ビジネス心理学者・内藤誼人が教える転職塾『キャリアダウンの原因』

人気作家が教える失敗しない転職のコツとは?

ビジネス心理学の第一人者として実践的な心理学の応用に力を注ぎ、多数の著書を出版されている人気作家の内藤 誼人さんに「失敗しない転職のコツ」について寄稿いただいたスペシャル連載です。今回は『キャリアダウンの原因』について解説していただきました。

内藤 誼人 氏 プロフィール
心理学者。有限会社アンギルド代表。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。ビジネス心理学の第一人者として、実践的な心理学の応用に力を注いでいる。自然を愛するナチュラリスト。どんな女性にもやさしいラディカル・フェミニスト。主な著書に「仕事力より“社渡り”力 会社でなぜかうまくいく「人たらし」の心理テクニック」「「不安」があなたを強くする 心配性だからこそうまくいく54の法則」「「他人に怒れない」をやめる6つの方法」「人たらしになる会話術」など。

キャリアダウンの原因は?

キャリアアップを目指して転職したのに、実際にはキャリアダウンしてしまった…という話は、よく耳にしますよね。
せっかく転職しても、実際にキャリアアップできるのはわずか3分の1だといわれています。残りの3分の1がなんとか頑張って現状維持で、さらに残りの3分の1が、キャリアダウンするそうです。

キャリアアップできるのは、せいぜい3分の1にすぎないということは明らかなのに、なぜあまり考えもなしに転職しようとする人が大勢いるのでしょうか。その理由は、“過剰推定効果”。これこそが、私たちの目を曇らせる原因です。

過剰推定効果とは?


研究者によっては、「平均点以上効果」と呼ばれることもあるのですが、私たちは、自分の魅力、自分の人気度、自分の実力、自分の知能などを、他の人たち(平均的な人たち)よりもはるかに上だろうと、過剰に推定してしまう傾向があるのです。

「俺が転職したら、うまくいくに決まってるよ」(他のヤツらはダメだけどね)
「私が転職したら、今よりキャリアはアップするはず」(他の人はムリでしょうけど)

私たちの心は、こんな風に考えてしまうわけです。だから、軽はずみな転職をして、「あれれ?こんなはずじゃなかったのに…」と臍を噛む人が後を絶たないわけですね。
 

過剰推定効果の研究データ


いくつか過剰推定効果の研究データもご紹介しておきましょう。オハイオ州立大学のマーク・アリックは、26の性格(信頼できる、協力的、正直、知的など)について、自分の得点と、平均的な他の人の得点を100点満点でつけさせました。

すると、26の性格のうち、23の性格では、「自分のほうが他の人より上」と答えたそうなのです。「私のほうが、他の人よりずっといい」という自惚れが見えます。

またテキサス大学のマーティン・キルドフは、4つのハイテク企業や政府関連団体の職員116名に、「あなたの職場での人気度は?」と尋ねてみました。すると今度もやはり、現実にはそんなに人気がないのに、自分では人気があると過剰推定していることが明らかにされたそうです。

さらにストックトン州立大学のマイケル・フランクは、ニュージャージー州アトランティック市にあるカジノで遊んでいる人に尋ねてみると、約66%の人は、「自分は勝っている」か「トントン」だと答えました。そんなわけがあるわけがないのに、私たちは、自分のことを評価しようとすると、ものすごく自分に都合のいい推定をするのですね。

自分だけはうまくいく


転職しようとする人も、同じような心のバイアス(歪み)の影響を受けるのでしょう。そのため、「自分だけはうまくいく!」という、ものすごく楽観的なことばかりを夢見て、安易な転職をしてしまうのではないか、と考えられます。

実際のデータで、転職者の3分の1しかキャリアアップしていないのであれば、自分だって成功する確率はせいぜい3分の1しかなく、3分の2は、今と同じかダウンする確率があるということなのですが、「自分だけは別」と考えてしまうのです。

しかも困ったことに、過剰推定効果は、女性よりも男性に強く働く心理効果であることも明らかにされていますから、転職を考えている男性はなおさら気をつけてください。

過剰推定しないために


さて、ではどうすれば過剰推定効果の影響を受けずにすませられるのかもアドバイスしておきましょう。ひとつの方法は、自分で考えるのをやめること。

自分で自分自身のことを評価しようとすると、どうしても過剰推定効果の影響を受けてしまうわけですから、自分の得点は、「だれか他の人」につけてもらうようにするのです。こうすれば、当然ながら、過剰推効果の影響をうけません。

ネットで、仕事のスキルを診断してくれるようなテストを探して、そのテストを受けてみるのはどうでしょうか。なかなかいいアイデアです。かりにある診断テストで、45点だという結果が出たのなら、いくら自分で80点だと思っても、やっぱり客観的には45点しかない、という現実を目の当たりにすることができるでしょう(少々、キツイ現実かもしれませんが…)。

自己採点を2割低く見積もる

もうひとつの方法は、自分の推定値にマイナス20点をつけたものを、自分の現実の得点だと考えることです。たとえば、自分の仕事のスキルは75点くらいかな?と思うのであれば、そこからマイナス20点をして、55点くらいだとみなすのです。

私たちは、だいたい2割くらい自分自身についての評価を高く評価してしまう傾向がありますから、マイナス20点をすれば、現実に近い値が得られるという寸法です。

「うわっ、転職して失敗しちゃった!」
「ああ~、転職なんてしなければよかった!」

という悩みも、元をたどれば、私たちの心が過剰推定効果を起こしてしまうから。後悔のない転職をするためにも、私たちの心が歪んでいることを十分に認識しておく必要があるといえるかもしれませんね。

Career Supli
自分は過剰推定を特にしそうなタイプなので、3割低く見積もってちょうどよいかもしれません。
[文]内藤誼人 [編集] サムライト編集部