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「中小企業」を言い訳にしてない?
「中小企業だから教育制度が充実してなくって」「中小企業で人手が足りないから自己投資なんて悠長なこと言ってられない」このように中小企業であることを言い訳に「やっぱり大企業でないと」と言う人は、残念ながら大企業に行っても成長できません。
現時点で自分が転職するほどのスキルや経験もないのであれば、まずはその「中小企業」でなすべきことをなす必要があります。そしてそれは中小企業だからこそできる経験でもあるのです。
ここでは追手門学院大学経営学部准教授・神吉直人さんの著書『小さな会社でぼくは育つ』をヒントに、中小企業で働くことのメリットや中小企業での仕事の仕方など、「中小企業での時間」を無駄にしないための心得を5つ紹介します。
中小企業のメリットを認識しておく
中小企業で毎日の仕事に追われていると忘れてしまいがちですが、中小企業には大企業にはないメリットがいくつもあります。その最たるものは「経験の幅広さと深さ」です。中小企業は大企業と違って基本的に人手不足です。中途入社したての新入社員に、なんの導入もなしに部門の仕事を丸投げすることも珍しいことではありません。
大企業であれば10年勤めていなければ任されないような仕事が、中小企業では1年、2年で回ってくるのです。自分の頭で考え、自分の仕事を最適化しようとする人であれば、これ以上の成長の場はないでしょう。この意味で、若いうちこそ中小企業で揉まれた方が高い経験値が手に入ると言えます。
また意思決定者、特に社長を始めとする経営陣との距離の近さも中小企業の大きなメリットです。「先代から何も考えずに引き継いだだけ」という社長ならともかく、情熱や哲学を持って事業を運営している社長であれば、必ず学ぶものがあります。大企業でこうした経営のトップと実際に仕事をしたり、話したりするには相応のキャリアと時間が必要です。
しかし中小企業なら、場合によっては毎日社長の姿を見ながら働くこともあるでしょう。この点を考えれば、「尊敬できる社長がいる」という理由だけで中小企業で働いても、十分に自分の成長の糧になるのです。
大切なのは「中小企業」「大企業」というカテゴリーで見るのではなく、今いる中小企業のプラス要素とマイナス要素の客観的な評価です。それは自分の言い訳に気づくきっかけになり、働き方を改める第一歩になります。
「仕事のスピード」の上げ方を知る

慢性的な人手不足を抱える中小企業では、一人当たりの仕事量が比較的多くなります。それが成長の起爆剤になるのですが、いつまでも仕事に追われていては成長について考える暇もありません。この状況を打開するには「仕事のスピード」を上げる必要があります。
これについて神吉さんは著書の中で「覚悟ある優先づけ」と呼ぶべき考え方を紹介しています。優先づけには「優先順位の低い仕事に注意が向けられないリスク」が常に潜んでいます。優先順位の高い仕事に意識を注ぐので、時間が足りなくなる可能性やミスが起きる可能性が高まるからです。
神吉さんは優先づけをするときにはこのような危険性に対する「覚悟」が必要だと言います。危険性を覚悟たうえで自分の意思で優先づけを行えば、もし失敗して上司に叱責を受けても、「自分が決めたことだ」と納得ができます。
しかし何も考えずにテキトーに優先づけをしてしまうと「自分のせいじゃない」と逃げたくなります。これでは学びがなく、成長もできません。的確な優先づけをマスターして仕事のスピードを上げるには、優先づけのリスクを背負うことが大事なのです。
「組織の変え方」を身につける
中小企業で働く人が色々なことを諦めてしまう大きな原因に「旧態依然とした組織」が挙げられます。自分がどんなに頑張っても、組織の体質に阻まれて何もできないという状況です。しかし規模が小さい中小企業なら、大企業よりも組織体質も変えやすいはずです。もちろん一朝一夕にできる仕事ではありませんが、挑戦する価値は十分あります。
旧態依然とした組織のガンともいうべきは、自分で何も考えない指示待ち人間、「昔からこのやり方でやってきたんだ!」とやり方を変えようとしない頑固人間です。ただ、これらの人を変えるのは至難の技です。彼らにとって「主体的な若手」「やり方を変えようとする新参者」は敵だからです。
この問題を解決するにはまず「組織が古いまま固着してしまったシステム的原因」を考える必要があります。人事の評価制度に問題があるのかもしれませんし、ミスが起きた時の責任追及の手続きに問題があるのかもしれません。そうした根本原因を突き止め、それをシステマティックに解決する方法を提示すれば組織は少しずつ変わっていきます。
原因を突き止め、それをシステマティックに解決する方法を考えたら、次はそのロードマップを作っていきます。ポイントは「実現のイメージがしやすい」ということです。このロードマップは自分が使うというよりは、上司や経営者など意思決定者を説得するためのものだからです。
どんなに素晴らしいアイディアも、日の目を見なければ意味がありません。そのためにも意思決定者の価値観や好みも事前に調べ、それに寄せたロードマップにする必要があります。ただし、意思決定者の問題意識が高く、計画段階で巻き込める場合はよりスピーディに計画が進みます。
とはいえ十中八九、ロードマップ通りに事は運びません。組織を変えるまでに10年、20年かかる場合もあるでしょう。しかし「組織の体質に阻まれて何もできない」とふてくされているよりは、何十倍も有意義な時間になるのは間違いありません。
「仕事の捨て方」をマスターする
中小企業に長く勤めていると知らない間にかかってしまう病気があります。それが「これは自分の仕事」病です。この病気にかかると、今している仕事を誰かに明け渡してしまうと自分の価値が下がってしまうかのような錯覚に陥ります。
結果仕事を抱え込んでブラックボックス化し、非効率や無駄に誰も気づけなくなってしまいます。これは会社全体はもちろん、本人にとっても損失です。この病気にかからないためにも早い段階で「仕事の捨て方」を覚える必要があります。
まずは「一人でもできる仕事」「これは自分の仕事」と思える程度に熟達した仕事を、すべてルーティン化・マニュアル化していきます。この過程で非効率や無駄が見つかれば最適化し、マニュアルに落とし込んでいきましょう。
マニュアルを作るときの大原則は「誰でもできるレベルにまで噛み砕く」です。仕事の種類によってはそこまで噛み砕けないとは思いますが、それでもできるだけ汎用性の高くするよう心がけます。
マニュアルができたら迷わず後輩や部下に仕事を明け渡しましょう。最初のうちはフォローを入れる必要がありますが、あくまで担当は後輩や部下に代わってもらいます。ただし目下の後輩や部下ではなく、古株の社員や工員に仕事を渡す際には注意が必要です。
場合によっては相手が「仕事を押し付けられた」「上から目線で命令された」と感じる危険があるからです。このようなリスクがある場合は事前に以下のような点に配慮し、相手の抵抗感を削いでおきましょう。
・担当者変更のメリットを説明しておく。
→例:工場の資材管理を事務がやるよりも現場でやってもらった方がデータと実物のズレもなくなり、製造工程のトラブルも防げる。
・「マニュアル作成に加わった」という事実を作っておく
→例:(マニュアル作成のメリットを説明したうえで)「ちょっと○○さんのアドバイスをいただきたいんですが」とお願いし、意見を反映しておく。
仕事を捨てれば、自分は新しいことに時間が使えるようになります。そうすればより幅広い経験が積め、成長のスピードも加速するでしょう。
それでもダメなら「脱出」せよ!
自分の問題をことごとく解決しても、まだなお成長ややりがいが感じられないのであれば、その企業は根本的な問題を抱えている可能性があります。そのような場合は「中小企業なんてどこでも一緒でしょ」と諦めないで、転職を視野に入れましょう。
実際、「中小企業なんてどこでも一緒」ではないからです。限られたリソースの中でしっかり努力した人なら、転職先はきっと見つかります。人生を無駄にしないためにも、できるだけ早くその判断をしたいものです。
参考文献『小さな会社でぼくは育つ』
