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飽き性の人は「ダメな人」ではない
「最初は興味があって初めてみたものの、ある程度まで極めると急速に興味を失ってしまう」
「一つのことがなかなか続かず、つい別のことに興味が移ってしまう」
こうした飽き性の人は、得てしてダメな人のレッテルを貼られがちです。しかし飽き性の傾向を持つ人は、「マルチ・ポテンシャライト」なだけかもしれません。この言葉は2015年にTEDにも登壇したキャリア・コンサルタントであるエミリー・ワプニックさんが作ったもの。意味は「さまざまなことに興味を持ち、多くのことをクリエイティブに探求する人」です。
ここではワプニックさんの著書『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』を参考に、飽き性の人の可能性と、その可能性を引き出すための4つのワークスタイルについて紹介します。
一つのことを探求し続ける必要はない

日本語では「天は二物を与えず」、英語なら「God does not bless a person twice. (神は一人の人を二度祝福しない)といった具合に、得てして才能は一人に対して一つしか与えられないと考えられる傾向にあり、しかもその才能を開花させるためには一つのことを探求し続ける必要があると考えられがちです。
ジャーナリストであるマルコム・グラッドウェルさんが著書『天才!成功する人々の法則』で明らかにした「1万時間の法則」などは、こうした考え方を裏付けるようにも思えます。
しかしワプニックさんは一つのことを探求し続けることだけが価値を持つのではないと言います。確かに一つの仕事に1万時間を費やした人に比べて、2500時間しか費やしていない人はスキルで劣るかもしれません。
しかし後者が4つの仕事にそれぞれ2500時間ずつ費やしていたとしたら、この人は1万時間を費やした「一流」よりも、多角的に物事を分析できるようになっている可能性があります。一つのことがものすごくできることも大切ですが、いろいろなことがそこそこできるというのもまた大切なのです。
ワプニックさんは一つのことを探求し続けられず、「さまざまなことに興味を持ち、多くのことをクリエイティブに探求する人」をマルチ・ポテンシャライトと名付け、その特長として以下の5つのスキルを挙げています。

このマルチポテンシャライトについての議論は、堀江貴文さんの『多動力』や、藤原和博さんの「かけ算のキャリア形成」などにも通じるものです。ワプニックさんの本は、日本の中でも少しずつ広まり始めているマルチポテンシャライト的な考え方を、より具体的なワークスタイルのアイデアやそのための実現方法を提案しているのです。
マルチポテンシャライトのための4つのワークスタイル

飽き性の人で、かつマルチポテンシャライトの定義や、上記の5つのスキルに心当たりのある人の場合、現代日本における一般的なワークスタイルを続けていると、その先もずっとストレスを抱え続けることになるかもしれません。
なぜなら現代日本のワークスタイルは、一つのことを探求する人を評価するように作られているからです。そのためマルチポテンシャライトに当てはまる人は、根本的なワークスタイルから変える必要があるでしょう。
以下ではワプニックさんの著書で紹介されている4つのワークスタイルについて説明するとともに、どんな人が向いていて、どうすればそのワークスタイルを始められるのかなどについて解説します。
●グループハグ・アプローチ
グループハグ・アプローチは様々な分野の経験や知識が必要な一つの仕事やビジネスに携わることで、マルチポテンシャライトの資質を生かすワークスタイルです。
例えば中小企業やベンチャー企業は大企業に比べて、一人の人間が複数の部署の仕事を担当することが多くなります。
もちろん独立や起業をすれば、より自分でやらなければならない仕事は多様になるでしょう。また自分と同じようなマルチ・ポテンシャライトが活躍している分野に注目するのも、グループハグ・アプローチの第一歩です。
このワークスタイルは一つの仕事で複数の能力が求められる環境が好きな人や、目の前の作業が他の仕事全体とつながっているような状態が好きな人に向いています。
●スラッシュ・アプローチ
スラッシュ・アプローチはパートタイムの仕事やビジネスをを複数掛け持ちして、マルチポテンシャライトの資質を生かすワークスタイルです。
このワークスタイルの代表的な実践者の一人は、『ナリワイをつくる』の著者伊藤洋志さんでしょう。
伊藤さんは一棟貸しの宿を経営しながら、木造校舎を利用したウェディング事業も運営し、床張り特訓セミナーを開催する「全国床張り協会」の名誉会長を務め、加えてライターや編集者としても働いて……というように無数の仕事やビジネスを掛け持ちしています。
スラッシュ・アプローチの場合、掛け持ちする仕事やビジネスは互いに無関係でもよく、とにかく自分の情熱や興味が続く組み合わせを自由に考えることができます。
このワークスタイルに向いているのは、安定よりも自由や融通を重視する人や、専門的かつニッチな分野に興味がある人、互いに無関係な分野を頻繁に行き来することに違和感を感じない人です。
●アインシュタイン・アプローチ
アインシュタイン・アプローチは生活を支えるのに十分な収入源を確保したうえで、残りの時間とエネルギーを情熱を傾けられる分野に注ぐというワークスタイルです。
このネーミングは楽なことで有名な特許庁の仕事のかたわらで、歴史に残る研究を進めたアインシュタインのワークスタイルにちなんだものです。
アインシュタイン・アプローチを選択する場合、収入源となる仕事は「ほどよい仕事」でなければなりません。
なぜなら毎日残業で夜遅くまで働き、倒れこむように週末を迎えるような仕事であれば、たとえ週休二日であったとしても何か新しいことをやろうという気にはなりにくいからです。
また残業ゼロで毎日定時で帰れたとしても、それが全く興味のない仕事でストレスを溜めるようなものでもNGです。体が元気でも心が疲れきった状態では、やはり何かに打ち込む余裕は残っていません。
そのためアインシュタイン・アプローチに向いている人は、融通や自由よりも安定を重視し、ある程度戦略的に仕事を選べる人です。
また仕事を人生の最重要項目と考えていない人、芸術などのあまり儲からないことに興味がある人なども、このワークスタイルに向いています。
●フェニックス・アプローチ
フェニックス・アプローチは数ヶ月、あるいは数カ年単位で一つの仕事やビジネスにとどまり、方向転換して別の業界で働いていくというワークスタイルです。
例えばジムのトレーナーを10年続けた後、独学でプログラムを学んでシステムエンジニアに転向し、その10年後にトレーニー(トレーニングをする人)向けの健康食品の通販ビジネスを始めるといったアプローチもあり得ます。
あるいは出版社の編集者を5年続けたあと、趣味の料理を発展させて料理研究家になり、そこから10年後にブログでの情報発信に力を入れた農家に転向するというアプローチもありです。
フェニックス・アプローチに向いているのは、比較的長期間にわたって一つの分野に熱中するタイプの人や、1日・1週間・1ヶ月といった短いスパンで多様性がなくても我慢できる人、あるテーマへの造詣が深すぎて「専門家の方ですか?」と間違えられることがある人などです。
●4つのワークスタイルを組み合わせてもいい
これらのワークスタイルから一つを選ぶ必要がありません。ある時期はグループハグ・アプローチの働き方をしながら、ある時期はスラッシュ・アプローチの働き方をするというやり方でも全く問題ありませんし、別の組み合わせでもかまいません。
4つのワークスタイルは、これまで日本のワークスタイルにどっぷりとハマっている人にとっては夢物語のようにも思えるかもしれません。しかしワプニックさんの著書でも紹介されているように、これらのワークスタイルは多くの人がすでに実践しているものですし、日本でも実践している人は少なくありません。
実現できない理由を探すのではなく、自分に合うと思うワークスタイルを実現する方法を考えてみましょう。
ワークスタイルを「自分のために」最適化する
「働き方改革」や「ダイバーシティ」をキーワードに掲げてみても、日本人のワークスタイルがいまだに閉塞感たっぷりなのは、特有の高すぎる同調圧力や共感力が根底にあるからです。
しかし人口減少の中で国全体がジリ貧状態にある今、同調圧力や共感力に屈して自分の資質を殺し、生産性を下げている場合ではありません。
個人の幸福のためにも、国全体の利益のためにも、ワークスタイルの変革は必須です。しかしそれは組織や他人のためにワークスタイルを最適化するということではありません。
「自分の資質を最大限引き出すワークスタイルはどんなものなのか?」という問いと真剣に向き合い、自分のために最適化することです。
ワプニックさんの著書『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』にはここで触れたワークスタイル以外にも、マルチ・ポテンシャライトが自分の資質をフル活用するための具体策が数多く紹介されています。
「自分はマルチ・ポテンシャライトかもしれない」という人は、ぜひ一度手にとってみることをおすすめします。

