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転職に関する考え方を知りたければこの書籍1冊読めば十分
『転職の思考法』という書籍が話題になっています。
私の読後の率直な感想は「本質的で媚びていない、素晴らしい!」です。
転職関連の書籍は多数出版されていますが、転職に関する考え方を知りたければこの書籍1冊読めば十分と断言できます。それくらい本質的なことをズバズバと書いてくれています。
ただし、本書に書かれているのは著者も書いている通り「一生食べていくための方法論」なので、実践するのであれば多少なりともプロアクティブな行動が求められます。楽して明るい未来が待っている、というたぐいの都合の良い話ではありません。
内容に関してはすでに多くの書評があがっていますのでそちらに譲るとして、当コラムでは本書のどのあたりが素晴らしいと感じたのかを私なりに3点に集約しましたので紹介したいと思います。
1.転職エージェントの使い方を業界の構造を含めて解説していること
2.転職にとどまらずキャリア形成そのものが論じられていること
3.思考の枠組みだけでなく具体策まで言及していること
キャリアや転職に関する私の考え方についてはこれまでもCareer Supliにコラムを書いていますのでそちらを参照いただければ当コラムの理解も進むかと思います。
キャリアはどこまで設計するべきか?プロが教えるキャリア戦略
いま転職すべき!?プロが教える転職すべきタイミングのサイン
ほとんどの人が間違えている!?転職エージェントの選び方と活用方法
転職のプロが教える!キャリアコンサルタントの賢い利用の仕方
●1.転職エージェントの使い方を業界の構造を含めて解説していること

転職に限らず斡旋や仲介、エージェントなどの機能が存在している業界では、少なからず斡旋の業者が力を持つ構造になります。転職市場もご多分に漏れず、転職エージェントは情報網や一般的な知名度などで有利な立場にいることは確かでしょう。
しかし、誤解を恐れずに言いますが、転職エージェントの言うことをすべて鵜呑みにすることは危うさも孕んでいます。
本書にはこのような記述があります。
しかし、断言しますが、普通の転職エージェントに登録しても「自分にピタッと合う会社」は絶対に教えてくれません。なぜなら、ほとんどの転職エージェントは短期的な視点でしか物事を見ておらず、加えて、彼らのビジネスモデル上(詳細は本文で述べます)、1秒でも早く「企業との面接」を勧めてくるのは当然だからです。 P.7-8から引用
転職エージェントを利用して年収1000万円の人を採用すると企業は約300万円を転職エージェントに支払います。企業側から見れば募集人数全員を転職エージェント経由で採用することはありえず、チャネルを使い分けるのは当然です。
一方で転職エージェント側は転職が決まればその人の年収の約3割がフィーとして入るので上記の引用の通り短期的な視点になるのはある意味仕方ないこととも言えます。
もちろん、本書では転職エージェントを否定的に扱っているわけではなく、良いエージェントの五箇条を紹介して活用方法も紹介しています。
そして本書の登場人物で転職の指導をしている黒岩という人物はこのように締めくくっています。
つまり、私が言いたいことはこうだ。転職エージェントで紹介される案件だけで、転職先を絞ってはいけない。なぜなら、そこには本当に魅力的な求人が乗っていないことがあるからだ。もしも、自分が働きたい会社が明確であれば、様々な手段で仕事を探せ。SNSサービスや、直接応募、自分で求人を検索するという行為を絶対に忘れてはいけない。わかったか?」
P.148から引用
転職エージェントのビジネスモデルの解説や良い活用方法の明示があるかどうかで本質が語られているかを判断して良いと言っても過言ではありません。世の中に転職の指南書や記事などが溢れていますが、まずはこの部分が語られているかを確認すると良いでしょう。
●2.転職にとどまらずキャリア形成そのものが論じられていること

本書ではキャリアという言葉はほとんど登場せず、終始一貫して転職というキーワードで話が進んでいきます。これは意図的なものだと思いますが、実質的には本書は仕事を通じたキャリア形成に関する良質なガイドです。
学術的なことや専門的な言葉遣い、裏付けなどが登場しないだけで、他のキャリア形成の書籍よりもよほど分かりやすく「一生食べていくためのキャリア形成」が語られています。
まず、本書の中心的な概念であるマーケットバリューという言葉。これは本人の能力に加えて業界の生産性を含めた「給与の期待値」のことです。給与の期待値の構成要素を明らかにして、それらを高める、あるいは高いものを選ぶためにどのように考えればよいか、思考法が明らかにされています。
特に非常に勉強になるのが業界の生産性の話です。給与を高めるために能力を高めることは重要ですが、黒岩はこう断じています。
いくら技術資産や人的資産が高くてもそもそもの産業を間違ったら、マーケットバリューは絶対に高くならない。なにせ、最大20倍も違いがあるからな。個人の資質や努力で覆すのは非常に難しい
P.47から引用
いいか、特別な才能を持たないほとんどの人間にとって、重要なのは、どう考えても、どの場所にいるか。つまりポジショニングなんだ。そしてポジショニングは誰にでも平等だ。なぜなら、『思考法』で解決できるからな
P.84から引用
ここまでは能力や給与に関する話題です。ただ、キャリアのようなものを取り扱うときに厄介なのが、人には「やりたいこと」や「やりがい」なども大事にしたいという習性が備わっているということです。
この「やりたいこと」「やりがい」に関しても本書は痛烈に言い切っています。
まず、「やりたい」という言葉を
・to do型 何をしたいのかを重視
・being型 どんな状態でありたいかを重視
の2つに分けています。
そして、世の中の99%はbeing型、つまり「どんな状態でありたいか」が重要で、心からやりたいことなどない、と断言しています。
好きなことがあるということは素晴らしいことだ。だが、ないからといって悲観する必要はまったくない。なぜなら、『ある程度やりたいこと』は必ず見つかるからだ。そして、ほとんどの人が該当するbeing型の人間は、それでいいんだ
P.215から引用
その上で、being型の人間に必要なのは、RPG風に言えば
・主人公は適切な強さか (マーケットバリュー)
・主人公のことが好きか (仕事で自分に嘘をつかない)
・強い敵ばかり、弱い敵ばかりではないか(緊張と緩和のバランスが保たれているか)
の3つに集約でき、これらを保つための考え方も紹介しています。
これらのマーケットバリューやbeing型に関する流れは、キャリアでよく使われるWill、Can、Mustをものの見事に再構成して現実に即した枠組みとして捉え直していることに他なりません。
Will、Can、Mustをベン図で描いて「重なる点を見つけることが大事です」とだけ言っているキャリア形成まわりの人は本書を読んで猛省が必要と思います。
●3.思考の枠組みだけでなく具体策まで言及していること

そして3点目はお腹いっぱいになるくらい具体策に言及している素晴らしさを挙げたいと思います。
多くの人は考え方を学んだだけでは具体に落とし込めず、結局行動に移すことができません。ただ、書籍のように内容を一般化しようとすると抽象的な物言いにならざるを得ず、そうなると個別性がなく、、といったループにハマります。
このループを小気味よいくらいに打破しているのが本書がよく売れている要因のひとつだと感じます。
例えば、以下のような内容が具体的に書かれています。
・マーケットバリューの高め方
・伸びるマーケットを見つける二つの方法
・会社選びの三つの基準
・いいベンチャーを見極める三つのポイント
・いいエージェントの五箇条
ひとつひとつが納得的で、すぐにも活用できそうな方法や手順ばかりです。また、本書内での重要なポイントはすべて巻末に「ノート」としてまとめられているので要点だけを確認したい場合はそちらを参照すると便利です。
最後に大事なのは覚悟
本書のストーリーの最後のシーンで黒岩のこのような発言があります。
世の中で最も恐ろしい言葉のひとつは、失敗という言葉だ。これほど定義が難しく、残酷な言葉はない。多くの成功者が言うように、最後さえ成功すれば、その途中の失敗も、すべては『必要だった』と言える。要は考え方次第なんだ。だが、その中でも『100%失敗を招く、唯一の条件』というものがある。それは腹を括るべきタイミングで、覚悟を決めきれなかったときだ
P.234から引用
腹を括る覚悟があるかどうか。まさにそのとおりだと思います。
そしてそのタイミングはいつ訪れるか分かりません。
分からないのであれば、そのための準備を欠かさないようにすることが大切です。
では、その準備とは何をすることなのか。
本書にはそのヒントがたくさん転がっています。ストーリー形式で読後感も良いので、ぜひ手にとってみてください。


著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)
2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。
・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー
・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター
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