農業はビジネスチャンスの宝庫だ!「組織に頼らない働き方」の最前線

農業が作る「組織に頼らない働き方」

誰もが知るような大企業が経営不振に陥る昨今、組織に頼って働くスタイルではなく、個人として稼ぐ「組織に頼らない働き方」が注目を集めています。ここではその中でも最も原始的で、かつ最も今アツい職業「農業」にスポットを当てて、なぜ農業なのかについて紹介します。

参考にするのは初期費用143万円からスタートして年商1,200万円(うち所得600万円)を実現した西田栄喜さんの著書『農で1200万円! ――「日本一小さい農家」が明かす「脱サラ農業」はじめの一歩』。そこにはビジネスチャンスの宝庫としての農業が語られていました。

農業には壊し甲斐のある「固定概念」だらけ!


メジャーなところでは1粒1,000円の「ミガキイチゴ」のブランディングなど、先端施設園芸を軸として農業の改革を進める株式会社GRA代表取締役CEOの岩佐大輝さん、マイナーなところでは先日規格外野菜の魅力を伝えるカフェのためのクラウドファンディングで、270万円以上を集めた梶山剛さんなど、農業は確実に盛り上がっています。

なぜかというと、それは農業が「固定概念」だらけだからです。固定概念が多い業界ほど、その固定概念を壊した時のうまみは大きくなります。その意味で、農業には壊し甲斐のある固定概念がたくさんあるのです。

●農業は農産物を育てて売るだけ

農業は田畑を舞台として何をしてもいいと考えると、可能性は無限に広がります。引用:前掲書p2

農業というと「農産物を育てて売るだけ」というイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか。

販路はJAが握っていて、農家はその販路に農産物を乗せるだけ。小売店や消費者が「形が悪い」といえば安く買い叩かれるか、最悪の場合は廃棄するハメになる。こうしたイメージが固定化されているので、つい「農家は儲からない」と言いたくなります。

しかし西田さんはその固定概念から壊しにかかります。「農業は田畑を舞台として何をしてもいい」と発想を変え、1次産業だけでなく2次産業(加工)、3次産業(販売)までも全て奥さんと二人で実践するのです*。一昔前の農業なら、とてもそこまでを全て自前でやるのは難しかったでしょう。しかし後述するように今の農業にはそれが実現できる環境が揃っています。
※このような事業形態を6次産業化(1×2×3)と呼びます。

●起農には広大な耕地と莫大な初期投資が必要

また農家として起業(起農)するには広大な耕地と莫大な初期投資が必要だというのも、農業界の固定概念です。

通常農業を始めるには初期段階で平均1,000万円が必要だとされており、稲作の場合はその倍が必要とされています。このお金はビニールハウスの設置費用や耕うん機などの機械類に使われます。しかしこれはあくまで「規模の経済(スケールメリット)」を重視した従来型の農業の場合です。

スケールメリットを重視すると通常の野菜農家の耕地面積3ヘクタール以上が必要になります。一方西田さんが運営している耕地は30アールしかありません。100アールで1ヘクタールなので、通常の野菜農家の10分の1にも満たない面積です。

普通なら「そんな面積ではどうにもならない」と否定されるでしょう。しかし西田さんは50種類もの野菜をこの限られた面積に作付けし、無農薬農法や炭素循環農法といった最新の農法を採用して付加価値をつけ、農家として大成功を収めたのです。しかもその初期費用は3万円の中古管理機を含めた143万円だけ。「起農には広大な耕地と莫大な初期投資が必要」が単なる固定概念だということがわかります。

これら以外にも「補助金ゼロ」「借金ゼロ」など一般的な農家なら抱えているコストや問題を、西田さんは一切ゼロにしています。この業務体質こそが、これからの農業のあり方なのです。

今農業を始めるべき3つの理由


壊し甲斐のある固定概念がたくさんあるという以外にも、今だからこそ農業を始めるべき理由はあります。以下ではそのうち「リスク分散のしやすさ」「参入のしやすさ」「販路開拓のしやすさ」という3つの理由を解説します。

●リスク分散としての「百姓」

「百姓」という言葉は本来「百の仕事ができる」という意味を持っています。田んぼだけでなく畑も、畑だけでなく漁も、冬になれば縄などの日用品や工芸品もやってしまう。自然を相手にするからこそ、いつ何があっても食いっぱぐれのないようにリスクを分散しているのです。

しかしいわゆる「専業農家」は、この百姓の意味からは遠く離れています。自然をはじめとする外部要因に数多くのリスクを抱えながら、それでも1次産業としての農業だけに従事しているのは、リスク管理の観点からは危険すぎます。

一方、西田さんが実践している6次産業としての農業や、小さな耕地に50種類もの野菜を作付けする「小規模多様性農業」は、百姓のリスク分散思考により近いものがあります。西田さんの場合はこれ以外にも、農業セミナーの講師としての収入もあるため、よりリスクは分散されています。

●各種技術のコモディティ化が進んでいる

ホームページを作る、商品ラベルを作る、商品を梱包する……一昔前なら専門業者に依頼しなければならなかったこうした技術も、今はある程度お金を出せば個人で実現できます。

実際西田さんは一番最初に15万円でパソコンとプリンタを購入し、その後商品を入れた袋に封をするための脱気シーラーを15万円で購入するなどして、自主生産体制を確立していきます。

技術のコモディティ化が進んでいるということは、参入がしやすいということです。そのぶん競争相手は増えますが、西田さんのように工夫さえすれば十分生き残れるはずです。

実際、西田さんの農園「風来」を見学に来て農家になった人の中には、すでに新しい農業のビジネスモデルを確立している人が何人もいます。具体的には熊本県の「無農薬イタリア野菜 うさぎ農園」や金沢市の「トモファームあゆみ野菜」などがあります。起農は平坦な道、楽な道では決してありませんが、無謀な道でもないのです。

●ネットワークの広がり

SNSなどを通じたネットワークの広がりは、小規模農家の販路開拓にも一役買っています。消費者と直接つながり、自分たちの想いや仕事を伝えることは、食という命につながる農産物を作っている農家でこそ強いメッセージ性を生み出します。

西田さんも著書の中で「農とネットの相性は抜群です」(前掲書p54)と明言しています。具体的にはネットを通じて全国の人と繋がるために、「風来」のホームページはあえて一昔前のデザインにして声をかけやすいよう工夫したり、「源さん畑日記」というブログを高頻度で更新して、作業内容や想いを発信したりしています。

このような発信力は従来の農業にはありませんでした。その重要性を理解し販路開拓に役立てたからこそ、今の西田さんの「風来」はあるのでしょう。

「自分の頭で考えて稼げる」という楽しさ


「組織に頼らない働き方」としての農業は決してバラ色ではありません。しかし「自分の頭で考えて稼げる」という楽しさは、組織に所属した働き方と比較するまでもないでしょう。

西田さんの著書にはここで紹介した内容以外にも、なぜ小規模多様性農業が儲かるのかという仕組みの話や、より具体的な栽培技術や加工技術についての話、農園経営のノウハウなどがぎっしり詰まっています。この記事を読んで興味を持った人は、ぜひ読んでみてください。「転職を考えていたけど、農業もアリかも」と意識が変わることうけあいです。

参考文献『農で1200万円! ――「日本一小さい農家」が明かす「脱サラ農業」はじめの一歩』
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部