特別な才能がないから考え続ける【対談】元サッカー日本代表 福西崇史 ✕ アデコ株式会社 代表取締役 川崎 健一郎

現在はサッカー解説者などで活躍する元日本代表の福西崇史さんは、ほとんど無名選手だった高校時代にスカウトの目にとまり、ジュビロ磐田に入団。精鋭揃いだった当時のジュビロ磐田でレギュラーを勝ち取り、日本代表としても2002年の日韓Wカップ、2006年のドイツWカップに出場するなどの活躍をされてきました。

無名だった福西選手が、厳しい競争を勝ち抜いてどのように日本代表のレギュラーを獲得するまでにいたったのでしょうか。結果を出すためのやり抜く力について、アデコ株式会社の代表取締役、川崎 健一郎氏がお話をうかがいました。

すぐに決断出来なかったプロ入りへの道

川崎:私は高校時代にバスケをやっていましたが、ちょうどその頃にJリーグが開幕したことを覚えています。サッカーをやっている人はプロになる道があっていいなと思ったものですが、高校生のころからプロのサッカー選手になることを意識していましたか?

福西:僕は愛媛選抜には選ばれていましたが、日本代表に選ばれたことはありませんでしたので、プロになれる道があるとは思っていませんでした。たまたまインターハイの予選を見ていたスカウトの方に声をかけていただいたのですが、すぐにはプロ入りの決断ができませんでした。

プロはいつクビになってもおかしくない厳しい世界です。母親からは大学出てからでも遅くはないのではと言われ、さんざん迷いましたが最後は自分でチャレンジしてみようと決断しました。

プロサッカー選手と経営者に共通するもの

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川崎:プロになるまでも険しい道ですが、日本代表までの道のりは我々が想像できないくらい激しい競争があると思います。そこまでやり抜くことを決意できたのは何かキッカケがあったんですか?

福西:僕からすると、社長になる道も同じように大変で、その道程は想像もつきません。きっと目の前にある課題を毎日こなし、パフォーマンスを出し続けてこられた結果が、いまの社長というポジションになっているではないでしょうか。そういった意味ではフィールドは違いますが、やっていることはそれほど変わらないのかなと思います。

私は、会社で働いたことがないのでわからないですが、ライバルと競い合いながら、1つずつ積み重ねて上達していく、そして会社やチームに求められる人材になる。そこはサッカー、ビジネスのどちらにも共通する部分ではないでしょうか。

結果を出すためにすべきこと

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川崎:そうですね。私は、30代で社長になり、学生や若手のビジネスパーソンからよく「なぜ、早くに社長になれたのですか?」と質問されることがあのですが、その時は、サッカーを例に話すことがあります。

もし仮にサッカー選手が、世界で活躍する選手になりたいという目標を18歳で掲げたとして、じゃあ、20歳でなれますかといったら無理ですよね。

もっと小さいころから世界で活躍する自分の姿を夢見て、他の選手よりもリフティングの練習やドリブルの練習をして、ちょっとずつ積み重ねた結果が、世界で活躍できるプレーヤーになるのではないか」。これは、勝手に想像して話しているのですが、合っていますか?

私の場合は目標を設定するのが早く、18歳でいつか社長になりたいと考えていました。そこから少しずつ、そのための努力や実績を積み重ね、今のポジションに繋がっているのだと思っています。

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福西:目標設定は早い方がいいと思います。プロになった時は、精鋭揃いのチーム内で自分がどれくらいのレベルなのかも、わからない状況だったので、試合に出られるようになるまでが一番苦労しました。

そこで試合に出ることを目標を設定し、いろいろな努力や研究をしました。同じようにビジネスパーソンの人たちも早い段階で目標を定め、それに向けた努力を重ね、それらをどう成果につなげるか考えることが必要だと思います。まずは目標を設定することが第一ステップですよね。

自分の場合、目標を達成するためにどのような努力をすればよいかというのは、当時ブラジル代表のキャプテンだったドゥンガ選手が同じチームにいたので、彼をお手本にしました。チーム内に目標となる選手がいたのは大きかったですね。

同じポジションであるドゥンガ選手から多くを学んだのですが、ただマネをするだけではなく、そこからどう自分なりのプレーをしていくのか、自分だったらこれができるというものをどう見つけるかを考えていました。

自分で考えて動ける人が生き残る

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川崎:今お話を聞いていると「考える」ということがキーワードになっているのかなと思いました。

福西:はい、自分の場合は、学生時代に目立った活躍をしたわけでもなく、急にレベルの高い選手たちの中に入ったので、テクニックや身体能力、サッカーに対する考え方など、すべてにおいて勝てない、ここでは生きられないと感じました。

そこで、プロで生き残るために何が必要か考えた時、基本的な基礎体力や技術を伸ばしながら、自分の特徴や能力を活かすしかない。それ以外ではやっていけないと考えました。振り返ると、その考えと方向性が良かったのかなと思っています。

元ヴェルディの武田さんのように人一倍ゴール前の嗅覚が鋭く、ここにボールが来るという場所がわかる人もいるのですが、それは特殊な能力です。僕がマネしようと思ってもその感覚は鍛えることができない。

じゃあどうするか? 岡崎選手のようにたくさん動いて、予備動作をすることによってスペースをつくる、その動作を何度もすることで相手よりも一歩先にボールに触れるといったことで、補えるのがサッカーというスポーツです。そういう意味で、考えることが活きるサッカーという競技を選んで良かったなと思います。

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川崎:なるほど。組織のマネジメントでも同じようなところがあります。例えば100人の社員がいる組織があるとして、社長が方向性を示したとしても、それぞれ100人の細かいところまでは指示を出せない。そういった時、それぞれ自分の立場で考えて動ける存在というのは、経営する側としてはものすごく頼りになる存在です。

そういった人材をどれだけ育成できるかは、組織力を高めるカギなので、サッカーの世界もビジネスの世界も「自分で考えて動ける人」がどれだけいるかが非常に大事だと感じました。

ところで、試合中に監督と選手が話し合っている場面を見かけるのですが、選手が監督に意見するのは、タブーなことなのでしょうか?

福西:いや、それはその監督次第ですね。受けつける人もいれば、あまり受けつけない人もいます。自分の経験で言うと、フランス人のトルシエ監督は受けつけないタイプです。このポジションだったらこう動けというのが強くある人で、あまり選手の特徴を受け入れない監督です。

一方でブラジル人のジーコ監督は基本的な動き方はあるものの、お前たちで考えて動けという監督で、お互いに意見を交わしながらやっていました。そこはどういうタイプの監督なのか見分けることも必要ですね。

自分が監督をやるとしたら

川崎:もし今後、福西さんが監督をされる機会があるとしたら、どちらのタイプで指導したいですか?

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福西:自分で考えて動けというなかで育ってきたので、ブラジルタイプの方がやりやすかったですね。ただ、日本人にとってどちらが強いチームになるのかはわからないです。

日本人は真面目な人が多いので、型にはめられた方がやりやすいという人もいます。一方で、ブラジル流のやり方を好む人は合いませんよね。

選手としてはある程度、自由度があった方がやっていても楽しいですし、ジュビロの時代はそれで結果も出てファンに楽しんでもらうことができました。それが理想ですが、常に結果をださなければいけない世界なので、使い分けることも必要なのかもしれません。

どちらにしても選手とよくコミュニケーションはとらなければとは思います。川崎さんは部下の方とのコミュニケーションはどのようにされていますか?

ドアを開けて待ってても誰もこない

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川崎:社長室のドアを開けておいて、「いつで来てください」と言っているだけでは、誰も来てはくれません。ですから社員や部下の声を聞きたいなら、自分から聞きに行かないと声は聞こえないと思います。

自分が営業社員だった時、何人かの経営者の下で働きましたが、やはり自分からは行けなかったので、こちらからどんどんコミュニケーションしてキッカケをつくるようにしています。

そうして信頼関係ができるようになると次は向こうから、来てもらえるようになるのですが、初めは待っていてもダメですね。そして10人いれば10通りの適切なコミュニケーションの仕方がありますし、やる気のスイッチも違いますので、相手に合わせてやっていくことも大事だと思います。

福西:そうですね。でも部下が増えていくとそれぞれに合わせてコミュニケーションするのは大変ですよね。そうすると部長や課長といった他にマネジメントできる人を育てていくことが大事になってくるのでしょうか?

川崎:弊社で言うと社員は、2,500人以上います。1人でしっかりコミュニケーションを図れるのは、大体5~10人ぐらいと言われていますので、適切な場所に管理職を配置して、適切なマネジメントができるような体制にしています。

ただ中管理職だけでも300名ほどいますので、同じ温度感でメッセージが伝わっていくかというと難しい部分もあります。そこで、こちらから積極的にコミュニケーションをしていく必要がありますね。

ところで、福西さんはあるインタビューで、今の若い選手は技術力は高いが気持ちの面で前に出る部分が足りないというお話をされていましたが、そう感じる場面は多いですか?

気持ちを表現する重要性

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福西:はい、若い人は気持ちの出し方がうまくない面があると思います。個人で話を聞くとモチベーションは高いし、気持ちは持っているんですが、それがうまくピッチ上で表現できていないと感じることがあります。

若い頃は、気持ちよりも技術が大切だと思っていたのですが、年を重ねるごとに気持ちの重要性を感じるようになりました。

例えばメッシのドリブルを止めるなら、反則をしてでも止める覚悟を持って戦う、勝ちへの執着心、執念のようなものが必要だと思います。チームメイトとのコミュニケーションのとり方に関してもそうですが、もっと突っ込んでコミュニケーションをしてもいいかなと感じます。

川崎:どの世界でも同じだと思うのですが、物事が上手くいってない要素の原因を突き詰めていくとコミュニケーション不足に行き着くんですよね。ミスコミュニケーションと呼ばれるものですね。

あと世代的に今の若い人たちは「飲みニケーション」を嫌うという話もあります。必ずしも飲みの場である必要はないのですが、どこかでしっかりコミュニケーションする時間を取ることが大事だと思います。

日本代表で戦う時、通常は別のチームでプレーしている人たちが集まってプレーしますよね。短い時間でどのようにコミュニケーションを行っているんですか?

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画像出典:フォト蔵

柔軟に変化し続ける

福西:実力、メンタル面で本当のトップと呼ばれる人たちは、認識のすり合わせが重要であることを理解しているので、そこを合わせるのはとても早いですね。対応力の違いを感じます。

とはいえ、何を目標にプレーするのかというのは個々で違いますし、個性の強いメンバーが集まっているのでそれを短期間で合わせるのは大変です。ですから短い時間で監督の意図を汲んで、チームに合わせて臨機応変に対応できる人が代表に選ばれていると思います。

川崎:そこは企業も同じです。世の中が常に変化している以上、企業も過去と同じ形態ではいられない、変化せざるをえないものです。しかし、中には今までのやりかたの方が、居心地がいいと考えて変化を嫌う人もいます。

組織でパフォーマンスを発揮する人というのは、変化を臆さない人、柔軟に変化できる人です。そういった人は、圧倒的な結果を残しています。スポーツとビジネスというフィールドは違えど、そこで活躍するための共通項がとても多く、とても興味深いですね。

話は変わりますが、福西さんは新しいフィールドで、今後はどんなことに取り組んでいきたいとお考えですか?

福西:今年S級ライセンスの取得ができたので、いずれ自分でチームを指導してみたいという思いはあります。まずはサッカー界全体がもっと盛り上がらないといけないと思っています。

サッカーに携わりながらもっと盛り上げていき、社会に貢献していきたいです。その活動の一つが解説の仕事や、子供たちの指導です。今後は現場で監督ができることを目指してやっていきたいと思っています。

Career Supli
結果を出す人はスポーツの世界もビジネスの世界でも共通する部分が多いですね。福西監督がJリーグを指揮する日も近いかもしれません。期待しましょう。
[インタビュー] 頼母木俊輔 [編集] サムライト編集部