アートシーンで最も影響力のあるキュレーターが語る「disconnect」とは?

創造的であるためには

いま、世界のアートシーンで最も重要なキュレーターと評されるハンス・ウルリッヒ・オブリストという人がいます。現代アートに留まらず、建築・音楽・科学など、様々な分野を横断して独自のアートイベントのスタイルを開拓しています。

芸術の概念が拡大しているといわれる中で、何が現代アートで、何がゴミなのかの線引に大きな影響力を持つ人物です。

その人に日本のある編集者が、創造的であるためには何が一番大切なのかを尋ねたところ、こう答えたといいます。

「disconnect」(接続を断つこと)

これを聞いたときに、アートのバイブル、『THE ART SPIRIT』序文の次の一節を思い出しました。

芸術を学ぼうとする人びとの苦労は並大抵のものではない。それに向き合う勇気とスタミナを持つ人はめったにいない。いろいろな意味で、孤立することを覚悟しなければいけない。

人は共感を求め、仲間を欲しがるものである。1人でいるよりも、仲間といるほうがずっと楽だ。だが、1人になって初めて、人は自分をよく知り、成長できる。大勢にかこまれていたら、成長が止まってしまう。

これには犠牲がともなう。成功を手に入れたとしても、人は生涯その成功を楽しむと同時に、何かを失わなければならないのかもしれない。

『THE ART SPIRIT』が刊行されたのが1923年なので、今から約100年前です。ハンス・ウルリッヒ・オブリストの「disconnect」は恐らくインターネットにつながらないという意味を多分に含んでいるでしょう。

しかし私にはこの2つが同じことを意味しているように思えます。現代における「disconnect」が意味するところをもう少し考えていきましょう。

「気がつかないうちに過剰」になる

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現代社会に生きていると、誰でも「気がつかないうちに過剰」になります。安易に誰とでもつながることが可能になったため、Facebookには次から次へと新しく知り合った人から友人申請が来ます。Facebookの友達には1度しか会ったことがない人も大勢いるかもしれません。

勉強会、ライブ、飲み会、展覧会など、広く浅くたくさんの誘いが次から次へとやってきます。twitterを覗けば、笑える動画やニュースのURLが流れています。

ちょっと気を抜いてYouTube動画を見だしたら、あっという間に数時間が経過してしまいます。Huluや、Netflixも近々やってきます。一生楽しく消費できるだけのエンターテイメントはすでに身の回りに溢れていて、その気になれば簡単にアクセスできます。

過剰にならずに生きていける方が、不自然ともいえる状況です。そのため意図的にその環境から離れたり、情報を何もいれない時間をつくらないと確実に感覚が麻痺していきます。

2007年にiPhoneが発売され出した頃から劇的に環境が変わってきましたが、そこからまだ10年もたっていません。この環境で生活を続けていくことが、人間の精神活動にどのような影響を与えるのか、わかっている人は誰もいません。

変わらないことと変わること

African American casual model.

今の状況が何を意味しているのかは、よくわかりません。しかし1923年の時点で、「芸術をやるんだったら仲間とワイワイ楽しくやってないで孤独に自分と向き合うしかない」と『THE ART SPIRIT』に書かれています。

100年弱たったいまも、その著書がアートのバイブルとして残っているのだから、この言葉は真理なのでしょう。これは芸術家に限らず、なにかを成し遂げたい人に共通する真理と言っても良いでしょう。

一方でなにかを成し遂げたい人にとって、ネットやSNSは最高のプロモーションツールにもなります。自分と向き合うには邪魔になるけれども、外部とつながることによって得られるメリットや可能性も大きく、捨てがたい。けっきょくはほとんどの人が、ネットうまくつき合う方法を模索するしかないのです。

うちのお店、電波が入りませんが価値になる

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一時期、地下の飲食店の前には「携帯の電波が入ります!」という張り紙がしてありましたが、今は電波が入らないお店の方が貴重かもしれません。

実際にある作家の方は、「原稿に集中したい時は、あえてネットのつながらない喫茶店に行く」といいます。高城剛さんは定期的にネットの圏外や、アーユルヴェーダの瞑想道場に行き情報を遮断することで、自らをチューニングしているそうです。

これから一部では、「connect」(接続する)の価値は陳腐化していき、「disconnect」(接続を断つこと)の価値があがっていきます。この周辺であたらしいビジネスやアート、カルチャー、音楽、ツーリズムなどが出てきて注目を集めるようになるでしょう。

わたしたちの価値も「disconnect」することで高めることができるかもしれません。これから凄い人はどんどん圏外に出ていき、その場所にリアルにいくことでしか、会ったりコミュニケーションができなくなることが起こります。それによって、さらにその人の価値が上がるという現象もでてくるでしょう。

Facebookはもういらない

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個人的には誰かの週末の写真を見るのは、もう飽きました。今はほとんどビジネスFacebookになっていてソーシャルグラフ(ウェブ上における人間の相関関係)を保つためだけに、最低限の使い方しかしていません。自分の周りを見るとInstagramに移行している人が多いようです。

SNSの使い方は個人差があっていいと思います。自分なりの向き合い方、使い方を模索していきましょう。リアルに信頼して一生付き合っていく友達は5人もいれば十分です。いっそのことスマフォからFacebookのアイコンを消しちゃったらどうでしょうか。たぶんすごくスッキリしますよ。

[文]頼母木俊輔  [編集]サムライト編集部