スクワットアドバイザーが語る!現代人にとっての「最強のスクワット」とは?

もっと「スクワットの凄さ」を知って欲しい!

「ダイエットでも、運動不足解消でも、筋トレでも、最初に始めるべきはスクワットだ!」3年以上独学で筋トレを続けている筆者は、友人や家族にスクワットの重要性を説き続けてきました。

しかし今ひとつ理解してもらえず、多くの人が形ばかりの腹筋から始めることに歯がゆい思いをしていました。このままではラチがあかないと考えた筆者は、スクワットの専門家に会って直接話を聞き、プロの視点からスクワットの凄さを教えてもらうことにしました。

スクワットアドバイザー・小川りょう先生

お話を聞かせていただいたのは健康運動指導士/スクワットアドバイザーの小川りょう先生。25年もこの世界で活動されている健康づくりのプロです。

小川先生は「スクワットアドバイザー」を肩書に掲げ、2014年には早稲田大学大学院スポーツ科学研究科で、スクワットに関する論文を書いて修士号も取得されています。

さらにはスクワットフォームを補助する器具「スクワットボード」を開発し、4年半かけて特許を取得。現在は商品化のために尽力されています。小川先生がここまでしてスクワットを重視する理由とは、何なのでしょうか。

●コンセプトは「健康寿命の延伸」

小川:日本は世界一の長寿高齢国です。この先90歳、100歳は当たり前で、珍しくなくなります。我が国が「骨折大国・寝たきり大国」と言われていることをご存知ですか?

加速する高齢化の中で、要介護となったり・寝たきりとなる人が続出しています。そこで、まず私は独立した2000年に迫り来る超高齢社会を見据えて「健康寿命の延伸」を自身の活動コンセプトに据えました。

また、独立した頃に実父が転倒・骨折から寝たきりになり、その後亡くなるまでの15年間自宅で寝たきり生活を送っていました。介護者を抱える家族として、本人の問題ばかりでなく、世話をする側の精神的・肉体的な健康問題など、どれだけ大変か、身をもって味わってきました。

健康づくり指導者として、「人は、いずれは寝たきりになるだろう。でもそれまでの期間を長くすることは個人の努力で大いに可能だ。だから自分はその分野で役立つ指導者になろう」と決めました。私の全ての活動はこのコンセプトにつながっています。

●スクワット=面倒くさいを払拭したい

小川:スクワットは「何か面倒くさそう」といったイメージを持っている人も多いと思います。しかし本来スクワットは筋力運動の王様と呼ばれています。

20代ならダイエットやシェイプアップといったプロポーション維持、30代・40代ならメタボ対策や運動不足解消に、50代・60代なら生活習慣病対策、足腰の筋力維持、高齢者になったら寝たきりの予防・改善と、様々なメリットがあります。

だから年代や対象者によって話の切り口を変えたりして、「楽しく」スクワットをレクチャーしています。例えば、サラリーマンであるならば、引き締まったヒップになりモテますよ!とかね笑。最初は興味を持ってもらうだけでいい。しかしどこかで重要性を理解すれば行動変容が起こります。

そしていつかスクワットを始めて、習慣化し、その方が年齢を重ねたときまで継続してもらい、丈夫な足腰の維持につなげて欲しいという意図があります。

スクワットこそがキング・オブ・エクササイズ

●単関節運動(OKC)と多関節運動(CKC)の違い

小川:スクワットが作用するのは下半身全体及び体幹部です。具体的には主動筋である大腿四頭筋をはじめ、臀筋、大腰筋、内転筋、ハムストリングス、下腿三頭筋(ふくらはぎ)、脊柱起立筋といった非常に多くの筋肉に作用します。

なぜかというと、スクワットが股関節・膝関節・足首関節という3つの関節にまたがる多関節運動(CKC)だからです。 例えば、スポーツジムでマシンを使って行うレッグカールやエクステンションなどの単関節運動(OKC)とは違い、多関節運動は一度に多くの筋肉群が共同して働きます。これがスクワットが一度に多くの筋肉を鍛えられ効率的だという根拠です。

CKCの代表であるスクワットは、共同的な筋収縮が起こることで、筋肉だけでなく、人が自分の身体を自由に動かすために必要な運動器(骨、関節、筋肉や神経)全体に作用します。ですから高齢者や体を動かすことが苦手な方でも、日常の動作をスムーズに行えるようになるという効果も期待できます。

●スクワット最大の問題点は「フォームの難しさ」

小川:スクワットはその場でできる手軽なエクササイズです。しかしスクワットには大きな問題があります。スクワットはフォームが難しいのです。だからみなさん自己流のフォームになってしまっています。 指導者からすれば、非常にもったいない、惜しいやり方をしている方がたくさんいらっしゃいます。

せっかくやる気になってスクワットを実施しているのに、知らずに膝関節を痛めるフォームや効率的でないやり方をしている。指導者としてここにジレンマを感じるワケです!

小川先生はこの状況を打破するために補助器具「スクワットボード」を独自に開発し、特許を取得。さらには早稲田大学大学院スポーツ科学研究科では「中高齢者における補助器具を用いた自重スクワットがフォームに与える影響」というタイトルで修士論文を書き、その有用性を検証し科学的に証明しています。

最高効率で足腰を鍛える最強のスクワットフォームとは?

小川先生がそれほどまでに情熱を注いだスクワットのフォームとはどのようなものなのでしょうか。詳しく聞いてみたところ、小川先生はスクワットボードを使いながら、健康寿命の延伸=足腰の筋力維持強化を目的とするスクワットの正しいフォームを教えてくださいました。

以下では小川先生のフォームを参考にしながら、押さえておくべきポイントを解説していきます。

●健康寿命が延びるスクワットフォームとは?

フォームのポイントは全部で4つです。

1.膝を前に出しすぎない(赤のライン)
→目安はつま先の延長線上ラインまでです。この状態であれば膝から下の部分は地面に対して垂直に近いため、膝関節にかかる力は最小限で済みます(赤の点線)。しかし後述するようにつま先ラインを超え、膝が前に飛び出しすぎると、膝関節が鋭角になるため、非常に脆弱になります。このため、膝関節に大きな負担がかかってしまうのです。

2.腿の付け根から屈曲させる(青のライン)
→膝を前に出しすぎずにしゃがむには、お尻を後方に引くようにします(青の矢印)。この動きをすると自然と骨盤が前傾し、股関節が青のラインのように屈曲され、ハムストリングスやお尻の筋肉にも負荷がかかります。これにより、下半身のより広い範囲の筋肉に効かせることができます。

3.足幅は肩幅に開き(緑のライン)つま先を少し外に向ける(黄色の円)
→小川先生曰く、「足を肩幅に開いて」と言われても人それぞれで、女性は小さく広げる傾向にあり、男性は大きく広げる傾向があるのだとか。ここからさらにつま先を少し外に開きます。目安は30度。これはヒトが足を肩幅に開いたときの人間の体にとって自然なつま先の向きです。

4. つま先と膝の方向を合わせる
→しゃがむときは、足のつま先方向に膝を向けます。厳密には足指2指と3指の間に膝関節中点を向けるようにします。これにより膝位置の傾きによる膝関節への負担を防ぐことができます。このとき、目線は前に向けます。下を向いてしまうと背が丸まってしまうからです。慣れない人は、まず自分のフォームを鏡などでチェックしながら行っていきましょう。

以上をしっかりと守っていれば、足腰全体をまんべんなく鍛えるスクワットが、安全にできるようになります。小川先生はまずこれを「1セット15回×週2〜3回×3ヶ月」続けるようにと言います。その頃には徐々に足腰が強くなり、効果を実感できるはずです。なお強度はしゃがむ深さが大きくなるほど強くなります。ただし安全性の観点から、一番深くても太ももが床に平行になる程度にとどめておきましょう。

●男性に多い「ヒンズースクワットもどき」

続いては健康寿命の延伸=足腰の強化という目的においては、「間違っている」とされるフォームについて解説していきます。

小川先生が「特に中年男性以上の世代に多い」と指摘するフォームが、腕を大きく振って深く沈み込む「ヒンズースクワットもどき」です。世代によっては「スクワットといえばこれでしょ!」という人もいるかもしれません。

しかしこのフォームでは膝が大きく前に出てしまうため、膝関節に大きな負担がかかります。さらに足首が浮いてしまうと、足首関節にも大きな負担がかかるうえ、腕の振りと合わさって体勢も不安定になるので怪我の恐れも生じるため、一般の方には向きません。

●女性に多い「膝曲げしゃがみ」

小川先生が「圧倒的に女性に多い間違い」と指摘するフォームが「膝曲げしゃがみ」です。これをスクワットと思っている方が多いのだそうです。

このフォームでは写真のように上体が真っ直ぐのまま、ただ膝を曲げています。これでは股関節屈曲が無く、臀筋、ハムストリングスが使われないだけでなく、膝が前に出てしまうために膝関節にも負担がかかってしまいます。

●スクワットのフォームの正誤は「目的」が決める

スクワットには無数の種類があり、あえて膝を大きく前に出して大腿四頭筋に効かせる「シシースクワット」というやり方もあります。しかしシシースクワット=絶対にやってはいけないスクワットではありません。

小川先生曰く「スクワットには『正しい』とか『間違っている』はありません。強いて言うのであれば、その人の目的に合っているスクワットフォームを選択しているかどうかが基準になります」。

シシースクワットも本来は本格的に筋トレをする人たちや熟練した指導者のもとで実施する、大腿四頭筋に特化したエクササイズとして行うものです。つまり大腿四頭筋だけを鍛えるという目的においては、シシースクワットは「正しいフォーム」なのです。

ところがこれが「健康寿命の延伸=足腰の維持強化」になると話は別。下半身全体をまんべんなく、かつ安全に鍛えることができないため、「間違ったフォーム」となります。

成功へのカギ!習慣化のコツは「忘れないこと」

ここまで読んだ人の中には「今はまだいいでしょ」「やっぱ面倒だなあ」という人もいるのではないでしょうか。小川先生はそんな人のために、スクワットの習慣を始めるときのコツを教えてくださいました。

小川:「気付いたときに10回でも15回でもやって」と言っています。「覚えていて」というよりも「忘れないで」という感じですね。

理想的なのは食事と同じで1日3回、朝昼晩15回ずつです。できれば満点!でもそれは無理だと思うのです。最初のうちはできていても、そんなに長くは続かないでしょう。

だから「まずは3日に1回、週に2回はやってください」と提案します。大切なのは「細く長く続けて、やめてしまわないこと」。それが継続へのカギです。

独立前、スポーツクラブのインストラクター時代の話ですが、最初入会されて、毎日来る人は基本的にある日突然来なくなって、半年ほどで退会します。一方、最初から焦らずに週1~2回で続けた人は、5年も10年も通い続けることが多いのです。

だからインストラクターは最初から飛ばしすぎている人をなだめるのですよ。確かにやる気があるのに週1~2回では物足りないぐらいだと思います。でも指導者からすれば、それぐらいが継続のためにはちょうど良いからです。

はりきり過ぎは厳禁。「物足りないかな・・・」くらいでとどめておけばポキッと折れることなく「またやりたい」につながりやすくなります。これはスクワットに限らず、どんなことにも応用できそうな考え方です。

自分も周りも「ずっとエネルギッシュな人生を送る」ために

キング・オブ・エクササイズ=スクワットは「足腰の強化」という目的において最強のエクササイズです。小川先生に教えていただいたフォームさえ会得すれば、忙しい現代人でもしゃがむだけで魅力的なプロポーションが手に入り、さらには丈夫な足腰を最高効率で手に入れることができます。

筆者自身スクワットに関しては「重要な筋トレ種目の1つ」程度にしか考えられていませんでした。しかし今回お話を伺って、スクワットの重要性は人生全般に及ぶのだということを理解できました。小川先生、本当にありがとうございました。

自分も周りも「ずっとエネルギッシュな人生を送る」ためには、まずスクワット。みなさんも「1セット15回×週2〜3回×3ヶ月」からスクワットを始めてみましょう。

[小川りょう先生:プロフィール]
愛知県出身の健康運動指導士/スクワットアドバイザー。外資系ホテルインストラクターを経て、2000年にフリーランスとなる。健康づくり指導者として活動スタート、健康増進事業代表を務め、現在に至る。豊富な経験と確かな指導力、気取らない人柄で、カルチャースクール講師や、講演・セミナー講師をはじめ、イベント・ワークショップや、企業との商品開発、書籍・雑誌でコラムなどを執筆・監修。足腰運動スクワットの普及に尽力しており、自ら考案したスクワットボードを用いて、健康・美容に役立てるスクワット指導を行っている。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。
Career Supli
少しずつでいいからスクワットを習慣化させていきたいですね。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部