をもとに、健康的な食事と不健康な食事のバランスをとる。これが「健康食」の情報が溢れる現代において、本当に健康でいるためのあり方なのです。
健康に興味があるなら持っておくべき一冊
本書では前掲の表に挙げられている食品がなぜ健康に良いのか、もしくは悪いのかという解説の他に、「食事は食材で考えるべきか、成分で考えるべきか」「量を減らせばいい、食べ過ぎなければいいは本当か」などについても詳しく解説されています。
これらは健康と食事に関する情報が正しいかどうかを見極める力をつけるために、知っておくべき内容です。『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』は、健康に興味がある人ならぜひとも持っておくべき一冊と言えるでしょう。
参考文献『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』

