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仕事に悩む、マネジメントに悩む、全てのビジネスパーソンへ
ソーシャルの台頭によって、様々な情報が可視化され、自分自身で価値を高めることができ、よりチャンスを得やすい時代になったと語る佐渡島氏。前編では、他にも職種の定義について等、様々なことを語っていただいた。
後編となる今回のテーマは、「才能」と「クリエイティブな仕事」について。実は同氏、まだ駆け出しの頃の小山宙哉氏の才能を見抜いていたという。小山氏とは言わずもがな、かの『宇宙兄弟』の作者である。
管理職として部下の才能を見抜くことはもちろん、自分自身の才能を見抜くことすら極めて難しい。そこでまず、「才能の見抜き方」というテーマをぶつけてみた。
才能がある人間、それは誠実な人間。

– 別のコラムで拝見したのですが、小山宙哉さん(『宇宙兄弟』の作者)がまだ駆け出しのころから、その才能に惚れ込んでいたと聞いています。才能の見抜き方、というのは多くの人が悩むものですが
佐渡島 まず前提として作品って、作家が自分の心を観察して、それをキャラクターに投影して描いていくわけです。ですから、まずは自分の心を観察しないとダメ。だから、正直さってすごく重要なんですよ。
彼はすごく正直で偉ぶる感じもないし、格好つける感じもない。だから、人間として信頼できて、魅力的な空気が漂っているというところが一番大きいです。
– つまり、人間性が才能であると?
佐渡島:そうです。だから僕がやっていた仕事って小山宙哉という人間の魅力を、漫画を通じて世界に伝えていただけ。僕は、小山さんの才能が好きというよりは、小山宙哉という人間が好きなんですよ。
だから、「みんなもこの人、絶対好きになります。この人のよさ、この人の優しさって漫画から伝わるでしょう」ってことを宣伝している感じです。
好きな人なら全力で応援したくなるじゃないですか?それと同じです。
– 前回のソーシャルの話ともつながってくるんですけど、これだけ可視化された世の中で小山さんや佐渡島さんのように正直に、まっすぐ生きることは難しいという声もあると思うのですが。
佐渡島:僕は手軽に自信を持ちやすい世の中だと思うんですけどね。なぜなら、自分がどんな人間かを、会社じゃなくて、SNSが証明してくれる。
会社に頼っていても、大手だってどうなるかわからない世の中だから不安なのはわかります。だから「全部任せた」と、仮に自分の大事な卵を人(=会社)に渡したとして、どんなに信頼できる人だったとしても、その人がもしかしたら酔っぱらってうっかり割ってしまうかもしれない。
– (笑)。会社にすがっていて、会社に寄りかかってばかりだと、会社が倒れた瞬間に自分も倒れてしまう。大切にしていたものも壊れてしまう。
佐渡島:まぁ、会社をうまく使う生き方というのもあると思いますけどね。僕だと、講談社という看板を使うと何ができるかな、ということをやり尽くしたわけです。
でも僕がやりたかったコルクの仕事って、講談社の看板じゃないほうがやりやすいな、と思うようになったので独立しました。
– コルクのスタッフの皆さんにも、同じように会社を上手く活用するようなことを求めていますか?
佐渡島:ええ。会社の経営陣って、本来はその会社が拡張するようなことを社員みんなにやってほしいわけじゃないですか。なのに、世の中の会社員は会社が与えた仕事しかやっていない。なんか、変な信頼のカタチだなぁと僕は思いますね。
コルクは、まだ生まれたばかりの会社だし、社員の給料を極端に高くしても全然意味がない。その代わり、社員が仕事でお金を使いたかったら、かなり大胆に使っていいよと言っています。
例えば、サイトの中で新しいコンテンツをやりたいけど、100万かかる。でも企画さえちゃんと面白かったら「じゃあ、やってみれば」と言います。もちろん面白いことが前提ですけど、どうやってその100万を回収するかは気にしない。
でも、みんな、なかなか持ってこないです。
– まぁ(笑)
人気業界の仕事は、95%が“クリエイティブ風”。クリエイティブな仕事はどこでも出来る。

– ちなみに佐渡島さんが講談社を、言ってみれば編集者の職種を志したときって、何かのきっかけがあって?
佐渡島:普通に就活です。僕は文学の研究者になりたくて大学に残るつもりだったんですけど、学費を払う条件として、親が、「就活を1回して、数カ月の間だけでも1回は社会見ろ」と。
それで、内定をもらったのが講談社って感じですね。僕、子供の頃、父親の仕事の営業で南アフリカに住んでいて。治安の関係上、あまり外出できず、家で本を読むことが多かった。それで読む量が増えましたね。
– 編集者の仕事って未だに人気ありますよね。巷では、クリエイティブな仕事の一種とされています。デザインとかライティングとか。でもどの仕事でもクリエイティブに出来ると思うんですけどね。
佐渡島:そうそう。みんなクリエイティブの意味をはき違えているから、クリエイティブっぽいことをしている仕事に応募するんだろうなと。おっしゃる通り、すべての職種が同じぐらいクリエイティブであり得ると思います。
基本的には、仕事って何なのかと言うと、人のために働くことだと僕は思っていて。だから、何か人のためになるのかということを想像する時点で、すでにクリエイティブ。
想像というのは、クリエイト(創造)ではなくイメージ(想像)の方ですけどね。どんな職種も、自分の行為が相手にどういうふうに受け止められるかということをイメージするということは、すごく重要。
– そう考えると、全ての仕事がクリエイティブですよね。
佐渡島:世の中にあるほとんどの作品は、何かのコピーなんですよ。本当にゼロイチで作っているものはほとんどない。
仮にマスコミ関係の仕事に就けても、クリエイティブ風な作業をしているだけですよね。クリエイティブはすべての現場にあると思いますよ。
だって、その会社や業界にいることに満足しているだけで、今、自分がやっている仕事が他人に対して、すごい衝撃を与えているのか?ってイメージして仕事してないでしょうし。
クリエイティブな人はすべての業界でクリエイティブであるし、マスコミ業界も、働いている人の95%はクリエイティブじゃない、クリエイティブ風なんです(笑)
“猿”と呼ばれていた頃の秀吉が、ビジネスパーソンのお手本

佐渡島:僕がこういうふうなことを言うと「そんなことを言ってもそうじゃない職種があるだろう」と思う人は少なくないと思います。
かなり昔の話をしますが、例えば豊臣秀吉の仕事。秀吉って、最初の頃は織田信長に草履を出したりしてたわけです。
でも、彼は、ただ草履を出すのではなく、懐に草履を入れて暖めていたという逸話があります。これって、クリエイティブじゃないですか?
– めちゃくちゃクリエイティブです。
佐渡島:例えば、ファクスを配るとか、お茶を配るとか、みんな作業にしちゃうけど、そんな単純な業務でもクリエイティブにできる。「こういうふうにお茶を出すと、もっとみんな気持ちいいかな」と想像しながらやればいい。
ゴミ集めですら、クリエイティブであると思えば出来る。とにかく、クリエイティブな思考で仕事をしていると、きっと誰かの目に留まって評価されて、もっと面白い仕事が出来るようになる。
だから要は、自分が与えられている仕事で、「ここで超クリエイティブなこと、何だろう?相手に楽しんでもらえる、喜んでもらえることって何だろう」なんて、すごく本気で考えたら、成功しますよ。それに仕事も絶対面白くなる。
極端に言うと、誕生日プレゼントを上手に渡せる人間って、仕事が出来るヤツだと思いますね。
– まぁ、モテないヤツは仕事が出来ないと自分も思います。
佐渡島:幹事をやる時もそうですよね。全員にストレスを与えることなく、店の情報を伝達することもすごく重要な能力ですが、それでさらに楽しませることができたらもっと凄い。
「あいつが幹事だと、毎回、飲み会に行きたくなっちゃうよな」と相手に思わせることが出来るのであれば、間違いなくその人は仕事できますよね。
でも大体、幹事って「●日までに返事ください」、「あの、返事まだですか?」っていう事務的な感じで、全然サービス精神ないじゃないですか。
– 対話が出来ない、マネジメントの下手なマネージャーっぽいですね(笑)
佐渡島:「上から言われて、仕方なくやってるんだよ」みたいな雰囲気を醸し出しただけで、もうダメですね。じゃなくて「他人を楽しませたい」、「その行為を自分も楽しむ」というスタンスで生きていると、仕事も何もかもが楽しくなるんじゃないですか?
– まさか“幹事力”の話で終わるとは思っていませんでしたが、佐渡島さんらしい、本質をピンポイントでつつくようなお話が聞けてインタビュアーである自分もかなり楽しませていただきました。本当に有り難うございました。
[インタビュー・執筆] 編集長 後藤 亮輔 [編集] サムライト編集部 [撮影] 初瀬川 裕介