広がる弁護士・法務人材のフィールド
企業に所属し、組織内で発生する法律関連のトラブルや課題の解決をサポートする「インハウスローヤー」。日本では比較的新しい職種で2001年に全国で70人にも満たなかったものの、2014年には約1,200人、2018年には約2,200人と急速に増えつつあります。
かつて弁護士資格を持つ人材の活躍の場は法律事務所に限られていましたが、近年はインハウスローヤーを始め、企業の最高法務責任者(CLO)として取締役会の席につく人、法務経験を生かして起業する人など、様々な舞台が生まれています。キャリアアップのために転職を考えている人も多いのではないでしょうか。
今回は弁護士・法務人材専門の転職コンサルタントとして活躍するLHH転職エージェント(アデコ株式会社)の山口宣仁さんと吉田貴道さんに、転職市場の現状と、弁護士・法務人材の分野に強い転職エージェントの特徴についてお聞きしました。
弁護士・法務人材の転職は「売り手市場」

−−まずはお二人の経歴についてお聞きしてもよろしいでしょうか?
山口宣仁さん(以下、山口):私は自動車メーカーで営業・販売職を11年ほど経験したのち、2004年より外資系サーチファームで弁護士・法務人材専門のヘッドハンター兼コンサルタントとして働き始めました。
その後日系のリーガル・コンプライアンス職専門の人材紹介会社の立ち上げに加わったり、英国系の転職エージェントで弁護士・法務人材のシニアコンサルタントをしておりましたので、約15年間この分野に携わっております。
現職(LHH 転職エージェントの弁護士・法務人材チームのシニアコンサルタント)に就いたのは2019年3月からになります。

吉田貴道さん(以下、吉田):私は学生の時からヘッドハンターとして働いていた人間で、最初は日系の中間管理職以上のバイリンガル人材専門職に特化した会社に勤めていました。
そちらで弁護士・法務人材を担当したのち、山口と同じ英国系の転職エージェントに移籍。2年ほど同じ分野のヘッドハンティングや人材紹介に携わり、2019年6月からLHH転職エージェントでコンサルタントをしております。
−−ずっと弁護士・法務人材の分野に携わっているんですね。お二人の感覚で、現在の弁護士・法務人材の転職市場はどのような状況でしょうか。
山口:日本で事業をスタートさせる外資系企業が、日本法に詳しい人材を求めていたり、法務やコンプライアンスを強化しようという日系企業が外資に対抗して「フルフレックス制度・在宅勤務あり」といった条件で人を探していたりと、完全な売り手市場な状況です。
企業から提示される年収も上昇傾向にあり、正規の報酬体系では十分な金額が出せないからという理由で、弁護士として採用することで基本給以外に弁護士報酬を上乗せしたり、あえて契約社員として雇うことで例外的な給与条件を提示したりといったことで人材を採用する企業も少なくありません。
特に、弁護士資格を所有している方で、英語のスキルがあり、かつ企業法務経験もあるという人材にとっては、より完全な売り手市場になっています。
吉田:求職者側もかつてのような「法律事務所で弁護士として働き続ける」というキャリア観だけでなく、インハウスローヤーとして働くという考え方を持つ人が増えてきました。
法律事務所に持ち込まれる案件は、クライアントの組織内で議論されたあと、実際に法的な知識や経験のある弁護士のところへエクセキューション(実行)の部分だけが回ってきます。
どうしてそのような依頼になったのか、依頼が終わった後に最終的にどのようなったかの部分に関われることは稀です。
しかしインハウスローヤーになれば、組織内で議論するところにも関われますし、フィードバックを得ることもできます。そういったインハウスローヤーの仕事の幅に魅力を感じる人が増えてきています。
山口:法律事務所の弁護士はユーザーファーストなので、依頼内容や顧客の都合によっては土日祝日でも仕事があることも多いですが、インハウスローヤーは会社員なので休みやすいですしね。
求職者に求められるのは「英語力」と「コミュ力」

−−先ほど英語の話が出ましたが、やはり英語がないと厳しい世界なのでしょうか?
吉田:そうですね。日本で新たに事業展開をする際に、法務の中枢を担う人材を探している外資系企業の場合はスピーキング能力が求められます。
また海外進出を考えている日系企業になると、法務面からビジネスをサポートするスキルも求められるケースが増えてきています。
山口:ただ求められる英語のレベルもさまざまです。海外出張や英語圏との交渉ができるレベルの英語が求められることもありますが、英文契約書が扱えるとか、海外の人と英文でEメールのやり取りができるといったドキュメントレベルでいいというケースもあります。
最初から英語ができなくてもいい場合もあります。基本は国内の案件を担当させてもらって、その合間に徐々に海外案件の経験を積んでいける企業もあれば、社費留学を通じて英語スキルを伸ばしてくれるところもありますから。
「これから英語を伸ばしていきたい」という求職者の方のなかには、そういった会社を選ぶ人もいらしゃいます。
吉田:むしろ英語力よりもコミュニケーション力が重視されることの方が多いと感じます。
山口:そうですね。そういったニーズは実際に増えていますね。
吉田:法律事務所では弁護士は「先生」ですが、インハウスローヤーになると「法律に詳しい一社員」です。専門知識のない他の社員は、専門家からすれば法律と全く関係のないことでも相談をしてきます。
そういった相談に「専門外なので」とそっけなく対応するような人は、インハウスローヤーとして難しいかもしれません。きちんと事情を聞いてあげて、法律的な観点はもちろん、その他の視点からもアドバイスができるようなコミュニケーション力が必要です。
弁護士・法務人材分野における「強いエージェント」とは?

−−満足のいく転職をするには、どんな企業があって、どんな働き方があって……といった情報が必要だと思います。それは弁護士・法務人材の分野でも同じですか?
山口:同じです。ただ、やはり求職者が個人で集められる情報には限りがあるので、信用できるエージェントを頼るのが得策でしょう。
−−信用できるエージェントの条件とは、どんなものでしょうか?
山口:まずは弁護士・法務人材の分野に特化したコンサルタントが在籍していること、次にクライアント企業・求職者いずれにおいても長期的な関係の構築を心がけていること、そして他職種のチームと情報を共有する体制を構築していることです。
私のように15年もこの仕事に携わっていると、かつて求職者としてサポートした人がクライアント企業の法務部の採用担当者になっているというケースも少なくありません。
そうしますと人材を紹介するときにも人事部の採用担当者ではなく、実際に人材を募集している部門の担当(ハイヤリングマネージャー)と直接話をすることができます。
もしこういったコネクションがない転職エージェントが人材を紹介すると、人事部の担当者とハイヤリングマネージャーとの間のギャップを埋められず、採用に至らない可能性も高まってしまいます。専門のコンサルタントがいなければこのような情報収集はできません。
しかしいくら専門のコンサルタントがいても、目先の利益を重視した仕事をしていれば情報を提供してもらえるような関係にはなれません。
なぜなら紹介した人材が採用されることだけを目的にしていれば、高い確率でミスマッチが起こり、企業・求職者いずれにとっても不幸な結果を招くからです。
そのため情報の質と量を確保するためには、コンサルタントにとっても、企業にとっても、求職者にとってもプラスになるような丁寧な仕事が要求されるのです。それが長期的な人間関係につながり、より確度の高い情報をより多く収集できることにつながっていきます。
吉田:LHH転職エージェントは、日本組織内弁護士協会(JILA)の賛助団体の一員ということも強みです。JILAは全国のインハウスローヤーが現在のところ約1400人が登録している協会ですので、人材や業界の情報が大量に集まってきます。
JILAに直接リーチができるというのは、弁護士・法務人材の転職をサポートするうえで大きなアドバンテージだと考えています。
山口:ただ弁護士・法務人材というカテゴリにしろ、インハウスローヤーというカテゴリにしろ、どこかに特化しているとどうしても視野や情報が限定されてしまいます。
しかし弁護士・法務人材のニーズはいまやさまざまな業界に広がっているわけですから、企業にとってベストの採用、求職者にとってベストの転職をしてもらうには、より広い視野と情報が必要です。
だから他職種を担当しているコンサルタントのチームと情報を共有する体制を構築し、その情報に基づいてコーディネートを行うべきなのです。
私たちはアデコグループの持つネットワークをフルに活用して、さまざまな地域・分野・職種の情報を手に入れることができます。
しかもLHH転職エージェントでは他の領域のコンサルタントも、私たちが行なっているような、ハイヤリングマネージャーへの面談を重視しているため、その情報の質も高いわけです。
私も吉田も、現職についてまだ日は浅いですが、こうしたアドバンテージを生かせば、企業、求職者、コンサルタントの三者にとってよりよい仕事ができると考えています。
−−これは頼もしいですね。本日はありがとうございました。
