文学大好き男が選ぶ、小説のように面白い自己啓発書10選

自己啓発書を読んでも変わらない?

自己啓発書、と聞くと、なんとなく敬遠してしまう人は多いのではないでしょうか。

「自己啓発書なんて読んでも、何も変わらない」「意識が高くなるだけで仕事ができるようにはならない」自己啓発書には、そういったイメージがあるようです。

でも、別に「人生が変わら」なくても、「読んでいるだけで面白い」なら、その本が自己啓発書だろうがなんだろうが、読んでみる価値はあるのではないでしょうか。

なぜなら、小説というジャンルは、まさに「読んでいるだけで面白い」を地で行く本なのですから。今日の記事では、小説を読むことが大好きな著者が、「読んで面白い」自己啓発書を10冊選んでみたいと思います。

ちなみに、小説と一口に言ってもいろいろありますが、筆者が好きなのは「純文学」とカテゴライズされがちな領域です(個人的には、純文学という言葉に意味は無いと考えていますが……)。好きな作家は、芥川龍之介、池澤夏樹、川上弘美、村上春樹、F・サガン、J・D・サリンジャー、H・ヘッセなど。

筆者の好みを頭に入れて読み進めてもらえると、紹介された本のチョイスにより合点がいくかもしれません。

学問やビジネスから見出された真実

影響力の武器

著:ロバート・チャルディーニ 訳:社会行動研究会

我々は、自らの脳のリソースを確保するため、この現代社会の中で多くのステレオタイプに頼って生きている。社会が複雑になればなるほど、人はステレオタイプに依存せざるを得なくなるー。ディストピア小説を思わせる、恐ろしい一冊です。

さまざまなステレオタイプが紹介されていますが、その仲でもよく知られた「返報性の原理」についての、あまり知られていない側面を記載しておきます。

「返報性の原理」は、人が他人から何かを与えられた際にお返しをしなければならないと感じる心理のことですが、本書によると、それは「好意の有無に関わらず、否応無く相手に恩返しをさせる力」のことであって、「好意を抱くとそれが返ってくる」ということではありません。

自分が何に利用されているか、その敵の正体をきちんと見極めて、自分が騙されることなく生きていくために必要な一冊です。

フロー体験 喜びの現象学

著:ミハイ・チクセントミハイ 訳:今村 浩明

人が幸せに生きるにはどうすればよいかという永遠のテーマについて、真正面から取り組んだ名著。仕事や勉強をする中で無意識的に蓄積されてきた発見が言語化されていく快感は、何者にも代えがたいです。

フローとは「目の前のことに没頭し自身を制御している状態」のことであり、これを味わえてさえいれば人生は幸せである、というのが、本著で述べられている内容です。ではフローはどのように体験できるのか。

その答えは本書を読んだ一人ひとりが見出していくしかないのですが、自己目的的な体験(何かのためにその行為をするのではなく、それ自体が楽しいからやるという体験)が何かしらある人は、フローを見出すコツを理解しているように思います。

個人的には、例えば受験勉強というのは極めて自己目的的な行為であり、受験勉強を楽しめた人は、仕事にもその体験を生かせるのではないかと考えています。

考える技術・書く技術

著:バーバラ・ミント 訳:山崎 康司

わかりやすい文章を書くコツを極限まで言語化してくれている、文章作成技術指南の決定版。文章をパズルのように組み立てていく方法を学ぶ中で、よくできた推理小説を読むのに似た快楽を味わえることでしょう。

私は、「読者の心を動かす文章」が誰にでも書けるとは思っていません。しかし、「読者にわかりやすく伝える文章」は、誰にでも書けるはずだと考えています。本書で紹介されているそのコツは、「読み手は文章を読む時に一つの疑問しか思い浮かべられないため、その疑問に一つひとつ答えていけば全体の主張が伝わるよう、ピラミッド型に文章を構成せよ」ということです。

詳細は読んでいただくことにしましょう。わかりやすい文章を書けるようになりたいのなら、必読の一冊です。

お前はくだらない人間だ

自分の中に毒を持て

著:岡本 太郎

「自分自身」だと思っているものを捨てなさい、それが生きるということなのですー。本書のいたるところで炸裂する強いメッセージたちを一言でまとめるなら、そういうことではないかと思います。

Mr.Childrenの大ヒット曲『名もなき詩』では、「知らぬ間に築いてた自分らしさの檻の中でもがいてるなら僕だってそうなんだ」という、邦楽史上最高にエグいメッセージが歌われます。

「自分はこういう人間だ」というアイデンティティは、時として自分の行動を縛り人を見る目を歪ませる檻となる。自分や他人への先入観を捨てて、ただ新しい体験に飛び込んでいく。岡本太郎氏がこの本で「自分をひらく」と言っているのは、そういう意味だと思います。

ページをめくるたびに感じる鈍器で殴られるような衝撃は、遠藤周作『沈黙』の読後感にも似ています。人間の可能性を真っ向から問いかけてくる一冊です。

すべてはモテるためである

著:二村ヒトシ

元AV男優でありAV監督である二村ヒトシ氏が「モテ」について語った一冊。恋愛だけでなく、人とのコミュニケーションとか、果ては人生そのものについても深く考えさせられる哲学書です。

「あなたがモテないのは、あなたが気持ち悪いからです」軽やかにそう言い切る筆者の主張を追っていくと、そこには「自分のことを世界の誰よりも知って、それをそのまま世の中に提示すればいい」という、悟りにも似た結論が待っています。

自分を大きく見せるのでも、ことさらに悲壮感を漂わせるでもなく、さりとて部屋の隅で小さくなるのでもなく、ただそのまま、自分を出す。そうすれば、みんなが自分のことを受け入れて、楽しんでくれるようになる。私も、最近ようやくこのことがわかってきました。

「なぜみんな自分を理解してくれないんだ」そんなモヤモヤを抱えて生きている人に、この本を心の底から薦めます。

脳を鍛える

著:立花隆

あらゆるものに底なしの好奇心を抱く知の巨人・立花隆氏の放つ渾身のメッセージ。「ヒトを慣れ親しんだジャングルからリスクしか見当たらないサバンナに進出させたのは、ひとえに好奇心の力だ」という持論を展開する立花氏は、本書の中で好奇心や教養の重要性を繰り返し説きます。

当時高校生だった私は、この本を読んで「あらゆるものに好奇心を持とう」と強く決心したことを覚えています。もちろん、自分が興味を抱ける対象には限りがありますが、それでも人よりはいろんなことに首を突っ込んできた自負はありますし、その経験が人との繋がりを作ってくれ、人生を思いがけない方向に転ばせてくれたと思っています。

ヒトの本質たる好奇心をいくつになっても失わず、絶えず自己を更新し続けていきたい。人生に無駄なものなどない。そう思わせてくれる一冊です。

僕は愛を証明しようと思う

著:藤沢数希

モテなかった主人公が、心理学や生物学に基づいた恋愛工学というメソッドを手にして、これまでは決して手の届かなかった美女たちを虜にしていく、そんなサクセスストーリー。

キャッチーな恋愛工学部分がインターネット界隈で取りざたされますが、正直、世界の文豪たちが身を切りながら紙と活字で描き出してきた豊穣な精神世界に比べれば、非常に薄っぺらく中身のない内容だ、と感じざるをえません。

本書のクライマックスはむしろそのテクノロジーを活用し尽くした後、「本当の愛とはなんだろうか」と主人公が自問する部分にあります。

ただいろんな女の子にモテるようになることが、あるいは(表面的には)誰もが羨むようなハイスペックな彼女を連れ歩くことが、本当に自分にとっての幸せなのか?世の中的な幸せと自分の幸せは果たしてイコールなのか?本書を読んで得られるものは、表層的な「テクノロジー」などではなく、むしろそういった「自分の本質」に迫る根源的な問いなのだと思います。

軽やかに生きるために

質問力

著:齋藤孝

人の本質を引きずり出す質問は、「本質的かつ具体的な質問」であるー。この一言に出会えるというだけでも、本書を読む価値はあると思います。短時間でさらっと読める割に、非常に深い内容に富んだ一冊です。

「質問」は、コミュニケーションにおいて鍵となるステップです。相手の思いもよらない角度から「良い質問」を繰り出していくと、会話の終わりに「こんな話を人に語ったことは無かった」「自分という人間のことがよくわかった」と言われるくらい、掘り下げた話をすることができます。

個人的には、ただひたすら質問する「質問マン」に堕することなく、自分の話もちゃんとしながら、相手と本当に楽しく幸せなコミュニケーションができるようになることを目指してほしい。その最初のステップとして、本書を手にとってみてほしいと思います。

ひとを「嫌う」ということ

著:中島義道

「悪いこと」とされがちな「人を嫌う」という行為を、極めて人間的であり、普通のことだと喝破した名著。敬遠されがちな「嫌い」という感情を冷静に見つめ、そのメカニズムを分析しています。武者小路実篤『友情』のような、キツい感情にきちんとスポットライトを当ててくれる本です。

中島義道氏によると、人が人を嫌う理由には「相手が自分の期待にこたえてくれないこと」「嫉妬」「軽蔑」など八種類あり、それぞれがそれぞれに相互作用しながら、「嫌い」という感情が育っていきます。

「良い人」であればあるほど、「人を嫌うこと」に罪悪感を覚えてしまい、自分自身に絶望してしまう。そうではなく、嫌いだという感情はむしろ人間として当たり前のものだと思えたら、楽に生きられる人はたくさんいるのではないでしょうか。その意味で、こうした本がもっと広く世の中で読まれてほしいと思います。

ふたつめのボールのようなことば。

著:糸井重里

一言ひとことは軽いのに、読み終わるまで終始マシンガンを撃ち続けられているような衝撃を覚える、不思議な一冊です。シリーズ一作目も素敵ですが、二作目を薦めます。

私がずっと心に留めている一節は、「「理解されっこない」ようなことに、理解されるかもしれない「取っ手」を見つけて、よその人に持たせてみる」という言葉。まさに自分自身のことを「理解されっこない」って思っていた私にとっては、目の覚めるような一節でした。

なんとなく無意識の底に沈んでいた違和感が次々と意識下に浮かび上がり、言葉によってかたちを与えられていく。良い本というのはそういう「無意識の言語化」がなされている本であり、本書はその点で素晴らしく良い本であると自信を持って言い切ることができます。

おわりに

いわゆる「自己啓発書」チックな本に縛られず、「自分に渇を入れられて、啓発される」本を中心にチョイスしました。

読者の方が良い本と出会えることを願っています。

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『自分の中に毒を持て』は1ページ目から最高です!
[文]クヌルプ [編集] サムライト編集部