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給料の内訳を説明して
「自分の給料の内訳を説明してください」そう言われてどんな数字を思い浮かべるでしょうか。基本給や残業手当、家族手当などはこの場合答えになっていません。
考えて欲しいのは「なぜ基本給がその金額なのか」です。ここでは木暮太一氏の『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』を参考に、私たちが日頃何も考えずに受け取っている給料が、どんな仕組みで計算されているのかを解説します。これは人事部の人だけが知っておくべき内容ではありません。「働き方から幸せを考えたい」という人にも大きく関わる、重要な問題なのです。
給料は「労働力の価値」と「労働力の使用価値」でできている

木暮氏流にマルクスの『資本論』にしたがって給料の内訳を説明すると、「給料」=「労働力の価値」+「労働力の使用価値」だと言うことができます。「マルクス」という名前が出ると、それだけで「難しそうだな」とアレルギーを示す人もいるかもしれません。
しかしここでは具体例を挙げながら簡単に説明しているので、全く知識がなくても大丈夫。まずは「労働力の価値」の意味から知っておきましょう。
●「労働力の価値」とは?
現在日本の製造業の大企業は自社工場を海外に移転させ、現地住民を雇い入れて生産を行っています。確かに「国産」と「海外産」には細かな品質の違いはありますが、一見してわかるような大きな違いはありません。
しかし中国やカンボジアなどの工場で働く人たちがもらう給料と、全く同じものを作っている日本の工場で働く人たちの給料を比べると、後者の方が圧倒的に高くなっています。
だからこそ人件費を削減するために大企業は生産拠点の移転を進めるわけですが、同じ製品を作っているにもかかわらず両者の間で給料の違いは発生するのはなぜなのでしょうか。
この違いこそが「労働力の価値」の違いです。マルクスの『資本論』における「価値」は私たちが一般的に考える価値ではなく、「あるものをもう一度作るために必要な再生産コスト(労力・時間)」を指します。
例えば1つの卵を作るのと出汁巻き玉子を1本作るのとでは、同じものをもう一度作るのに必要な再生産コストが後者の方が高くなります。したがって卵よりも出汁巻き玉子の方が「価値」が高い、というわけです。
労働力の「価値」でも同じように考えられます。私たちが毎日同じように働くためには食事や衣服、住居が必要です。これが労働力の再生産コストです。
労働力に再生産コストが必要なのは中国でもカンボジアでも日本でも同じですが、全く同じ生活をするために必要な再生産コストは国の経済状況によって変動します。だからカンボジアの工場で働く人たちの給料と、日本の工場で働く人たちの給料に差が生まれるのです。
●「労働力の使用価値」とは?
「使用価値」とは有益性やメリットを指します。おにぎりの使用価値は「空腹を満たすこと」です。「労働力の使用価値」はすなわち「利益を出すこと」となります。
したがって給料は「その人の労働力を再生産するためにかかるコスト」と「その人が出す利益」の合計です。このように考えると、例えば全く同じ「労働力の価値」を持っている労働者が、相手に対して自分の給料をあげようとすると「労働力の使用価値」を上げざるを得なくなります。
利益を出すためにはいろいろな方法がありますが、最も簡単な方法は「残業」です。2人の労働者の生産力が等しければ、より長く働いたほうがより多くの利益を生むことになるからです。
これは日本のビジネスパーソンの多くが実践している方法でしょう。しかし悲しいことにいくら残業しても、その苦労に見合った昇給は望めないのが現実です。
もちろん売り上げを大幅にアップさせて会社に貢献するという方法もありますが、この方法も現在の日本ではその努力に見合った昇給にならないのが一般的です。これはなぜなのでしょうか?
あなたの会社は「必要計算方式」?「利益分け前方式」?

経済学的に考えた時、給料の計算方法には「必要経費方式」と「利益分け前方式」があります。「必要経費方式」とは労働力の再生産コストを中心に考える計算方式です。
この計算方式では衣食住にかかるお金やレジャー費、養育費など従業員が同じ労働力を提供し続けるために必要なお金はいくらか、と考えます。基本的には従業員がいくら利益を出したか=労働力の使用価値は計算に入れません。残業代や賞与などは労働力の使用価値に対する評価ですが、あくまで例外措置と考えるべきです。
対して「利益分け前方式」は「労働力の使用価値」をメインに考える計算方式です。歩合制を採用している企業などはこれに当てはまりますが、日本企業の多くは必要経費方式を採用しています。
「労働力の再生産コスト」が給料のほとんどを占めている!
「うちの会社は実力主義だぞ!」と主張したい人もいるかもしれませんが、「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」などをもらっている場合は少なからず必要経費方式で給料が決められていると考えるべきでしょう。
これらはその人の実力の有無に関わらず、生活に必要だからという理由で支給されています。「労働力の使用価値」ではなく、「労働力の価値」で考えられているのです。すなわち日本のビジネスパーソンにとって重要なのは「労働力の価値=労働力の再生産コスト」の違いなのです。
例えば2013年の調査によると医者(勤務医)の平均年収は1477万円ですが、2014年の看護師の平均年収は473万円だそうです。どちらも命に関わる重要な仕事で、仕事の有益性つまり労働力の使用価値は甲乙つけがたいものがあります。
しかし医者(勤務医)として一人前になるために必要な労力や時間などを考慮すると、どうしても医者(勤務医)の方が「労働力の価値」が高くなるため、平均年収にして1000万円の差がつくというわけ(もちろん原因はもっと複雑ですが、ここでは単純化して考えています)。日本においてはこれほどまでに「労働力の価値」の影響力は大きいのです。
「幸せな働き方」とは何か?
このように考えると私たちが幸せを感じながら、かつ今よりも給料をあげようとするならば「労働力の価値」を上げる必要があります。日本の企業で「労働力の使用価値」をいくら上げたところで長時間労働などで消耗するだけで、期待するような給料は得られないからです。
「労働力の価値」はその労働力を実現するために積み上げてきた時間・労力によって変動します。私たちは日々の仕事の中で、この「労働力の価値」を上げる努力をしなくてはいけないのです。ただがむしゃらに頑張って、「労働力の使用価値」ばかりを上げていても幸せにはなれないということを知っておきましょう。
参考文献『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』
