転職の専門家に聞いた!ベンチャー企業への転職の可能性と注意点は?

ベンチャー企業への転職はあり!?

ベンチャー企業に務めるという選択肢はありなのだろうか。

ここ数年の間に就職活動や転職活動をした人であれば一瞬は頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。

華やかに見える。
平均年齢が若そう。
給料が良さそう。
オフィスがおしゃれ。
便利な立地。

良いところはたくさんありそうなのに、それでもベンチャー企業への転職を踏み切れない。ということは、多くの人が直感的に「とはいっても大丈夫なの?」と思っていることは間違いないでしょう。

各ベンチャー企業の一社一社が経営的に大丈夫なのかどうかはここで論じても仕方ないので、「ベンチャー企業で働くことで、ポジティブなキャリアを歩むことができるだろうか」という問いを設定し、それに回答する形でコラムを進めたいと思います。

ベンチャー企業はいろいろなことがふわふわした状態

まず、ここでいうベンチャー企業のイメージを共有しておきます。

新規サービスの構想はあるけど、まだ形になっていない。
新規サービスの構想を形にしている途中。
新規サービスのプロトタイプはできているけど、まだ世の中にお披露目していない。
新規サービスをいったん商品化のレベルまで完成させたけど、販路や営業方法などは確立されていない。
新規サービスを何件かは販売したけれど、販路拡大、サービス改修やサービス範囲拡大のための仕様検討などやることが山積み。

大体上記のような状態の企業を当コラムでのベンチャー企業と呼ぶことにします。

この手のベンチャー企業において、ポジティブなキャリアを歩むことができるかどうか。これを「価値発揮の方向性」「価値発揮の質」の2つの観点で考えてみます。

ベンチャー企業と一般企業の価値発揮の方向性の違い

ベンチャー企業で求められるのは、誤解を恐れずに一言でまとめますと、0を1にしたり1を10にしたりするということです。サービス構想、サービス内容、販路、販売価格などすべてが不確実な状態なのがベンチャー企業。しかも、世の中には社名からサービス名まで誰にも知られていません。

大企業でも0から1や1から10の仕事はありますが、「信用」という観点で大企業は大きなアドバンテージがあります。ベンチャー企業ではまだ「信用」がないので、まさに0からのスタート。余談ですが、ベンチャー企業に入ると個人のクレジットカードすら審査に落ちることがざらにあります。

一方で、ほとんどの企業における社員の仕事内容は、10000を20000にするようなスケールの大きな仕事か、10000を10010にする地道な拡大活動です。

そしてここからが重要なのですが、

・0を1にする仕事
・1を10にする仕事
・10000を20000にする仕事
・10000を10010にする仕事

はすべて求められる価値発揮の方向性が異なり、得意・不得意がはっきり分かれます。

極端な例えで言えば、次のような違いです。

ベンチャー企業
「テレビを作って売りたいから、商品化から販路の確立までとにかく進めて。方法は任せるよ。」

一般企業
「今販売している自社のテレビの売上を伸ばしたい。パンフレットもあって、Aエリアでは量販店が10店あってそのうちの2店はまだうちの商品を置いていない。商品を置いてもらえるように訪問して交渉してきて。他の店舗に営業したときの前例があるから参考にして。」

この例でもわかるように、仕事の性質がまったく異なるので、大企業で社長賞を取るような営業がベンチャー企業ではまったく売ることができないということはよくある話です。

大企業において商品の知名度、販路、サポート体制などが万全の中で文字通り「売りまくる」ことと、無名の商品で販路もなく、サポート体制どころか何もかも1人で担当しなくてはならないベンチャー企業で「売る」ことは難しさの中身がまったく異なるのです。

どちらが優れている、という類の話ではなく、価値発揮の方向性の違いです。ですので、大企業で活躍したからベンチャー企業でも活躍できる、とは限りません。

ベンチャー企業への転職を考えるときには、いろいろなものが不確実であることをよく想像してほしいと思います。

また、特に考えておいてほしいことが、ベンチャー企業の名前を社会で口にしても誰も知らないということです。大企業から転職すると、頭では分かってはいたものの、少なからずカルチャーショックは受けるでしょう。

価値発揮の質がシビアに求められるベンチャー企業

大企業では、例えば10000人社員がいて、仮に仕事ができない社員が300人いるとしても割合は3%です。ベンチャー企業では、例えば5人社員がいて、仮に仕事ができない社員が1人いたら割合は20%です。

仕事ができないことによる影響度や「目立たなさ度」がまったく異なるのは一目瞭然です。

価値発揮の方向性が合っていたとしても、価値発揮の質が低いと、正直なところベンチャー企業では冷遇されます。できない社員をかまって育てるような時間的、資金的余裕がないからです。おそらく、そのできない社員は辞めることになるでしょう。

専門職で雇われるにしても、経営に携わることになっても、営業をすることになっても、いずれにしても自分に活躍できるだけの能力や経験があるかどうか、改めて内省をしてから転職の候補に考えてほしいと思います。

ベンチャー企業がはらむ成功の矛盾

価値発揮の方向性も質も問題ないとして、1つ注意点を紹介します。

どのベンチャー企業も、いつまでも0を1にする仕事をするわけではなく、目指している「成功」に近づけば近づくほど、100を200にする仕事、1000を2000にする仕事が増えていきます。そうすると、価値発揮の方向性が異なる仕事をせざるを得なくなります。

最初はスケールすることにやりがいを感じて違和感を感じないでしょうが、やがて「やはり0→1の仕事がしたい」と思い始めることになります。

そうすると、そのベンチャー企業で仕事を続けるよりも、別の新たな0→1をやろうとしているベンチャー企業に魅力を感じて、転職を考え始めます。

逆に、サービスが成功しない場合、非常にタフな展開が待っていることになります。資金面での苦労は人間関係に影響を及ぼしたりする可能性もあります。

これらのことが一概に悪いことではなく、ひとつのキャリアの歩み方です。ただ、1度ベンチャー企業に転職して0→1の経験をすると、サービスが成功してもしなくてもジョブホッパーになる可能性がある、ということは頭に入れておいた方が良さそうです。

いずれにせよ、「安定」とは程遠いキャリアになることは間違いないでしょう。チャレンジそのものに魅力を感じる、価値発揮の方向性や質に自信がある、人生どうにかなる、といった考え方の人にはポジティブな結果をもたらすことになると思いますが、そうでなければ一呼吸置いて再考してください。

ベンチャー企業の魅力のひとつは解像度の高さ

最後に、ベンチャー企業で働くことによって得られる結果期待について紹介します。

結果期待とは、自分の努力や行動が結果を生み出すことに影響しているだろう、という期待を指します。自分にはその努力ができる、という効力期待とあわせて、人間がモチベーションを保つための重要な要素です。

ベンチャー企業のように人数が少ない状態で仕組みを作り出すような仕事は、企業の目指す方向、自分自身の貢献、それに伴ってもたらされるお客様への価値、の関係性が見えやすく、解像度が高い働き方です。

一方、一般企業で経験する規模感の大きなプロジェクトでは、プロジェクト自体の意義は社会的にも大きなものかもしれないですが、1人1人の貢献が見えにくく、結果期待が感じにくいケースもあり、解像度は必ずしも高くありません。

仕事における解像度の高さ=結果期待の高さですので、仕事におけるモチベーションを保ち続けるのにベンチャー企業は向いていると言えるでしょう。

Career Supli
いろんな人の話を聞いて総合的に判断してください。

著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)‬
‪2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。‬
‪・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー‬
‪・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター‬
‪http://rdi.jp/about-rdi‬

[文]鈴木洋平 [編集] サムライト編集部