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新しい仕事のつくり方
「スープ作家」という職業をご知っていますか?耳慣れない人がほとんどのはずです。
なぜならスープ作家の肩書で仕事をしているのは、この肩書を作った有賀 薫(ありが・かおる)さんだけだからです。
有賀さんは家族のためにスープを作り続けて「スープ作家」という新しい職業を生みだしました。
今回はそんな有賀さんから「スープ作家」を仕事にしていった経緯をお聞きするとともに、忙しいビジネスパーソンにとっていかにスープが「効く」のかをお話しいただきました。
きっかけは「受験生の息子」

−毎日のスープレシピのツイート(#スープ365)見てます!どれも本当に美味しそうです。もともとスープを作るようになったのはいつ頃からですか?
有賀薫(敬称略。以下有賀): 2011年のクリスマスの翌日からです。当時大学受験生だった私の息子は朝がすごく弱くて、私が揺り起こさないと起きられないほどでした。
そんな息子のために、クリスマスの食事で余った食材を使ってスープを作ったのが始まりでした。
なぜか彼は「スープができたよ」と言うとすんなり起きてきたので、面白いなと思って毎日作るようになりました。
−そうだったんですね!起きてきた息子さんの気持ち、なんかわかる気がします(笑)素敵ないい話ですね。
当時の私はライターとして仕事はしていましたが、特に食の分野を専門に書いていたというわけではありません。最初は純粋に「家族のための朝食作り」だったんです。
そうやって続けるうちに働く女性の一人として、家に帰るのが遅くて料理がめんどくさいと感じるような人でも、スープなら楽に作れて楽に食べられるんじゃないかと思うようになったんです。
スープの写真を毎日投稿
−「スープ作家になろう」と思ったキッカケは?
有賀:始めはそんなつもりは全くありませんでした。作り始めた頃からTwitterや料理のSNSにスープの写真を投稿してはいましたが、それも仕事にしようという意図ではありませんでした。
でも毎日ひたすらスープの写真をSNSに投稿し続けていると、徐々にそれを見ている人たちの間で「なにやら毎日スープを作って、その写真を毎日投稿している変わった人がいるぞ」と話題になってくるわけです。
−はい、その当時から僕も有賀さんのTwitterをフォローしていたので、なんかスープのツイートが多いなと思いながら、ながめていた記憶があります。
そういうリアクションとスープ作りが丸一年続いたこともあって、一年間のスープの写真を使って「スープカレンダー」なるものを作り、展覧会を開いたんです。
「スープが仕事になるかも」と初めて思ったのはこの展覧会の時です。
というのもけっこうリアクションがよくて、この展覧会がきっかけで取材の依頼が来たり「レシピを書いて欲しい」という話が出てきたりしたからです。
といっても当時はまだライターとしての仕事がありましたから「スープ作家」という肩書きも遊び感覚で名刺に載せる程度でした。
−自分でスープ作家って名乗るのは、けっこう勇気いりますもんね。
そうですね。「スープが仕事になるかも」が「スープ作家としてやりたい」と思うようになったのは、蓄積したスープのコンテンツを本にしようと思って開いた「スープ・レシピ展」がきっかけです。
出版社や仕事でつながれる相手に向けて発信をしてはどうかとアドバイスしてくれた方がいて、この企画展については具体的な企画で力になっていただきました。
この展覧会ではギャラリースペースを3〜4日くらい借りて、本のゲラみたいなものを作って展示しました。
展覧会以降は周りにスープ作家という肩書きを名乗るようにもなっていたし、本を作ろうと具体的に動くようになりました。
●スープ作家としての経歴を作った「スープラボ」
でもそこからが長かった。一つの原因が「スープ・レシピ展」を開いた2014年頃は、料理の本がとにかく売れにくくなっていた時期だったからです。

すでにレシピ本が出すぎていてコンテンツが飽和していたことと、クックパッドなどがメジャーになっていたことなどが重なって、有名な料理家さんの本でも売れないという状況だった。
−うわー、その状況から新人が世に出ていくのは難しそうですね。
もう一つの原因が私のスープ作家としての経歴が弱かったからです。
今でこそTwitterのフォロワー数も1万8,000人を超えていますが、当時はまだ3,000人程度。本を書いた経歴もない。
出版社としては「ただでさえ売れない料理の分野で、著者がそれで本を出すわけにはいかない」となるわけです。
そこで立ち上げたのが「スープ・ラボ」というスープのイベントです。
毎月テーマを決めて6人くらいの少人数制で、スープの実験みたいなことをやっていくんですが、私にとってのメインはそのあとコンテンツ・プラットフォームの「note」に公開するレポートでした。
来てくださった人たちにはエンタメとしてのスープを楽しんでもらって、私としては試行錯誤の研究成果をnoteに公開し、知識としてストックしていく。
そうして少しずつですがスープ作家としての経歴を作っていったんです。
●地道な活動が出版につながる

こうしてスープラボなどの地道な活動をやった結果、ようやく出版が決まりました。ちょうど同じごろのタイミングで「cakes」で「スープ・レッスン」という連載が始まりました。
この連載が始まってからTwitterのフォロワーさんも増えて、noteの読者さんも増えて、スープ作家としての認知が広まっていきました。
名前のある媒体で定期的に情報を発信できるようになったのは、非常に大きな意味がありましたね。
スープは「料理が面倒なビジネスパーソン」のサバイバルツール
●ビジネスパーソンにスープが「効く」理由
−2018年2月に出版された『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』を読んで忙しいビジネスパーソンにとって時間・経済・栄養面などの課題を解決する「ものすごく現実的な解答」という印象をうけました。

有賀:仕事って基本的に相手に合わせるものです。例えば時間でも、「夜帰るのが遅い」というのは「自分は早く帰りたいけど仕事があるから、自分のペースでは帰れない」ということですよね。
だから家に帰ってスイッチをオフにしているときは、本来なるべく自分を優先にしたいはずです。
でもそこで外食とかコンビニ食を買ってしまうと、結局はレディ・メイド(既製品)なものに自分の食を合わせていくことになるんです。
レストランやコンビニも最近はよく考えていて、消費者の細かなニーズに合わせられるような商品を作っています。
でも正確な意味で自分の体調・気分にぴったりカスタマイズできるのは、どこまでいっても自炊なんですよ。

いつものコンビニ食よりもっと薄味のものが食べたいなと思えば、塩を入れないスープを作ればいいし、たくさん野菜を食べたければ自分の好きな野菜を入れればいい。
だから栄養とか健康にもメリットは大きいでしょう。スープはとてもフレキシブルな料理なんですよ。
−自炊だと自分の体調・気分あわせてカスタマイズできるというのはその通りだと思います。毎日外食だとなんか疲れると感じるのは、そういうところに原因があるんですね。
はい、私の著書が忙しいビジネスパーソンにとっての「現実的な解答」だと感じられたのは、そういうところかもしれません。
今後はスーパーのカット野菜の質が良くなったり、夜間スーパーが増えたりで働く人に寄り添ったサービスが増えていくとは思いますが、現時点ではまだ不十分です。
そうした環境の中で健康的、経済的に生き抜くためのツールとしてスープは役立つんじゃないでしょうか。
●飽きずに美味しくスープを作る方法
−スープを作るときのコツのようなものはあるんでしょうか?
有賀:いくつかありますね。一つは、例えばスープを作るときに水を沸騰させて、そこに切った野菜を入れることはやめた方がいいです。
これをするとあんまり野菜が美味しくならないからです。沸騰した水に野菜を入れるのではなく、まずは薄い油を引いて野菜を炒めるか、少しの水で蒸し煮のようにしてから、そこに出汁や水を入れる。
こうすると野菜の雑味みたいなものが抜けて途端に美味しくなります。フランス料理だとsuer(シュエ)と呼ばれる調理法です。

出汁と塩の関係もポイントです。出汁が濃いほど塩味は薄くていいし、出汁をあまり使わないときは塩味はしっかり目につけるようにします。
料理をあまりしない人、特に女性に多いんですが、塩味が弱くなりがちです。だから少し強めにしてあげることで、適正な塩味になります。
あとは自分以外の人のレシピをそっくりそのまま作ってみるとスープのバリエーションが増えてマンネリ化を防げます。
好みの味というのは人それぞれなので、レシピをアレンジするのは何の問題もありません。でも毎回自分流にアレンジしてしまうと、結局同じ味になってしまうんです。
そこをぐっと我慢して、他人のレシピ通りに作ってみる。すると新しい発見があったりして、アレンジの幅も広がります。
●「人参が使えない女性編集者」と作ったレシピ本
−『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』は本当にだれでも作れる簡単なレシピになってますよね。そこは意識して制作されたんですか?
はい、実は担当の編集者の方が料理を全くしない28歳の女性の方だったんです。人参の皮むきや、キャベツをまな板でカットすることさえもめんどくさいと言われて衝撃をうけました。
でも、そんな彼女とコミュニケーションをかさねながら制作をしたので、最終的には初心者の人でも難しいと感じない、シンプルな内容にまとめることができました。
逆に言えば料理をある程度知っている人にとっては、この本はあまり魅力的な本ではないかもしれないですが、この本を読んだ人が料理や自炊に前向きになってくればそれが一番ですね。
−はい、有賀さんのスープレシピは多くのビジネスパーソンを救う現代のサバイバルツールになると思います。本日はありがとうございました!
スープで生き抜け!
20代前半は男性も女性も外食やコンビニ食でなんとか毎日をしのげますが、20代後半からは徐々に胃がもたれたり次の日に疲れが残ったりと、少しずつ問題が生じてきます。
30代中盤になれば「どうにかしないと」と焦り始める人も多いでしょう。しかし忙しいビジネスパーソンの場合、なかなか「自炊」は選択肢に入りません。
そんなときに効果を発揮するのが有賀さんのスープです。ささっと作れるので時間もかからず、経済的で野菜を入れれば健康面もカバーできます。
ビジネスパーソンにとって体は資本。その体を守り、忙しい毎日を生き抜くためのツールこそがスープなのです。皆さんもこれを機にスープ生活を始めてみてはいかがでしょうか。
有賀さんのスープレシピ

©『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう1、2人分からすぐ作れる毎日レシピ』
「サラダチキンでアスパラをおいしく食べるスープ」
材料(2人分)
アスパラ2束(200〜250g)
サラダチキン(プレーン)…1枚
塩…小さじ1/2
片栗粉…小さじ1作り方
1アスパラは下1/3だけピーラーで皮をむき食べやすい大きさに、
サラダチキンは一口サイズに切る。2アスパラとサラダチキンを鍋に入れ、水100mlと塩を加えてふたをし、
中火にかけ、5〜6分蒸し煮する。3水250mlをさらに加えてあたため、片栗粉を小さじ1の水で溶いて加える。

