産業カウンセラーに聞く!意識の高い若者のリアルな悩み【前編】

意識の高い若者のリアルな悩みとは?

仕事は人間関係が9割』の著者で、10年前から産業カウンセラーとして多くのビジネスパーソンの悩みを解決している宮本 実果さんに、悩みの解決方法や人間関係のポイントを教えていただきました。

【この記事は前編と後編があります】後編はコチラ!産業カウンセラーに聞く!意識の高い若者のリアルな悩み【後編】

ー本日はよろしくお願いします。『仕事は人間関係が9割』とても勉強になりました。それにしても本一冊に5冊分ぐらいの内容がかかれていて驚きました。

宮本:そうらしいですね(笑)。さらっと書いてあって読みやすいけれど、誰でも使えるビジネスコミュニケーションが詳しく書かれているので内容は濃かったという感想が多いです。

実は、この本は実在する外資系企業の社員が社内外のコミュニケーションで抱えている悩みを、研修によって自ら考え解決するスキルを身に付けていくストーリーとなっています。

ビジネスパーソンを取り巻く環境

ーまさに今の時代のビジネスパーソンが求められている「自ら考え解決するスキル」ですね。今日は、ビジネスパーソンが抱えるリアルな悩みをどのように解決へ向かわせていくのか?について聞きたいのですが、はじめに、私たちビジネスパーソンを取り巻く環境について宮本さんはどのように感じられていますか?

宮本:そうですね。10年前から様々なご相談を受けてきましたが、悩みの内容や解決への方向性などが変わってきているなと思っています。簡単に言うと、勤めている会社の中でいかにうまくやっていくか?についての相談よりも、自分の人生を充実させたい・楽しみたい、様々な会社でも通用する人材になりたい。そのためにはどうすれば良いのか?といった感じです。

ーそれは、具体的にはどういったことが背景にあると考えていますか?

宮本:一人一人の悩みは違うので、これだ!ということはありませんが、一つには終身雇用制度に対する期待が薄れたうえに、年功序列による昇給昇格の保証が確実ではないと考えていることですね。

さらに、企業の永続的な経営や自分の安全な居場所があり続けるということはないのではないか?という不安もあるのではないかと考えています。こういった気持ちや背景から会社の中でどうやってうまく生き抜いていこうかという悩みよりも、自分自身のキャリア形成を大きな枠で考える人が増えたように感じます。

悩みの特定

ーそういえば、本書の中でビジネスパーソンの悩みは3つに大別すると次の3つに分けられるとありました。

1. もっと大きな成果を出して認められたい
2. ストレスなくやりがいを感じる仕事をしたい
3. プライベートを充実させて人生を楽しみたい

納得の項目なのですが、悩んでいるときはいろんな問題がぐちゃぐちゃに頭の中に存在していると思うんですね。 まずどこから手をつければいいのでしょうか?

宮本:まず自分の問題はどこにあるかを、特定するアプローチが重要になってきます。カウンセリングのアプローチには2種類あるんです。一つは、「AとBの選択をどちらにした方が自分にとっていいのか?」と悩んでいる人へのアプローチです。

この場合、そもそも何に悩んでいるのかある程度絞られた中から始まるので、そこから話していき、問題解決へ進めていきます。もう一つは、「なんだか毎日楽しくない、今の仕事が自分に合っているのかどうかわからないけど何がしたいのかもわからない」と漠然とした悩みを抱えてる人へのアプローチです。

20代~50代のビジネスパーソンのカウンセリングセッションや研修を実施している中で、意外と多数を占めるのは後者のタイプなんです。

ー確かに何かに悩んで、人に相談しようかどうしようか考えている状態って、何をどうしたらいいのかわからない時の方が多いかもしれませんね。

宮本:ですよね。誰かに相談しようと思っている状況の人に対して、「あなたの問題は何ですか?」という問題を叩きつけるのは難しくて、まず考えなきゃいけないのが、実際に起きている事実と、その人の中にあるインナーボイス的なところを整理するところから始めます。

そこを整理して、今何が起きているという現実を、本人が現実に対してどれくらい正しくものを見ているか私を通してチェックします。

ー誰かを通して話す方が客観的に問題に向き合うことが出来るということでしょうか?

宮本:相談相手や相談環境は適切に選んだ方がいいとは思いますが、人に相談することによって、自分で一回言語化してアウトプットしたものをインプットするので、「あれ? 私、何か変なこと言っているかも」「俺、今言ったことを初めて口に出したかも」ということがだんだん出てきます。

ー確かに。誰かに話をした方が自分の気持ちを声に出すので、自分の耳にもう一度入ってきて冷静になるメリットがありますね。

宮本:そうなりますね。そして、整理した事実と気持ちにともなう行動をあなたはしていますか?という質問によっての気づきもあります。たとえば、「意外と自分がすべき行動をしてなかった」、「着手したんだけど阻まれる要因や環境があった」などです。

一つ一つクリアにしていきながら、自分の気持ちと事実を整理していきます。ここで、本来の自分の目的や目標を明確にしていきます。さらに新たな問題点を明確化して、問題解決に取り組むことが出来ます。

ーその作業を個人でやるというのは難しいのでしょうか?

宮本:できれば誰かと話をしたほうがわかりやすいかもしれないですね。「俺の話を否定せずに聞いてくれないか、そしてどう聞こえたか教えてほしい」とお願いして話を聞いてもらうだけで全然違うと思います。

とはいえ、先ほどお話した通り、かなり段階を踏んで話を進めていくことが必要となるので、本当は専門家に相談するのが一番理想的なのですが、難しい場合は自分で分析するツールもあります。

ジョハリの窓

宮本:本書の中でも紹介していますが、自己分析ツールとして有名なジョハリの窓です。自分に関する認識を4つの窓に分けて整理します。(図-Ⅰ)

1. 自分が認識していて他人も認識している窓
2. 自分は認識していないが他人が認識している窓
3. 自分は認識しているが他人には隠している窓
4. 自分も他人も認識していない窓

図-Ⅰ

*図は著書「仕事は人間関係が9割」より抜粋

自分が思っている自分はこんな自分がいる、他人から思われているのはこんな感じだろう、自分はこういう人間だけど、ここは誰にも教えていない、他人にはこう言われるけど自分としてはそんなつもりはないといったことが可視化できます。

ー自分を客観的に分析するのにとてもいいツールですね。ジョハリの窓でⅡの「自分は認識していないが他人が認識している窓」はどうやって把握すればいいのでしょうか?

宮本:自分には自覚がないけれど、よく人に言われることを思い出してみてほしいのです。たとえば、友人や同僚・上司・部下から、「〇〇さんって優しいよね、仕事が丁寧だよね」や「人の話聴いてないよね、コミュニケーションが成り立ってないよね」など、身に覚えはなくても他人から言われることですね。これは、自覚がなくても事実として言われているので、その内容をⅡの窓に書き出します。

ー自分が自覚していないことを書き出すって大変な作業ですが、自分がどう思うかはおいておいて、よく言われることを書きだせばいいんですね。あとは、Ⅲの「自分では認識しているが他人には隠している窓」はオープンにするべきなのか迷うところではありますが、そこについてアドバイスいただけますか?

宮本:はい。人ってやっぱり秘密が多かったり、人から見られている自分と本来の自分のギャップがあまりにも大きかったりすると、すごくストレスフルな生活を送らなければいけないことになるんですね。その都度言い訳したり誤解を解いたりとエネルギーを使わなければいけないんですよ。そんな経験はございませんか?(笑)

ー私の経験自体が秘密の窓ですが(笑)、確かにそのお話は納得するものがありますね。

宮本:ビジネスだけではなく、プライベートでも同じことが言えます。なるべくオフィシャルな自分は、基本的にⅠの窓のように開放されている領域は大きい方が結果的に無駄なエネルギーを消耗しないと考える事ができます。

自分が開示していない領域は、あまりにも相手が衝撃を受けること(たとえば、自分の特殊な趣味や性癖など)は別としても、自分のキャラクターとして知ってもらった方が信頼関係構築には有効です。

ーなるほど、それによって日常生活が楽に過ごせたり仕事がスムーズにいくといった方向へ持っていけるのですね。では、実際にこの「ジョハリの窓」のⅠの開放された窓を大きくする方法を教えていただけますか?

自己開示の仕方

図-Ⅱ

*図は著書「仕事は人間関係が9割」より抜粋

宮本:図‐Ⅱをご覧ください。例えば、左下Ⅱの窓を広げてⅠの窓の領域を大きくする方法は、Ⅱの窓の内容で相手に知ってもらった方が有効な内容を自分なりに考えて“自己開示”します。

具体的な言い方は、「結構おっちょこちょいなんです」とか、「大雑把なところがあって、気を抜くとミスをしちゃう時があるんですよね」などです。このように自己開示をしていくことでⅠの窓を大きくしていくんですね。

右上Ⅲの窓はどうするかというと、先ほどお話に出ましたが、自分に自覚がなくても他人に言われることを自分なりに振り返って、相手に話します。

例えば、「自分ではゆっくり話しているつもりでも早口だと言われます」や「笑顔が固いらしく、笑っているのに怖いと言われます」、「お恥ずかしいのですが、人からは良くその場を楽しくしてくれる人だねと言われます」などと、決して自分では自覚はないが、良いも悪いも人からこの様に言われるんですとフィードバックしていくと、その内容がⅠの窓に変わってくるんですね。

ー自分が思っていることを自己開示して、人から言われることをフィードバックすることで、Ⅰの開放された窓にしていくんですね。意外と自然とできる手法なので明日からでも試せそうですね。

宮本:そうなんです。このように、長ったらしい説明を聞くと面倒な感じや難しそうに感じますが、実際に話してみると、意外と簡単にできます。

例えば、万が一ミスをしてしまった時でも、「そういえばあの人、緊張しすぎると凡ミスをしやすいって言ってたよね。」と周りの人が認識してくれ、「やっちゃたねー」「こら!早速凡ミスしてるぞ」などと直接言われ、陰で何か言われるようなことがなくなってきます。ミスはミスですが、陰で言われるほどつらいものはありませんよね。

ーたしかに、自分の知らないところで自分のミスを言われていたら人によっては、仕事しづらい環境になるかもしれませんね。では後編は、ジョハリの窓を使った適切な自己紹介とこれからのビジネスパーソンに求められるパーソナルブランディングや本音コミュニケーションについておうかがいします。

後編はコチラ!10年間で6000件面談した産業カウンセラーに聞く!意識の高い若者のリアルな悩みと解決法!【後編】

宮本 実果(みやもと・みか)/MICA COCORO代表 産業カウンセラー
1975年、札幌生まれ。フリーアナウンサー、鉄道企業本社広報、人材開発コンサルタントなどを経て、産業カウンセラーを取得。2007年、MICA COCOROを設立。10年間で6,000件のセッションと社員研修を行いビジネスパーソンの問題解決を多方面でサポートする。2015年から社内外で通用する人材育成を目指した「NEXT STAGE PROJECT」をプロデュース。著書は「仕事は人間関係が9割」(クロスメディア・パブリッシング)

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ジョハリの窓の活用はすぐに実践できるのでぜひ試してみてください。
[インタビュー・執筆] 頼母木 俊輔  [編集] サムライト編集部