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建設業界の転職市場はこれからどうなる?
ここ数年、東京オリンピックによる需要増に沸いた建設業界。しかしそこで働く人たちの中には、「これから業界はどうなるのか?」「転職をするなら、今するべきなのか?」といった不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、長年建設業界で転職エージェントとして活躍してきた、LHH転職エージェント 建設不動産紹介部の栗栖啓(くりす・ひろし)部長と、片平康久課長に、今後の業界の展望や転職事情をお聞きしました。
建設業界の人材需要は、オリンピック・万博後も高水準で推移する
−東京オリンピックは、建設業界に経済効果をもたらしていると言われますが、具体的にどれくらいの効果が出ているのでしょうか。
片平康久課長(以下、片平):実際の数値は東京オリンピック以降のレポートを待つべきですが、2015年に日本銀行が出した「2020 年東京オリンピックの経済効果」というレポートでは、建設投資の増加により、日本の実質GDP成長率が最大で3%超伸びるという試算が出されていました。
金額で言えば東京都単体で約20兆円、全国で約32兆円にもなるという試算もありますから、かなりの規模と言えます。
−この他、大きな建設投資が生まれそうなイベントといえば、大阪万博や総合型リゾート(IR)の開業などでしょうか。
片平:そうですね。こちらは両方合わせて6,000億円の規模になるとされています。
−こうした建設投資は業界としては喜ぶべきなのかもしれませんが、そのあとのことを考えると少し不安ですね。
栗栖啓部長(以下、栗栖):LHH転職エージェントに相談に来る求職者の方の中にも同様の不安を抱えている方は多いですが、国内の建設投資の規模はしばらく維持されるだろうという見方が強いです。そのため建設業界の人材需要も、高水準で推移する可能性が高いと言えます。
合わせて、コンクリートの耐用年数は60年程度とされています。つまり高度経済成長期に建設されたインフラが、そろそろ建て替えの時期に入るわけです。IRを含めた商業施設の建設需要もあります。
現在は東京オリンピックの方に人手が取られていて一旦ストップしている工事が、オリンピックや万博終了後に動き出すはずですので、まだまだ人手が必要と考えています。
片平:建設業界の人手不足は深刻で、いわゆる「人手不足倒産」も他の業界に比べて多くなっています。
−人手不足倒産ですか?
片平:はい。簡単にいえば「仕事はあるのに人がいないから受注ができない。でも固定費などのコストはかかるから、結果として資金がショートして倒産してしまう」というケースなどです。
帝国データバンクが毎年出している「『人手不足倒産』の動向調査」によれば、2019年の人手不足倒産185件のうち、49件が「建設業」です。ちなみに2018年の人手不足倒産は153件で、そのうち「建設業」は46件を占めていました。
建築業の人手不足倒産が急増したのは2018年からですので、東京オリンピック需要の影響を受けている可能性は高いでしょう。
−「仕事はあるのに人がいないから倒産する」というのは、あまりにも悲しいですね。
栗栖:人手不足という業界の深刻な問題を、人材紹介業の力で緩和したいという思いはありますね。
「高齢だから」「無資格だから」も出会い次第

−今までで印象に残っている求職者の方はいますか?
片平:61歳の求職者様でしょうか。60歳まで勤め上げたあと、同じ会社に嘱託職員として入ったものの、年収も下がったし、65歳以降も働き続けたいから転職を考えているという方でした。
−61歳となると、転職するにはかなり高齢層のイメージがあります。
片平:確かに高齢層ではありますし、ご本人も「この年齢だから、かなり苦戦すると思うが……」とおっしゃっていました。しかし蓋を開けてみれば、1社目にご紹介した財閥系の大手ゼネコンに即戦力として入社されました。
もちろんこのケースはご本人に経験と能力、そして意欲があったからですが、高齢だからと言って一概に「転職は無理」と考える必要もありません。
栗栖:近年は40〜50代の転職も増えてきていますしね。
片平:前職で配管設計を担当していた40代の方が、その後不動産会社に転職したものの、改めてご自身のキャリアを考えると、エンジニアに戻りたいという方もいらっしゃいました。
−配管設計職時代に何か資格を取得していたりしたのでしょうか。
片平:いえ、その方の場合はこれといった資格はお持ちではなかったのですが、大変人柄がよかったことと、学習意欲が高かったこと、そして前職での経験値があったこともあり、業界大手のクライアントを紹介させて頂きました。
本人は「そのような大手企業は、自分には無理なように思いますが、ぜひチャレンジしてみます」と言って挑戦したのですが、とんとん拍子に選考が進み、あっという間に採用に至りました。
−決め手はどこにあったのでしょうか。
片平:細かいところを挙げれば色々とありますが、一番は学習意欲の高さだったようです。建築業界には「技術士」という取得がとても難しい資格があるのですが、彼は配管設計職時代にこの資格にチャレンジしていました。
結果だけ言えば、取得には至らなかったのですが、企業側としては面談を通じてご本人の勉強への姿勢などを聞き、採用担当者がその点を高く評価したとのことでした。
LHH転職エージェントだからできること

栗栖:こういったマッチングは、LHH転職エージェントのように「360度式コンサルティング」で求職者と求人企業の両方を1人のコンサルタントでカバーする形式を採っていなければ難しいと考えています。
求職者がどんな経験やスキル、マインドを持っているのか。求人企業の採用担当者がどのようなところで困っていて、どういった人材ならその問題を解決できるのか。
360度式コンサルティングなら、この両方の情報を1人のコンサルタントが持っていますので、マッチングの精度が非常に高くなるというわけです。
−お二人の所属する建設不動産紹介部は何人くらいの部署なのですか。
栗栖:15名のチームで動いています。一般建築、土木、戸建、設備、不動産分野、でそれぞれ3〜4名がいます。各分野の横のつながりも濃いので、互いに情報共有をすることで業界全体の事情を踏まえたマッチングを実現しています。
また一人一人が各企業に深く入り込んでいるので、「良い人材がいるのに、どこにも最適なポストがない」という場合は、コンサルタントが企業にアプローチをして、その人材に合うポストを用意してもらうという手法をとることもあります。私たちが「リバースマーケティング」と呼んでいるやり方です。
片平:自分のどこが評価されるのかは、ご自身ではよくわからないものです。
自信がなかったり、今の企業では高い評価を受けられなかったりしても、他の場所では状況が大きく変わることもあります。当然全てのケースがうまくいくわけではありませんが、現状に不満があるのなら転職は一つの解決策になると思います。
進む建設業界の改革 伸び代はまだまだある

−最後に、求職者の方へのメッセージをお願いします。
栗栖:「建設業界はキツいイメージがある」という話も耳にしますが、ある意味そういった側面もあると思います。IT業界からすれば嘘のようにアナログな経営をしている会社もあったりします。。ただ少しずつ取り巻く環境も含め変わってきている部分もあります。
例えばこれまでアナログでやっていた業務をコンピュータや人工知能に任せて効率化を進めている会社も増えてきましたし、働き方改革の影響を受けて残業を減らしたり、休日を増やしたりしている会社も多くなってきました。
もちろんまだまだ発展途上ではありますが、捉え方を変えれば「伸び代がある」ということでもあります。キツいというイメージが先行しがちな業界ですが、建設という仕事は地図に残る、本当にやりがいのある仕事です。
人手不足を解消するには、企業側もどこかで働き方を変えていく必要があります。だから建設業界の働き方はきっともっと多くの企業で変わっていくはずです。そうなれば、この仕事の魅力的な部分がより一層輝いてくると私は信じています。
だから今建設業界で働いている人は諦めず、他の業界で働いていて建設業界に憧れがある人もその気持ちを捨てずに、私たちのような転職エージェントを頼ってきてほしいですね。
−本日はありがとうございました。
[文・編集] サムライト編集部