人生100年時代をどう生きる?世界的ベストセラーに学ぶ「老いない身体」へ導く生活習慣

人生100年時代といわれる現代では、キャリアの考え方、家族のあり方などが大きく変化。本業とは別に第2のキャリアを築く「パラレルキャリア」、結婚や出産の高齢化、独身者の増加など、一昔前まで当たり前だったライフスタイルがどんどん崩れています。

そんななかで、多くの人がもっとも重要だと考えるのが「心身の健康」。新型コロナウイルスの影響で、より強く健康を意識するようになった私たちにとって、「病気を予防し、健康的に長生きすること」は、欠かせない人生のテーマになっているのはないでしょうか。

今回は、20ヵ国で刊行され世界的ベストセラーとなった『LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界』を参照し、「健康寿命を伸ばす」ためのライフスタイルをご紹介します。

あらかじめお伝えすると、これまで言われてきたような健康法と大きな変わりはありません。しかし「この生活習慣が確実に老いない身体へ導くのだ」と意識して長期的に取り組むのと、「ダイエット」や「ストレス解消」として一時的に取り組むのとででは、結果が異なるはずです。

老化は「仕方ない」と受け入れなくていい

本書でまず指摘されているのは、「老化は避けて通れないもの」という一般的な価値観を「仕方ない」と受け入れなくていいということ。

今日、結核や胃腸病で死亡する人がめったにいなくなったように、医療は劇的に進歩している。さらに、信頼性のある情報をもとに生活習慣の良し悪しを判断できるようになりました。そんな現代では、「老化は当然のことと受け入れなくていい」と著者は力強く語っています。「老化予防」というのは、単純に「長生きする」ことではなく、「元気でいられる状態を長くする」ことという点も覚えておきましょう。

ちなみに、世界最高齢としてギネス世界記録に認定されているのは、2021年7月現在118歳の日本人女性、田中カ子(かね)さん。世界的にも日本は長寿国として知られていますが、これは日本人のライフスタイルが他国よりも老化予防につながりやすい点、医療が発達している点があげられるようです。

著者のデビッド・A・シンクレア氏は、「いずれ150歳まで生きることが普通になる日がやってくるのは、無謀な話ではない」と語っています。

食べる量を減らし、「空腹」状態をつくる

約25年間にわたって老化を研究し、何千本という科学論文を読んできたシンクレア氏が、「まちがいない確実な方法」と言い切っているのが「食の量や回数を減らす」こと。これは、空腹によって長寿ホルモンを分泌する脳内の遺伝子が作動しやすくなるためで、シンクレア氏は、3食のうち1食を抜くようにしていると書かれています。

西欧で歴史的にもっとも有名な長寿者として知られるルイジ・コルナロ氏も、「食べない健康法」を伝えています。医師の忠告により節食生活を始めたコルナロ氏は、1日の食事量を食べ物は約340グラム、ワインはグラス2杯までと決めて、実行しました。

「食べることも飲むことも、自分の欲求を完全に満たさないことを習慣づけた」そうですが、ごはんの重さ(お茶碗1杯で約150グラム)を基準にすると、コルナロ氏の食事量は「極少食」ともいえる少なさ。結局、コルナロ氏は16世紀当時としては異例の102歳まで生き、80代のとき著書『無病法で』を出版しました。

本書では、80年以上にわたるさまざまな研究によって、「栄養失調にならない程度にカロリーを制限すれば、あらゆる生物の長寿につながる」と繰り返し実証されていると指摘。身体を「ギリギリの状態」に保つことでサバイバル回路が始動し、細胞の防御機能を高め、環境が厳しいときでも生命を維持し、結果的に老化を遅らせるメカニズムなのだそう。

とはいえ、コルナロ氏ほどの厳しい節食生活を送らなくても、40歳を過ぎてからなるべく節食を心がける、くらいの生活改善でも効果は期待できると書かれています。

ただ、2点ほど注意してほしい情報があります。カロリーが低くても満腹感のある食べ物では老化防止効果は得づらい。そして、運動してカロリー消費することで結果的に摂取カロリーを減らせばいいという考えは良くないということです。

食事を抜く期間を設ける「間欠的断食」

食事の量を減らすことで、まちがいなく老化を遅らせることができるとはいえ、常に厳しい食事制限を続けるのは、強い意思が伴うはず。そこで、節食の代替案として「間欠的断食」が紹介されています。これは、普段の食事量は変えず、ときどき食事を抜く期間を設けるという健康法。

ある研究では、月に5日だけ大幅にカロリーを制限した被験者が、3ヵ月で体重と体脂肪が減り、さらに長寿と密接に関連している「IGF‐1(インスリン様成長因子‐1)」の濃度が低下したという結果が現れました。

一般的には聞きなじみのない「IGF‐1」ですが、主に肝臓でつくられるホルモンで、IGF‐1の遺伝子やIGF‐1受容体の遺伝子に起きる変異は、死亡率や罹患率が下がることと関係しているそう。加えて、この遺伝子変異は、100歳以上長生きする家系の女性によく見られるようです。

本書では、1日のうち16時間は断食、残りの8時間で飲食をする「16:8ダイエット」、週に2日だけカロリーを75%に減らす「5:2ダイエット」、1週間に2〜3日は24時間断食をするという「イート・ストップ・イート法」にも触れられています。

丸1日断食するのは日常生活を大きく変える必要があるため、それよりも「16:8ダイエット」、もしくは「5:2ダイエット」が始めやすい方法といえそうです。前者の場合、10時〜18時、12時〜20時など自分のライフスタイルに合わせて「食事をとる8時間」を定めることが可能。ダイエットの場合、「8時間の間は基本的に好きなものを食べていい」と言われていますが、老化予防の観点では、なるべく植物性の食事をとるほうが賢明のようです。

そのほか、近年よく聞かれる「ファスティング」や、一昔前に爆発的に流行した「1週間の短期集中で行う脂肪燃焼スープダイエット」も「間欠的断食」の一種といえそうです。

肉類を減らし、植物性の食事を増やす

本書では、「動物性タンパク質」のネガティブポイントにも触れられています。動物性に片寄った食生活は、心血管系疾患による死亡率とがんの発症率が共に向上することが、数々の研究で報告されているそうです。

とくに注意すべきは、ソーセージ、ウインナー、ハム、ベーコンといった加工した赤身肉。これらが「恐ろしく発がん性が高い」という事実は、何百という研究で指摘されており、結腸・直腸がん、膵臓がん、前立腺がんとの関連が確認されています。

本書では、食事はライオンのディナーよりウサギのランチに近づけなさいと忠告されており、できる限り、植物性の食事を増やすことに注力することも重要のようです。シンクレア氏は、普段は植物性中心の食事をとりつつも、運動したときだけ肉を口にするとのこと。

焼肉やステーキといった肉食メニューは魅力的であるものの、記念日だけに限るなど制限していく必要があるようですね。

寒さ・暑さを感じる環境に身を置く

食事や運動だけでなく、周囲の環境によっても健康寿命が変化するという結果が示されています。たとえば、やや寒いと感じる状態に身を置き、褐色脂肪のミトコンドリアを活性化させることが、「老いない」ことにつながるとのこと。「褐色脂肪細胞」とは、脂肪を分解して熱を発生させる細胞です。

「クライオセラピー」と呼ばれる冷却療法も注目されており、海外のアスリートが実践している報告もあるそうです。日本にもいくつか体験できる施設があり、液体窒素を利用して−120℃~−196℃の超低温になったキャビン内に、2分ほど入って身体を冷やします。

シンクレア氏は寒い環境で運動すると、より効果的だろうと語っており、冬場など気温が低い環境での運動や薄着での散歩も良いようです。もちろん低体温症や凍傷は避けなければいけないけれど、鳥肌が立つ、歯がカチカチ震えるぐらいは危険ではないとのこと。

撮影用に借りた施設内にて撮影を行っております。

一方、低温ほどハッキリしないものの暑い状態に身を置くことも、カロリー制限と同じメカニズムで寿命が延びたと書かれています。サウナ発祥の地といわれるフィンランドには、さまざまなサウナに関する研究があるそうですが、中年のフィンランド人男性約2300人を約20年にわたって追跡調査したところ、きわめて頻繁にサウナを利用する人(最高で週に7回)は週1回の人より、心疾患の発症率や心臓発作で死亡する件数、さらに全死因死亡率がおよそ2分の1だったとのこと。

高温のサウナに入ったあと、水風呂に浸かって身体を冷やすという日本でも実践されているサウナの入り方は、老化予防の観点でも「理にかなっている」と言えそうです。シンクレア氏も実践しています。

程よい「ストレス」で老化予防に努めよう

本書で繰り返し述べられているのは、身体に適度な「ストレス」を与えることが重要であるという点。空腹、肉を減らす、運動、寒さ、暑さのいずれにしても、心地よいと感じる程度を少しはみ出しているのが特徴的です。

未来の老化予防の選択肢として、「老化予防の予防接種」や「細胞のリプログラミング」などもあげられていますが、現状は一人ひとりが意識を改革し、生活習慣を変えていくことが、老いない身体へ導く最善の方法といえるのかもしれません。

[文]キャリアサプリ編集部 [編集]サムライト編集部