編集者さえりさんに聴く”共感”を生み出す言葉の秘訣

人が思わず共感する言葉を生む秘訣とは

「自分の中にある言葉にできなかった感情を、誰かが言葉にしていてくれたら、人って安心できると思うんですよね」

株式会社LIGに勤める「さえりさん」は、自らのTwitterに4万9千人以上のファンを持つWeb編集者/ライター。彼女が一度つぶやくだけで、数千もの”いいね”が付くことも少なくない。

SNS時代とも呼ばれる現代において、人々から得られる”共感”は個人のみならず、企業のイメージ戦略においてもひとつの重要なキーワードとなっているが、その秘訣はどこにあるのだろうか。今回「言葉と発信力」をテーマに話を聴いた。

感情を共有したいという強い気持ちが「共感」を作る

さえりさん

私、子どものころから今思い描いていることを「できるだけそのまま相手に渡したい、共有したい」っていう感覚がすごくあるんです。自分と人は違うので、なかなかわかってもらえないのが普通。わかってもらえなかった=否定とは思わないですが、わかってもらえたときはすごく嬉しいし安心する。

同じような原理で、心の中にしまっていたある感情と似たような感情がどこかで言葉になっているのを見ると、すごく嬉しいんですよね。「そう、これ!私が考えてたのこれ!」っていう、あのホッとする感じ。

人が考えていることって、程度は違えど同じことって結構あると思うんです。誰かが思い悩んだことは、大体誰かも思い悩んだことがある。全く同じ状況は起こらないしタイミングも違うけれど、同じような感情を持っている人は、目の前にいなくても、広い世界の中には結構いるんじゃないかなって。

だったら言葉に変換するのが好きな人が、日頃から自分の感情や感覚を紡いで言葉をどこかに残しておけばいいんじゃないかなと思ったんです。

自分としても「誰かと共有したい気持ち」がたくさんありますし、それを書くことで、求めている人に渡すことができたり、寄り添うことができたりすれば、それは幸せなことだなと思っています。

「取材の空気感を共有したい。この胸キュンを共有したい。この複雑な気持ちを共有したい。書いて置いておきますので、気に入ったらどうぞ」というこのネットならではの距離感が、共感を作るうえではちょうどいいのかもしれないです。

言葉に触れた人が、ゼロかプラスの状態になれるように発信する

さえりさん

書くときには、「どうしても伝えたい」ということに関しては細かい部分まできちんと書いて、できるだけみんなが同じ状況を描けるようにしていますし、逆に、細かく書きすぎると状況を限定しすぎて「感情の共有」ができない場合はあえて言葉に曖昧さを残したり…。どうやったら伝わるかな、ということを考えているのが一番楽しいです。

文章って、文脈がないとどういう意味でその言葉が発せられたかわからないし、悪い意味で書いたつもりじゃなくても、受け取る側を嫌な気分にさせてしまったり、そういうこともたくさん起こりますよね。

だからこそ、「最近彼へこんでいたな。そういうときにこれを読んだら、もっとへこんでしまうんじゃないか」「頑張りすぎなのに、もっと頑張れって言っているように伝わっちゃうんじゃないか」「あの人が今これを読んだら勘違いしないかな」と状況の違う友達を何人か思い浮かべたりして、その人たちが今この文章を見たときにどんな解釈をするかを考えることも結構あります。

いろんな受け取り方があって構わないし、どう思ってもらってもいいのですが、間違った解釈によって誰かを不快にしたり傷つけたりは極力したくなくて。たとえTwitterのような短い文章のメディアでも、できるだけイメージして、そのリスクを無くすようにしています。

世の中には、結構きつめのことを言って、それがキャラとして受け止められる人もいれば、発言をあえて炎上させるような方もいます。身近な人にだけわかる「嘘の内容」を書いている人も。

でも、私に関していえば自分が作った言葉に触れたすべての人の気持ちが、ゼロかプラスの方向に動くように発信したいんです。うまくいかないこともありますけど、それが理想ですね。

言葉は良い方向にも悪い方向にも人を動かしますよね。私たちと言葉は、切っても切れない関係だからこそ、大事に扱いたいと思っています。

自分を見てくれている人とは”横並びの関係”でありたい

さえりさん

テレビやラジオ、出版物のようなメディアは、発信者が上の方にいてみんなに呼びかけている…みたいな感覚があります。でもネットだと、従来のマスメディアのような”縦並びの関係”よりも、”横並びの関係”に近い気がしていて。

私自身そんなに立派な人間じゃないし、ダメなことも恥ずかしいこともたくさんあるので「憧れてます!」よりも、「めちゃめちゃ共感しました」「代弁してもらった気分です」といった反応を貰えたほうが嬉しいんですよね。

あとは、日常をほんの少しだけ豊かにしたいという気持ちもすごくあるので、最終的にはアナログ的な発信もしたいんです。昔「ポストを覗く楽しみ」というのを売ったことがあるんです。要は「手紙を書きます」っていうことなんですけど、ポストになにかが届いているかもって思うと、ポストを開けるその瞬間が楽しくなるじゃないですか。その時間を売ろうって思ったんです。

日常が少し豊かになる。それって幸せじゃないですか。そんな感じで、派手なことをしたいというよりは、日常にほんのすこしの楽しみを散りばめられるような活動をしたいです。

そういう活動ができる自分に近づくためにも、まずはWebで間口を広げる必要があると思っています。できるだけ発信側と受け手側との差を縮めて、文章を通じて少しだけ豊かな気持ちになれるような、そんなものを作っていける存在になりたいですね。

さえり
ライター/編集者。出版社勤務を経て、Web業界へ。人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。
メール:i.like.being.on.my.own[アットマーク]gmail.com
Twitter:@N908Sa
Career Supli
さえりさんの存在を知ったのは、彼女が大学生の頃だった。当時から「水のように染み渡る言葉を書く人」という印象だったが、社会人になり、彼女が編集の仕事に携わってからというもの、その言葉はより多くの人に届き、共感を得るものとなっていった。今回の取材では、そんなさえりさんの発信力の秘訣を垣間見ることができたような気がする。ありがとうございました。
[インタビュー・文] 吉野 庫之介 [編集] サムライト編集部