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プロのベンチャーキャピタリストが語る、成長する企業の選び方
RettyやKAIZEN platform Incなど、今をときめくスタートアップの支援を手がけてきたグリーベンチャーズのパートナー堤達生氏。前半のインタビューでは、堤氏自身のキャリアや、仕事に対する価値観などを伺った。
後編となる今回は、成長するベンチャー、スタートアップの見極め方について語っていただいた。数百社という企業の事業を見てきた堤氏ならではの独自の視点に注目して見てほしい。
自分も時間を使って頑張る
— ちょっと堤さんの仕事の話を聞かせていただきたいのですが。少し前にお話いただいた堤さんの理想とする投資スタイルはどのようなスタイルなのでしょうか?
堤:投資した会社、一社一社に自分の時間を使いたいと考えています。投資して「じゃあ頑張ってね」というのは嫌で、投資先の成長にコミットしたいんです。ただ、時間は誰にでも有限ですから、多岐には割けない。ですから、1社あたりに多くの時間を割くためには、それなりの投資金額が必要になってくるんですね。
そうすると、それなりのファンドの大きさや柔軟性が必要になります。僕は、「数は絞るけど一社一社にそれなりの投資金額を張って、自分も時間を使って頑張る」こういうことを会社のシード・アーリー期にやりたいと考えています。
— それがグリーベンチャーズを作った理由でもあると。
堤:まさにそうですね。初期の会社にお金を少し入れさせてもらって、ちゃんと自分たちで会社を成長させて、そのかわり、次のラウンドで追加の投資をして、ということを繰り返していきたいと考えています。ですから「苦しいときもあるでしょうけど、ちゃんとフォローはしていくので」ということは投資先にも伝えていますね。
日本ではフォロー投資という概念があまりなくて。「1回投資」的な考え方が今でも多いんですよね。僕の中ではそういうのはあり得なくて、「苦しい時期でも、しっかりと次の戦略・計画を練ってフォローする」ということもしてます。でもそれは、会社にコミットしていなければ出来ないし、ある程度ファンドのサイズがなければ出来ないことです。今やっとそういうことがしやすくなってきた感じです。
世の中の“負”を解決する企業を選ぶべき

— 数多くのベンチャー企業を見られていると思いますが、伸びるベンチャー企業はどこで判断されているのでしょうか?
堤:大きく言うと2つあります。
1つは、リクルートのときに学んだことで、「“負”を解決する」会社であること。要するに、「その会社は何の問題を解決したくて事業をやっているのか」というのをすごく意識しています。なので、「僕が考える社会的な課題を解決してくれる会社を探している」というのがあります。
そんな、僕が考える課題を一緒に解決してくれる会社があればワクワクして投資したくなりますね。投資先と「“負”を共有できているか」ということをすごく意識しています。
2つめは、「行動力・エグゼキューション」です。僕、あんまりビジネスアイデアには興味がないんです(笑)。「その問題を本当に解こう(ほどこう)として、実行に移せるのか」。要するにエグゼキューション能力があるかということに重きをおいています。
投資の検討プロセスの中でも、ちょっとしたことの積み重ねが大切です。そしてその会社・人が、「どこまで行動をイメージして僕に対して話をしているのか」ということもしっかり見ていますね。
–どれだけ優れたアイデアを持っていても、結局アクションを起こさなければ変わらない。全ての基本とも言えることですね。
堤:ええ。僕の中で一番良いなと思えるタイプは、「自分がやらなくてはいけないことを、遂行できる人」です。まだそのレベルに至っていないとしても、「いかに自分がすべき行動を具体的にイメージできているか」ということを大事にしています。投資家と起業家って、ある種の「お見合い」をしているわけで。多分お見合いでは良いところしか見せないし、見えないですよね。
そういう意味で、僕は人のことをあんまり信用していないのかもしれません(笑)。
ベンチャーキャピタリストに聞けば、企業選びは失敗しない

— 最近、ベンチャーやスタートアップも転職の選択肢に入ってきているとは思うのですが、ファイナンスの面を考えると、やはり歴史ある企業には劣ります。ただ、IPOやバイアウトで一攫千金というチャンスもありますが、見抜き方は極めて難しい・・・そこで、堤さんに「どこを見ればいいのか」という具体的なアドバイスを頂きたいですね。
堤:すごくいいアドバイスがあります。
もしベンチャーキャピタリストに何かしらの繋がりが持てるようでしたら、その会社に投資しているベンチャーキャピタリストに聞くのが、一番いいと思います。なぜかというと、客観性が担保できるからです。
面接の時に企業はいいことしか言わないじゃないですか?でもベンチャーキャピタリストって、投資した先が上手く言っていない場合「すごくいい会社なんだよ」って言うと自分のレピュテーション(評判)が傷つきます。
ですから客観的に言わざるを得ないし、それが仕事ですから。そういう意味で、もし行きたい会社があってベンチャーキャピタルが入っているのであれば、キャピタリストの人に聞いてみるのが、多分一番真実に近い情報を得られると思います。
— 堤さんならではのアドバイスで、非常に的確ですね。とはいえ、VCの方と繋がりがない人の方が多い気がするのですが、それ以外の方はどうすればいいのでしょうか?
堤:そういった繋がりがないという方は、リファレンスチェック(企業に関係がある第三者にヒアリングすること)もいいですが、なるべく近い人間の声を聞くのがいいですね。
スタートアップであれば、経営者の方や他のボードメンバーの人とも出来る限り会って、チームとしての一体感なども含めてチェックしていく必要があると思います。「社長はこう言っていたけど、他のボードメンバーはまた違うことを言っている」なんてことは、可能であれば掘り下げてみてもいいかもしれません。
継続的な変化こそが、生き残る企業の条件

— ありがとうございます。私が20歳の時に、このお話を聞けていたら人生が確実に変わっていたと思います(笑)。確かにスタートアップが盛況ですが、会社を選ぶ時の選択肢はそれだけではありません。そこで、ちょっと難しい質問になりますが、「イケてる中小企業」の見抜き方を教えていただければと。
堤:「ベンチャー」、「スタートアップ」という言葉の定義にもよると思いますが、そう呼ばれているものって、基本的には「短期間に急激に非連続な成長を遂げていかなくてはいけない」ということを課せられているわけです。それでベンチャーキャピタルが、ほぼ実体のない会社に何億円もの高い値段を付けて入るわけですから、つまり将来の価値を汲み取ってバリエーション(投資の価値計算)しているわけです。
つまり、「ベンチャー=常に成長が求められる」という訳です。逆に著しい成長が見られなくとも、堅調、サスティナブルに続いていく中小企業、中堅企業っていうのは、それはそれですごく意味があると思います。逆に言うと日本の大半がそういう企業ですし、その層が厚かったからこそ、日本の経済は強くなったのではないかなと思います。
サスティナブルだからこそ、銀行からもお金を借りれる。これはとても大事なことだと思います。ダーウィンの言葉ではないですけど、変化に適応してきたからこそ生き残ってこれた訳であって。生き残る力、そして継続的に事業を行っていく力ってすごく大事だと思います。
— 中小ではありませんが、まさにリクルートのような企業ですか?
堤:まさにそうですね!自分たち自身で変革し続けることが出来ているので、今も最前線にいるわけです。変革をトップがやるのか組織でやるのか、いろいろなやり方があると思いますけど、とにかく会社として変化し続けなくてはいけません。
経営者で例を挙げると、一番わかりやすいのがソフトバンクの孫さん。彼自身が変わり続けていますし、日立やパナソニックのような超大企業でも、選択と集中を繰り返しながら、少しずつ事業の軸を変化させ続けているわけで、長期的なサイクルで変わってきています。そうした会社を見つけるということが大事だと思います。
— 最後に堤さんが注目されているカテゴリーを教えていただけますか?
堤:僕は「マーケティング・エンジニアリング」と呼んでいるんですけど、広告やマーケティングの世界でも、金融工学的なアプローチがどんどん入ってきています。そういう意味では、マーケティングプロセス全体が、エンジニアリングによって最適化・効率化されていくと思っています。
もう一つは、クラウドコンピューティングが好きですね。「今までは高いインフラ投資、高い保守料、定期的なソフトウェアの買換え等の高いコストがかかっていたものを、クラウドによって劇的に下げていくわけです」。つまり、クラウドコンピューティングで業界のコスト構造を変えていくのが面白いなと。
あとは・・・ヘルスケア領域も投資家として関心がありますね。ヘルスケア領域ってまだまだ、「“負”」が多いんです。ここはやりがいがあると思って積極的に見ています。自分のイメージする“負”に限りなく近いことを解決しようとしている人に投資をしていくというのが、実は一番採用しているアプローチ方法です。
— 注目のカテゴリーもたいへん興味深く、ベンチャーの見分け方もベンチャーキャピタルを知る堤さんならではの視点で興味深いお話でした!本日は本当にありがとうございました!
[インタビュー] 編集長 後藤 亮輔 [編集] サムライト編集部