都内企業の56%が導入!成功事例からひもとく「テレワークの成功法則」とは

ニューノーマルな暮らしが始まってから、はや1年が経過。東京都が実施した調査によれば、コロナ禍前は24%だった都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は2021年3月後半に56.4%まで上昇しているとのこと。いまだ都心の通勤時間帯の満員電車など課題はありつつも、徐々にライフスタイルの変化が本格化しています。

とはいえ、効率化などテレワークのメリットがわかりやすく出ているケースもあれば、混乱が生じトラブルが起きているケースもあるとか。今回は、テレワーク導入して成果をあげている企業の実例を参照しながら、テレワークの成功法則を探ります。

【成功法則①】ワークフローを整備する

初めてテレワークを導入する場合、業務内容の棚卸しを行い、ワークフローを整備してから徐々に導入するとトラブル回避に役立つようです。

たとえば、2016年に総務省が選定する「テレワーク先駆者百選」に挙げられた日産自動車では、製造工程を除く全従業員が2014年より月40時間までの在宅勤務制度を導入。制度の運用にあたり、場所を選ばずに効率的にできる仕事と出社すべき仕事を仕分け、業務ルールを整理したことでスムーズな運用を実現しているようです。

さらに、時間あたりの生産性を把握する取り組みや専用サイトによる在宅勤務時の好事例の共有なども行い、成果を出せるように努めているとのこと。

小売業のイオンも、ワークフローの整備により2016年に店長の在宅勤務制度を実現したことで話題を集めました。イオンでは、業務一つひとつに対して「誰が、どの順番で、どのくらい、どのように行っているのか」を細かく整理し、職位ごとに 「出社しないとできないこと」「どこでもできること」を仕分けたところ、店長、課長職は月40時間、週1日程度の在宅勤務が可能であることが判明。

実際に制度を導入して、在宅勤務を成功させる実績をつくりました。さらに、店舗や本社の仕事の一部を障がい者にテレワークで対応してもらう、女性管理職比率を向上させることにも成功し、ダイバーシティの評価を上げることにもつながりました。

一定の時間が必要ですが、ワークフローの整備を行うことで、企業イメージの向上など効率化以上の価値が生まれるケースも多いようです。

【成功法則②】やりながら運用を改善する

テレワーク導入前の不安として多くあがるのが、出退勤の管理を中心とした「業務管理」。目が行き届かない場所で働くため虚偽の勤務時間を申請するのではないか、実はサボっているのではないかといった懸念を持つマネージャーや経営層の声がよく聞かれます。

出退勤の管理は、100名以下の規模感やスタートアップであれば、社員の自己申告制でSlack等のログイン状態を確認しながら勤務するというラフな運用体制を取る企業もあります。一方、一定規模の企業になると管理ツールの導入が必要になるでしょう。

教育大手のベネッセコーポレーションでは、在宅勤務の導入にあたり、独自に開発した勤怠共有ツールを導入。このツールは、社員の出勤予定時間をシフトで管理しつつ、出勤と退勤のタイミングで各自がボタンを押すことで、メンバーの「体調」「出社状況」「勤務予定時間」「勤務実績時間」などを共有できます。さらに、Web勤怠へ自動連携されることにより、出退勤を管理していた社員の負荷削減が期待できます。

同社はテレワークを導入した当初、メールなどで勤怠管理をしていたものの、育児中の社員のやむを得ない業務中断などにより管理が煩雑になり、担当社員に大きな負荷がかかっていたといいます。しかし、運用しながら効率的な方法を検討し、ツールの導入にいたっています。

同社の例が示すとおり、初めての試みはやってみなければ課題が見えてこないもの。コロナ禍のようにスピーディーな変化が求められる情勢であればなおさら、最初からルールをガチガチに固めずに、やりながら運用を改善していくのが成功の最短ルートといえるのではないでしょうか。

【成功法則③】在宅勤務の環境をサポートする

コロナ禍における在宅勤務導入は、ウイルス感染のリスク軽減に大きく貢献すると期待されています。ただ、社員側にとって懸念になるのは、安全、かつ快適に働ける環境を自身で確保しなければならないことです。

オフィスのように長時間働ける場所を確保するには、スムーズに仕事ができる速度のWi-Fi環境・机・イス・ライト等が必要になるほか、家族とのタイムスケジュールを調整するといった前準備が求められます。また、電気代などインフラ費用も家計で負担することになります。

日本ユニファイド通信事業者協会が一都三県の会社員5,000名を対象に実施した「テレワークに関するアンケート調査」では、テレワークで困ることの項目で「仕事をする環境の整備」や「光熱費の負担」が上位にランクインしました。

こういった在宅勤務の環境を整える目的で、月々3,000円〜15,000円ほどの在宅勤務手当を導入した企業もあります。たとえば、毎月の手当として富士通が5,000円、SmartHRが15,000円、ヤフーが7,000円を支給したほか、メルカリは6か月で6万円を支給、ミクシィは5万円の特別賞与と通勤手当を廃止する代わりに1万円の支給を実施したそうです。

さらに、富士通では在宅勤務時のセキュリティや品質面の課題解決のために、在宅勤務のノウハウをテンプレート化して提供する、社員からの問い合わせ対応にデジタル化されたサービスデスクを導入する、円滑なコミュニケーションを目的とした作業状況の可視化や情報共有などを実施しているとのこと。これらの施策により、2022年度末までには約50%までオフィスを縮小し、在宅勤務をベースの働き方とする「FUJITSU Work Life Shift」の達成を目指しているそうです。

まずは各社員の状況を把握しつつ、通勤手当を廃止して在宅勤務手当にまわすなど、取り入れやすいところから始めるのが良いかもしれません。

【成功法則④】業務外のコミュニケーション量を増やす

テレワークでは、顔が見えないコミュニケーションが基本となります。そのため、「コミュニケーションミスが起きる」「メンバーとの信頼関係を築きにくい」といった課題が多数聞かれています。

2020年のコロナ禍にサイボウズ チームワーク総研が在宅勤務者3,000人に聞いた「テレワークのコミュニケーション」調査では、在宅勤務時における職場内コミュニケーションの時間が短くなっている、若い層ほどコミュニケーションしづらさを感じているという結果が出ています。

とくに、浮き彫りになったのが「業務外のコミュニケーション」が大幅に減っていること。総計時間が「0分」「30分未満」ともに4割強となり、多くの人が業務外のコミュニケーションをまったく取っていないことが明らかに。「業務外のコミュニケーションを増やしたいか」との問いに対しては、20〜30代の若手層に「もっと増やしたい」と答えた人が多い傾向でした。

コミュニケーションしづらい理由としては、「相手の顔が見えない、状況がわからない」「電話など連絡の取りにくさ、メールなど時間がかかる」「上司とのやりとりが多い」「通信環境が悪い」「タイミングが難しい」などが挙がっています。

こうした課題に対して、多くの企業は「情報共有を増やす」「意識的に雑談する時間を作る」といった対策により、これらの課題を解決に導いています。

たとえば、業務状況や1日のスケジュールを見える化する、社内SNSなどチャットツールを導入して「雑談ルーム」を作る、ビデオ会議の開始前に雑談する時間を作る、オンラインでのランチ会を実施するなど。雑談が減ることでストレスを感じる、信頼関係に悪影響をおよぼすというアンケート結果も出ていることから、テレワーク時は意識的に雑談タイムをもうける努力が求められそうです。

過渡期だからこそ、柔軟に制度を整えよう

先進国と比較してDXの遅れが指摘される日本では、コロナ禍によりテレワークの運用が大きく進みました。成功事例は増えてきているものの、まだまだテレワークの導入は過渡期であり、多くの企業で一般的となるまでには数年規模の時間がかかるかもしれません。

だからこそ多少の失敗は重要な経験値ととらえ、トライアンドエラーを重ねることが求められます。試行錯誤を重ねて運用を整えてきた先駆者たちの成功事例を参照しながら、柔軟な姿勢で自社に合った導入スタイルを整えていくとよいのではないでしょうか。

Career Supli
テレワークに関する国際的なアンケートによると、会社員はコロナ禍が収束しても出社+リモートワークのハイブリッド型ワークを続けたいとする意見が大半を占めています。企業にとっても多くのメリットと同時に、まだ課題もあるのではないでしょうか。ぜひこの記事も参考にしてみてください。
[文]小林 香織 [編集]サムライト編集部