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アマゾンのスピード感を身につけるには?
今や知らない人はいないグローバル企業であるアマゾンは、「即日配送」や「最短1時間配送」といった常識はずれのスピードサービスを提供しているだけでなく、創業以来毎年20%以上の成長を続けているという成長速度でも爆速を地でいく企業です。
しかし実はアマゾンは、何か特別なメソッドを採用しているわけではなく、一見すると「当たり前」の仕事で現在の地位を築きあげてきました。
それを教えてくれるのは、アマゾンジャパンの元幹部である佐藤将之さんの著書『1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術』。ここでは本書を参考に、アマゾンが実践してきた「当たり前」の仕事術を紹介します。
「たった一つの目的」を設定する
佐藤さんはアマゾンジャパン黎明期である2000年から2016年までの間、主にオペレーション部門のマネージャーとしてアマゾンの急成長を支え続けてきた人物です。その佐藤さんは、アマゾンを次のように評価しています。
よく私はアマゾンのことは「とても愚直な会社です」と説明しています。オリジナルのメソッドで成長しているのではなく、当たり前のことを当たり前にやっているだけ。ただ、その徹底ぶりが突き抜けているだけなのです。
引用:前掲書p58
実際、本書で紹介されている「アマゾンのスピード仕事術」のほとんどは、うわべだけをみれば他のビジネス書でも紹介されているような仕事術ばかりです。
しかしそこにはアマゾンにしかない、ある種異常性とも言うべきものが、一本の柱のように貫かれています。
その柱とは「お客様の満足度を高めること」というたった一つの目的へのこだわりです。佐藤さんの著書の中にも、アマゾンが顧客満足度にこだわっていることを示す言葉が何度も出てきます。

アマゾンはこの顧客満足度の向上という最も優先度の高い目的のために、最も効果的な方法こそがスピードアップだと考えています。
同社はそのために必要だとわかれば、予算が10億円も必要な事業も2日で実行に移しますし、膨大なコストがかかっても2年に1回程度の頻度で全社のパソコンを買い替えてしまいます。
業界の常識を破る「即日配送」「最短1時間以内配送」が提供できたのも、提供するアマゾンの社員自身がこうした常識外れのスピードで仕事をしているからなのです。
佐藤さんの著書を読めば、こうした「そこまでやるか!?」と言いたくなる顧客満足度へのこだわりがアマゾンの強みであり、以下で紹介するような「当たり前」の仕事術の効果を高めているのだということがわかります。
したがって、アマゾンの社員レベルのスピード感を身につけるためには、まずアマゾンにおける顧客満足度のような、最優先するべきたった一つの目的を設定する必要があるのです。
アマゾンが実践している「当たり前」の仕事術
このたった一つの目的さえ設定できれば、あとはなりふり構わずこの目的を追求するだけです。
ではアマゾンはどのようにして顧客満足度向上のために仕事のスピードを上げているのでしょうか。以下では佐藤さんの著書から3つの仕事術を紹介しておきましょう。
●PDCAを高速化する
一つ目に紹介するのは、PDCAサイクルを高速化する方法です。アマゾンではPDCAの基本サイクル「週単位」に設定しています。
全体売上、カテゴリ別売上、コストなどの重要指標は毎週報告する、佐藤さんが所属していたオペレーション部門の重要指標は、2週間に一度の頻度で本社の部門トップに電話で直接説明するといった具合です。
なぜなら1ヶ月や四半期、半期、1年といったスパンでは大きく以下の2つの問題があるからです。
・すでに目標と結果のギャップが広がってしまっているので、遅れを取り戻せない可能性が高まる。
・時間が経っているせいで原因を究明しきれず、有効な対策が打ち出しにくくなる。
しかし短いサイクルが良いからといって1日単位でPDCAを回すと、アマゾンのような小売業回の場合、今度は流れや傾向の分析ができなくなり、PDCAを回す意味が薄れてしまいます。
つまり最適なスパンで最速でPDCAを回すことこそが、本当意味でPDCAを高速化することにつながるのです。
●自分がやる仕事の量を減らす
二つ目に紹介するのは、仕事そのものを減らす方法です。佐藤さんは現在アマゾンを離れて経営コンサルタントとして活動していますが、その中で力の入れどころを間違えた仕事の仕方をしている人が多いことが驚いたのだそうです。
例えば見栄えのいいグラフを一生懸命に作っていたり、パワーポイントの見せ方にばかり時間をかけていたりといった具合です。確かに仕事のスピードを上げるためには手を早く動かすことも重要です。
しかし仕事そのものの量が減ればそれだけ重要な仕事に注力できるため、結果的に仕事のスピードも上がります。
ではどうすればやらなくてもいい仕事とやるべき仕事が見分けられるのでしょうか。佐藤さんはこの判断方法として2つの方法を紹介しています。
一つは「カスタマー・エクスペリエンス」。自分が顧客の立場に立ってみて、「その仕事は自分(顧客)のためになっているか?」と考えるのです。
例えばある社員が見た目だけが立派なパワーポイントに膨大な時間をかけると、その社員の残業代は結果的に商品やサービスの価格に上乗せされてしまいます。
顧客としての自分は、そのような商品やサービスにお金を払いたいと思うか、と考えるのです。
アマゾンは顧客満足度を何よりも重視するため、この自問自答でNOという答えが返ってくれば、その仕事は即刻やめてしまうべきです。
つまり、「たった一つの目的」に照らし合わせてみて、それとズレているような仕事は徹底的に排除せよ、というわけです。
なんとなく惰性でやってしまっているような仕事に適しているのが二つ目の方法である「一度やめてみる」です。
身に覚えのある人も多いかもしれませんが、組織には惰性でやっているだけで、特に意味のない仕事がたくさんあります。そのため試しに一度やめてみても、誰にも咎められない可能性も十分あるのです。
もし問題があって誰かに咎められれば「すみません」と謝って、またやればいいだけのこと。やる前から恐れるのではなく、一度やってみて検証してしまいましょう。
●時間への意識を研ぎ澄ませる
三つ目に紹介するのは、時間への意識を研ぎ澄ませ、仕事を最適化していく方法です。例えばアマゾン社内のコミュニケーションはチャットツールをメインに、かしこまる必要があるときだけメーラーを使い、電話に至ってはほとんど使わないそうです。
メーラーはビジネスレターの電子版という認識があるせいで、「お疲れ様です」「お世話になっております」「ご確認のほどよろしくお願いします」といった枕詞や締めくくりの一文も必要になります。
これを打つのは面倒ですし、多くの場合無駄です。そのためアマゾンではチャットがメインになっているのです。
電話はお互いを電話口に拘束するため、電話に出るとなると他の仕事を全て中断して対応しなければなりません。
チャットやメールであれば自分のタイミングで対応できるため、仕事の効率を下げないで済みます。だからアマゾンの社員は、電話を「お互いの時間奪うツール」と考えてほとんど使わないのです。
仕事の細部にまで時間への意識を持ち、最も速く仕事ができるツールや方法を絶えず選び続けること。これを徹底するだけで仕事のスピードは確実に上がっていきます。
スピードはスキルと成果を連れてくる
「スピードばかり意識したら、仕事が雑になるのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかしそれは大間違いです。
まずスピードを重視することでトライアンドエラーの回数が増えます。この時に都度PDCAを回していれば、学びの数も増えていきます。
すると成長の速度も上がるので仕事のスキルも上がり、それが成果にもつながっていきます。したがって、ともかくスピードを重視することが最優先事項なのです。
そのためにもまずは、迷いなくスピードを追求するための「たった一つの目的」を設定することです。そうすればあとは、どこのビジネス書でも言われるようなPDCAの高速化や仕事の削減、最適化を愚直に、徹底的に実践していけばOK。
毎週、毎月、毎年のように生産性が向上し、凄まじいスピードで成長していけるはずです。
