未経験転職の志望動機はどう書く?相撲界に学ぶサバイバル術

未経験でも「説得力のある志望動機」は書ける!

一般的に志望動機は、自分のこれまでのキャリアや企業や業界の研究に基づいて考えるものです。しかし未経験の業界に転職しようとすると、どうしても志望動機が漠然としたものになり、説得力がなくなりがち。そのままでは経験者との競り合いに負けてしまいます。

そこでここでは「自分のキャリアを別の視点から見直す」「時間と労力をかけて実績と経験を作る」など、説得力のある志望動機の作り方を紹介します。参考にするのは中卒から新たなキャリアを形成する人も多い相撲界の転職術を紹介した『転職は「元力士」に学びなさい コネなし、未経験でも成功する35の掟』です。

「裏キャリアの活用」という切り口


私たちのキャリアには履歴書に書きやすい「表キャリア」のほかに、履歴書には書きにくいものの、その仕事をしていなければ経験できない「裏キャリア」があります。現在「相撲漫画家」として日本相撲協会公認漫画家である琴剣淳弥(ことつるぎ・じゅんや)さんは、この裏キャリアを使って自身のブランド力を確立した元力士です。

琴剣さんは現役時代から相撲漫画家として連載を持つほどの人気を誇っていました。それは彼が「相撲を取る」という表キャリアにフォーカスを当てて漫画を描くのではなく、ちゃんこ鍋を作ったり、兄弟子たちの世話をしたりといった裏キャリアにフォーカスを当てて漫画を描いたからです。これは漫画が描けるというスキルだけでなく、相撲部屋に入れるほどの相撲のスキルがなければできない芸当です。

しかし琴剣さんにも漫画一本では食えない時代がありました。そこで琴剣さんは引退後に修行していたこともあり、ちゃんこ店を開業します。ここでも表キャリアではなく、裏キャリアを活用しているのです。このちゃんこ店で安定的な収入を確保した彼は、コツコツと漫画家の活動を続けます。結果7年後には漫画の仕事だけで生活できるようになり、ちゃんこ店は閉業しています。

琴剣さんの場合は漫画家としての独立のために裏キャリアを活用しています。しかし独立までしなくても、裏キャリアは切り口次第で他の業界でも十分役立つ経験になり得ます。自分の表キャリアだけでなく、裏キャリアにも目を向ければ、新たな志望動機のヒントが見つかるはずです。

「好き×キャリア」で志望動機を作る

仕事とは別の自分の特技や得意分野といった好きなことを、これから挑戦する未経験の業界と掛け合わせることで志望動機をブラッシュアップする方法もあります。落語家の三遊亭歌武蔵さんは、「森武蔵」の四股名で相撲をとっていた元力士です。三重ノ海元横綱のスカウトで武蔵川部屋に入門しますが、あまりの厳しさに脱走。

自分の好きだった落語の道に進むために三遊亭圓歌師匠のもとに入門しようとしますが、相撲部屋をちゃんと辞めていないことを理由に断られます。どうしても諦められなかった歌武蔵さんは、親方である三重ノ海元横綱に手紙を出すとともに、圓歌師匠のもとに両親と頭を下げに行き、ようやく弟子入りを認められたのでした。メキメキと実力をつけた歌武蔵さんは、相撲ネタを取り入れた「枕」を披露し、新作落語「支度部屋外伝」として発表しています。

しかし歌武蔵さんの「好き」の追求はこれだけにとどまりません。1988年に高座名を「歌武蔵」に改めてから6年後の1994年には、子供の頃から憧れだった自衛隊に3ヶ月間の体験入隊を果たし、練習員過程を修行します。さらに同年11月には自費でザイールに赴き、現地で活動する自衛隊員への慰問として落語を披露。笑いの力で現地の自衛隊員たちの緊張を吹き飛ばしました。

このように「好き」と「キャリア」を掛け合わせた結果、歌武蔵さんは唯一無二の差別化を実現しています。「好きだから」というのは志望動機において最も重要な要素ですが、これをキャリアと関連づけられれば、さらに説得力のある志望動機に変わるでしょう。裏キャリアと同じょうに、志望動機を考える際の切り口として「好き」の力を見直してみてください。

「真正面からのがっぷり四つ」で説得力を作る

未経験の業界に転職しようとすると企業側からは「なぜわざわざ別の業界に?」という疑問が投げかけられます。人によって理由は様々でしょうが、この理由が上辺だけのものと思われないためには、確かな説得力が必要です。この説得力をつけるための方法のひとつが「真正面からのがっぷり四つ」です。

主に安立富士優介(あだちふじ・ゆうすけ)の名で力士をしていた立岩優介(たていわ・ゆうすけ)さんは、引退後夢だった大手旅行会社に転職しています。志望動機を端的に言い表せば「全国を巡業して旅の魅力を知ったから」(前掲書p89)です。しかし当時22歳とはいえ、立岩さんの最終学歴は中卒。一般的に考えて人気の旅行業界の、しかも大手企業に転職するには、かなり高いハードルが待ち受けています。

ところが立岩さんはこのハードルに真正面からぶつかり、がっぷり四つで組みあいます。猛勉強の末、たった半年で大検と自動車免許を取得。さらに旅行業界を目指す人が入る東京の専門学校の夜間コースに通いながら、昼間は専門学校から紹介された旅行会社で働いて生活費を稼ぎます。「総合旅行業務取扱管理者」という難関資格も見事取得し、専門学校のクラスでも一番乗りで就職を決めました。

私たちは大人になるほど「正攻法では損をする」と考えがちです。しかし正攻法に全力で取り組み、しっかりと結果を残せば、それに勝る説得力はありません。立岩さんの場合なら、ここまでの努力をしたうえで「全国を巡業して旅の魅力を知ったから」と面接で言えば「この男は本気だ」と面接官は思わざるを得ないでしょう。本当にやりたい仕事があるのならば、覚悟を決めて真正面からのがっぷり四つで取り組んでみるのも、選択肢のひとつなのです。

「プロへの情報発信」で実績を作る

業界人に、その業界の情報を定期的に発信すれば、プロと認められる 引用:前掲書p65

未経験の業界に転職する際、致命的な問題となるのが実績のなさ。これを解決するのが「プロへの情報発信」です。『転職は「元力士」に学びなさい コネなし、未経験でも成功する35の掟』の著者である斎藤ますみさんは、元山一証券のトップセールス。入社3年3ヶ月で退社した後は研修講師を目指して上京し、現在はクライアント企業への研修やコンサルティングを生業としています。

また、斎藤さんは小さい頃から大の相撲好きで、それが高じて1994年に設立された日本相撲甚句*会の事務局を4年間務めていたこともあります。その後も「大相撲を考える会」の主宰、元力士のキャリアを紹介する「お相撲さんのセカンドキャリア」の連載などを行ってきました。

日本相撲甚句会事務局の発足当時、いくら相撲好きとはいえ斉藤さんは相撲界の部外者です。彼女が相撲界で「プロとして相撲の仕事をしている人」と認識されたのは、「相撲じんく東西」という名の甚句会機関誌の作成・発行がきっかけです。

この機関誌には本部や支部の活動報告のほか、コラムや甚句を歌う力士の特集記事など、甚句を中心とする業界誌的な情報が掲載されていました。これを各場所ごとに会員や関係者に発送し、本場所が始まるとマスコミや相撲協会関係者にも配った結果、相撲界での斉藤さんの「実績」とも呼べる評判が確立したのです。

これは1990年代の話なので紙媒体ですが、現在ならインターネットを使えばより手軽に情報発信ができます。残る問題は、どのようにして業界の人たちが読みたくなる情報を集めてくるかだけです。「プロへの情報発信」という実績を手土産に転職活動をすれば、間違いなく大きなアドバンテージになります。時間や労力はかかりますが、その価値は十分にあるでしょう。

※相撲甚句:邦楽の一種で、大相撲の巡業などの際、力士が土俵上で披露する七五調の囃し歌。

即席の志望動機より、丹精込めた志望動機

インターネットや転職本を参考に、即席で作り上げた志望動機でも、まかり間違えば採用につながることもあります。しかしそこには、ここで挙げたような方法で作る志望動機のような熱意や説得力はありません。

確かに時間も労力もかかりますが、そのぶん自分の覚悟も試せますし、転職後のミスマッチも回避しやすくなります。「裏キャリアの活用」「好き×キャリア」「真正面からのがっぷり四つ」「プロへの情報発信」この4つの方法で、丹精込めた志望動機を作り上げましょう。

参考文献『転職は「元力士」に学びなさい コネなし、未経験でも成功する35の掟』
Career Supli
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[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部