走り続けるコツは通勤にあり!ランニング初心者へのイロハを職業・プロトレイルランナー奥宮俊祐が解説

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数少ない“山を走る”職業・プロトレイルランナー奥宮俊祐

近年、絶え間なく続いているランニングブームですが、今や“流行”から“ライフスタイル”へと変化しつつあります。

ただ、仕事で活発に動き回っているビジネスパーソンのなかには、「仕事で疲れているから走りたくない」「走っても続かない」といった、習慣に組み込み切れない方もいるのではないでしょうか?

そこで今回は、日本で数名しか存在しないプロのトレイルランナーにして、自身が立ち上げたFunTrails代表でもある奥宮俊祐さんに、ランニング初心者へ向けた入り方~継続させるまでのコツ、そして数々のキャリアを積み重ねたからこそ言葉にできる「人生の選択」についてお話を伺いました。

プロが教えるランニング初心者の入り方と挫折しない継続術

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―本日はよろしくお願いします。現在、ランニングブームが続いているなかで、これから走り始めたいという初心者に向けたランニングの入り方を教えて頂けますか?

奥宮:まず、ランニングを始めようとする方たちは「よし、走るぞ!」ってすごい意気込むと思うんですよ。僕の周りにいたダイエット目的で走り始めた友達もそうだったんですけど、初めから10km、20kmくらいの長距離を走って、それでもう疲れきったり、最悪ひざを痛めて怪我をしてしまう。そういった理由で「一回走って終了」って人が多いんです。

それだと、せっかく走り始めたのにもったいないですよね。なので、どの程度走れるのか、どうすれば故障しないのかっていう自分の限界を把握すること。そういったアフターケアを欠かさずに、ランニングを継続できるような準備や計画をしていくことが大事だと思います。

―なるほど。具体的にどれくらいの距離からスタートしたらいいでしょうか?

奥宮:距離というよりも、本当に身近なところから始めたらいいと思います。たとえば、ちょっと近くのコンビニに寄る時とか、デパートへ買い物に行くときに車じゃなくて走っていこうとか。ただ単に走りに行くんじゃなくて、用事で外出するついでに走るようにすると初心者の方は入りやすいと思いますよ。

―では反対に、たまに走るけど続かないという方はどうしたらいいですか?

奥宮:僕もそうなんですけど、ランニングって仕事で疲れていたり、飲み会だったりすると「今日はいいや」って、走ろうという意欲は沸かないと思うんです。なので、続けていくためには何か決め事をするといいですね。

たとえば、朝は会社まで走っていくとか、逆に帰りは家まで走るとか。そういった「通勤ラン」や「帰宅ラン」は有効だと思います。僕は独立する前はIT企業に5年間勤めていて、その会社への通勤時間を走る時間に使っていました。実際「面倒くさいなぁ」って思うんですけど、「もう家出ないと遅刻しちゃう」って理由付けをして毎日走り続けていました。

かといって、会社までけっこう距離があって何回も電車の乗り継ぎがある人もいると思います。そういう方は、いける駅まで走ってあとは電車で会社まで行ったり、逆に途中下車してから会社まで走るとか。そういったいろいろな組み合わせでランニングを生活の一部に取り入れるといいと思います。

―なるほど。「この移動時間は走る」って決めることで習慣化するわけですね。帰宅してからだともう走る気力なんてありませんからね(笑)。

奥宮:絶対無理ですね。お風呂入ってお酒飲みたくなりますし(笑)。まぁ僕の場合は走ることが仕事なので、「やらないといけない」という気持ちの部分では一般の方とは違うと思います。

ただ、何でもいいのでレースに参加するということも一つの手だと思いますね。走るモチベーションを上げるためには一番効果があるのではないかと。しかし、おそらくエントリーすることだけで満足してしまって、初めはあまり練習しないと思うんです。逆にそれが良くて、実際に大会に出て、途中リタイアなど悔しい結果を味わうことで「次は絶対完走するぞ!」と、走ることに対して本気で向き合うことに繋がるので。

トレイルランニングで覚えておくべき「登山者優先のルールとマナー」

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―ランニングブームの話の続きになるのですが、この流行によって、奥宮さんが職業とされているトレイルランニングに影響はありますか?

奥宮:かなりありますし、こういったブームというのはトレイルランニングの普及を望む僕としてはありがたいですね。本当にこの状態がずっと続いてほしいと思っています。ただ、トレイルランニングの場合は少し問題になっていることがあるんです。このランニングブームによって、ある程度走力があるロードレース経験者がトレランのレースにエントリーすることも増えてきたのは確かですが、特に初心者の参加者に対して「マナーが悪い」とクレームがくることも少なからずあります。

―どういった行為がトレイルランニングのマナーに反するのでしょうか?

奥宮:常識の範囲内ではありますが、一つはゴミを捨てないということですね。当然、落ちているゴミも拾うのが鉄則です。次に、注意が聞こえなくなるのでイヤホンをして音楽を聴きながら走ってはいけません。

そしてもう一つがハイカー(登山者)への挨拶は“2回”するということ。これはイベントの参加者には口酸っぱく言っているのですが、ハイカーとすれ違う瞬間に挨拶をすると相手がびっくりしてしまうので、少し手前で「こんにちは」、追い抜く時に「ありがとうございます」と言うのがルールであり山のマナーです。

何事にもハイカー優先ということを念頭に置かないと、登山中によるトラブルは全て「トレイルランナーが悪い」ということになってしまいます。

―そう考えると、トレイルランニングの普及活動をしていくにあたって、初心者への対応は特に注意しなければいけませんよね?

奥宮:そうですね。ただ、それに関しては、「RUNNET」というトレランの申し込みサイトがあるのですが、大会に参加するにあたって先ほど説明したマナーを守ることを必須条件として記載しています。

なので、トレランをやってみたいという方は、しっかりルールやマナーを覚えてから参加して頂けるとありがたいですね。

プロトレイルランナーおすすめの都内ランニングコース5選

―「歩行者優先」という意味では、通常の歩道を走る際のマナーとしても同じことが言えますね。では、そういったランニング初心者に奥宮さんおすすめの都内にあるランニングコースを紹介して頂きたいです。

1.代々木公園

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奥宮:一番身近でトレイルランニングに近い体験ができるコースが代々木公園です。だいたい一般の方は公園内の周回コースを走ると思うんですけど、僕のおすすめは外柵沿いのクロカンコース。土の部分を走るので、トレラン気分を味わいたい方は是非。

僕自身も代々木公園で夜に練習会を行っていて、皆でヘッドライトを付けて走るから「ナイトトレランだ!」って言いながら楽しんでいます(笑)。

2.日比谷公園⇒東京タワー

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今の時期だったらクリスマスイルミネーションがあるので、日比谷公園からスタートして東京タワーに向かうコースが気持ちいいですね。

ライトアップされた東京タワーは間近で見ると迫力がありますし、東京タワーは目印にもなるので、迷うこともないと思います。

3.日比谷公園⇒東京駅

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同じく日比谷公園からスタートして東京駅へ向かうコースです。東京駅前のイルミネーションはすごく綺麗ですし、よくランニングイベントにも使うコースなんですよ。

4.日比谷公園⇒築地⇒銀座⇒日比谷公園

これは少し長めに走りたい方におすすめで、日比谷公園からスタートして築地方面へ真っ直ぐ向かい、そこから銀座まで戻ってきて歌舞伎座前を通ってから日比谷公園に戻るというコースになっています。

日比谷公園に戻ってくる道中にある銀座通りの「ヒカリミチ」っていうイルミネーションが綺麗なので、時間がある方は是非走りながら見てみてください。

5. 青梅高水三山

都内でトレイルランニングをするなら青梅高水三山がおすすめです。そんなに起伏は激しくないし、何かあってもすぐに青梅駅にエスケープできるから、初心者の方でも安心して臨めると思いますよ。

パン職人→自衛隊→IT企業を経てプロの世界へ

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―イルミネーションを見ながらランニングってロマンチックですね~。僕も挑戦したいと思います。では、奥宮さん自身にスポットを当てたいと思うのですが、何故日本に少数しかいないプロトレイルランナーとして独立しようと思ったのでしょうか?

奥宮:もともとトレイルランナーを目指していたわけではありません。今の仕事からは想像つかないと思いますが、大学卒業後はパン屋さんでパン職人をしていました。でも、入社して2ヶ月後に親会社が倒産してしまって、働いていたパン屋も買収されるというゴタゴタに巻き込まれてしまったんです。

どうしようか悩んでいた時に、もともと誘われていた自衛隊から「うちで走らないか?」って改めてオファーがきたんですよ。大学までずっと駅伝をやっていたので。それまで断り続けていたんですけど、このタイミングで「もう一回走ってみよう」と思い、自衛隊へ入隊しました。

結果的に8年間自衛官として働いて、その間に昇任もしていたのでだいぶ安定した立場にもなっていました。ただ、このまま自衛隊として残るのは本当に自分のためになるのか、今後も走っていくうえでより良い環境が他にあるんじゃないかと考え始めたんです。

それから2010年にIT系の企業に転職して、5年間走りながら仕事をさせてもらっていました。しかし、徐々にトレイルランニングの仕事を受けることが増えてきたので、会社とトレランの仕事を両立することによって中途半端になってしまうことが嫌だったんです。それで、「じゃあ一発プロとして独立しよう」と、2015年の3月にFunTrailsを立ち上げたわけです。

画像出典:http://fun-trails.com/

画像出典:http://fun-trails.com/

―なるほど。様々なキャリアを経ていくなかで結果的に独立という道へ辿り着いたというわけですね。では、トレイルランニングとの出会いは仕事を受け始めたIT企業時代ということでしょうか?

奥宮:いえ、トレランを始めたのは自衛隊の時に参加した富士登山駅伝(富士山の麓と山頂を往復する駅伝大会)がきっかけでした。僕はそれまでずっとロードの選手だったんですけど、エース区間と呼ばれる5区・7区を走る機会をいただいたんです。それで走ってみると思いのほかいい結果が出て“山を走る”ことに自信を持ち、そのまま日本最高峰のトレイルランニングレースである日本山岳耐久レース「ハセツネ」に出場したのがトレランとの出会いでした。

でもその年、高校生の頃からずっと違和感があった心臓を病院で検査したんです。その結果、なんと不整脈だったことが発覚しました。

―不整脈!?そんな状態で走っていて大丈夫だったんですか!?

奥宮:実際に言われるまで全く気付かなくて、違和感があってもごまかしごまかしで走っていました。それで発覚後に手術をして、直後に参加した登山駅伝でなんだか生まれ変わったような感じで、気持ちよく走ることができたんです。

そのタイミングで出場したハセツネで3位に入賞した時に、「あぁ、こんな面白い競技があるんだ」と、改めてトレランという山を走ることの素晴らしさに気付きました。

―もしかしたら今後走ることができないという状況まで追い込まれたからこそ、走れることの喜びを一層感じられたわけですね。

奥宮:そういうことですね。それに加えて、大学時代はずっと目指していた箱根駅伝に出られないうえに、陰と陽で言うなら、どちらかというと陰の選手でした。なので、ハセツネで3番に入って、自分に日の当たる場所ができた瞬間に初めて「頑張ろう」と思えるものが見つかったんです。

後悔しない選択をすることは家族を守ることにも繋がる

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―最後になりますが、様々なキャリアをお持ちの奥宮さんから、今後転職や起業を考えている方、人生のターニングポイントを迎える方たちに向けてメッセージをお願いします。

奥宮:はい。まず僕自身こんな人生になるとは思ってもいませんでした。大学を卒業して、就職して、そのまま定年退職を迎えるような普通の道筋を描いたので。だから、パン屋の親会社が倒産した時の自衛隊に入るかどうかという選択、これこそが人生のターニングポイントでした。本当に迷いましたけど、「どちらを選んだ時に後悔しないか」というのを一番に考えて決断しましたね。

―究極の選択ですね。では、自衛隊の時も同じように後悔しない道へ進んでいったと?

奥宮:そうなんですけど、自衛隊を辞める頃には子供が3人いたのでだいぶ迷いました(笑)。

―お子さん3人もいらっしゃったんですか!?

奥宮:はい。なので奥さんには大反対されましたね。ただ、自分の子供たちが大きくなった時に「お前たちがいたから父さんは転職できなかったんだ」なんてかっこ悪いことは絶対に言いたくない。

かといって、家族の生活もかかっているので、自分勝手に職を移していくわけにはいきません。なので、捕らぬ狸の皮算用でもいいから「ちゃんと家族を食わせていける」という明確な計画を立てたうえで、独立するまで後悔のない選択をしていったのです。

―自分一人でも独立することは大変だと思うのですが、後ろに家族がいるとなると、そういったキャリアチェンジという選択は難しいですね…。

奥宮:そう思いますよね。けど、家族がいるからこそ慎重に行動できるし、子供に食わせていかなきゃいけないという責任感も生まれる。仮に家族のいない独り身で独立するとしたら、僕は多分こんなに頑張ってないと思います。

―背負うものが大きいからこそ一生懸命仕事に打ち込めるわけですね。

奥宮:だって、やるしかありませんから!(笑)。それに、トレランのレースである人に言われました、「なんでそこまで苦労してまで頑張ってるの?」って。確かにこんな大変な思いまでしてプロでやっていることに疑問に思うことはあります。

けど、今となってみればトレイルランニングは人生そのものなので、もう覚悟を決めて全力でぶつかっていくしかないんです。トレランは僕の収入源でもあり、存在意義でもありますから。

プロトレイルランナーなんて世界に存在しなくてもいい職業かもしれませんが、実際に山を走って飯を食っている人間がいる。僕はその道を選択して、全く後悔していません。人生の岐路に立たされる度に不安が付きまといましたが、こうやって自分を信じて突き進んできたことで、結果的に家族を守ることにも繋がっているわけですから。

Career Supli
キャリアチェンジをすることが普通になっているこの時代で、後悔しない道へ進むための覚悟や責任は常に持っていたいですね。そして、奥宮さんが人生をかけているトレイルランニング、僕も山で自然を思いっきり体感してこようと思います。
[インタビュー・文] 佐藤 主祥 [編集] サムライト編集部

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