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モチベーションは維持できない
リーマンショック以降ビジネスパーソンのキーワードになったとさえ言えるモチベーションですが、昨今はそれがいきすぎて「モチベーションを維持すること」自体に消耗しているような状況です。
しかし実は本来モチベーション、やる気とは体調やプライベートでの出来事、天気などあらゆることが原因で上がったり下がったりするもの。実質的に維持は不可能なのです。ここではモチベーションアップのために汲々としている現代ビジネスパーソンのために、モチベーションに頼らない仕事術を提案します。
モチベーションの弊害を知ろう
モチベーションの高い人にも必ず、やる気がないときがやってきます。それは能力を期待通りに評価されないときです。例えばそういう人は「こんなにチームに貢献したのにたったそれだけの評価なのか。正当に評価されないなんてモチベーションが下がってしまう!」などと思いかねません。すると一転してふてくされたり、不機嫌になったりするのです。
数学者のマルシャル・ロサダの研究によればネガティブな言動の悪影響を打ち消すには、その3倍のポジティブな言動が必要だとされています。それ以下であれば組織の場合、組織全体のパフォーマンスが低下してしまいます。
つまり1人でも不機嫌な人がいるとその3倍のポジティブ人材が必要なのです。モチベーションの高い人がすべて不機嫌になりやすいわけではありませんが、それだけのリスクとコストのかかる人材だということは事実です。
またモチベーションの高さを奨励し始めると、日本の場合「残業しないのはモチベーションが低いからだ」というレッテルを貼られがちです。
その結果、意味もなく残業を続けてうつ病を患ったり、慢性的に疲労を溜め込んで組織全体のパフォーマンスが低下してしまうのです。何も考えずにモチベーションを礼賛していると、このように様々な弊害も知らぬ間に呑み込んでしまう羽目になります。
仕事にはやる気がなくて当たり前?

私たちはどんなことにモチベーションを感じるでしょうか。「やりたい仕事」「楽しい仕事」「やりがいのある仕事」などいろいろあると思います。しかし実際のところ、こういった仕事は滅多にありません。
「将来は起業して自分のやりたい仕事をするんだ」と言って独立した人でも、いざやりたい仕事を始めてみると「やりたい仕事をしているのにモチベーションが常に高いわけではない自分」に気付くはずです。つまるところ、仕事のほとんどは「やる気の出ないもの」で構成されているのです。
このことを理解せずに「モチベーションを感じる仕事」を追い求めていると、毎日の仕事のつまらなさに耐え切れず、仕事を辞めてしまったり、転職を考えるようになります。
しかし仕事に関してモチベーションを感じないという理由だけで転職をするような人は、どこに行っても同じ行動を繰り返すことになります。「そもそも大半の仕事にモチベーションは生まれない」という前提に立つ必要があるのです。
デキる人は「型」と「習慣」で仕事する

ではモチベーションが非常に高いわけではないのに、なぜかパフォーマンスが高い人はどのように仕事をしているのでしょうか。まず第一に「モチベーションが高いか、低いか」を仕事の基準に置いていない点が挙げられます。仕事にモチベーションを持ち込むと必然的にパフォーマンスが不安定になります。まずはそこから脱却しなければなりません。
第二に彼らは仕事や生活に「型」「習慣」を持っています。例えば必ず毎日8時に出社して、最初にメールチェックをしたあと、前日退社前に作ったその日のToDoリストに従って重要度と緊急度の高い仕事から処理し、その次は……というように、仕事のやり方が決まっているのです。
仕事にはイレギュラーな問題がつきものですが、「もしこのタイミングでイレギュラーが起きればこうする」といったように決めておけば、すべて「型」「習慣」の範囲内で対応できます。
こうしておけばそのやり方が崩れたときに、「あ、今自分はいつもと違うな」と気づいてたて直せますが、そもそも「型」や「習慣」がない人にはそれができません。結果「なんかモチベーションがさ……」と言い訳することになります。
対人関係もルーティンで作り上げる

「対人関係」というといかにもモチベーションが必要に思えますが、実はそれも勘違い。それすら高いパフォーマンスを発揮するための「仕事」だと考えれば、他の仕事と同様に扱えます。
日本の総合商社初の女性執行役員となった伊藤忠商事の茅野みつるさんは、人脈作りのために人的ネットワークを6つに分類し、それぞれにアクションプランを作成、それに基づいてPDCAサイクルを回すのだそうです。つまりは対人関係をもルーティンワークとして組み込んでいるというわけです。
ルーティンで人脈を構築していれば、「こういう問題で困ったときは○○さん」というように頼る相手や交渉すべき相手を瞬時に思い浮かべられるようになります。ここにモチベーションの有無は関係ありません。自然と仕事のスピードと質が上がり、周囲から「デキる人」として認知されるようになります。
モチベーションではなく「つながり」を高める
コミュニケーションが成立するかどうかの鍵は話の内容や情熱、ましてやモチベーションの高さなどではありません。最も重要なのは「つながり」です。
人事・組織コンサルタントを務める相原孝夫さんは、かつて自社の人事制度改定を主導し、その説明を社員にしていたときにこのことを痛感したのだそうです。
あきらかに社員側にはメリットだったため、普段からやりとりのある部門の社員はこの制度改定をすんなり受け入れてくれました。しかし普段ほとんど接点のない部門では、最初から疑惑の目で見られてしまいます。
このときの問題を解決に導いてくれたのは、たまたまその部門にいた2人のソフトボール仲間でした。「つながり」があったからこそ相原さんは窮地をしのげたのです。
文章表現・コミュニケーションインストラクターである山田ズーニーさんは「『何を言うか』よりも『誰が言うか』が雄弁なときがある」と言っていますが、これもコミュニケーションにおける「つながり」の重要性を指摘した言葉だと言えます。
やる気に振り回されるのはもうやめよう
モチベーションは常に変動するもの。それにパフォーマンスを依存させていては、いつまでたってもデキる人にはなれません。しかし「モチベーションを高めるな」と言っているわけではありません。
仕事をしていれば必ずモチベーションの上がる瞬間はやってきます。そのときは存分に楽しめばいいのです。重要なのは「モチベーションと仕事を切り離す」ことです。
参考文献『仕事ができる人はなぜモチベーションにこだわらないのか』
