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車検の世界に「サービス」をもちこんだコバック
「接客が素晴らしく、驚かされました」「従業員の教育が行き届いている」こんな話を聞いてそれが車検会社に対するものだと思う人はどれくらいいるでしょうか。これらは全国に460店舗を展開する日本一の車検チェーン会社「コバック」に寄せられた顧客の声なのです。
「電話対応が良かったから期待はしていたが、それを上回るサービスレベルだった」とは筆者の父の声。さてコバックはなぜこれほどまでに支持されるのでしょうか。その秘密は「常識破り」へのたゆまぬ挑戦にありました。
画像出典:http://carport-sasaki.com/kobac/s/shop/
業界の常識を破った「事前料金見積もり」
昭和60年代、自分の父が創業した自動車整備会社「小林モータース」の将来を案じた当時20代の現代表取締役社長・小林憲司さんは、どうにかして自社の整備工場の車検台数を増やしたいと様々な策を講じていました。
そこで彼は「こちら側の都合はいいから、どうしたら車検に出してもらえますか」と聞いて回ったのだそうです。すると最も多かった声が「『やってみないと料金はわからない』では困る」「事前の料金見積もりを出して欲しい」というもの。
当時車検に出す顧客側は一体何に、どうして費用がかかっているのかもよくわからずに、業者の言い値を支払うという状況が普通だったのです。またそれが業者側のうまみにもなっていたため、誰も「事前見積もりを出そう」とはなりません。
そこで小林さんは「じゃあまず事前料金見積もりを出せる体制を整えよう」と行動し始めます。そして、それまで整備士の裁量で決めていた部品交換などの基準の統一化、どんな車検サービスを求めているのかを探る問診票の作成など既存の車検にはない体制を作り上げたのです。
低価格を実現するための「サービスのメニュー化」

画像出典:http://www.kobac.co.jp/menu.html
小林さんが言われた言葉の中に「ディーラーと比べてよほど魅力的な料金でなければ、おたくには出さない」という声もありました。小林さんはこの声に応えるために「車検を通すために必要な作業」と「安全に車に乗るために必要な予防整備」に分類して、サービスのメニュー化を実行します。
こうすれば顧客が自分の判断でサービスを選択できるのです。「車検は何にお金がかかっているかわからない」が当たり前の時代において、この試みはまさに革新的な発想と言えるでしょう。この試みは専門のスタッフでなくてもサービスの受付業務が可能になるため、人件費の削減にもつながります。
さらには「高い水準のサービスを提供していれば必ず顧客はやってきてくれる」と考え、既存顧客への挨拶回りや新規顧客の開拓を担っていた車検営業を廃止。削減した人件費をそのまま価格に還元し、より低価格なサービスを実現します。
見積もりの提示や低価格サービス以外にも新規顧客が入りやすい店づくりなどを心がけた結果、小林モータースは3年で車検台数を7倍にまで伸ばします。小林さんの常識破りは大成功を遂げたのです。
マクドナルドをモデルにした「QSPCS」というサービス基準

画像出典:http://kobac-ikerin.com/s/feature/
しかし小林さんの常識破りはこれで終わりではありません。彼は店舗に石を投げ込まれたり、嫌がらせの電話を受けたりしながらも前代未聞の「車検のチェーン化」を実行に移すのです。
逆風にも負けずに戦えたのは当初は反対したものの最終的にはサポートしてくれた父・正一さんの力と、「マクドナルドのように社会的な影響力を持つサービスを作りたい」という並々ならぬ情熱があったからでした。
そのマクドナルドから学び、車検業界に合うように小林さんが手を加えたのが「QSPCS」というサービス基準です。
Q:クオリティ(高品質)
S:サービス
P:プロダクト(高生産)
C:クリンリネス(清潔)
S:セーフティー(安全)
これらを絶えず高め続ければ必ず顧客満足度が上がる。その指標としてこのサービス基準は作られています。しかし「QSPCSを絶えず高め続ける」のは至難の技。
そのためには意識レベルの高い人材を集めるとともに、彼らを教育するシステムが必要です。経営理念や価値観の共有するための体制もなくてはならないでしょう。フランチャイズチェーンとして展開を目指すのであればなおさらです。
「コバック車検大学」という教育システム
ここでも小林さんはマクドナルドの「ハンバーガー大学」をモデルにして、「コバック車検大学」を立ち上げます。同大学は愛知県知事認定を取得しているため、受講生に職業能力給付金が国から支給される本格的な職業訓練機関です。直営店や加盟店の店頭スタッフや整備士、エンジニアなどが受講し、実務経験のある本部スタッフが教壇に立ちます。
車検大学では従来の整備学校でも学べる整備技術だけでなく、店舗マネジメントに必要な知識を学んだり、各人が自分にあったレベルの能力開発が行えるようなキャリアパスプログラムも用意されています。
さらにコバックは各加盟店で起きる「世代交代」にも対応しています。全国のコバック加盟店後継者候補は3年間ないし2年間を「後継者特別研修生」としてコバック本部に勤務しながら、後継者として知っておくべきノウハウを学ぶことができるのです。
企業が「大学」を作ること自体常識破りであるうえに、それを車検業界でやってしまったというところにコバックの凄さがあります。しかもそれをファーストフードチェーンをモデルにしてやったという点にも、小林さんのイノベーション力が感じられます。
「予防整備」という新市場開拓への挑戦
ここまでコバックが実践してきた常識破りを見てきましたが、まだまだコバックは常識破りに挑戦し続けています。その1つが「予防整備」という新しい市場の開拓です。「車は故障してから修理すればいい。そのついでに整備してもらえればいいや」と思っている人も多いのではないでしょうか。
しかし小林さんいわく、その考えには2つの大きなデメリットがあります。1つは命に対するリスクが高まるということです。予防整備をしないままで突然車にトラブルが発生して命を危険にさらすよりも、予防整備をして走ったほうが圧倒的にリスクを抑えられます。
もう1つは金銭的に損をするということです。「壊れてから直せばいい」と言いますが、エンジンオイルの不良でエンジンが焼きついた場合の修理費用と、エンジンオイルを交換する費用には100倍以上もの差があります。また整備不良の車で走れば燃費も悪くなるのでガソリン代も余分にかかってしまうでしょう。
そうしたデメリットを世の中に伝え、予防整備という市場を開拓することが次の目標であり、使命なのだと小林さんは言います。
1つの業界だけ見ていてもイノベーションは起きない
「様々な業界を横断的に見ることがイノベーションにつながる」という話は、聞いたことがある人も多いはず。しかしコバックの小林憲司さんほどこれを体現している人は稀でしょう。
今目の前にある業界の問題を「そんなもんだろう」と見逃さず、他の業界のシステムや手法を取り入れて常識をどんどん壊していく。まさにイノベーションです。今後コバックがどんな常識破りを見せてくれるのか、今から楽しみですね。
参考文献『コバック伝説 進化し挑戦し続けるNO.1車検チェーンの秘密』
