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「当たり障りのない志望動機」に勝機なし
転職活動を進めるにあたって、誰もが必ず考えなければならないのが「志望動機」です。志望動機は単に「その会社に入りたい理由」というような生半可なものではありません。「会社のホームページを見て、こういうところが良いと思った」などといった、転職を希望する人でなくても思いつくような当たり障りのない志望動機では、勝機はほとんどないでしょう。
そのような志望動機で終わらないためには、志望動機を「その会社でなければならない理由」にまで高めなくてはなりません。ここではそのためのポイントを、3つに分けて解説します。
自分のキャリアを「客観的に」棚卸ししよう
説得力のある志望動機にするには、大きく「自己分析」と「企業研究」が必要です。このうち自己分析は「キャリアの棚卸し」と「自分自身の分析」に分けることができます。以下ではこのうちまず「キャリアの棚卸し」について解説します。
●「キャリアの棚卸し」の意味
棚卸しとは期末に現時点での在庫を全て確認し、いったいどんな商品がどれだけ在庫されているのかを確かめる作業を言います。キャリアの棚卸しは、これを自分のキャリアについて行う作業です。
「その会社でなければならない理由」である志望動機を考えるのに、なぜキャリアを棚卸しする必要があるのでしょうか。それは自分がこれまで実際にやってきたことを前提として、転職を希望する会社で何ができるかを考えるためです。
面接官も自分の会社に入ってその人が何をしてくれるのかについては、必ず知りたい情報です。志望動機だけでそれを全て伝える必要はありませんが、「これができるから御社を希望している」ということは志望動機の時点で伝えるべきでしょう。
●まずは自分でキャリアを振り返ってみる
キャリアの棚卸しには自分で棚卸しする段階と、客観的に棚卸しする段階があります。前者では「入社何年目の時はこんな仕事をした」というように入社年数を軸に棚卸ししても構いませんし、ジョブローテーションが確立している会社に勤めている人ならば「営業部にいた時はこんな仕事をした」「経理部にいた時はこんな仕事をした」といったように、所属部署を軸に棚卸しをすることもできます。具体的には次のような手順で、紙やノートなどに書き出しながら行いましょう。
1.棚卸しの軸を決める(入社年数、所属部署など)
2.当時の日記やメモを見ながら、実際に自分が携わった仕事を箇条書きにしていく。
3.細かいエピソードなどを箇条書きにした仕事の隣に、できるだけ具体的に書き出す。
4.最後に仕事内容とエピソードから導き出せる自分のスキルについて書き出す。
●「客観的な棚卸し」とは?
キャリアの棚卸しの次の段階は、客観的に棚卸しをする段階です。「できて当然だと思っていること」「無意識にやっていること」は、どんなに会社の業績や人間関係に良い影響をもたらしていても、自覚しづらいものです。
自覚していないものは、どれだけ自分でキャリアの棚卸しをしてみても見つけられません。そこで同僚や上司などに、自分がどんな形で他の人の役に立ってきたかを尋ねるのが「客観的な棚卸し」です。
しかし「転職を考えているんだけど……」などと相談してしまうと、棚卸しどころではなくなってしまいます。「今後の仕事の方向性を見定めたい」などと、あくまで今の会社で自分が何をできるかを考えているという姿勢で尋ねるようにしましょう。その際は自分で棚卸しをした時と同じような手順で、できるだけ具体的な情報を引き出すようにします。
自分の「好き」を徹底的に洗い出す

●「好き」は熱意ある志望動機を作る
「これができるから御社を希望している」というメッセージを伝えるための準備がキャリアの棚卸しなら、「これがやりたいから御社を希望している」というメッセージを伝えるための準備が自分の「好き」を理解する作業です。
キャリアの棚卸しをすれば、人材としての有用性はアピールできるでしょう。しかしそこに熱意は込められていません。熱意を込めるには自分の「好き」を理解して、それを前提とした志望動機を考える必要があります。例えば以下のうち、面接官の心に響くのはどちらの志望動機でしょうか。
【1】 自分は10年間営業マンとして働き、チームマネジメントでも結果を残してきました。そのため御社の主要製品である油圧ショベルについても今以上の業績を上げられると考え、志望いたしました。
【2】 自分は10年間営業マンとして働き、チームマネジメントでも結果を残してきました。また幼少期からショベルカーが大好きで、学生時代には車両系建設機械運転技能講習を受け、工事現場でのアルバイトもしていました。そのため御社の主要製品である油圧ショベルについても今以上の業績を上げられると考え、志望いたしました。
単にショベルカーへの「好き」をプラスするだけで、油圧ショベルを取り扱う会社を志望する必然性が生まれるのです。
●「好き」を掘り下げる2つの方法

自分の「好き」を深いところまで掘り下げるには、以下の2つの方法があります。
1.「好きなモノ・コト」を100個以上書き出す
2.「ずっと続けていること」をリストアップする
1はブレーンストーミングのようなもので、思いつく好きなモノ・コトを片っ端から書き出していく方法です。書き出す時は項目の間に矛盾が起きても無視してしまいます。例えば「外でバリバリ運動する」のすぐ後に「家の中で引きこもる」が来ても構いません。最終的に全体を見て「自分は概ねこういうことに惹かれているんだなあ」ということが把握できればこの作業は成功です。
2は1よりもじっくりと自分の「好き」について考える方法です。筋トレやジョギング、習い事など意識的に続けていることはもちろん、無意識のうちに行っている仕事時の習慣や、意識しなくても守っている自分ルールなどもリストアップしましょう。人は嫌いなモノ・コトは継続できない生き物なので、続けていることの中には必ず自分の「好き」があるはずです。
これらを通じて「自分が惹かれていること」「自然と続けられるほど自分が好きなこと」が明確になったら、それらを転職を希望する会社の事業や経営方針などを見比べてみましょう。仮に一致点が見つかれば、それは説得力のある志望動機のタネになります。
「企業研究」をグレードアップしよう

●「ホームページを見た」では通用しない
企業研究は転職を考える人誰もが通る道です。しかしだからこそ差別化が必要不可欠な作業でもあります。したがって「四季報を見ただけ」「ホームページを見ただけ」では通用しません。
誰でもやることだからです。より説得力のある、自分だけの志望動機にするためには、企業研究をグレードアップさせる必要があります。以下ではそのための方法を3つ紹介します。
●関係者のSNSを徹底リサーチする
1つ目はSNSを使った情報収集です。経営者や役員だけでなく、部門責任者や有名な社員などがSNSをしている場合は、必ずチェックしましょう。単にどんな内容を投稿しているのかを見るだけではなく、「会社全体として大きな動きがあった時に、内部の人間はどんなことを考えていたのか」「業績不振が報道された時、どんなリアクションをしているのか」というふうに、他の情報とクロスさせて分析するとより会社の価値観や、社内の雰囲気を推測できるはずです。またより古い投稿にまで遡ることで、価値観や仕事観の変遷についても理解が深まります。
●IRを読み込む
2つ目はIRを使った情報収集です。IRとは Investor Relationsの略称で、投資家向けの情報を指します。具体的には決算短信や損益計算書や有価証券報告書などで、株主に対して公開するべき情報をポジティブなもの、ネガティブなもの問わず公開したものです。
投資家向けの情報と言われると「専門的な知識がいるんじゃないの?」と思う人もいるかもしれません。もちろん知識があるに越したことはありませんが、IRの中には数字以外にも数字に対するコメントが書かれている資料もあります。
そのため専門的な知識がなくともある程度は理解できます。ぜひフル活用して自分のできること・やりたいことと、会社が力を入れていること・抱えている問題の共通点を探りましょう。
●投資ファンド・投資家の動向を調べる
3つ目は投資ファンド・投資家の動向を使った情報収集です。例えばニッセイアセットマネジメントが提供している投資信託商品「ニッセイ健康応援ファンド」は、健康への貢献につながる企業理念・哲学を持つ企業を「健康応援企業」とし、そこから中長期にわたる成長が期待できる企業を選んで投資する商品です。
こうした商品の投資対象になっている企業には、投資のプロが認める「コンセプチュアルな経営方針」と「成長性」があると考えられます。これだけでも志望先の会社探しに役立ちますが、ここからさらに「ではなぜ投資のプロはその企業にそれらがあると判断したのか」を掘り下げていけば、より深いレベルの志望動機につながります。
または、書籍などを出版している投資家のSNSをフォローして、どんな企業になぜ注目しているのかにアンテナを張っても、同じようなメリットが得られるでしょう。
志望動機には「こう思う」「こう感じる」という主観も必要ですが、それと同じかそれ以上に客観的な情報も必要です。「関係者のSNS」「IR」「投資ファンド・投資家の動向」は、そうした客観的情報を集めるにはぴったりの情報源です。
志望動機と自己PRは地続きの関係
「なんだか大変そう」と感じた人も多いかもしれません。しかしここまで準備をしてから志望動機を考えた頃には、すでに強力な自己PRのための準備も完了しています。自己PRにも自己分析は必須ですし、企業が求めている自分の魅力を伝えるには企業研究も欠かせないからです。まとめて転職の準備を終わらせるためにも、コツコツと志望動機の準備をしておきましょう。
