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脳のエネルギーは無駄遣いされている
私たちの脳の消費エネルギーは体全体で消費するエネルギーのうち20%を占めます。もしこの脳が必要以上に働いてエネルギーを無駄遣いしているとしたら、非常にもったいないと思いませんか?しかし近年の研究で多くの人の脳が、日常的にエネルギーを無駄遣いし、必要以上に疲れていることがわかってきました。
脳を効率的に休め、より良いコンディションを保てれば、それだけで仕事はもちろん日常生活のパフォーマンスも飛躍的に伸びるはず。ここでは私たちがついやってしまう疲れやすい脳習慣と、疲れた脳を効率的に休めるための方法について解説します。
その生き方が脳を無駄遣いしている
●脳はぼんやりしていても疲れてしまう
「脳のエネルギーを浪費しやすい生き方」というものがあります。脳の消費エネルギーは体全体の消費エネルギーのうち20%を占めますが、この脳の消費エネルギーのうち60%〜80%を占めるのがDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)と呼ばれる脳回路です。
DMNは内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部、下頭頂小葉などから構成されており、脳が意識的に活動して「いない」時に働きます。つまりぼんやりしている時でもこのDMNは稼働し続け、体全体の消費エネルギーのうち12%〜16%(20%×60%〜80%)を使い続けているというわけです。
●脳を「さらに」疲れさせる習慣
脳を疲れさせないためにはこのDMNの活動をできるだけ抑制する習慣を身につける必要があります。しかし多くの人は逆に脳を疲れさせる習慣から抜け出せないでいるのが現実です。
その習慣とは「過去や未来にとらわれて、現在と向き合わない生き方」です。将来の不安や過去への後悔だけではありません。食事をしながら仕事のことを考える、主観的な感情に振り回されて現実を見失うといった行動も、DMNを必要以上に稼働させ、脳を疲れさせる習慣なのです。
ではこのDMNの活動を抑制する方法とは何なのでしょうか。現マサチューセッツ大学准教授である精神神経学者ジャドソン・ブリューアー氏の研究によれば、それは「瞑想(マインドフルネス)」です。以下ではすでに脳科学的に根拠づけられている3つの簡単な瞑想法を紹介します。
「脳のマルチタスク」をストップさせる
私たちは歯磨きや食事、慣れきったルーティンワークなどの習慣化している動作をする時、ほとんど無意識的にその動作を処理しています。ではこのとき意識はどこにあるのかと言えば、そのあとの仕事やその前の恋人との言い争いといった未来や過去のことです。こうした「脳のマルチタスク」は脳を急激に疲弊させることがわかっています。
この脳のマルチタスクを停止させる方法として、Googleなどが取り入れているのが「ムーブメント瞑想」と呼ばれるもの。やり方は簡単です。「歩く」「歯を磨く」「決まった体操(ラジオ体操)をする」など、日頃「動かそう」と意識せずにやっている動作を、意識的に集中して行うだけ。
例えば歩くのであれば「右」「左」、「脚を上げる」「脚を下げる」など一つ一つの動作を頭の中で命令しながら行うのです。これによって意識を「現在」に引き戻し、脳を休ませることができます。ちなみに単純な筋トレもムーブメント瞑想にはもってこいの動作です。
ストレスは「呼吸」で吐き出す
私たちの脳にある扁桃体の役割はストレスを感じると危険信号が送り、体全体を緊張状態にすることです。しかしこの扁桃体の反応が過剰になる場合もあります。これを抑制するのが前頭葉です。ストレスは扁桃体と前頭葉のバランスによって適切に処理されているというわけです。
しかしあまりのストレスに扁桃体が暴走し、前頭葉でも抑えられなくなると過呼吸やパニック発作などのストレス反応を起こしてしまいます。パニック発作のような極端な例でなくとも、ストレス状態が続くと扁桃体と前頭葉のバランスは多かれ少なかれ崩れてしまいます。
これを元に戻すための瞑想が「ブリージング・スペース」と呼ばれる方法です。やり方は以下の通り。
1.背筋を軽く伸ばし、背もたれから離して椅子に座る。手は太ももに上に自然に起き、目を閉じる。
2.ストレスの原因を一文にして思い浮かべる。(例:「転職先が決まらない」など)
3.その文を唱えた時に心身がどのようなリアクションをするかを、客観的に見つめる。
4.「1、2、3…10」と繰り返し唱えながら、呼吸に意識を集中させる。
(肺や胸の動き、体の中を通り抜ける空気を意識する)
5.体の緊張が解けるのを感じたら、意識を体全体に向ける。
(体全体が呼吸しているイメージを持つ)
6.慣れてきたら意識を周囲の空気にまで広げてみる。
※5の時、ストレスを感じた時に反応した部分を意識するとなお良い。
エネルギー浪費の親玉「モンキーマインド」を解消する
自分の仕事のこと、上司や部下との人間関係、プライベートの問題……私たちの頭はついついそうした雑多な心配事でパニックになりがちです。このような頭の中で考え事がサルのようにひしめき合う状態を「モンキーマインド」と呼びます。
この状態になると脳のエネルギー消費は一気に増加しますが、誰もが知っているようにそのような時に何か解決策が思い浮かぶことは滅多にありません。完全な無駄遣いなのです。これを脱するためには自分の中の考えを傍観し、他人事として片付けてしまう思考習慣を手にいれる必要があります。そのために最初にするべきは次のエクササイズです。
頭の中でも紙に書いてもいいので、考えた悩みや不安に対して「考え済み」のラベルを貼り、「何度も考えた」ということに気づく。「考え済み」ラベルのついた事柄は、頭の中から追い出す。
しかし簡単に頭の中から追い出すことができない場合もあります。その時の対処法が以下の4つです。
1.同じような考えがループする場合は、その考えが当てはまらないケースを考えてみる。
(例:「私はもうだめだ」→「昨日見知らぬ通行人にお礼を言われた」→「だめじゃない」)
2.「自分が尊敬する人物ならどう考えるか?」と自分より優秀な人の視点から、考えを傍観する。
3.「良い悪い」で判断するのを止め、ひたすら「現在にどんな影響があるのか」だけを考える。
4.「なぜ?」と問いかけ、その考えが何度も現れる原因を探る。
これらを1つずつ実践しているうちに思考が整理されていくので、頭の中のサルたちはどこかへ行ってしまいうはずです。
「瞑想=ビジネススキル」の時代が来ている
世界ビジネスの最先端を走る人たちが、私たち日本人が「まゆつばもの」としている瞑想をこぞって実践しています。しかもそれを「スピリチュアル」「宗教性」とは無縁の、脳科学的な見地から実践しているのです。
この状況を見ると、PCスキルやマーケティングスキルのように瞑想がビジネススキルの1つとして認識される日も遠くはないでしょう。何もはじめから教室に通って本格的に瞑想しろと言っているわけではありません。
ここで挙げたような簡単な瞑想法から、1つずつ自分に合ったものを実践していけばいいのです。「そんなものどうせ効かないんじゃないの?」と未来の結果にとらわれずに、まずは今日から始めてみましょう!
参考文献『世界のエリートがやっている 最高の休息法』
