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「好きなことだけやって生きていく」は夢物語か?
好きなことを仕事にして生きている人は数多く存在するものの、「そうは言っても自分には無理だ」と諦めている人も少なくないのではないでしょうか。
しかし実は好きなことで十分生きていける時代はすでにやってきていますし、『明石家さんちゃんねる』や『オトナの!』などを手がけた人気テレビプロデューサーの角田陽一郎さんによれば「好きなことでしか生き残れない時代」も目前に迫っているそうです。
角田さんの著書『「好きなことだけやって生きていく」という提案』の中には、明石家さんまさんや水道橋博士さん、西野亮廣さんなどの業界人と角田さん自身が実践している「好きなことだけやって生きていく」ための実践的なノウハウが4つのステップに分けて書かれています。ここでは本書を紹介しつつ、「好きなことだけやって生きていく」ことの是非について考えます。
「好きなことでしか生き残れない時代」は近い
未だに日本では「好きなことを仕事にするなんて甘い!」という考え方が一般的です。しかし角田さんによれば、近い将来「好きなことでしか生き残れない時代」がやってきます。
2015年12月2日に発表したリリースの中で野村総研は、10〜20年後のうちに日本の労働人口の約49%がAIやロボットに仕事を奪われるという見込みを示しています。ではどんな仕事が人間から取り上げられるのでしょうか。
角田さんはこれを「やりたくない仕事」つまり「好きじゃない仕事」からなくなっていくと予測しています。なぜなら仕事の効率は、「やりたくない」「好きじゃない」と思いながらやると確実に低下するからです。
モチベーションの部分で効率が低下するのであれば、モチベーションなど関係なく高効率の仕事ができる機械にやらせた方が合理的です。結果、人間が就ける仕事というのは「好きなこと」だけになるというわけです。
このように考えると「好きなことだけやって生きていく」は夢物語どころか、生存戦略だということがわかります。しかしこれまで「仕事=やりたくないこと」という図式を当たり前のように受け入れてきた人にとって、好きなことを仕事にするなんて想像もつかないかもしれません。
そこで以下では角田さんの著書の構成に沿って、好きなことだけで生きるための実践的な4つのステップを紹介します。
「好きなことだけ」で生きるための実践的4ステップ

●ステップ0:「好きなこと=夢」という図式を忘れる
4つのステップに入る前に、「好きなこと」を再定義しておく必要があります。なぜなら「好きなことだけで生きていくなんて無理」と考える人の多くが、その生き方がすなわち「夢の実現」「キラキラした才能が必要」「一握りの天才のもの」だと考えているからです。
確かにこれではなかなか好きなことだけで生きていくのは難しそうです。これについて角田さんは著書の冒頭でこう記しています。
夢の実現が難しかったり、今、叶えたい夢がなかったりするなら、ほかの「好きなこと」をこれからつくればいい。引用:前掲書p8
例えば好きなことの定義を広げて、「趣味」「興味のあること」「気になっていること」も視野に入れれば、好きなことだけで生きていくための選択肢も一気に増えます。
生存戦略として好きなことを仕事にするには、まず「好きなこと=夢」という図式を忘れ、好きなことの間口を広げる必要があるのです。
●ステップ1:「好きなこと」を増やす
好きなことの間口を広げると、好きなことを増やすこともできるようになります。好きなことが増えればさらに好きなことだけで生きていける可能性も増えます。例えば角田さんは好きなことを増やす方法として以下のようなものを挙げています。
・日常生活で知らないこと、気になることがあったら、間髪入れずにネットで検索して調べてみる。
→好きになるかもしれないことにアンテナを張っておく。
・「嫌いだ」「つまらない」という先入観を捨て、「嫌いなこと」「つまらないこと」ときちんと接してみる。
→人が「嫌いだ」「つまらない」と言うとき、多くは食わず嫌いになっているだけの場合が多い。まずは食べてみる癖をつける。
・嫌いなことも自分とは関係ないことも、すべて「自分ごと化」してみる。
→歴史が嫌いでも、野球が好きなら「戦前の野球史」という形で歴史を自分の好きなことと結びつければ自分ごとになる。一見自分とは無関係な政治も、政治家の発言などと自分の生活を結びつければ自分ごとになる。
こうした方法で見つけた好きなことを掘り下げたり、繋げたりすれば、それがそのまま仕事になっていく可能性も十分あります。
例えば筆者の場合、3年以上筋トレを趣味にしてきましたが、3年目に入った頃から筋トレに関する記事執筆の仕事が増え、単なる趣味が仕事のタネになっています。
しかし同時にそのままでは仕事にならない好きなことも無数に存在します。それらを昇華させるのがステップ2以降です。
●ステップ2:アイデアを生み出す
好きなことから、他人が魅力を感じるようなアイデアを生み出すのが2番目のステップです。アイデアと聞くと「ひらめきの才能なんて自分にはない」と思う人もいるでしょう。
しかし角田さんいわく、独創的なアイデアを生み出すためには、天才的なひらめきは不要です。なぜなら世の中で「新しい」とされているものは、既存のものと既存のものをうまく組み合わせたものが大多数だからです。
例えば「乳酸菌チョコレート」はどちらもありふれた「乳酸菌」と「チョコレート」の組み合わせです。2017年のゴールデンウィークに話題を呼んだAbemaTV1周年記念企画「亀田興毅に勝ったら1000万」は、「元ボクシング世界王者」と「素人ボクサー」の組み合わせでした。
角田さんがプロデュースするテレビ番組『オトナに!』は、「ユースケ・サンタマリアさん」と「いとうせいこうさん」というMCに、毎回年代や業界の違う「オトナ」を組み合わせることで、独特のコンテンツを生み出しています。
音楽の世界でも「どこかで聞いたことのあるフレーズ」と「最新のアレンジ技術」の組み合わせで、多くのヒット曲が生み出されているそうです。
しかし組み合わせればいいといっても、そもそも組み合わせるためのストックがなければ意味がありません。そのためには固定観念や先入観を捨て、あらゆることに接しておく必要があります。
例えばキングコングの西野亮廣さんや水道橋博士さんは、角田さんが「この映画は面白かったですよ」というと、無理やり時間を作って観に行くのだそうです。
こうした「他人が面白いと思うモノ・コト」に飛びついてみるのも、自分の中のストックを増やすのに効果的です。
ところがどんなに引き出しが多くて独創的な組み合わせを思いついても、他人に受け入られなければ「好きなことだけやって生きていく」は実現できません。
他人から受け入れられるアイデアがどんなものなのかを勉強するのに最適なテキストが、「流行りのもの」「すでに売れているもの」です。
これらに対して拒否反応のようなものを持っている人も少なくありませんが、その姿勢は「売れる理屈」を学ぶという視点からいえば大きな間違い。
どんなものでも「なぜ受け入れられているのか」を学ぶことが、好きなことだけやって生きていくための足がかりになります。
●ステップ3:アイデアを伝えて「仕事」にする
どんなに面白いアイデアも、それが魅力的に見えるように他人に伝えられなければ仕事にはなりません。そのためアイデアの伝え方を学ぶ必要もあります。
例えば角田さんは、著書の中で「聞き手を当事者にする」「聞き手を気持ちよくする」という視点を紹介しています。
自分の伝えたいことを100%伝えようとすると、私たちはつい聞き手を情報量で圧倒してしまい、完全な「お客さん」にしてしまいます。
あるいは相手の気持ちを忖度しすぎると型にはまった話しかできずに、これもまた相手を「お客さん」にしてしまいます。このような状況を防ぐためのテクニックが「聞き手を当事者にする」なのです。
具体的には「わざと突拍子もないことを言って突っ込ませる」「わざと相手の感情を逆なでして、その後完璧なフォローを入れる」といった方法があります。
一方的なプレゼンテーションではなく、双方向のコミュニケーションにすることで、相手をこちらの話に引き込んで当事者にするわけです。
「聞き手を気持ちよくする」ための方法の一つとして角田さんが挙げているのが、明石家さんまさんの会話の特徴である「常に二言多い」です。
さんまさんはかつての人気番組『恋のから騒ぎ』で、出演者の女性たちのエピソードを聞きながらボロクソに悪口を言っていました。しかしさんまさんはその悪口のあとに必ず「そんなにかわいいのに」という二言目を付け足すのです。
この二言目が足されることで、それまでのどんな悪口も一瞬で帳消しになり、むしろ彼女たちの魅力を引き立てる褒め言葉になるのです。引用:前掲書p177
さんまさんの話術はこの「常に二言多い」を含めて、聞いている側も言われている側もみんながなんとなく嬉しく、楽しくなる要素で溢れています。
さんまさんの伝える技術を自分の中に取り入れられれば、「好きなことだけやって生きていく」の実現も一気にスムーズになるでしょう。
●ステップ4:「好きなこと」を仕事としてやり続ける
好きなことを仕事にしていても壁にぶつかる時はあります。むしろ、好きなことを仕事にしているからこそぶつかる壁もあります。
しかしそこでくじけていては、あっという間に「やりたくないこと」「好きじゃないこと」を仕事にする人生に戻ってしまいます。そのような事態を防ぐには、どうすれば壁を乗り越えられるかをあらかじめ考えておくべきでしょう。
角田さんは著書の中でそのためのヒントをいくつか紹介しています。例えば「他人からの評価に振り回されず、自分の価値を自分で決められるようになっておく」「いずれなくなる『若さ』以外の強みを、一つでもいいから作っておく」などです。
好きなことを仕事をする前から、「どうすれば壁を乗り越えられるか」と言われてもピンとこないかもしれません。ただ誰もが何かしらの壁に直面することは確実です。
その時にパニックにならないためにも、あらかじめ「壁はある」という認識を持っておくようにしましょう。
「好きなことだけ」で生きる決意を持とう

『「好きなことだけやって生きていく」という提案』のステップ1の部分で角田さんも触れていますが、好きなことだけやって生きていくには決意が必要です。
筆者は「文章を書く=好きなこと」だけで生きる人間の一人ですが、これまでこの決意の必要性を感じたことが少なくとも二度ありました。
一度目は周囲からの声にさらされたときです。冒頭でも述べた通り、今の日本ではまだ好きなことだけやって生きている人は少数派です。
すると「そんな甘い生き方ではやっていけない」「後悔するぞ」という声があちこちから浴びせられます。
このとき「絶対にこの道(好きなこと)で生きていくんだ」という決意がなければ、心が揺らいで周囲の人たちと同じ「好きじゃないことで生きる」羽目になっていたでしょう。周囲の声に流されないためには、決意が必要なのです。
二度目は仕事が増えてきたときです。筆者はいくら文章を書くのが好きだからといっても、どんな文章でもいいから書ければいいわけではありません。
しかし好きなことだけやって生きていく決意が弱いと、書きたくない仕事の依頼をされたときも「いつ仕事がなくなるかもわからないんだから」と引き受けてしまいがちです。
実際何度かそうした仕事を引き受けて、毎回後悔した経験もあります。これでは何のために好きじゃないことから足を洗い、今の仕事を選んだのかがわからなくなってしまいます。
好きじゃないことに引き寄せられないためにも、やはり決意が必要なのです。
ただ、逆に言えば好きなことだけやって生きていく決意さえあれば、角田さんの挙げる4つのステップを進む十分な原動力になります。まずは腹をくくる。それが好きなことだけやって生きていく第一歩になります。
「好きなことだけやって生きていく」は実現可能
SNSやクラウドソーシング、クラウドファンディング。ビッグデータやAI、IoT。多くの情報とツールがある現代は、好きなことが十分お金になる時代です。
もちろんやり方次第では、組織の中で好きなことだけやることだってできるでしょう。好きなことだけでは生きていけない理由を探すのはもうやめにして、「好きなことだけやって生きていく」ための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
参考文献『「好きなことだけやって生きていく」という提案』

