転職の不安を解決せよ!苫米地英人に学ぶ感情コントロール術

不安、緊張……転職は感情との戦い

「今の仕事を捨てて転職しても大丈夫だろうか?」「面接で失敗したらどうしよう」不安や緊張などのネガティブな感情は、転職を含むビジネスシーンでの私たちのパフォーマンスを下げてしまいます。これは感情が先走ると、私たちの脳の中の原始的な部分(大脳辺縁系)にある「扁桃体」が活発化し、理性的な思考と行動を妨げるからです。

こうした感情のシステムは原始時代の生存には必要不可欠ですが、現代の多くの場面ではうまくコントロールできなければ望まぬ結果を招く可能性があります。転職で言えば「転職のタイミングを見誤る」「面接で大失敗する」などです。

ここではこうした事態を防ぐために、認知科学者の苫米地英人さんの著書『「感情」の解剖図鑑: 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方』を参考に、4つのネガティブ感情のコントロール術を紹介します。

転職の成功を妨げる4つの「ネガティブ感情」

●転職での「不安」

転職の成功を妨げる第一のネガティブ感情は「不安」です。この感情は人間が未来を想像できてしまえるからこそのもので、脳に記憶した因果関係のパターンから推測しうる未来を引き出す「ブリーフシステム」によって引き起こされています。

「この会社にずっと勤めていて、急に倒産したらどうしよう」と焦って転職を決断したり、「別の会社に転職して、人間関係がうまくいかなかったらどうしよう」と転職を尻込みしてしまったりすれば、転職が失敗する可能性はどんどん高くなっていきます。

●転職での「緊張」

転職の成功を妨げる第二のネガティブ感情は「緊張」です。緊張は不安や恐怖を感じると、それにつられて発生する感情です。これらの感情は大脳辺縁系の扁桃体で増幅されます。

すると思考や創造性など理性的な機能をつかさどる前頭前野の活動が低下し、私たちのIQが低下してしまうのです。確かにサバイバル環境下では、瞬時の動物的判断を下すためにこの感情は必要です。しかし理性的判断が求められる現代社会や転職の面接においては、なるべく緊張はほぐしておかなければなりません。

●転職での「恥」

転職の成功を妨げる第三のネガティブ感情は「恥」です。この感情は動物的なものでなく、社会的なものです。「自分が周りと比べて劣っている」と感じると、恥の感情が生まれます。この感情が転職においてネガティブな要素になるのは、「恥ずかしい」という感情は自己評価の低下につながるからです。

私たちの脳は自己評価が下がると、下がった後の自己評価を自分にふさわしい、居心地のいい状態(コンフォートゾーン)と認識してしまいます。面接官からすればこのような人材が魅力的に見えるはずもありません。

●転職での「劣等感」

転職の成功を妨げる第四のネガティブ感情は「劣等感」です。苫米地さん曰く「実は劣等感は、人が成長する過程で社会によって埋め込まれる、きわめて特殊な感情」(前掲書p60)です。学校での学業成績をはじめ、理想的なスタイル、職業、収入、人間関係など、世の中には様々な価値基準があります。

これらは社会の中で生活する人間の競争を促すと同時に、「落ちこぼれ」を作り出し、劣等感を植えつけます。この劣等感も恥と同じように自己評価を下げ、脳に低いレベルを自分のコンフォートゾーンだと認識させてしまいます。また同じ価値基準の中でしか自分を位置付けられなくなり、視野が狭くなる危険もあります。劣等感は人材としての魅力を奪うだけでなく、選択肢の幅まで狭めてしまうのです。

転職を成功させるために、是非とも克服しておきたい以上の4つのネガティブ感情。以下ではそれぞれの克服方法について解説していきます。

不安を倒すのは「ブリーフシステムの変更」と「臨場感空間からの脱出」


不安を克服する方法は大きく2つあります。それが「ブリーフシステムの変更」と「臨場感空間からの脱出」です。ブリーフシステムが原因で生じる不安とは、例えば次のような場合です。

ブラック企業に勤めている人が「ウチの会社を辞めてもお前に行くところなんかないぞ!」と上司から言われました。これを真に受けると「会社を辞める=次の仕事が見つからない」というブリーフシステムを構築してしまい、転職に対して不安を感じることになります。

一度構築してしまったブリーフシステムを崩すには、「会社を辞める=次の仕事が見つからない」の図式を壊す情報を集める必要があります。自分のこれまでの仕事内容や実績を客観的に棚卸しして、「会社を辞める=やりがいのある仕事に出会える」というブリーフシステムに変更するのです。

一方、「臨場感空間(その人が臨場感を抱いている世界)」に縛られて不安を感じる場合もあります。不安や恐怖は前頭前野の機能を低下させ、理性的な思考を奪います。するとどんどん視野が狭くなり、冷静な判断が下せなくなります。この時に臨場感空間に縛られていると、ますます不安や恐怖が募ってしまい、泥沼にハマってしまうのです。

これを避けるためには、意識的に臨場感空間から脱出し、一度前頭前野の機能を回復させる必要があります。例えば海外旅行や1泊2日の山小屋泊でも構いません。自分が不安を忘れられる場所まで逃げてしまいましょう。つい臨場感空間にのめり込んでしまうという人は、定期的に臨場感空間から離れるようにあらかじめスケジュールを組んでおいても良いかもしれません。

緊張をほぐすのは「コンフォートゾーンの確保」


面接の場面で緊張してしまうのは、こちらを鋭い眼光で見つめる面接官と慣れない面接会場の空気が、自分にとってのコンフォートゾーンではないからです。この問題を解決するには、面接に至るまでの場所や空気をできるだけコンフォートゾーンにしてしまう必要があります。例えば面接の時に初めて(ないしは数回程度しか)行ったことのない会社に行くとなると、それだけで緊張が高まってしまいます。

これに対して何度も下見を繰り返して、スマホで調べなくても訪問先の会社までの道のりがわかるようになれば、少なくとも面接本番までの緊張は取り除けます。もし面接官が誰かが分かっていれば、ホームページやTwitterなどで顔や言葉に触れておきましょう。面接官が「全く知らない人」から「そこそこ知っている人」になるだけでも、面接会場がコンフォートゾーンにかなり近づきます。

面接以外でも下調べや準備は重要ですが、一度「コンフォートゾーンの確保」という視点から下調べや準備を見直してみると、より安定したパフォーマンスが発揮できるのではないでしょうか。

恥を克服するカギは「ホメオスタシス」

ホメオスタシス(恒常性)とは、人間が心身を一定の状態に保とうとする仕組みを指します。恥の感情によって自己評価が下がり、そこに自分のコンフォートゾーンを見出してしまうのは、このホメオスタシスが原因です。しかし逆に言えばこのホメオスタシスが、高い水準に働くように仕向ければ、自然と本来のパフォーマンスが発揮されるようになります。

もし何かに失敗したり、満足のいく結果が出せなかったりしたときは、「恥ずかしい」ではなく、「自分らしくない」と考えるようにしましょう。引用:前掲書p51

失敗する自分や不満足な結果を出す自分を否定し、「本来の自分はちゃんとできるんだ」と考えることで、私たちの脳は「ちゃんとできる自分」を基準にホメオスタシスを作用させます。パフォーマンスを低下させる「恥ずかしい」がきっかけのホメオスタシスから、パフォーマンスを向上させる「自分らしくない」がきっかけのホメオスタシスへ。これが転職活動をはじめ、常に前を向いて行動するための恥との付き合い方です。

劣等感からは「ゴールの再設定」で抜け出す

社会によって埋め込まれる劣等感から抜け出すには、前提となる価値基準=ゴールを再設定する必要があります。高学歴、モデル体型や細マッチョ体型、安定した仕事に高収入。確かにこれらは多くの人が欲しがる価値です。しかしこれらは時代や場所が変われば、あっという間に変わってしまうものでもあります。

例えばひと昔なら税理士は手堅い職業でしたが、バルト三国のエストニアでは税理士の業務が全て電子化されてしまい、すでに消滅した職業になっています。日本ではお世辞にも美人とは言えない人が、海外に出た途端異性からモテまくるという話は、美の基準ですら万国共通ではないという証拠です。ゴールの再設定は、こうした幻想でしかない価値基準から抜け出すための第一歩なのです。

ゴールを再設定するときのポイントは、現状からできるだけ離れていることです。例えば「今の業界で出世する」というゴールを設定してしまうと、これまで劣等感を抱いてきた環境のルールでまた戦うハメになります。

その結果再び劣等感に苛まれる可能性が高くなってしまいます。もし業界の構造や業界で求められるスキルが劣等感の原因になっているのなら、別の業界や起業などを次のゴールに設定する方が建設的でしょう。

そうすればルールが変わり、勝てる可能性も高くなります。勝てるようになれば自信が生まれ、劣等感とは決別できるでしょう。

転職でのネガティブ感情を乗り越えよう

どんなに優秀な思考力や立派な実績を持っていても、ネガティブ感情に支配されてしまえば、パフォーマンスは物の見事に低下してしまいます。それが商談の場面なら契約はとれず、面接の場面なら不採用につながります。

これを防ぐためには、ネガティブ感情を乗り越えなくてはなりません。ここで挙げた4つの感情に心当たりがある人は、ぜひ紹介した方法を試してみてください。きっと自分のパフォーマンスがアップすることに気づくはずです。

参考文献『「感情」の解剖図鑑: 仕事もプライベートも充実させる、心の操り方』
Career Supli
面接本番の緊張を取り除く術は非常に重要ですね。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部