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Career Supliローンチ記念のインタビューを飾るのは、日本屈指の“成長請負人”
GREE Venturesのパートナー・堤 達生(つつみ・たつお)氏をご存知だろうか?数度のベンチャーキャピタル(以下VC)の立ち上げを担い、サイバーエージェント、リクルートという日本最高峰のメガベンチャーにおいて新規事業の立ち上げも経験。
市場的には珍しい、“事業経験の豊富”なベンチャーキャピタリストとして注目されている。
そんな彼が今、投資しているのは、今をときめく日本最大級のソーシャルグルメサイトRettyや、独立系SSP(Supply Side Platform)の雄ジーニー、アドテクノロジーの領域で頭角を現しているKAIZEN platform Inc.など数知れず。
そんなベンチャー投資のプロフェッショナルである堤氏に、これまでの経験を通じたキャリアに関するお話と、伸びるベンチャーの見極め方を伺った。
真の意味でベンチャーが台頭するのは、これから

–あらためて、今回はよろしくお願いします。最近は日本でもベンチャー企業への大型出資がニュースになるなど、スタートアップを取り巻く環境がどんどん良くなっているように思えます。そういった意味で今、ベンチャー企業で働くのにはちょうどいいタイミングだと思うのですがいかがでしょうか?
堤:そうですね。「その人が何を得たいと考えているのか」によるんですけど、個人の成長は、サーフィンと同じ。いい波に乗れれば、一気に行けるし、いい波が来てなければ苦労する。
僕の経験上、会社が成長していれば自分も波に乗って成長できていて、能力的にもすごくアップしたなという実感があります。いい成長を見せているスタートアップで働く醍醐味はここではないでしょうか。特に失うものが少ない若いうちに、経験するのはオススメしますね。
–堤さんの経歴を拝見すると、そもそも大学時代からベンチャーキャピタルの研究をされていたということでしたが?
堤:ええ、そうですね。僕、ネットバブルが始まっていた1998年に大学院を卒業した世代なんです。大学が当時から新興企業の研究などに盛んだったSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)で、かつコーポレートファイナンスの専門だったこともあり、きっとベンチャー企業が他の大学生よりも身近だったんですよ。
その際、いろいろとVCについての研究をしたのですが、当時の僕が出した結論は、
「日本のVCは、投資したベンチャー企業に対してお墨付きを与える役割を果たせていない」
ということでした。
僕には、企業の成長を約束する義務がある
–お墨付きを与えられていない、とは具体的にはどういうことでしょうか?
堤:VCが入っている企業とそうでない企業で、上場後の株価にどういう変化があるかを調査しました。当時の僕の推測だと、VCって投資家にお墨付きを与えて、「上場しても価値はあがっていくもの」だと思っていたんです。
しかし、研究結果によるとですね、上場企業はVCが入ってようがそうでなかろうが関係なく、株価下がっちゃうんですね。それを見て、当時僕が出した結論は、日本のVCは、市場に対してベンチャー企業の価値をちゃんと提示できていないということです。
つまり、VCが、投資した会社がきちんとした会社であると保証しきれていないということです。僕の考えるベンチャーキャピタリストの仕事って、投資した会社がいい会社である、伸びる会社であるということを市場に対してお墨付きを与える仕事だと思っています。
ですから出資という金銭的なサポートをするだけでなく、出資先の事業に対してVCも一緒に頑張るという事業面でのサポートも絶対に行うべきなのではないかなと。そう、今の僕の仕事は、学生時代の研究結果を否定するための仕事だと思っています。
20代は吐きそうな修羅場を経験すべき

–学生時代からVCヘの入社を志した堤さんは卒業後、どのような就職先を選んだのですか?当時であれば、VCに入社するというのはかなり難しいと思えるのですが。
堤:最初は三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を選びましたね。そこでは、経営コンサルタントとして幅広い企業のプロジェクトにアサインしてもらい、ビジネスマンとしてのベーススキルをびっちり叩き込まれました。
その後、投資会社に入ってヒラとして頑張って働きました、その2年間は、ひたすら訓練だと思っていて、テレアポをしまくるようなベタな営業も経験しました。
20代のうちに、頭を使う仕事をたくさん経験することも大切だと思いますが、それよりも営業とか企画とか何でもいい、「オエッ」ッとなるような修羅場を、何回できるかということが大事だなと本気で思っています。そういう限界まで頑張りきる経験をしたことが、後から生きてくるんです。
–どれだけ、真剣に今の仕事に取り組めるか、本気で仕事ができているかというところですね。そんな堤さんにとっての転機はいつ頃、訪れましたか?
堤:20代は事業計画とか人事のマネージメントとか、どこか偉そうに頭のいい人として働いていたのですが、30歳になるタイミングで「そもそもオレ、事業できるの?」という、「コンサル出身の人あるある問題」にぶつかりました。その時、運よくサイバーエージェントに拾っていただいたんですね。
–コンサルから事業会社へ・・・いかがでした?
堤:これまでのコンサル会社で周りにいた人間は、1を言えば10を理解してくれる人ばかりで。しかし、事業会社だと、「1を言ったら1」。一見、苦労しそうと感じるかもしれないのですが、ほとんどの会社で求められるのは、「1をしっかり伝えることの大事さ」で。
変に上から指示するのではなく、その人としっかり向き合うこと、この当たり前と言えることを学べた気がします。そう、ビジネスをスケールさせるためには、いろんな人がそれぞれの役割をまっとうすればいいだけであって。みんながスーパーサイヤ人である必要なんてないんです。
–「スーパーサイヤ人」である堤さんにそう言われると、なんだか安心します(笑)
堤:いやいや、僕なんて普通ですから(笑)。まぁこの時は、「メンバーがどうしたら楽しく働けるか」を考えることや、メンバーとのコミュニケーションをとにかく大切にしました。その結果、会社もすごく上手くいきましたし。
大変でしたが、本当に幸せな2年半でしたね。サイバーエージェントではいろんな事業を立ち上げる機会をいただけたので心から感謝しています。
–そしてサイバーエージェントからリクルートへ?
堤:はい、サイバーエージェントには32歳までいましたね。その後「もう一回大きな会社で働こう」と思って、リクルートに。新規事業開発や投資子会社の責任者など、やったことは同じでしたが、大きな会社で意思決定を通す難しさや、大企業の人とのコミュニケーションの取り方のノウハウとか、そうしたものを学べましたね。
1年数ヶ月、アメリカに行かせていただくなど、大企業でもいろいろとチャレンジさせてくれるすばらしい会社でした。何だかんだで37歳までリクルートにいて、そろそろベンチャーキャピタルをやろうと考えていた時期に、グリーの田中社長に声をかけていただいたこともあって、今のGREE Venturesがあるワケです。
人との縁にダイブしろ
–ステップを踏んだ美しいキャリアに見えますね
堤:僕のキャリアの話をすると「しっかりステップ踏まれていますね」とか「きれいな層になっていますね」とか言われるんですけど、そんなのは嘘、後付け(笑)
その都度、その都度でしっかり悩んでいますし、いろいろな縁もありましたけど、「この人と一緒に働きたい」という気持ちを大事にしてきました。これだと思う縁にダイブして、一生懸命に泳いで、結果的に自分がたどり着きたかった場所にいるという感じです。
–多くの方は「どこで働いている」というのを大事にするが故、会社名で仕事を選ぶと思うのですが、堤さんにはその意識がありましたか?
堤:それはあまりないです。僕にとっての転職とは、「会社に入る」というよりは「違うプロジェクトへ異動する」という感覚でした。「ここで何を経験できるのか」ということが1番大事だと思っていました。大企業の中でいろいろなローテーションを経験することと一緒ですよ。「何を経験できるか」ということと「誰と一緒に働くか」というところが重要です。
「お金で選ぶ転職」って本当に失敗すると思うんです。むしろ、「面白い経験ができるか」「この人とやったら面白いかな」ということを感じられるかどうかですね。
–何を経験できるか、どれだけ面白い人と働けるか、というところですね。
堤:「将来何になりたいか」なんて多くの人がわからないとしても、何を経験しても20代の経験は絶対に役に立ちます。「なりたいもの」、「なりたいこと」を最初から実現できる人は、稀だと思います。僕がもったいないなと思うのは、今の現状への不満を行動に移さない人たちですね。
行動し続けることこそが、何かを身につけていく上で1番大事なことだと思います。「何か自分で変えたいなら行動する」。これだけで、その人のキャリアは変わります。 (後編に続く・・・)
後編はいよいよ、伸びるベンチャーの見極め方をご紹介いただきます。
[インタビュー] 編集長 後藤 亮輔 [編集] サムライト編集部