2015年に採択され、2016年1月に始動したSDGs。これは17のゴールと169のターゲットから構成された、世界共通の持続可能な開発目標です。開始から5年以上が経過した現在、企業や自治体ではSDGsの施策が本格化し、それらの取り組みがビジネス成功の裏付けになっている傾向も見られます。
そんな社会変化に同調するように、2019年から開始した「SDGs検定」にも注目が集まっています。本記事では、SDGs検定の推薦書籍にも選ばれた『SDGsの基礎: なぜ、「新事業の開発」や「企業価値向上」につながるのか』を参考に、SDGsをビジネスに生かすための考え方とSDGs検定の概要をご紹介します。
「これから長く仕事に活かせる資格やスキルがほしい」と考えているビジネスパーソンにピッタリの内容です。
Contents
SDGsはなぜ必要か。まず腹落ちさせる重要性
本書では、SDGsの目的を“腑に落ちる”ように理解する重要性に触れられています。著者のひとりであり、社会情報大学院大学 客員教授の笹谷秀光さんは、SDGsとは「持続可能性の共通言語」であり、持続可能性とは「世のため、人のため、自分のため、そして、子孫のため」と言い換えています。つまり、SDGsは世界で評価されるための共通基準であり、SDGsに貢献していくことは、単なる社会貢献でなく自分や子孫にも末永くメリットを生むのだという主張です。
実際、ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を選別して行なう投資)の伸び率も顕著で、国内の市場規模は2018年時点で231兆円と、2016年の57兆円から306%アップ。「脱炭素」「プラスチック削減」などの価値観も浸透してきており、世界的にもこのトレンドが続いていくと予想されています。
SDGsへの貢献が企業としての評価を高め、利益を生むという好循環は、多くの企業で聞かれています。企業がSDGsに本腰を入れて取り組むことは、企業を長く存続させると同時に、安定した地球環境を存続させ、暮らしやすい世界をつくることにもつながります。
SDGs推進により成果をあげている企業の成功例
上述のとおり、近年、大企業や自治体を中心にSDGsの取り組みが注目され始めています。本章では、SDGsの推進と事業成長を軸に成果をあげている国際的な企業の具体的な取り組みをご紹介します。
【ユニリーバ】
一般消費財メーカーとして知られるユニリーバのSDGsの取り組みは、世界的に称賛されています。2007年頃は世界的金融危機の影響もあり、業績が伸び悩んでいた同社でしたが、元CEOのポール・ポールマン氏によりSDGs政策が本格化すると、社会貢献、環境負荷を実現しながら業績も上昇。
具体的な施策として、2010年に成長とサステナビリティを両立する目標を掲げた「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入、温室効果ガスや廃棄物の削減など、約50の具体的な目標を立て、実行に移しました。
2020年の同社の報告によると、消費者の製品使用1回あたりの廃棄物量を32%削減、世界中のすべての工場で埋め立て廃棄物ゼロ、自社工場からの温室効果ガスの排出量を50%削減、電力系統から購入する電力を100%再生可能エネルギーに切り替え、女性管理職比率が51%など、あらゆる方面でSDGsを推し進めていることがわかります。
その結果、ダヴ(ビューティケア)、ヘルマンズ(調味料)、ドメスト(除菌クリーナー)といった同社のサステナブル・リビング・ブランドは、他の社内ブランドの平均成長率を常に上回っているほか、節水や省エネルギー等の取り組みにより10億ユーロ(約1,200億円)以上のコスト削減も達成したそうです。

【DSM】
科学をベースに健康、栄養、材料の分野でグローバルに事業を展開するDSMも、持続可能性をコアバリューとして掲げ、すべての事業でSDGsに配慮しています。年間1兆円レベルの売上も実現し、持続可能性と事業成長のどちらも実現している模範企業です。
同社の取り組みでユニークなのは、社内のトップ300人を対象に、財務収益とサステナビリティ目標の達成度がボーナス評価に反映される仕組みを導入したこと。SDGsを推進するには、社内のトップを筆頭に管理職を担う社員が意識を改革していく必要があることから、モチベーションが上がる仕組みを採用したのは理にかなっているといえるでしょう。
事業面では、製品のライフサイクル評価に基づき、環境影響においてすぐれた製品をエコプラス(ECO+)ソリューションズ、労働条件や健康状態などの基準で高い評価を得た製品をピープルプラス(People+)ソリューションズとして展開。現在、DSMの製品の60%がエコプラス、あるいはピープルプラスのいずれかに属しているそうです。
【コカ・コーラ】
私たちの日常生活になじみのある製品を展開するコカ・コーラ社も、SDGsにおけるロールモデル企業のひとつ。
2015年には100%植物性のプラスチック「PlantBottle™」の開発に成功、一部の商品のボトルとして販売されました。2021年2月には、100%リサイクルプラスチックでつくられたボトルの飲料がアメリカで発売されています。これらのイノベーションにより、 2018年に比べて新しいプラスチックの使用量が20%削減、米国で年間10,000トンの温室効果ガス排出量が削減されるとのこと。
同社では、2025年までに世界全体のコカ・コーラ社製品を100%リサイクル可能なパッケージにすること、2030年までにパッケージにリサイクル素材を50%以上使用することを目標として掲げています。このようにサステナビリティを事業の中核に置きつつも、「2020年までに世界での収益を2倍に成長させる」という長期成長戦略も掲げられており、SDGsの貢献が事業拡大の戦略として位置づけられているようです。
企業としてのブランド力も非常に高く、世界最大のブランディング企業であるアメリカのインターブランド社による「2020年の世界企業ブランドランキング」では、同社は堂々の6位に位置しています。
その他、日本企業の伊藤園や吉本興業のSDGs施策も高く評価されています。いずれの企業も、業界に先駆けてSDGsを牽引している点、明確な数字目標を立て達成に向けて地道に活動している点などが特徴的です。
SDGsの企業行動指針となる5つのステップ「SDGコンパス」
企業がSDGsを推進するにあたり、欠かせないのが以下の5つのステップ。これは「SDGコンパス」と呼ばれ、SDGsを進める際の企業の行動指針として推奨されています。
第1ステップ:SDGsを理解する
第2ステップ:優先課題を決定する
第3ステップ:目標を設定する
第4ステップ:経営へ統合する
第5ステップ:報告とコミュニケーションを行う
本書のなかでは、「2030年を見越したKPIの設定まで行うことが望ましい」と書かれています。日本では、SDGsの理解や自社の課題の認識は進んでいるものの、第3ステップとなる「具体的な目標設定」まで落とし込んでいる企業は多くないのが現状のようです。
まずは、自社の状況が上記5つのステップのうち、どこに当てはまるかを確認してみましょう。状況に応じて、SDGsの理解を深める社内研修を行う、自社の課題を洗い出すためのディスカッションの場を設定する、中長期の目標設定にサステナビリティの指針を盛り込むように促す、SDGsに関連した表彰制度を新設する、自社のプレスリリースにSDGsに関連した報告を取り込むなどの動きが求められます。
一社員の立場でできることは限られているかもしれませんが、関係部署と連携して情報発信をしたり、SDGsに関連する勉強会を主催したり、少しずつ社内の意識を高めていくことから始めてもいいでしょう。
キャリアアップにも最適な「SDGs検定」とは
SDGsの普及促進を目的に、2019年にスタートした「SDGs検定」。民間の試験ではあるものの合格率は30〜40%で、本格的なSDGsの理解が求められます。この資格を取得することによって、「SDGsを基本から実用例まで幅広く理解できる」「広報やマーケティングに活かせる資格としてアピールできる」との声が聞かれます。学歴・年齢・性別・国籍による制限はなく、誰でも受験が可能です。
以前は、東京、大阪、名古屋、福岡の会場にて試験が実施されていましたが、コロナ禍の現在では、Web上で場所を問わずに受けることができます。開催スケジュールは不定期ですが、これまでは数ヵ月に1度の頻度で実施されています。
合格者のブログを読むと、SDGsの基本項目をはじめ、世界の課題や関連する具体的な数字の把握、応用力など、幅広い知識が求められるとのこと。国際連合広報センターの公式HPに掲載されている「SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字」や「我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ(仮訳)」のほか、今回ご紹介したような推薦書籍を読み込む必要もありそうです。
たとえば、「1日1ドル90セントという国際貧困ライン未満で暮らす人々は、7億8,300万人に上る」「開発途上国の初等教育就学率は91%に達したが、まだ5,700万人の子どもが学校に通えていない」など、数字も含めて頭に入れておくと良いでしょう。
合格者は、SDGs検定のロゴの使用権が与えられ、ガイドラインに沿って使用ができるそう。会社員の受験者が大半を占め、受験者数・合格者数ともに大きく伸びています。この資格を事業成長やキャリアアップに活かしたいという狙いも伺えます。実際、資格を取得することでSDGsに沿った企画提案をする、社内研修等を企画するなど、さまざまな場面で活用できるのではないでしょうか。
SDGsの推進は企業の存続に欠かせない
SDGsの概念さえ浸透していなかった時代から、わずか数年間でSDGsは「企業にとって欠かせない概念」ともいわれるほど、重要性を増しています。ESG投資が世界的なトレンドになっている主な背景は、SDGsの推進が企業の成長率・存続可能性を大きく左右するからにほかなりません。SDGs を学ぶにあたり、絶好の機会となるSDGs検定の利用もぜひ検討してみてください。
[文]小林 香織 [編集]サムライト編集部