「やっぱり紙が残ればいいなっていう想いで、逆にWEBも知りたい」――五島夕夏に聴く「デジタル時代の絵描きの生き方」

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“紙が衰退していく時代”を生きる絵描き

「私がちっちゃいころにお菓子の絵本を読んで、舐めちゃったりとか、嗅いだりとか、そこだけ破いてとっておいたりだとかっていうのが、私が絵の仕事をするようになった原動だったので、なくならないで欲しいなっていうのがあって。」

フリーランスのイラストレーターとして活躍し、TwitterやInstagramなどでもファンの多い五島夕夏さん。現在はイラストレーターのほかに、モデルやWEBライターとしての顔も持っている。

絵描きの作品が”アナログ”と”デジタル”の境界を行き来する時代、その両面を知る彼女は、どんな想いで世の中に作品を届けているのか?今回「デジタル時代の絵描きの生き方」をテーマに話を聴いた。

イラストレーター 五島夕夏の描く夢

五島夕夏

父がイラストレーターで、母が陶芸をやっていて、たまたまそういう家庭に育ったから、子どもの頃からずっと絵を描くことが好きでした。去年の春、学校を卒業してからフリーランスのイラストレーターとして活動して、いま1年とちょっとになります。

基本的に、商業イラストレーターという形でやらせていただいているので、”自分発信のアーティスト”っていうよりは、間に立っているクライアントさんがいて、消費者の方がいて、というのが前提ですね。

昔から絵本が大好きで、絵本画家に憧れてイラストの世界に入ったんです。あれもいい、これもいいってなれるタイプではないので、今までも、本当に絵を描くことしか好きじゃなかったですね。

本当は、10年後どういうふうになっていたいかって明確にそろそろ考え始めなきゃいけないんですけど、毎日すごくお仕事が楽しくて。私が30歳になったときにどうあるかっていうのはあんまり考えていないですね。それを考えないでいるのが、毎日いま私が楽しい理由でもあるから。

でも、自分の子供に、自分が出した絵本を読み聞かせたいっていうのがずっと夢としてあるんです。そのラインで割と十分というか。

世界に出たいとか、何百万人に知ってほしいとかっていう思いはあまりなくて。それこそ、10年後に今みたいなSNSやWEBからお仕事をいただいているのがどうなっているのかも全然わからないので。

絵本に必要な”空き”を作る技術

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このイラストは「ヒツジとヤギが出てくればなんでもいいです」って言われて描いたものですね。笑

アーティストの方だと、何も下書きせず描いたりする人もいると思うんですけど、私は一度色んな資料に目を通してから描いていますね。例えば、「出産」についてのイラストを依頼されたら、まず「出産」について詳しく調べます。

あとはその人が住んでいる地域のこととか、この季節にはこういうものが美味しいとか。そこからイメージを浮かべて、下書きをして。1枚でストーリーが見えるようにというのは、気にしてるところですね。

逆に絵本の場合は、1ページのイラストが1枚で完成されてちゃダメって言われていて。子どもに次の想像をさせながら読ませなければいけないっていうルールがあるんです。そういうふうに、気にならせるようにあえて下手だったりとかっていうのはすごく大事だったりしますね。

安西水丸さんなんかは、まさに下手ウマの代表で。今になってやっと下手ウマって広まってるけど、水丸さんが有名になった頃って、全然まだそういう人がいなかったから、すごいなって。そのイラストの空いた部分を、見る人が補完したりするのをすごく計算していらっしゃったんだろうなって思います。

“アナログ”の絵は”デジタル化”できるか?

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私の作品はマーメイドっていう紙に色鉛筆で描いています。筆圧が強いので、一回でペンがなくなるくらいなぞって、グリグリと。基本的にアナログなので、パソコンで描いたりはしないですね。

アナログの絵を、デジタルでどう生かすか?というところでは、信頼できるお仕事相手の方に、「ここから先は任せよう」という線引きを最近やっと考えるようになったかなと思います。

以前は最後まで自分で見届けないと不安だったんですけど、「ここから先は、この人の方がきっとわかっている」という相手に出会えたら、デジタルや動画で使ってもらうこともあるし、紙にしてもらうこともあります。

“全部自分でやる限界”というのを、今すごく感じてて。もうちょっとうまく、仕事のはめ込みっていうのをスケジュール化できれば広げられる部分はあるんですけど、それでも限りがあって。

自分がどこまでやる必要があるのかを考えるという意味では、数年後もそうでありたいかなって思います。

一方で、動画などとうまくマッチングできれば、自分のキャラクターが動いたりする感動があると思うんですけど、WEBの縦横比の中で作品を見せるというのは、やはり手描きのものでは難しいというのはありますね。

得意な人に任せる部分というのも、良い意味でそこにプライドをなくすというのも、私が仕事をうまくやっていくためには必要だなって思いますね。

「紙が残ればいいな」という想いでWEBも知る

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やっぱり絵本に憧れてというのがあったので、行き着く先は児童書や教科書の紙媒体でありたいとは思うんですけど、まだこれから数年に関しては、WEBやショップに作品を出して、知ってもらえる機会をつくっていきたいなと思っています。

逆に、デジタルでできない、子供が直接手で触る絵本とかは「やっぱり紙じゃなきゃダメだよな」っていうものが残ればいいなという想いで、WEBも知りたいというのはありますね。

今はiPadとかを使って、指でめくれて、子供が触っても汚れないだとか、何冊買っても重くならないネット上で見れる絵本があって。それが良いのもわかるんです。

でも、私がちっちゃい頃にお菓子の絵本を読んで、舐めちゃったりとか、嗅いだりとか、そこだけ破いてとっておいたりとか。そういう経験ひとつひとつが、私が絵の仕事をするようになった原動だったので、それはなくならないで欲しいなっていうのがあって。

だから、WEBのお仕事をたくさんして、それでも、WEBじゃいけないことっていうのを、逆に発信したいなと思います。

デジタル時代を生きる絵描きとして

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デジタルのときに絵描きって難しいんですよね、流行りがあるから。絵描きの中でも「デジタルから描き始めた人は、アナログの人がデジタルを描き始めたら弱くなる」っていうのは言われていて。いかに生き残るかっていうのは本当に戦争ですね。

それこそデジタル時代というのもあって、私はSNSやWEB上にどう自分をはめ込むとうまくいきやすいとか、お仕事が来るかというのを考えて行動しているタイプなので。自分だけがわかればいいとか、好きな人だけがわかればいいというようなやり方はしていないですね。

あくまでも受け取り手がいて、喜んでくれるまでがお仕事だなっていう目線で。だから”天才型”というよりは、努力してなんとか天才に近づきたいなっていう方かなと思っています。

私は自分がまだ若いっていうこととか、女性であるっていうことをすごく使っているんですね。まだフリーになってちょっとしか経っていないので、何でもお仕事を受けるようにはしているんですけど、絵自体は一生描いていきたいので、絵は安くならないように守っていかなきゃなって。

若いということは有限であるじゃないですか。その間に「”一生残る絵”を貯めていきたい」という目標があるので、切り離して考えるのがすごく難しくて。「絵をこれからどういうふうに残していくか」や、「時代が変わるなかで、どう変わらないでいるか」というのは、私の今の課題であって、模索中なところはあるかなと。

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割と楽観的なので、「お仕事なくなったらどうしよう」とかは思わないんですけど。でも絵本の世界って、重鎮の方がどかない世界というか。流行りがない分、どの作品もロングセラーなんですよ。

長く愛されている絵本には、“若手が入り込む隙間がない”という側面もあるので。その絵本の作者の方がいなくなったりしたときに、“その隙間にどう入るか”っていうのは割と考えます。そこにすぽっとハマることは、すごく大事なことだと思いますね。

私の絵は流行りとか、おしゃれな感じではなくて、割と古風な絵だと思うんですけど。おばあちゃん世代の方から「懐かしいね」って言ってもらえるのがすごく嬉しいんですよね。だから、“めぐりめぐって愛さる絵”になったらいいなと思ってて。あまりちょっとの期間、人が離れても焦らないというのはすごく大事かなと。

「色んな絵が描けます」というよりは、「これしかできません」の方が、私にはあっているのかなって思います。そんな絵を描くのが楽しいから、天職ですね。

イラストレーター 五島 夕夏氏
桑沢デザイン研究所卒業。学生時代ロシアの絵本に大きく影響を受け、絵本画家を志す。現在はサロンのレセプションをしながら、イラストレーターとして活動中。
Career Supli
「紙が売れない」と言われる現代において、イラストレーターのフィールドも”アナログ”から”デジタル”へと移りつつある。しかし、紙の上で表現した作品を、WEB上で100%伝えるというのは難しい問題だ。テクノロジーが益々発展していくなかで、”それぞれの領域でしか伝えられない体験”を、私たちは見極めていく必要があるのかもしれない。
[インタビュー・文] 吉野 庫之介 [編集] サムライト編集部

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