食品添加物もマイナスイオンも…ニセ科学に騙される理由と騙されない方法

それは科学かニセ科学か?

みなさんは本当の科学と「なんとなく科学っぽいもの」の見分けがつくでしょうか。科学は人類史上最も精度が高く、信頼性も高い知識体系ですが、そのぶん科学の説得力を利用した「ニセ科学」がたくさんあるのも事実です。

ニセ科学の中には企業や国レベルではすでにニセ科学として断定されているにもかかわらず、一般人は未だに信じているものもあります。ここでは『暮らしのなかのニセ科学』を参考にしつつ、科学とニセ科学を見極めるための考え方について解説します。

「食品添加物の危険性」はニセ科学

「食品添加物は危険だ」という話をどこかで聞いたことがある人も多いでしょう。近年のナチュラル志向により、そう考える傾向はより強まっています。

しかしスピリチュアルな世界や感情的な問題を置いておけば、少なくとも日本の基準に従っている食品添加物に関しては、科学的な危険性は認められていません。

いわゆる「危険」とされている食品添加物について触れる前に、日本の食品添加物の安全基準の設定方法について見ておきましょう。

●食品添加物の安全基準

日本では厚生労働省に指定を受けた食品添加物については同省が規格を設定し、そのうえで毒性試験を実施、許容1日摂取量(ADI)を設定して、さらにADIを十分下回るように使用基準を設定します。

引用:食品添加物の安全性確保 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/iken/dl/070122-2b.pdf

この試験に基づいて決定されるADIは動物実験において有害性が認められない量(無毒性量)に、安全係数(通常は100)をかけて算出されます。

この安全係数には科学的な根拠はあまりないものの、動物とヒトの違い、ヒトにおける個人差を考慮しています。しかも使用基準はこのADIを十分下回るように設定されているため、日本の食品添加物の安全性は科学的にかなり高いレベルで確保されているのです。

●ソルビン酸・アステルパームは危険なのか?

こうしてADIと使用基準を定められている食品添加物に、ソルビン酸とアステルパームがあります。ソルビン酸は未成熟のナナカマドの果汁中にも含まれる保存料ですが、とあるベストセラー本の中で買ってはいけない危険な添加物として槍玉に挙げられました。

その影響力は大きく、食品メーカーがソルビン酸類よりもさらに弱い保存効果の弱い添加物を使うようになったため、食品廃棄率が高まるという結果にもつながっています。

しかしソルビン酸のADI、25mg/kg/day(体重50kgの人で1日1250mg)に対して、ベストセラー本が参考にした平成15年度のソルビン酸の1人あたりの1日摂取量は13.56mgでした。

摂取量のADIに占める割合はたったの1.08%です。甘味料であるアステルパームも同様に危険視されましたが、平成14年度の食品添加物1日摂取量調査によれば、当時の摂取量のADIに占める割合は0.29%にすぎません。

もちろん科学は万能ではありません。しかし少なくとも科学的には、ソルビン酸やアステルパームが危険であることの根拠は存在しないのです。これらと同様に、日本の食品添加物の基準に従っている限り「食品添加物が危険である」という言説は、ニセ科学でしかありません。

「マイナスイオン」もニセ科学

一時期爆発的な人気を誇り、今なお「プラズマクラスター」や「ナノイー」といった類似品に姿を変えているのが「マイナスイオン」製品です。もともとこのマイナスイオンという言葉は1892年にドイツの物理学者フィリップ・レナルトが滝のしぶきの中で発見したものです。

しかしこのときレナルトは「マイナスイオンは健康に良い」とは言っていません。ただ水滴が分割されるときに大きい方の水滴がプラスの電気を帯び、小さい方の水滴がマイナスの電気を帯びるという現象を見つけただけです。

それがいつの間にか「マイナスイオンは健康に良い。だから滝に行くと癒される」というロジックがまことしやかに語られるようになったのです。

マイナスイオンの効能と言われたのは「空気を浄化し、吸えば気持ちのいらいらがなくなり、ドロドロの血ではなくなり、アトピーにも高血圧にも効く」(『暮らしの中のニセ科学』p199)というもの。いかにも健康に良さそうです。

しかしマイナスイオンのこれらの効能はすでに何の科学的根拠もないことが明らかになっています。国民生活センターは2003年9月の報告書の中で事業者に対し「効果を謳うのであれば十分に検証をして、消費者にその効果を謳う根拠となる情報を知らせるよう要望する」とし、根拠の明示を求めています。

これ以降マイナスイオン製品が下火になっていたことを鑑みると、そもそも効果そのものが存在しなかったのでしょう。世の中を席巻し、大企業もこぞって新製品を出したマイナスイオンさえ、ニセ科学だったのです。

類似品と言える「プラズマクラスター」「ナノイー」のほか「ビオン」についても、効果には否定的な研究結果があります。国立病院機構仙台医療センターの西村秀一ウィルスセンター長の論文は科学的な手続きを踏んだうえで、これらの製品にはメーカーが主張するような殺菌効果はないと結論づけています。

もちろんこれをもって「メーカーは嘘つきだ」と断じることはできません。しかし少なくとも「科学的な疑問は大いにある」ということは可能です。

ニセ科学に「誰もが」騙される理由

●認知バイアスと確証バイアス

食品添加物の危険性やマイナスイオンでなくとも、オカルト的な情報に騙されてしまう人たちは少なくありません。これについて『暮らしのなかのニセ科学』の著者である左巻健男さんは、もともと人間には騙されやすい性質があると指摘します。

賢いはずの人でも簡単にだまされるのは、実は「生き延びる」ための行動の習性を私たちが祖先から受け継いでいるからだという面があります。引用:前掲書p24

命のかかっている場面で「サーベルタイガーが時速○○kmで接近してきていて、自分までの距離は○○mだから……」と考え込んでいてはあっという間に捕食されてしまいます。

私たち人間は目の前の情報を信じ込むことで判断や行動のスピードを効率化し、生き延びてきました。この名残とも言えるのが「認知バイアス」と「確証バイアス」です。

認知バイアスとは、正しい情報を得ていても自分の利害に一致する形で情報を捻じ曲げて認識したり、対象の目立った特徴のせいで他の特徴を見失って情報を誤認識したりする心的傾向を言います。

確証バイアスは自分に都合の良い証拠や理論ばかり集めて、自分の考えと矛盾する情報を無意識のうちに無視してしまうような心的傾向です。

ニセ科学に騙されるとき、私たちは生来備わったこれらの心的傾向に大きな影響を受けてしまいます。

油断すればたとえどんなに知能が高い人でも、認知バイアスや確証バイアスに絡め取られる可能性は十分あります。だからこそニセ科学はなくならないのです。

●「なぜだろう?」のもっと先へ行こう

こう書くとあたかも認知バイアスや確証バイアスが悪者のように思えるかもしれません。しかしこれらの心的傾向がなければ、世の中に溢れる情報を全て正確に受け止めてしまい、その都度立ち止まって考えなくてはなりません。

例えば結婚相手選びには、認知バイアスや確証バイアスの助けが大いに役立ちます。ある程度情報を捻じ曲げたり、相手の欠点を見失わなければ結婚は無理だからです。私たちが要領よく生きて行くためには、生来の心的傾向に影響を受ける必要があるのです。

ではどうすれば良いのでしょうか。『暮らしのなかのニセ科学』に挙げられている参考サイトや文献に触れることも必要ですが、何よりもなんとなく科学っぽい説明に対して「なぜそうなるんだろう?根拠はどこにあるんだろう?」と問う癖をつけることです。

これは懐疑的になるという意味ではなく、強い好奇心を持つという意味です。しかしニセ科学は浅い「なぜ」にはしっかり答えを用意しています。例えばごく限られた体験談や回答者の少ないアンケート結果、試験官研究や動物実験の結果などです。

したがってニセ科学に騙されないようにするためには「なぜだろう?」をさらに掘り下げる必要があります。「なぜその体験談が根拠になるんだろう?」「なぜ動物実験の結果がヒトにも適用できるんだろう?」そうやって掘り下げていけば、ニセ科学か本物の科学かどうかはすぐに区別がつきます。

立ち止まって考える、自分で情報を集めてみる。そうした一手間がニセ科学を見分ける目を養うのです。

「肝心なところ」では立ち止まろう

ここまでニセ科学の具体例を挙げながら、科学とニセ科学の見分け方について解説してきました。しかし何でもかんでも、いつでもどこでも、科学とニセ科学を見分けようとしていると間違いなく疲れてしまいます。大切なのは「自分が損をしないこと」です。

ニセ科学に騙されて大金を失ったり、健康を損なったりする危険もありますが、血液型診断のように毒にも薬にもならないようなニセ科学もあります。

もちろん限度はありますが、後者のようなニセ科学にあえて騙されてみても大きな損にはなりません。そうした判断ができているのであれば、別に立ち止まって考える必要もありません。

大切なのは「肝心なところ」で立ち止まって考えられることです。重要なタイミングでしっかり科学とニセ科学の見極めがつくよう、日頃から目を養っておきましょう。

参考文献『暮らしのなかのニセ科学』
Career Supli
普段はロジカルに考える人も病気などで気持ちが弱ると、ニセ科学を信じてしまうときがありますので気をつけましょう。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部