先進的な女性活用制度を設けている企業の最前線事例

女性活用には「制度」も「風土」もどっちも必要!

以前「『女性が働きにくい職場』に未来なし!ユニーク制度のある5社の取り組み」の中でサイバーエージェントや資生堂、ユニチャームなど、先進的な女性活用制度を設けている企業を紹介しました。

この記事でも書いたように、女性を最大限に活用するには制度も重要ですが、そのための「風土」も同じくらい重要です。先進企業の真似をするだけでは女性活用は叶わず、最悪の場合「制度を設けても女性は使えないままじゃないか」と古い体質がより強くなってしまうでしょう。

ここでは900社をコンサルし、女性活用に取り組んできたワークライフバランス社代表・小室淑恵氏の著書『女性活躍 最強の戦略』の内容を参考に、女性活用の風土づくりと成功事例を紹介します。

「女性が使えない」のは「男」のせい?

日本では未だ「長時間労働」の神話が根強く残っています。この神話が女性活用にも大きな影を落としているのです。「成果主義」が叫ばれて久しい日本経済ですが、小室氏によれば多くの企業の管理職が従業員の「成果」を評価する際に「仕事の質×量」という考え方をするのだとか。

これはつまり、たくさん働けば働くほど「成果」が上がるということです。これでは出産や育児などで残業できない女性の成果は、体力と精神力さえあればいくらでも残業できる男性には及びません。「時間当たりの成果を指標とせよ」。小室氏はそう言います。これならば短時間勤務制度を利用する女性でも、男性と対等な評価基準で戦うことができます。

「長時間働けない自分は使えない」は思い込み

Winners never quit

評価を下す男性側の「長時間労働」信仰もさることながら、女性側の「自分は使えない」「自分は評価されるべきでない」という思い込みもかなり根強いものがあります。

女性は「詐欺師症候群」、すなわち自分への評価が著しく低いために、評価されると自分が周囲を騙しているかのように感じるという症状に陥りやすいのだそうです。しかしこれはあくまで思い込み。本当は実力があるのに、ないと錯覚しているだけなのです。

また女性は結婚・出産・育児などで自分のライフスタイルの変更を迫られやすいため、「肝心な時にいなくて申し訳ない」などとネガティブに考えてしまいがち。

悪循環に陥りやすい環境

結果的にキャリアアップにも消極的にならざるを得ません。会社としても一見消極的に見える女性に大きな仕事を任せたり、責任感のあるポストを与えようと考えなくなります。すると女性達の活躍の場が減り、成功体験もできず、成長もできないという悪循環に陥ってしまうのです。

この問題を解決するためには、男性が女性の詐欺師症候群を理解して、自信を持ってもらえるよう努力する必要がありますが、同時に女性自身も自分を客観的に評価するための努力をしなくてはなりません。そうやって「女性も評価される」「女性も活躍していい」という企業風土を作ることが重要なのです。

以下では制度面を整備するとともに、女性活躍のための企業風土を作り上げた事例を3つ紹介します。

女性活躍のための企業風土事例

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【事例1】江戸時代創業・菊水酒造(高知)の女性活用

高知県安芸市、人口1万8,000人を切るこの小さな町に、100年以上続く酒造メーカー「菊水酒造」はあります。同社は古い日本酒メーカーにありがちな男性前提の仕組みを大きく変え、2005年に女性だけの「企画営業課」を発足。2009年には「女性による女性のためのお酒造りプロジェクト」を立ち上げ、数多くのヒット商品を生み出しています。

企画営業課に所属する従業員の中には、出産休暇や育児休暇から復帰した人やケースバイケースで短時間勤務を実践する人も。だからといってパフォーマンスが低くなるわけではなく、むしろそうした働き方をする女性ほど社内での評価も高く、任されている仕事も大きいのです。

彼女達を引っ張る春田部長は厳しいながらも企画営業課の感性を信頼していて「極力、原価・工程のややこしさは考えるな」と言っているのだとか。女性特有の柔軟な発想力をそれらで抑え込まないようにしているのです。

産休・育休などの制度ともに女性の力を伸ばす土壌を作る、「これからの企業」と言えます。

【事例2】カルビー「女性の活躍なしに成長はない」

「ポテトチップス」などで知られるカルビーグループは「ダイバーシティ(多様性)推進」を経営上の重要な戦略に据え、その方針を「女性の活躍なしにカルビーの成長はない」としています。

しかしカルビーグループは1949年に創業した古い企業であり、しかも2013年現在の単体従業員数1,519人(連結3,352人)の大企業です。これを聞くだけでも「旧態依然」の4文字が容易く思い浮かびます。実際ワークライフバランス社が開催した経営者向けセミナーで、カルビーの現会長の松本晃氏は女性活用について「今は適当に話を合わせておいて、松本がいなくなれば元に戻そう」と言っている人間が社内にいることに何度も言及しています。

しかし松本氏はそのような人たちが後で手をつけられないほど女性活用を推進し、風土を作り上げようとしています。事実同社には短時間勤務を実践する女性管理職がいるほか、管理職向け研修に参加する女性も増加しているのだそうです。

時には既存の文化を押さえつけてでも新しい風を吹き込む気概が、トップには必要なのかもしれません。

【事例3】三越伊勢丹「自分流のマネジメントスタイルを」

2015年版の人材活用情報誌『CSR企業総覧』(東洋経済新報社)によると三越伊勢丹ホールディングスは最も働きやすい企業となっています(1,305社中)。

百貨店業態はもとから女性従業員数が多いので「女性活用はスムーズにできるのでは」と思うかもしれません。しかし経営戦略本部で管理職を務める東紀久子氏によれば「部長クラスとなると女性比率は5%ほどで、私のように子育てをしながら務めるケースは非常に少ない」のだとか。

産休・育休制度のほか、育児勤務制度や再雇用制度など制度整備を進める同社ですが、東氏が管理職になった当時はロールモデルとなるような女性従業員は少ない状況でした。不安の中で上司や仲間にかけられた言葉が、「あなた流のマネジメントスタイルを確立すればいい」。

前例の少ない環境で自分の能力を最大限発揮するにはこうした声が不可欠。そしてこの一言が周囲から出るためには、風土の確立が必要なのです。

「これだから女は」と言っている企業は潰れる

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労働人口が減少していく中で団塊世代が引退していけば、企業の従業員数はどんどん減少します。そんな中で女性活用はもはや「喫緊の問題」です。

「これだから女はダメなんだ」なんて言っているような企業は10年・20年先には跡形も残っていないでしょう。女性の特性や能力を理解し、最大限活用するために時には強引になっても風土を確立すること。これは人材面での至上目標なのです。

参考文献『女性活躍 最強の戦略
Career Supli
ダイバシティに本気で取り組んで成功する企業の事例が増えることで、世間の意識も変わってくると思います。キャリアサプリでも積極的に紹介していきますのでご期待ください!
[文・編集] サムライト編集部