昇給は、働く人のモチベーション維持につながり、年齢によって変動する、ライフスタイルを支えるための重要な要素です。「望んでいる昇給が得られない」「どうすれば昇給できるかわからない」など、悩みを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、昇給の仕組みや企業のスケール別との比較、昇給を実現させるポイントなどを解説しています。
Contents
昇給とは
「昇給」とは、年齢や勤続年数、働きなどに伴って、賃金が増加することをいいます。社員やパートなどの従業員が働く際のモチベーション維持にもつながる、重要な制度のひとつです。日本では毎年、定期的に賃金を上げる定期昇給を取り入れる企業が普遍的ですが、従業員が成果を出した際に、実施されるケースもあります。
昇給と混同しやすい「昇進」や「昇格」は、社内での地位、つまり役職や等級の上進を指します。また、昇給とよく似た言葉に「ベースアップ(以下:ベア)」も存在しますが、昇給と異なるのは従業員個人ではなく、従業員全員の賃金水準そのものが引き上げられる点です。
昇給の仕組み
昇給は企業の規定において、定められる制度です。「定期昇給制度」だけではなく、「臨時昇給」や「考課昇給」など、あらゆる種類の内容によって、従業員の賃金が決まります。昇給制度の違いで、一人ひとりの賃金の上がり方も変わるため、企業で採用している制度を知るためにも、それぞれの昇給の違いを押さえておくことが大切です。
- 【定期昇給制度】
毎年同じ時期に、定期的に賃金を上げる昇給です。従業員のスキルや実績に関係なく、年齢や勤続年数が増加するほど賃金も比例するため、努力や成果が反映されず、スキルと賃金との間に差が出てしまうケースがあります。
- 【臨時昇給】
会社が好業績を収めている時に、定期的な昇給とは別に、随時施行される昇給です。
- 【考課昇給】
従業員の勤務状況を審査した結果に関連する昇給制度です。従業員の能力や実績などを判断材料にして賃金を上げることから、従業員のモチベーション維持が期待できます。単独での昇給だけではなく、定期昇給に含まれるケースも考えられます。
企業規模ごとの昇給率の平均額
昇給は企業の各スケールにおいて、違いが生じることはいうまでもありません。基本的には、スケールが大きい企業ほど、昇給率が高い傾向があり、社会経済などの影響による企業の業績も関係して、昇給率は毎年変動します。
ただし、大企業から中小企業までを比較すると、元々の基本給に違いがあるため、昇給率がそれほど変わらないとしても、昇給額に大きな差が生じるケースが多く見られます。企業のスケール別における昇給率は、厚生労働省の「令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」で確認が可能です。
大企業(5,000人以上)
2021年に行われた厚生労働省の調査では、従業員数が5,000人以上の大企業のうち、賃金改定を施行したのは95.1%と大半を占めています。その平均における改定率は1.6%、改定額は5,202円でした。
前年度と比較すると、賃金改定を施行した企業は3.7%増加していますが、逆に賃金の減額も0.5%発生しています。昇給を施行している企業はやや増加しましたが、賃金改定率は0.3%低下、増額率の数値も抑えられている状況です。
また、管理職に定期昇給制度が置かれている企業は63.6%で、そのうち施行されたのは59.8%、同じく一般職に置かれている企業が84.5%で、そのうち施行されたのは81.2%でした。
さらに、定期昇給とベアを区別している企業は、管理職が79.6%で、そのうちベアが施行されたのは11.6%、同じく一般職が85.5%で、そのうちベアが施行されたのは22.3%と、少数の企業でしかベアが施行されていません。とくに、管理職のベアは、全企業の平均より3.5%も下回っています。
【参照元:厚生労働省|令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】
大企業(1,000~4,999人)
従業員数が1,000~4,999人の大企業の場合、2021年には89.0%が賃金改定を施行しています。平均における改定率は1.7%、改定額は4,937円で、前年度の改定率1.7%、改定額4,925円とほぼ変わらない内容です。
賃金の増額を施行した企業は、前年度から1.3%低下しているのですが、昇給額はそのまま維持されています。また、賃金の減額を施行した企業は、1.4%から1.2%へとわずかに低下していることがわかります。
また、管理職に定期昇給制度が置かれている企業は69.9%で、そのうち施行されたのは63.4%、同じく一般職に置かれている企業が88.4%、そのうち施行されたのは84.1%との結果が出ています。
定期昇給制度の施行において、管理職は前年度より8.4%低下、一般職は1.1%低下しました。管理職に定期昇給制度が置かれている企業数も、前年度と比較して大きな低下が見られます。
さらに、定期昇給とベアを区別している企業は、管理職が74.4%で、そのうちベアが施行されたのは19.8%、同じく一般職が76.4%で、そのうちベアが施行されたのは25.0%でした。他の企業スケールよりも、高い割合でベアが施行されています。
【参照元:厚生労働省|令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】
中小企業(300~999人)
従業員数が300〜999人の中小企業では、2021年に84.8%が賃金改定を施行しています。平均における改定率は1.6%、改定額は4,753円で、前年度の改定率1.7%、改定額4,805円と比較すると、改定幅が抑えられています。賃金の増額率は前年度の85.8%から83.6%へ低下、減額率も1.4%から1.2%へのわずかな低下が見て取れます。
また、管理職に定期昇給制度が置かれている企業が73.7%で、そのうち施行されたのは63.1%、同じく一般職が置かれている企業が85.8%で、そのうち施行されたのは76.4%です。前年度と比較すると、定期昇給制度の施行に関しては、管理職が4.8%低下、一般職も3.4%低下しています。
さらに、定期昇給とベアを区別している企業は、管理職が63.3%で、そのうちベアが施行されたのは16.1%、同じく一般職が67.0%で、そのうちベアが施行されたのは20.0%との結果が出ています。
【参照元:厚生労働省|令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】
中小企業(100~299人)
従業員数が100〜299人の中小企業の場合、2021年には80.0%が賃金改定を行っており、平均における改定率は1.6%、改定額は4,112円でした。改定率も改定金額も、前年度からそれほど変わりません。賃金の増額率は前年度から0.2%低下し、減額率も1.4%低下しています。
2021年の改定率は、企業のスケールによる大きな違いはありませんが、改定額は企業のスケールが大きくなるほど、高額になる傾向があります。
また、管理職に定期昇給制度が置かれている企業が73.1%で、そのうち施行されたのは63.1%、同じく一般職に置かれている企業が79.6%で、そのうち施行されたのは73.1%です。前年度の定期昇給が施行された企業と比較すると、管理職は3.7%低下、それに対し一般職は0.1%増加しています。
他の企業スケールでも、同様に低下しているものが多いですが、このスケールのみ一般職の昇給が、ほぼ現状を維持している状態です。
さらに、定期昇給とベアを区別している企業は、管理職が53.1%で、そのうちベアが施行されたのは14.4%、同じく一般職が53.5%で、そのうちベアが施行されたのは16.1%です。企業のスケールが大きくなるほど、定期昇給とベアを区別している企業が多く、それに伴ってベアが施行された企業も多いことがわかります。
【参照元:厚生労働省|令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】
業種ごとの昇給率
業種によっても昇給の状況は異なります。厚生労働省の「賃金の改定の実施状況」によると、「不動産業、物品賃貸業」では93.2%、「学術研究、専門・技術サービス業」では93.7%の企業が昇給を施行しているとの結果が出ています。これらの業種が昇給しやすいと考えられるでしょう。
「不動産業、物品賃貸業」の改定率は1.7%、「学術研究、専門・技術サービス業」は1.6%、「製造業」は1.9%、「建設業」は2.0%などと、昇給を施行する割合の高さがうかがえます。2018年の改定率を見ても、「不動産業・物品賃貸業」は2.5%、「学術研究、専門・技術サービス業」は2.4%、「製造業」と「建設業」は2.2%と、他の業種より改定率は高いため、今後における昇給が期待できます。
ただし、改定率が高い業種だけが、改定額が高い業種であるとは限りません。改定額が高い業種として、「建設業」の6,373円や「情報通信業」の6,028円などが挙げられますが、「教育・学習支援業」では、改定率が1.6%あるにもかかわらず改定額が4,252円、「医療・福祉」でも、改定率1.5%に対し改定額2,855円と、他の業種より金額が低い傾向が見られます。
【参照元:厚生労働省|令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】
理想の昇給を手にするには
理想的な昇給を得るためには、昇給しやすい働き方を見つけることや、昇給が期待できる企業を選ぶことが大切です。昇給は、社内からの評価が上がった従業員に対して施行されたり、会社の業績が好調な時に生じたりするため、昇給を目指すには評価される働き方が重要で、常に普段の行動の振り返りが欠かせないでしょう。
評価を上げる
定期昇給ではない考課昇給や特別昇給など、従業員の勤務態度や能力、実績によって、賃金を引き上げる昇給制度も存在します。定期昇給以外で賃金アップを望む場合は、人事考課で高く評価される働きをすることが大切です。
主に、会社にどれだけ貢献できたか、目的をどれだけ達成できたか、そして目的達成までのプロセスへの関わり方などが評価されます。
また、仕事に必要なスキルや知識などの能力を向上させることで、社内の評価を上げて昇給を目指す方法もあります。
業績が上がる
賃金の改定について、「企業の業績を重視して決定する」と答えた企業は、2021年の調査によると約47%です。業績をもとに、賃金の改定を検討する企業が多いことから、企業の業績は昇給にも大きく関係していることがわかります。企業の業績が好調な場合、その業績において、臨時昇給が施行されるケースがあります。
【参照元:厚生労働省|令和3年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況】
転職する
より効率のよい昇給を望む場合は、現在の状態で評価を高めるだけではなく、従業員の適切な評価に力を入れている企業への転職もオススメです。
評価システムが充実している企業で働けば、能力や実績の向上において、適切な評価を受けられるため、昇給に期待できるかもしれません。
評価システムが充実している企業へ転職するには、求人情報の「給与・手当」「昇給・賞与」などの記載をしっかり確認して、転職先を探す必要があります。面接時に昇給制度について聞きたい場合には、仕事への意欲を表現し、評価制度について知りたい、と伝えるとよいです。
適切な評価を実施している企業に転職することで、評価されなかった前職よりも、昇給の期待度が高いでしょう。
まとめ
昇給を目指すには、第一に社内からの評価を高めることが重要です。従業員の評価方法や昇給制度は、企業によって異なります。定期昇給だけではなく、従業員の能力や実績をもとに、考課昇給を取り入れている企業は、従業員に昇給の機会を与えてくれます。
適切に評価されていないと感じる場合には、従業員が納得できる、評価システムを採用している企業への転職を検討してみましょう。
[文]CareerSupli編集部 [編集]CareerSupli編集部