成長企業を見極めろ!転職に役立つ決算書の読み方

決算書から始まる転職先選び

転職先の選択基準には「経営者」「事業内容」「業界」などいろいろあると思いますが、その中に「決算書の内容」は入っているでしょうか?

決算書はその企業の経営状況を数値的な側面から知ることができる重要な書類。転職で失敗しないためには、読めるようになっていた方がいいでしょう。ここでは特に企業の「成長」にスポットを当てた決算書の読み方を紹介します。財務諸表の基本についても触れているので、「決算書は全くわからない」という人もぜひ読んでみてください。

決算書から「成長力」を読み解く方法

「研究開発費」と「売上高」の比率を知ることで、その企業が今後伸びていく地力があるかどうかがある程度推測することができます。研究開発費は「研究」や「開発」のために支出した費用を指し、「販売費及び一般管理費」として計上されています。

研究開発費だけの金額を知るためには決算短信や有価証券報告書の注記事項を見るか、『会社四季報』などでも知ることが可能です。

この研究開発費の金額を売上高で割った数字を「売上高研究開発費率」と呼びます。これが高いほど新製品・新サービスの研究開発につぎ込んだ費用が売上に反映されている、と判断することができます。

売上高研究開発費率=研究開発費/売上高

ただしその数値が高いかどうかの判断はその企業の前年度の決算書のほか、業界や同業他社などと比較しなければわかりません。これはどの業界・企業の決算書を読むときにも基本となる考え方なので覚えておきましょう。

損益計算書でわかる5つの利益

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企業の「成長性」について見る前に、前提となる「損益計算書」について説明しておきましょう。損益計算書は「企業がその年の間にどれだけ儲けたのか」を示す書類です。この書類には5つの利益額が書いてあります。

・売上総利益
・営業利益
・経常利益
・税引前当期利益
・当期利益

売上総利益とは「売上−売上原価」で求められる金額で、1年間のおおよその経営状況を知ることができます。営業利益は「売上総利益−販売費及び一般管理費」で求められる金額です。

土地や株での儲けではなく、その企業の事業によっていくら儲けているかがわかります。

経常利益は「営業利益+(営業外収益−営業外費用)」の金額。営業利益から外れた土地や株などで生じる儲けも含んだ金額となります。

税引前当期利益は「経常利益+(特別利益−特別損失)」で求められます。これは経常利益に前年度などに計上した金額の修正などで生じた金額を付け加えたものです。

最後の当期利益は「税引前当期利益−税金」。最終的に企業の手元に残るお金です。損益計算書を見れば、その企業が「どこで儲けているか」がわかります。

「成長性」は2つの指標で見抜く

企業の成長性を見るためには「売上高伸び率」と「経常利益伸び率」という2つの指標を使います。「売上高伸び率」は次の計算式で求められます。

売上高伸び率=(当年度売上高−前年度売上高)/前年度売上高

この数値を基準に企業の成長性を考える場合は、過去5年以上の損益計算書を見比べる必要があります。また比較対象として同業他社の売上高伸び率も必要です。

売上高伸び率は大企業ほど小さくなる傾向にあります。したがって他社と比較する際には、計算の元となる売上高そのものの金額にも注意しましょう。

この売上高伸び率と合わせて使うのが経常利益伸び率です。計算式は次の通り。

経常利益伸び率=(当年度経常利益−前年度経常利益)/前年度経常利益

健全な経営で売上を伸ばしているなら、売上高伸び率より経常利益伸び率の方が大きくなる傾向があります。もし経常利益伸び率よりも売上高伸び率の方が大きくなっている場合は、どこかで無理をして売上を増加させているのかもしれません。

例えば原価が高く儲けの少ない商品・サービスばかりが売れていたり、そもそも原価自体が高くなっているなどのケースが考えられます。

貸借対照表には何が書いてある?

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成長力・成長性の2つを踏まえて成長の健全性を考える前に、前提となる「貸借対照表(バランスシート)」について知っておきましょう。

貸借対照表は「資産の部」「負債の部」「純資産の部」の3つで構成されています。資産の部に含まれるのは在庫や機械装置、売掛金や土地・建物などです。負債の部には借入金や買掛金が、純資産には資本金や蓄積した利益が含まれます。

資産の部では「企業のお金がどのように使われているか」がわかり、負債の部・純資産の部では「企業のお金がどこから来ているのか」がわかるようになっています。

つまり貸借対照表はお金の出て行く場所と、お金の出てくる場所を一覧できる書類なのです。この書類を分析すると企業の財務状況の健全性を知ることができます。

その「成長」は健全か不健全か?

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会社の成長の健全性を知るためにはまず、「総資本増加率」を求める必要があります。計算式は以下のとおり。

総資本増加率=(当年度の総資本−前年度の総資本)/前年度の総資本

総資本が増える要因には売上の増加による在庫や売上債権の増加のほか、設備投資の拡大などが挙げられます。これら自体は不健全なことではなく、企業の成長には必要なことです。したがって総資本が増加することも成長に必要です。

問題になるのは総資本が増加した結果、自己資本比率(=自己資本/総資本)が低下したり、総資本回転率(=売上高/総資産)や在庫回転率(=売上高/平均在庫高※)の悪化を招いている場合。

具体的には経営に使っているお金のうち借入金の占める割合が大きくなったり、売れ残りの商品が倉庫に山積みになったりしている状況です。いくら総資本が増加していたとしても、成長どころか事態は悪化している場合もある、というわけ。

したがって企業の総資本が増えていても、単純に「この企業は成長している!」とすることはできません。その成長が健全かどうか知るために「総資本増加率を求める→損益計算書・貸借対照表を使ってどうして総資本が増加したのかを推測する」という手順を踏む必要があるのです。

※平均在庫高=毎月の在庫高/12(ヶ月)

数字で考え、見て確かめる

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ここまで決算書(損益計算書と貸借対照表)を使って企業の成長について知る方法を紹介してきましたが、もちろん決算書だけで企業の全てを理解することはできません。

しかし決算書によって前知識を持っているだけで、実際に企業の経営者や従業員に会って話す時の会話の内容や印象は大きく変わるはず。

決算書では不健全な経営をしているのに、企業の関係者があたかも健全な経営をしているかのような話しぶりをするようなら、その企業は「そういう企業」だという判断もできます。数字で考え、見て確かめる。これをしっかり念頭に入れて、転職先を選ぶようにしましょう。

参考文献『2016決算書はここだけ読もう』
Career Supli
決算書が読めないとウッカリ危険な状態な企業に入ってしまうこともあります。見れるようであれば、必ずチェックしましょう。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部