企業の中で出世していくためには何が必要だと思いますか?才能、能力、根性、頭の良さ、欲求、人柄、色んな要素が思い浮かびますよね。
そこで今回は、アルバイトから一部上場企業の社長になったシュッピン株式会社の代表取締役社長、小野尚彦さんにインタビューさせていただき、成功の秘訣についてうかがいました。
シュッピン株式会社はカメラをはじめ、時計、筆記具、ロードバイクといった高級嗜好品をECサイトと実店舗で扱う企業です。2015年には東証一部に上場して事業を拡大しています。小野社長は、2016年に創業者の鈴木さん(現会長)に代わり、社長に就任されています。
皆さんの仕事のヒントになるところがたくさんあると思います。聞き役はLHH転職エージェントのHR&ファイナンス紹介部シニアコンサタントの福間 啓文さんです。人事総務経理などの管理系部門の転職支援を得意としています。
地道で着実なステップアップ

− 福間)本日はよろしくお願いします。小野社長はMap Cameraの店舗にアルバイトとして入社されたんですよね?
小野)そうですね。アルバイトから数年で社員になってからは、副主任、主任、副店長、店長という形で、社長になるまで飛び級みたいなものがひとつもありません。
最年少で役員になったわけでもなく、派手な成り上がりストーリーのようなものがないんですよ。すみません(笑)。社内でも色々な仕事をしてきて、地道にここまできました。

※2005年当時のお店の外観と店内の様子
−今のお話をうかがうと、社長になろうという気持ちが始めからあったという感じではないんですね。
ないです。社長になろうというよりも、あれをやりたい、これをやりたいというのはありました。例えば店長になりたいと思ったのは、主任だと部下のお給料を決めることができないからです。
自分が指示を出して仕事を頼んでいて、僕が一番正しく評価することができるのに、その権限がありません。じゃあその権限がある店長になりたいなといった感じでした。
同じような形で、会社が大きくなるには物流が必要になってくると思ったので、社内でロジスティックスの部署を新設してもらってマネージャーをやらせていただきました。
−ロジスティクスは重要ですが、どちらかというと裏方の作業ですよね。
はい、自分で言い出したものの、いざ辞令が出て倉庫に移ってみると、正直失敗したかなと思ったときもありました。
でも僕が、店長業務が花形で、ロジが裏方というようなイメージを持ったら、そこで一緒に働く人たちに対して失礼な話ですよね。それで思い直して、高い目標を掲げて取り組むことにしました。
ISO規格を取ろうとか、クリンネス(清潔、安全な環境)では一番になろうとか、店舗の人たちに喜んでもらえるロジを作ろうとか、いつもチームに働きかけをしていました。
ロジは当社が大きくなるには欠かせない必要な機能だったので、そのときにやるといってよかったなと今では思っています。
自分なりの答えを持つこと

−高い目標を掲げることによってチームの士気を高めたんですね。他に任された仕事をやりきるために重要なことがあったら教えていただけますか。
副主任だった時だと思いますが、初めて役職がついたときに嬉しくて、今までと何かを変えようと自分で決めました。その時に『仕事とは?』、『責任とは?』という2つの問いに対して自分なりに答えを出そうと考えました。
それで、
「仕事とは?」の答えは「人のために働く」と決めました。
「責任とは?」の答えは「人が嫌がる仕事をやる」と決めました。
仕事とはお客さま、同僚、僕に期待してくれる上司、家族や親や兄弟、その全ての人のために働くこと。責任とは、責任者として、クレーム対応や人が嫌がる仕事から逃げないこと。
この二つを自分の中で決めたことで、色々な困難を乗り越えることができた気がしています。今でもすごく大事にしています。
答えはみんな違って良いし、何回変わってもいいけれど、せっかく働くなら、自分の中での仕事とはなにか、責任とは何かということを持っていたほうがいいよというのは社員全員に伝えています。
−人のために働くというのは分かりますが、人の嫌がることをやるというのは、なかなか難しいと思います。なぜできたんですか?
責任者になったときに、いいとこ取りしようと思えばできます。でもそれは違うと。
自分から見ていい上司というのは、やっぱりみんなが苦手な仕事や、やりたくない仕事、大変な仕事を率先してやっている人が尊敬できるなというのがありました。
−コミュニケーションする上で意識していたこととか気をつけていたこととかはありますか?
言いたいことは立場が上でも下でもはっきり言ってきました。セクションが違う部長や店長同士は比較的意見がぶつかることも多いですが、その切磋琢磨が会社を大きくすると思っています。
あと、性格的なものもあると思いますが、誰に対しても接し方が変わりません。すごくニュートラルで、怒るときも褒めるときも誰に対しても一緒です。
好き嫌いや相性などで仕事の依頼の仕方に偏りがでないように、すごくニュートラルにいることを心がけています。
360度いろんな角度から考え抜く

−役職が上がってくるごとに、ミッションや達成しなければいけないことが大きくなっていくと思いますが、どうしたらやりきることができるんでしょうか。
当然努力することも重要ですが、僕の中では大事にしているのはよく考えること。社会人になってから、仕事のことを考えていない時間のほうが少ないと思います。
多分寝ている時間も考えているんじゃないかというくらい色々なことを考えています。考えないと逆に不安です。
役職が上がるにつれて、自分の決断で多くの社員が動くことになります。僕が間違った決断をすると間違えた方向に全員が動くので、無駄な働きになってしまいます。
そうならないように、自信を持って発言しなければいけないので、自信を持ちたいならよく考えることだと言い聞かせています。逆に、良く考えたことなら自信を持つべきだと思っています。
※時計販売店GMTの外観
−どうやったら上手く考えることができるのでしょうか?
小野:色々な角度から物をみることです。たとえばショーケースにデジタルカメラが置いてあったらお客さまは操作性のため裏側をみたいんですよね、液晶の大きさとか。
それと同じように物事って前後左右360度いろんな角度から見ないとわからないんですよね。
よく考えるというのは一方通行で物を考えずに360度のいろんな角度からみることです。360度ぐるぐる見て、考えた結果なら自信を持っていいと思います。
−360度色々な角度から見られるようになるにはどうしたらいいでしょうか?
僕も今は癖がついてきているので自然とできますが、当初は無理やり色んな角度から見るようにしていたかもしれません。日常の中でちいさな変化を意識的に起こすといいかもしれません。
通勤経路を変えるとか、いつもと違う道を歩くとか、一駅前で降りるとか。それも飽きたら街中の青いものだけ、赤いものだけに注目して歩くというようなことをしたこともあります。
そうすると今まで気づかなかったことに気がつきます。そうやって、毎回変化することを意識するとモノの見方も変わってくると思います。
仕事は自らもらいにいく
−これは失敗だったという事例があれば教えてください。
店長の時に、初めて社内の基幹システムを作るというプロジェクトを担当しました。まだ100人もいない会社だったので、社内のことで知らないことはないと自負していました。
ところがいざ作ってみると多くの部署から使いにくいと言われました。コテンパンに言われて心が折れました。他の人の細かな仕事についてもわかっていると思っていたようで、実は全く理解していなかった。自分の知らないことがまだまだあるなと反省しました。浅はかだし天狗になっていました。
その時気がついたのは、週休2日のローテーションで働いていたので、月に20日しか働いていない。そうするとそれ以外の10日は自分がいなくても会社は動いている。がんばっているつもりでも、それは2/3であって1/3は自分以外のひとの力であり、仕事はみなの力で動いているということ。
その時に周りのスタッフへの感謝の気持ちが強くなって意識が変わりました。それと同じように、自分ができていると思っているだけでお客様に対してできていないこともたくさんあるんだろうなということに気がつき、接客についてもあらためて見直すキッカケになりました。
−企業で出世していくために重要なことは?
仕事は僕の場合、上司や会社から仕事をもらうということです。仕事をあえてもらいにいく。つぎは何をやりますか、と聞きにいく。これがすごく大事だと思っています。
これやりたい、と言うものもちろん大事です。降りてくるのを待っているのであればチャンスはつかめないと思っています。
たとえば入社したときにまず店舗に配属されると、先輩に「ショーケースを拭いて来て」といわれます。「ショーケース拭き終わりました、次はなにをやりますか」と聞く、指示される、「終わりました、なにやりますか」、指示される、最初はこの繰り返しです。
しかしいつくらいからか、「次はなにをやりますか」とは聞かなくなります。そのころがちょうど会社に慣れだした頃です。自分ひとりで自分の仕事を組み立てはじめます。
そうなるとだめだと思っていて、自分の仕事に対してひとりで上限を決めてしまい、これができていればOKと、そこで満足してしまい成長が止まります。
そうではなくて仕事は常にもらいにいかないといけないし、やりたいことがみつかれば、やっていいですかと聞くというのがすごく大事だと思っています。それが仕事の幅を広げ視点も広がり、つぎのチャンスや成長につながります。

−メルカリなども出てきて競争が厳しいと思いますが今後の展開について伺えますか。
進化と深化という二つのテーマを掲げています。この二つのバランスが僕らのビジネスにはすごく大事。専門店なので、深く掘っていくところにこだわっていくことと、新しいテクノロジーを入れて進化していくという二つのことに着目してビジネス展開を行っています。
特に僕らはテクノロジーを開発する会社ではないので、新しく出てくるテクノロジーをどのように僕らのサイトに取り込んで使うかがポイントです。
レコメンドの機能にAIを入れたりとか、one to oneマーケティングということで欲しいものリストに商品を入れておいたら入荷の連絡が届いたり、新しいレビューがついたらメールがきたりとかそういった機能をどんどんいれていきます。
僕らのサイト上にはコツコツアップしてきた500機種分のレビューがあります。ライバル店がこれをやろうと思ってもお金では買えなくて、僕らがかけた時間と同じ時間がかかる。こういったネット上のコンテンツは資産として残るので、深く掘る方の深化として大事にしています。
フォトプレビューサイト:Kasyapa
自分で決めるチャンスがある新しい会社
−物が好きな人が多いのかなと思いますが、実際にはどういう人が御社で活躍されているんですか。
今は色々なスタッフが働いていて、趣味嗜好品なので時計、万年筆、ロードバイクが好きというスタッフも多い。あともうひとつはイーコマースで成長できている会社なので将来性があるという目線でみてくれて働いている人もたくさんいます。
僕らの場合だと自分たちのサイトが一番のサービスですから自社でサイトを構築しているので、システム系のエンジニアのひとたちも活躍しています。去年から新卒採用もはじめて、さまざまなタイプの人が働ける環境ではあると思います。
−シュッピン社で働くと社員にはどのようなチャンスがありますか?
若い会社で挑戦しがいのある会社だと思います。まだ何も完成されていない会社です。チャンスというのは与えられるものではなく、自分で見つけるものだと思います。社員にもよく言うのですが、会社にあるものは必ず誰かが決めているんですね。
たとえば会議室のTVや椅子を買おうと決めたのも誰かだし、社内のルールもそうです。絶対に決めた人がいるんです。ということは、みんなにもそれを自分で決められるチャンスがあるんです。
会社のなかに自分が決めたことが採用され、いわば自分の軌跡を残していくような経験をたくさん積むことは、単純におもしろいのではと思います。
まだまだこれからの会社で色々なことが変わっていくと思うし、時代も変わっていくので、そういう意味では変化するたびにまた何かを決められるチャンスがある会社にしていければいいかなと思っています。
−LHH転職エージェントもお役に立てるように頑張ります。本日はありがとうございました。

