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優秀な人材の定義をNetflixから学ぶ
Facebookのシェリル・サンドバーグCOOが「シリコンバレー史上、最も重要なドキュメント」と絶賛したNetflixの人事戦略をまとめたスライド資料NETFLIX CULTURE DECK。2018年8月17日に出版された『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』はこのスライド資料を基に、Netflix創業時から最高人事責任者として指揮をとったパティ・マッコードさんが書いた一冊です。
ここでは本書を基にNetflixが実践している、言ってみれば非常識な採用ルールを紹介するとともに、そこから見えてくる第一線で活躍する人材の働き方について考えます。
Netflixの非常識な採用ルール
まずは『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』で紹介されている人材管理方法のうち、3つの採用ルールについて紹介します。これらはどれも一般的な採用ルールとは違い、一見すると非常識に思えるかもしれません。
しかしいずれも、ものすごいスピードで成長と拡大を実現してきたNetflixには必要不可欠な採用ルールであり、今後成長と拡大を志す企業であれば少なからず取り入れるべき採用ルールでもあります。
●「6ヶ月先の理想のチーム」を今作る
マッコードさんは製品開発や競争環境の未来を的確に見通せるリーダーは多いものの、「この先どんなチームが必要になるか」という観点から未来を見通せるリーダーは滅多にいないと言います。
一般的なリーダーは今のチームは何ができて、これ以上何ができるのか程度のところまでしか見えていないのです。仮に将来の理想的なチームについて考えていたとしてもせいぜい人数がどれくらい必要なのか、あるいは今いる人材がどう育っていくかというところで思考が止まりがちです。
しかし頭数を揃えるよりも、倍の給料で半分の人数の優秀な人材を採用した方が効果的な場合もありますし、スタートアップのような変化の激しい職場においては今いる人材ではついていけない可能性も高くなります。
そのためマッコードさんは「6ヶ月先の理想的なチームを今作れ」と言います。そしてマネージャーはその理想的なチームが交わす会話や職場の雰囲気、上がってくる成果、自分の感情などを全て正確に想像し、「今いるチームでそれができるか?」「想像通りにするためにはどんな人材が必要か?」を考えろとも言います。
Netflixはこうしたスピード感で採用を行ってきたからこそ、凄まじい速度で成長できたのです。
●最適な人材を、業界最高の給料で迎える
理想のチームを作るのは、簡単なことではありません。優秀な人材は大手で働いて、高い給料をもらいたがりますし、大手はそのために大量の資金を投入してくるからです。
ところがNetflixはこの点でも妥協はしませんでした。「すべての職務にまずまずの人材ではなく、最適な人材を採用するように努めること」(引用:p149)を人材管理の基本方針に掲げ、そのためには高い報酬もいといません。そのためにヘッドハンティング会社の人材を自社でヘッドハンティングして、自社のためだけに人材を探させるということもしています。
しかしここで重要なのは「最適な人材」であるということです。仮にどんなに優秀でも、それが今Netflixが求めている人材でなければ意味がないと考えるのです。そのためマッコードさんは面接をする中で自社よりもGoogleやAppleが向いていると思ったら、率直にそのままを伝えていたのだそうです。
●マッチしていない人材は迅速に解雇する
前述した通り、事業環境の変化が激しいNetflixの分野では6ヶ月も経てば、事業にマッチしていない従業員が出てきます。一般的な企業であれば、この従業員に成長を促したり、PIP(業務改善計画)を施したりするでしょう。
しかしマッコードさんはこれらを一切行うべきではないと考えています。そして、たとえ業績不振の従業員であろうと、多大な貢献を果たしてきた従業員であろうと、マッチしていなければ「マッチしていないから辞めてくれ」と伝えるべきだと言うのです。
その代わり同社では年次評価ではなく四半期評価を行い、絶えず上司から部下に対して「会社が何を求めているのか」「あなた(従業員)は何ができていて、何ができていないのか」「どのような改善策がありうるのか」を伝えています。そのためこのようなやり方で解雇を告げても、皆一様に納得して会社を去るのだそうです。
実際Netflixの従業員の中には、自ら「ここには自分のやりたいことがない」と判断して居場所を変える人も多いようです。マッコードさんはそれこそが会社にとっても本人にとってもベストな在り方だと考えており、このような状態を作るために、部下の評価の際は次の単純な問いかけをするよう勧めています。
「この従業員が情熱と才能をもっている仕事は、うちの会社が優れた人材を必要とする仕事なのか?」
引用:前掲書p217
Netflixに学ぶ「一流の働き方」

次にここまでで取り上げた3つの採用ルールをもとに、個人がどのように働き方を変えていくべきかを考えていきましょう。
●絶えず「将来必要になる人材」を見据える
マネージャークラスでさえ「この先どんなチームが必要になるか」を考えていないのですから、多くのプレイヤーは「将来会社に必要になる人材とはどんな人材か」を考えていないはずです。
しかしそれでは事業環境の変化を後追いするような人材にしかなれず、第一線で活躍できるような人材にはなれません。
そのため自分のキャリア開発を考えるときは、6ヶ月先(業界や会社によってはもっと先)に業界や会社で必要になる人材を見据えて、自分の行動に落とし込んでいく必要があるでしょう。
●自分が情熱と才能を発揮できる仕事は何かを理解する
「この従業員が情熱と才能をもっている仕事は、うちの会社が優れた人材を必要とする仕事なのか?」とマネージャーが自問自答したときに、「YES」と応えるためには、従業員自身が自分の情熱と才能が発揮できる仕事を把握し、それをマネージャーに伝えられていなければなりません。
これは与えられた仕事を嫌々、もしくは仕方なく処理する働き方をしているようでは、Netflixのような会社が求める一流には決してなれないということでもあります。
なぜなら一流の人はその分野に情熱を注ぎ、才能を発揮できたからこそ一流なのであって、そうでなければ二流・三流にとどまっているはずだからです。
「好きなことだけ」で生きるための実践的4ステップなどでも紹介しているように、今後は好きなことに熱中し、その分野で実績を積んでいる人こそが重用される時代がやってきます。
その意味でも、今こそ惰性で働くような働き方をやめ、自分が情熱と才能を発揮できる仕事に打ち込むべき時代だと言えるでしょう。
●自分が働く場所は自分で選ぶ

・「ボーナスが出るまでは働こう」と思って働いているうちに、「やっぱり今は転職しなくてもいいか」と考えを変える。
・「今の会社くらい従業員特典が充実している会社もないし」という理由で会社への不満を我慢する。
・転職の話を切り出したら、慰留のために希望のポストと報酬を用意されたので、そのまま残ることにした。
これらは決して間違った選択ではありませんが、Netflixが理想とする従業員のあり方とはズレています。なぜならこれらの選択をするということは、会社が用意した転職防止の「金の手錠」でがんじがらめにされているということだからです。
自分が情熱と才能を発揮できる仕事は何かを理解している一流のビジネスパーソンは、「その仕事がこの場所でできるか」を最も重要な指標として会社を選びます。もし自分もそうありたいと願うのであれば、自分が働く場所は自分で選ぶという意識を強く持ち、実践することが必要になるでしょう。
「大人」として働くか?「子供」のままでいるか?
Netflixは従業員を徹底的に「大人」として扱います。キャリア開発を進められるかどうかも、挑戦のチャンスに恵まれるかどうかも、自分が求めるポストにつけるかどうかも、全ては本人次第。従来の人材管理制度のように、手取り足取り育成して、長期勤続の労に報いるためにポストを用意したり、従業員に遠慮して人事変更を控えるようなことはしません。
こうした人材管理制度は、従業員を世話が必要な「子供」として扱っており、会社にとっても本人にとってもマイナスになるやり方だと一蹴します。子供のままでいることは楽ですし、大人でいることは自由な反面責任も伴います。
しかし今後グローバル競争の激化と、日本の国力低下に伴って、市場価値の低い人材はますます淘汰されていくでしょう。その中で生き残るためには、Netflixが求めているような人材のあり方に自分を適応させていき、自分の市場価値を高めていく必要があります。
現代が激動の時代であることは疑いがありません。そのなかでビジネスパーソンは大人として働くか、それとも子供のままでいるかという問いを突きつけられていると言えるでしょう。

