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初の囲碁タイトル7冠、井山裕太という男
2016年4月20日。囲碁のタイトル6冠を保持していた井山裕太氏が、7冠を達成しました。「棋聖、名人、本因坊、玉座、天元、碁聖、十段」7つ全てのタイトルを独占するのは、囲碁棋士として史上初となり、このニュースに日本中が沸きました。
前人未到の大記録を達成した百戦錬磨の囲碁の達人は、一体何を考え、どんなことを実践しているのでしょうか?今回は、井山裕太氏が6冠だったころの著書「勝運をつかむ」から、囲碁に対する日頃の心構え、勝負どころで勝つための運に対する持論まで、たっぷりご紹介します。
対局だけでなく、ビジネスでも勝ち続けられる人に共通する考え方や価値観が見えてくるので、ぜひ参考にしてみてください。
勝利=知識×経験×運―実力だけでは勝てない、一流の世界
7つのタイトルを全て手に入れるのは、知識や経験などの実力だけでは成し得ないと、井山氏は語ります。なぜなら、どんなに強いプロの棋士でさえ、年に20回前後は負けると言われているからです。
さらにその上で、自分が挑戦者としてタイトルを奪いに行くことはもちろん、自分が保持しているタイトルに挑んでくる挑戦者から防衛もしなければならないのです。
そんな過酷な世界で勝ち続けるためには、ずば抜けた実力を持っていることはもちろん、勝負どころで勝ちを引き寄せるための運も必要だと、井山氏は語ります。事実、井山裕太氏は過去にいくつもの負けていた碁を拾っており、強運も備えています。
では、勝負どころで運をつかむために必要な極意とは、一体何なのでしょうか。
最年少でタイトルを手にし、いまや7冠へ―井山裕太の7つの流儀
1.一流と二流のとの差は、調子の悪い時との向き合い方
調子のいいときなら、人は自ら主体的に楽しくがんばることができます。しかし調子が悪く、失敗が続いているときに自らがんばることができる人は、そう多くありません。
調子が悪く失敗が続いているときに、いかにがんばり続けることができるか。結果が出ずとも、いかに自分のパフォーマンスを維持することができるか。これが一流と二流を分かつポイントだと、井山氏は言います。これは囲碁の世界はもちろん、ビジネスの世界でも通用することです。
囲碁のタイトルを賭けた試合の場合、対局にかけられる時間は1人あたりおよそ3〜8時間。長い場合は2人で16時間も対局していることになります。それほど長時間を集中し続けるのは、井山氏のようなプロでも難しいといいます。
そのため、試合中に煮詰まってしまったときなどに、席を離れて気持ちを落ち着かせたり、昼食の時間にあえて対局のことを忘れるなどしてリラックスを図っているそうです。
ビジネスでも、一旦思考を止めてリラックスする時間を作ることで、考えてもみなかった妙手が思いつくかもしれません。
2.決断が、次のステージの扉を開く
中学1年生でプロ入りを果たし、着実に2段、3段と段位を重ねていった井山氏。しかし中学3年生のときに、高校に進学するかどうかの帰路に立たされました。
周りからは高校へ進学を促されることもあったそうですが、それよりもプロの世界でもっと上に行きたい、自分を試したいという気持ちが大きくなったといいます。
そして下したのは、「学校や時間に縛られずに、囲碁一筋で行く」という決断でした。
ここから見習うべきは、自ら退路を絶ってもうやり切るしかない!と腹をくくった覚悟です。人は後に引けないとわかると、本気で向き合うことができます。そしてこの覚悟を決めた年、井山氏は初めてタイトルを獲得しました。
腹をくくる覚悟を決めることは、ビジネスでも同じことが言えます。「このプロジェクトを成功させる!」「この職場を離れて転職する!」と決めたなら、自ら退路を絶って挑戦することも有益な手段のひとつです。
3.壁を意識せずに、壁を乗り越える
井山氏はプロになってから、力の差がある相手とよく対局をしていました。はじめのうちは、レベルの高い相手が打つ一手一手の意味がわからなくなることが多かったそうです。そうした実力者たちとの対局が自分にとっての壁だったと、井山氏は振り返っています。
そこで井山氏は「レベルの高い相手の意味のわからない一手一手を考えたって仕方ない。それなら自分の碁を徹底的に反省して、自分の能力を上げることに専念しよう」と考えました。
つまり、相手のレベルに合わせてその対策に振り回されるよりも、まずは自分のスキルを徹底的に上げよう、という考え方なのです。問題を他者ではなく、自分に置き換えて力を磨いていくことで、結果的に壁を乗り越えている、ということです。
ビジネスの世界では他者との比較ばかりに目が奪われがちですが、こうした考え方も参考になるかもしれません。
4.継続する人は、必ず頭角を現す
囲碁のプロ棋士は必ず、院生になって勉強をします。院生の間はプロになるために必死で勉強するわけですが、中には「院生のときが1番勉強した」というプロ棋士もいるそうです。
これに対し、井山氏は疑問符を浮かべています。たしかに、院生時代はたくさん勉強をしなければなりませんが、本当に勉強をしなければならないのはプロになったあと。「院生のときが1番勉強した」というのは、言い換えれば「今はあの頃に比べて勉強していない」ということになります。
本当に力をつけて頭角を現す人は、必ず自分がするべき勉強や努力を続けていると、井山氏は語ります。
これはもう、ビジネスでも全く同じことが言えます。学生時代で勉強を止めてしまっている人は、それ以上の成長はありません。自分の職種のことや、興味のあることなど、何らかの形で勉強を続けていく人が、頭角を表すことができるのではないでしょうか。
5.結果だけでなく、プロセスを大切にする
プロである以上、勝たなければなりませんし、ビジネスマンである以上、数字を出さなければなりません。しかしながら目先の勝ち負けや数字だけに囚われすぎると、かえって勝利から遠ざかってしまいます。
人間は勝つときも負けるときもあります。長いプロ生活の中で、一手一手の質を高め、日頃の準備や心構えなど、プロセスを大切することが問われていることに気がついたそうです。そしてそうしたプロセスが最終的に勝負を左右する、重要なポイントになっているのです。
目先の売上や儲けに目がくらんでしまうのは、ビジネスでも気をつけていきたいところですね。
6.人と同じことをやっていても勝てない
昔から研究されて最善とされる手段のことを「定石」といいます。井山氏は定石が正しいこともあるけれど、そうしたセオリーの通りにやっていても勝てないと語ります。
常識を疑い、固定観念に囚われないというのは、ビジネスでも通用する考え方です。井山氏は定石を外すような意外な手を常に勉強して、ときには実際の対局でも取り入れることがあるそうです。
当然リスクもあるのですが、やってみなければわからないこともあります。定石を知り尽くしているプロたちの中で戦っていくにはなおさら、定石を破っていくような手が求められることがあるのです。
定石をきちんと知りつつも、あえて定石を外すことは、ビジネスでも使えるテクニックなので覚えておきましょう。
7.自分にできる最善の行動で、勝ち運を掴む!
勝負の結末は本当にわからないものです。常に勝ち負けに直面している世界の中で井山氏は、とにかく自分ができる最善の行動を尽くすといいます。
それは普段からの囲碁への姿勢や日頃の練習、対局相手へのリスペクトなど、自分にできる最善の行動を全て実行しています。人事を全て尽くしたら、あとは天命に任せる。
それくらいひたむきに囲碁に向き合った結果として、7冠を達成することができたのではないでしょうか。
参考文献:『勝運をつかむ』
